VL-Pにコミュニティ・サイマルラジオ同盟が参加

-木村太郎代表「VHF-LOW帯で全国放送目指す」


コミュニティ・サイマルラジオ・アライアンスの代表で、逗子・葉山コミュニティ放送(湘南ビーチFM)の代表でもある木村太郎氏

 アナログテレビ放送が終了した後の2011年7月25日以降に、空いたVHF-LOW帯(VHF 1~3ch)において、マルチメディア放送サービスの実施が検討されている。その実現に向けて取り組んでいる「VHF-LOW帯マルチメディア放送推進協議会」(VL-P)は26日、最新動向などを紹介する記者説明会を開催した。

 その中で、全国のコミュニティFMのインターネットサイマル配信を推進しているコミュニティ・サイマルラジオ・アライアンス(CSRA)が、新たにVL-Pに加入した事が明らかになり、同アライアンスの代表で、逗子・葉山コミュニティ放送(湘南ビーチFM)の代表でもある木村太郎氏が登壇。「ラジオのビッグバンに賭ける」と題して講演を行なった。


 



■CSRAとは

講演タイトルは「ラジオのビッグバンに賭ける」
CSRAには12月の時点で、50局が参加している

 木村氏が代表を務めるCSRAは、全国に200局以上存在するFMラジオのコミュニティ放送局のネット配信を推進する団体で、現在50局が参加。放送エリア内で電波が到達しない場所の解消や、平成の大合併によりカバーエリアの拡大が必要になっていることから、インターネット配信を利用した聴取区域の補完を目的とする一方、従来の地域だけにとどまらない新規リスナーの開拓なども図り、Webサイトでの配信や、iPhone用の聴取アプリ「コミュニティFM for iPhone(i-コミュラジ)」の販売なども行なっている。

 木村氏は、湘南ビーチFMの代表として、コミュニティFMを開始した際の放送範囲の狭さにまつわる苦労や、'96年という早い時期にインターネットラジオとして配信を開始した際に感じた“ネットラジオの可能性”や、当時はネット配信における音楽使用料の規程が存在しなかった事から、JASRACなどと幾度も話合いを重ね、音楽配信を可能にした過程など、これまでの歩みを紹介。

 「こうした経験は、これからのデジタル放送で何をやっていくのかを考える際に、非常に役立った」と語る木村氏は、VL-Pに参加した動機を「次なる挑戦。新しいラジオを実現するため」と語る。


 



■新しいラジオについて、ジョブズが助言?

助言を求めたのはジョブズ……の写真

 しかし木村氏は「齢72歳ですので、“新しいラジオとは何だ?”と72の頭で考えても出てくるわけがない」と語り、「この人に聞いてみた」とAppleのスティーブ・ジョブズCEOの写真を表示。実際にジョブズ氏に話を聞いた……わけではなく、「ジョブズの写真を前に置いて、“あなただったらどうする?”と問いかけてみた」のだという。

 その結果、聞こえてきたジョブズ氏の声(木村氏の脳裏に浮かんだアイデア)は、「音の革命」、「新しいビジネスモデル」、「CM革命」の3点。

 「音の革命」については、「ラジオなのだから音が重要。簡易動画もいいが、映像ではテレビにかなわない。そして今の時代は“3D”と言わないとダメだ」と語り、5.1chのソースを2chに変換して広がりのあるサウンドを放送する事、5.1chソースが少ない場合は2chから5.1chに変換する技術を活用する事などを提案。

 「新しいビジネスモデル」では、サブスクリプションサービスに注目し、ヨーロッパで人気を集める、音楽配信のサブスクリプションサービス「Spotify」を紹介。このサービスは、P2P技術を使って音楽を無料配信するもので、2、3曲ごとにCMが入るビジネスモデルで、PCだけでなくiPhone用アプリなども展開している。


放送で気に入った楽曲を、すぐにサブスクリプションサービスで通信経由で聴けるというアイデア

 木村氏はこのサブスクリプションサービスをラジオに取り入れる事を提案。具体的には、放送された楽曲が気に入った場合、受信機に表示されるボタンを押すと、その楽曲がサブスクリプション用プレーヤーの画面に登録され、通信機能を使って同じ楽曲が、また頭から聴けるというもの。

 「例えば月額1,000円のサービスとして100万台が加入すれば10億円、1年で120億円。売り上げをレコード会社に分配しても運営費は出せる」と試算する。このアイデアは大手レコード会社に提案済みで、「面白いのでぜひ一緒にやりたいと、良い返事を頂いている」と言う。

