小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第641回:もう4K Ready? パナソニックDIGA「DMR-BZT860」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第641回:もう4K Ready? パナソニックDIGA「DMR-BZT860」
録画番組をお風呂で。新ディーガモニター連携も
(2013/11/27 10:00)
4Kは「ビッグウェーブ」か
前回、前々回と4Kに関する話題や製品を扱っているが、どうも4Kの技術はプロよりもコンシューマのほうが先に走り出しているように思う。この傾向は、映像がデジタル化した1980年代、放送がデジタル化した2000年代にはなかったものだ。
コンシューマが先走った例としては、2010年~11年にかけての3Dブームが記憶に新しいところだ。また3Dと同じように制作側がついていけず、4Kも世界的潮流としては数年後に終了ムードを迎えるのではないかという懸念を持つ方も当然あろうかと思う。だが日本の場合は、放送の4K化というのは国策なので、少なくとも2020年の東京オリンピックという目標がセットされたことにより、粛々と進んでいく事になる。
かといって、今から4K4Kと騒いでもしょうがないのかという話にもなってくるところだが、AV機器メーカーとしては放送が始まる前に4Kディスプレイをどう活用するのか、そのソリューションを生み出す必要があり、その一つがHDからのアップコンバートであろう。
今回取り上げるDIGA「DMR-BZT860」(以下BZT860)は、この冬発売されるDIGAシリーズの中で、比較的リーズナブルに4Kへのアップコンバートが楽しめるモデルとなっている。店頭予想価格は15万円前後だが、すでに発売して1カ月ほど経過しており、通販サイトでは9万円を切り始めるところもあるようだ。
また以前から「DIGA+といったスタイルで訴求が始まった無線モニタも、レコーダのDIGAと組み合わせる「ディーガモニター」として新モデルが登場した。今回は「BZT860」と、15型のディーガモニター「UN-DM15C1」(以下DM15C1)の組み合わせで、その使い勝手などをテストしてみよう。
新スタンダードの実力
まず製品の位置づけだが、この冬投入のDIGAとしては、最上位モデルに「DMR-BZT9600」がある。これはプレミアムモデルという位置づけで、9月に規格策定されたHDMI 2.0を搭載し、4K/60p/36bit/4:2:2、4K/24p/36bit/4:4:4出力に対応する。もちろん、この能力を生かすにはHDMI 2.0対応のテレビが必要なわけで、現在のところ、同社4K VIERA「TH-L65WT600」との組み合わせを想定したモデルとなる。
BZT860はすぐその下に位置し、トリプルチューナー、3TB HDD搭載モデルだ。HDMI 1.4なので、4K出力には対応するものの、24p/30pまでとなる。だがパナソニック独自のマスターグレードビデオコーディング技術(MGVC)を搭載しており、対応するBlu-rayソフトと組み合わせれば、出力映像の階調を若干拡張することができるのがポイントだ。このあたりはあとで詳しく見てみよう。
型番 | HDD | チューナ | 4K MGVC | 新おまかせ 録画 | 店頭予想価格 |
DMR-BZT9600 | 3TB | 3 | ○ (60p/30p/24p) | ○ | 40万円前後 |
DMR-BZT860 | ○(24p) | 15万円前後 | |||
DMR-BZT760 | 2TB | 11万円前後 | |||
DMR-BWT660 | 1TB | 2 | 75,000円前後 | ||
DMR-BWT560 | 500GB | 65,000円前後 | |||
DMR-BRT260 | 1 | - | - | 55,000円前後 | |
DMR-BR160 | 320GB | 45,000円前後 |
DIGAシリーズはこの夏モデルで、シルバーを基調としたデザインに変更されたが、BZT860も基本的には同じデザインだ。ただ、黒からシルバーになったときに、安っぽくなったという意見も結構あった。
今回はその点に配慮し、天板がヘアライン仕上げとなったいる。ただ、材質が変わったわけではなく、実際にはシール貼り付けだ。だが効果としては意外に高く、つやつやの光沢がありながらヘアラインという、個性的な質感を演出している。
前面パネルを開くと、中央にUSB、SDカードスロットがある。右側がB-CASカードスロットだ。デジカメ写真を取り込むなど、一時的に開くことはあるだろうが、レコーダとして日常的に使うぶんには、あまり開く機会はないだろう。内蔵HDDは3TBで、トリプルチューナ仕様だ。
また、今期発売のレギュラーモデル全体の特徴として、待機電力0.00Wの節電モードを搭載している。もちろんまったく電力を消費しないわけではなく、リモコン受光部ぐらいは動かしていないと起動もできないわけだが、0.005W未満の待機電力となっており、IEC62301規格(家電製品の待機電力を示す国際規格)に準じて0.00W表記が可能ということだ。リモコンの右上に、0.00W待機専用ボタンがある。
背面に回ってみよう。基本的にはこの夏モデルとコネクタの種類やレイアウトは変わっておらず、薄型の筐体の中にかなりぎっしりコネクタ類が詰め込まれている。
リモコンは、十字キーの中央がタッチセンサーになった決定ボタンとなっており、ダイヤルのようにクルクル回すことでメニューのスクロールが可能なタイプだ。
またメディア切り換えボタンが下に移動し、この冬モデルのポイントである「ゆっくり再生」ボタンがフィーチャーされている。
一緒にお借りしているディーガモニター「DM15C1」のほうも見てみよう。この冬に投入された無線モニタは10インチと15インチがあるが、DM15C1は15インチのほうである。店頭予想価格は6万円前後で、実売は5万円半ばから5万円を切るぐらいのようである。
サイズ的にはタブレットよりも当然大きく、面積でいうと10インチタブレットの代表格であるiPadのおよそ2倍である。サイズのわりには軽量で、重量は約1.4kg。ずーっと持っているわけにはいかないが、持ち運ぶには苦にならない重量だ。
ディスプレイの画素数は1,354×760で防滴仕様となっている。本体にボタン類は殆どなく、電源ボタンとリセットスイッチがあるのみだ。ボリュームボタンもメニューにあるのみで、ハードウェアのボタンはない。
充電は付属のACアダプタで行ない、接点は磁石でくっつくようになっている。背面には自立用のスタンドがある。側面と底部には、スピーカー用のホールがある。
お風呂場などで狭い位置に立てられるよう、上側を押さえる吸盤式の固定具が付属する。
おまかせ録画がまた進化
まずBZT860の、レコーダとしての進化点を確認していこう。以前から搭載されている「おまかせ録画」機能は、よく使われる機能のわりには、トップメニューからアクセスできなかった。だがこの冬モデルからは、スタートメニューの中央に目玉機能としてフィーチャーされた。
また従来よりも、内容が機能拡張されている。まずフリーワード検索では、最大4つまで複数条件が指定できるようになった。曖昧な単語を登録すると、関係ないものが大量に録れたりするが、除外ワードも登録できるようになり、かなり網羅的な番組録画が可能になった。
また従来は、ほっとくと自動録画番組だけでHDDがいっぱいになってしまったが、自動消去が指定できるようになった。おまかせ録画設定ができたら、リモコンの一時停止ボタンで自動消去までの日数が選択できる。
再生機能に追加されたのが、「ゆっくり再生」機能だ。これは通常再生に比べて0.8倍のスピードで映像と音声が再生される。テレビが早口すぎてついていけないという方のために用意された機能だ。
加藤昌男著「テレビの日本語」(岩波新書)によれば、テレビのニュース番組における1分間の文字数は、テレビの初期に300字前半であったものが、90年代には400字前後となり、最大で500字を超えるまでとなった。最近は少しゆっくりに戻り、平均すれば350字から400字程度となっている。