 「CM革命」は、Googleが提供しているサービスに注目。Googleは道路からの景色を疑似体験できるストリートビューを一歩進め、店内の様子も360度撮影し、店内の雰囲気やメニューなども見る事ができる「ストアビュー」の開発を進めている。木村氏は「これをラジオに取り込んだら面白いのではないか」と提案。

 具体的な例として、番組の合間に流れるCMで「昼食はまだですか? ◯☓バーガーではハワイで人気のハンバーガーを取り揃えております」などの言葉と共に、店舗の画像を端末に表示。「お近くの◯☓バーガーをお探しの方は、ラジオのXボタンを押してください」とアナウンスし、ボタンを押すと通信機能に切り替え。ネット経由で店舗の詳細情報、メニュー、最寄り駅、駐車場などの情報を提供。Googleマップを使った場所の確認、店舗への予約までが行なえ、全て終了するとラジオ放送に戻るという流れ。

ラジオのCM中に指定のボタンを押すと、通信経由でCMしていた店舗の情報が取得可能飲食店ではメニューも閲覧できる店舗に行こうと決めたら、地図の確認や予約までできる

 CMを読み上げる番組パーソナリティーが、通信に切り替わった際のナビゲート音声も担当することで、「耳の上では番組とCMに連続性があり、リスナーの行動を促すCMになる。こういうCMをやっていかないと、ラジオはネットに負けて広告をとられてしまう。そのため、受信機にはできればSIMカード(通信機能)や、こういった処理が可能なチップを搭載して欲しい」と要望した。

 



■VHF-LOW帯で全国ネットの放送を

 さらに、こうしたアイデアの実践場として、VHF-LOW帯において「CSRAとして北海道から沖縄まで放送できる我々のチャンネルを1本持ってみたい」という。「その前提としてやはり東名阪に基幹局を置こうと思っている。今の既存局で基幹局を作るのではなく、(コミュニティFM)50局が一緒になって、VHF-LOWにふさわしい放送局を作り、全国ネットをやってみたい」と語る。

 その際にも新しいアイデアを実践する予定で、「基幹局を地上ケーブルやサテライト(衛星)で結ぶようなお金は我々には無い。そこで、例えば葉山から1つの番組を出す場合、東京の墨田、名古屋、大阪にそれぞれサーバーかPCを設置。その中に同じ音楽データを保存し、これらをVPNで結ぶ。そして、どの音源を、どの順序に並べて、何時に流すかというスケジューラーソフトで制御。音源そのものを基幹局に送らなくても、知恵を使い、低価格で全国ネットの放送をやってみたい」と、VHF-LOW帯に放送局として参加する計画を明らかにした。

東名阪に基地局として、サーバーやPCを設置それらをVPNで結び、スケジューラーソフトで動作を管理。内蔵している放送用素材を、同じタイミング、同じ曲順で放送するよう制御する

 



■VHF-LOW帯の今後

 ほかにも会見では、VL-P事務局の黒田徹氏が現状や今後を説明。9月にVHF-HIGH帯域でマルチメディア放送を実施する事業者が、フジテレビやNTTドコモ、スカパーJSATらが出資するマルチメディア放送(mmbi)に決定。その後、同帯域の委託放送業務の認定についての制度設備案が示され、意見募集も開始されたという。

 VHF-LOW帯とは直接関係はしていないが、現実的にはVHF-HIGHとLOWの両方に対応する端末が多くなると思われるため、LOW帯としても意見を提出。CASやDRMなどのプラットフォームにおいて、特定の端末に排他的にその機能を付与しないよう、よりオープンな仕組みを要望。通信機能の無い端末を排除することのない施策や、通信サービスが無ければ成立しない放送サービスの提供が無いようにする配慮などを要望したという。

VHF-HIGH帯の制度整備案の概要それに対し、VHF-LOW帯が提出した意見の骨子

 最後に黒田氏は今後のスケジュール感として、「事業者が決定し、送信設備や受信機などを用意する猶予は1年半、18カ月ほど必要だろう。2013年にVHF-LOW帯の放送が開始するとした場合、2012年の初頭には色々な事が決まっている状態に持っていかなければならない。そのためには、2011年の1年間が、規定の策定やチップの製作などの準備を進め、“どんな放送をやるのか”を考える1年になる」と説明した。



(2010年 11月 26日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]