一方バラエティ番組では、90年代でも早口とされるタレントで1分間に410字程度であったが、最近のバラエティでは500字を超えるという。トークバラエティ番組は、タレントの言葉をいちいちテロップにするため、多くの視聴者はその読みと合わせて要約を認識するようになってきているが、音声だけでわかりたいと思うと、脱落する人もいるだろう。1.3倍の早見機能が必要な人もいれば、その逆のニーズもあると思われる。
4Kアップコン機能は、筆者宅には4K対応テレビがないのだが、パナソニックのデモルームで65型4Kの「TH-L65WT600」と繋ぎ、出力を確認した。超解像技術による精細化により、HD解像度のコンテンツがかなり高解像度の4K映像に化ける。本当に4Kのカメラで撮影したものとの比較はできないが、破綻のない高画質化を実現している。
以前の超解像は、正直エンハンサー入れて輪郭補正したのと何が違うのか? と疑問を呈するようなものだったが、今の超解像はアルゴリズムがかなり洗練されている。現時点では、4Kコンテンツを収録して販売するメディアもないわけだが、アップコン技術がここまで来ているのであれば、当面はHDソースでも十分4Kらしい解像度が楽しめるだろう。
高画質化技術「マスターグレードビデオコーディング」
プレミアムからレギュラーモデルに搭載された、マスターグレードビデオコーディング(以下MGVC)技術を見ていこう。これはブルーレイソフトの再生をより高度化する技術だ。
通常ブルーレイソフトは、8bit(8×3で24bit)でエンコードされているが、プロの映像制作では、10bit~12bit(30bit~36bit)でマスタリングされている。このクオリティを持ち出す方法はこれまでなかったのだが、MGVC対応ディスクでは、通常の8bitメインストリームのデータに追加する形で、マスタリング時に足切りされてしまう2bit~4bitのデータをサブストリームに持たせている。
普通のBlu-rayプレーヤーやレコーダーで再生すると、8bitの映像が再生されるだけだが、MGVC対応プレーヤー/レコーダーで再生すると、追加情報も含めた10bit~12bitの映像が出力される。
このように、既存の再生装置と互換性を持たせた上で、規格上切られてしまうデータを差分として持たせる方法は、オーディオでは以前から取り組みがあったが、それの映像版というわけである。
なおMGVC対応ソフトとしては、現時点ではスタジオジブリ作品が大半だ。7月に発売された「紅の豚」を再生して初期設定内にあるMGVCのON/OFFで映像を見比べてみたが、きちんとその効果を得るには、テレビ側に12bitの表現力があるかどうかにかかっている。つまり、内部画像処理エンジンが12bit対応しているか、パネル階調が12bitの表現力があるか、という問題だ。
あいにく筆者宅の東芝 REGZA「37Z3500」はもう結構古いモデルなので、はっきりとその違いを見分けることはできなかったが、MGVC ONでは暗い部分が引き締まり、若干高コントラストの映像になることは確認出来た。本当は最新のテレビがあれば一番いいのだろうが、古いテレビでも多少の効果は期待できそうだ。
イイ具合に仕上がっている無線モニタ
ではディーガモニターのDM15C1も試してみよう。本機はWi-FiでDIGAとダイレクトに繋げるか、家庭内のWi-Fiに接続することで、DIGAから放送中の番組をそのままストリーミングで受けたり、録画された番組を視聴することができる。今回は、DIGAとダイレクト接続でテストしている。
BZT860はトリプルチューナ機なので、3番組が同時録画できるわけだが、3番組同時録画中は放送中の番組を自由に選んでモニタに飛ばすことができない。したがって、録画が混んでる時間帯は普通のテレビとしては使えない事になる。しかし、録画した番組の視聴ならいつでもできるので、やはり録画番組の消化端末として利用するというのが一番フィットするだろう。
また、DIGA内の録画番組だけでなく、対象から「家じゅう」を選択すると、nasneに録画されたコンテンツも視聴することができた。このあたりはDLNAの本領発揮というか、ようやくホームネットワークも簡単にここまでできるようになったかと感無量である。
15インチという大型モデルは今回初めてお借りしたが、筆者の子供は普段iPadで番組を見ることも多いので、「大画面!」という印象だったようだ。確かにニアフィールドモニタとしては、面積ではiPadの2倍ぐらいあるので、十分大きい印象を受ける。
Wi-Fi接続は5GHzのIEEE 802.11aが標準となっており、高速で遮蔽物に強い。1階の仕事部屋にDIGAを設置し、2階のコタツ部屋に持っていって視聴してみたところ、アンテナ表示としては2本ぐらいしか立っていないが、映像が途切れることもなく綺麗に表示された。
コタツ部屋にはこれまでテレビを置いていなかったが、夕飯を鍋物にして、そいつをつつきながら一杯やるときなどは、やはりテレビがないと寂しい。そういうときに、録画番組も含めた家じゅうのコンテンツにアクセスできる大きな視聴端末があると、ほっこりする。
防滴仕様ということで、お風呂場でも試してみた。幸いうちは湯船の脇にシャンプーなどが置けるスペースがあるので、そこを少し片付けて普通に自立スタンドのみで設置できる。
お風呂担当のお父さんからすれば、これからの季節、寒くなると子供がお風呂に入るのを嫌がったり、湯船できちんと暖まらせるのに苦労するわけだが、これがあれば子供は喜んでお風呂に入る。
また30分のアニメ番組なら、番組の前半でゆっくり湯船で暖まり、頭と体を洗って後半でまたゆっくり湯船に浸かるといったサイクルで、十分暖まらせることができる。湯船で子供との会話も弾むし、テレビを仲介とした親子のコミュニケーションとスキンシップが同時にできるというわけである。
一応Webブラウザも搭載されているが、デフォルトはレコーダとの接続モードになっているため、切り換えに時間がかかる。また検索文字の入力やテキストの解像度などを考えると、操作性はiPadやAndroidタブレットには及ばない。オマケ程度の機能と思っておけばいいだろう。
総論
レコーダのおまかせ録画は、それこそデジタル・アナログ混在の時代から改良が続いているが、やればやるほど四六時中全力で動いていて、結局全部録るのとどっちがいいのかという話になりがちだ。
今回のDIGAは、複数キーワード選択や除外ワードが設定できるようになり、余計なものが録画されてしまうことがなくなるだろう。だがそれも一回失敗してみて、人間が「ああそうかそうか」と学習してキーワードを追加していくようなブラッシュアップが必要になる。検索エンジンの使い方をよくわかっている人はそれも苦ではないかもしれないが、一般の人はなんでこれが録れたのか、あるいはなんで録れないのかがわからないままに、機能に翻弄されることになりはしないかと少し心配である。
4Kアップコン機能、MGVC対応は、実際にはまだこれから評価が始まるところで、今はまだ一般家庭でその威力が十分に発揮できる環境にない。もう少し4K対応テレビに選択肢ができる頃に、改めて評価される事になるだろう。
ディーガモニターは、だいぶ世代を重ねてきたことで、費用対効果としてはかなりいい線まで来ている。タブレットを買うぐらいのコストで汎用のテレビ端末が手に入ると考えれば、サイズも大きいし値頃感は高い。
ただこのモニタはDIGA側の機能に依存した製品なので、このモニタだけで独立してホームネットワークに接続できるわけではない。あくまでもDIGA用の拡張モニタという位置づけである。1社で機能を囲い込むことに関しては賛否あるだろうが、確実に動く組み合わせを保証するという点では安心できる。
パナソニックにも全録機はあるが、1台のレコーダを完全に使い倒すという方向性で限界ギリギリまで攻め込んできたのが、この冬シリーズのポイントと言えるかもしれない。
DIGA DMR-BZT860 | ディーガモニター UN-DM10C1-K | ディーガモニター UN-DM15C1-K |
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