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第205回:ついに登場したDSD対応の新「VAIO」【レコーディング編】
~ シンプルで高音質。自由度は発展途上 ~



 前回に引き続き、DSDのオーディオインターフェイスを内蔵した新型VAIOシリーズについてレポートする。今回はDSDを使ってのレコーディングの概要と、レコーディングした結果、どんなことができるのか、などについて、「SonicStage Mastering Studio 2.0」を実際に使いながら紹介する。



■ SACD再生には非対応

 SuperAudioCD(SACD)で利用されている高音質なデジタルオーディオの方式であるDSD。DSDに対応したPCで扱えるオーディオインターフェイスは、Pyramixなどの業務用システムを除けば、VAIOに搭載されたものが初となる。

 現時点では、独立したオーディオインターフェイスは存在せず、どこかが開発中という話も聞いたことはないので、DSDが扱えるPCはVAIOのデスクトップモデル、type R、type H、type Vの3シリーズ15機種が唯一である。このVAIOを利用すれば、DSDでのレコーディング、編集、再生といったことが可能になる。

 単純に考えると、DSDをサポートしたということは、VAIOでSACDの再生が可能になったのだろうと思ってしまうが、そうはなっていない。SACDとDVDの物理的構造はよく似ているが、DVDのドライブでSACDを読み出すことはできない。SACD対応のPC用ドライブというものは現時点ではなく、ライセンスの問題、プロテクトの問題などいろいろな理由から、即VAIOに搭載することはできない。

 ただ、製品企画担当者によると「SACDをPCで再生させることは技術的には可能。実際、そうした実験も行なっており、できることは確認しています。ただ、今回はいったん見送りました。今後、ユーザーからの声が出てくれば、SACDに対応させる可能性はあると思います」とのこと。可能性があるというだけでも、期待はしてしまう。



■ SSMSがDSDをサポート

 このVAIOでは、DSDを使ったレコーディング、再生が可能だが、どのような手順で行なっていくのだろうか?

 ソフトは、WAVESやSONY Oxfordなどのプロ用のエフェクトを搭載して大きな話題を呼んだソフトの新バージョン「SonicStage Mastering Studio 2.0」を利用する。事実上VAIO搭載のチップであるSound RealityのDSDモードを利用できるのは、ASIO 2.1対応アプリケーションのSSMS 2.0のみだ。

 SSMSのコンセプトはアナログサウンドをできる限りいい音で取り込み、デジタルデータで管理しようというもの。コンセプト自体は、SSMS 1.xもSSMS 2.0も変わらないが、2.0は1.4を大幅機能強化するとともに、DSDをサポートするようになった。

 ちなみに、今回発表になった秋のVAIOシリーズの中で、SSMS 2.0が搭載されるのはSound Realityが搭載されているtype R、type H、type Vの3シリーズのみ。ノートPCであるtype T、type S、type FなどはSound Realityが搭載されていないため、SSMSも従来の1.4が搭載されている。

 SSMS 2.0を起動した画面は、以前とほとんど変わらないが、「DSDモードを使用する」というチェックボタンが追加されている。これをチェックするとDSDモードのSSMSとして動作し、チェックしないとPCMモードのSSMSとして動作することになる。

SonicStage Mastering Studio 2.0 「DSDモードを使用する」というチェックボタンが追加された

 DSDでもPCMでも、録音し、再生するという機能では、基本的なユーザーインターフェイス、操作方法はまったく同じだが、機能はかなり異なっている。PCMモードについては次回詳しく紹介するが、今回はチェックを入れたDSDモードで使用した。

 まず、入力の選択画面が現れる。もっともDSDの場合は、Sound Reality以外に選びようがないが。プラグの絵の横のボタンをクリックすると、ドライバの設定画面が表示される。ここには「ASIO STHDA Driver」とあり、それ以外は選択できないようになっている。また、詳細をクリックすると、Sound Realityの設定画面が表示される。

設定できるドライバは「ASIO STHDA Driver」のみ 詳細をクリックすると、Sound Realityの設定画面が表示される

SSMSが起動すると同時に、ライン入力、マイク入力が0のレベルまで落ちるようになっている

 とりあえず、ダイレクトモニタリングをオンにしておいた上で、VAIOのラインインからオーディオ信号を入力してみると、レベルメーターは振れるが、何も音が聞こえない。ミキサーを見ていると、SSMSが起動すると同時に、ライン入力、マイク入力が0のレベルまで落ちるようになっていた。

 これを上げると、モニタが聞こえるようになったが、ダイレクトモニタリングをオフにすると、このレベルを変えても音はでない。つまり、MMEのミキサー画面は利用しているものの、中身はASIOで動作しているということのようだ。



■ DSDでは編集はほとんどできない

 レベル調整ができたら、さっそくレコーディングだ。といっても操作は至って簡単。「録音・編集する」のタブをクリックした後に、「録音」ボタンを押すだけ。レベルさえうまくいっていれば、あとはしばらく待つのみ。終わったら停止ボタンをクリックして終了。念のためうまくレコーディングできたか再生して聴いてみた。かなり綺麗に録れた。

「録音・編集する」のタブをクリックした後「録音」ボタンを押すだけで録音開始 録音中の画面 再生中の画面

 SSMS 1.xでは、途中に無音が入ると、自動的にトラックを分割してくれる機能があったが、このDSDモードにはそうした機能は存在しない。Mood Logicを使った音楽認識機能も利用できないし、エフェクトを使った編集機能などもなさそうだ。利用できる編集機能としては、分割候補点の追加機能と、フェードだけ。DSDでは、編集はほとんど何もできないと考えていいだろう。

分割候補点の追加機能 フェード

出力先は音楽CD、WAVファイル、DSDファイルの3つ

 実際SADIE DSD8やPyramixなどの数百万円の業務用機器でも、PCMと比較するとDSDでの編集機能はそれほどない。やはりDSDデータの計算というのは、今のCPUではかなり厳しいということなのだろう。

 レコーディング終了後、保存する場合は「出力する」のタブをクリック。出力先として音楽CD、WAVファイル、DSDファイルの3つが選択できるが、ここで音楽CDやWAVファイルに保存すると、PCMに強制的に変換されてしまう。


ファイル形式は「dsf」

 せっかくアナログに近い、空気感のある音であるDSDでレコーディングしたのだから、このままDSDで保存したい。そこで、DSDファイルを選択して保存した。何か演算をしているのか、5分の曲の保存に約1分を要した。

 保存されたファイルを見てみると、ファイルサイズはこの5分の曲で204MBとかなり大容量。PCMにおける24bit/88.2kHzのデータとピッタリ同じになった。また、ファイルの拡張子はdsf。ソニーによると、これはVAIOでの独自ファイル形式であり、このファイル自体はVAIO以外で扱えるものではないが、今後PC上でのDSDファイルの標準形式として広めていきたいとのことだ。



■ i.LINKサポートに期待したい

 SACDのマスターとして使われたり、TASCAMの「DV-RA1000」などで利用されているDSDIFF(拡張子dff)とは直接互換性はない。ただし、データ構造はほとんど同じであり、PCで扱いやすいように、多少並べ替えてあるだけとのこと。せっかくなら、DSDIFFとの互換性を持てるようにしてもらいたいところだが、それについては、来週のAVフェスタで参考出品の形でなんらかの発表するとのことなので、期待したい。こうしたツールについては、アップデータで無償提供することを予定しているとのことである。

 なお、試しにWAVで書き出してみたところ、ビット数やサンプリングレートなどを指定しての保存ができるようになっており、保存には1分強を要した。

 また、前回、DSD DirectというWAVファイルをDSDへ変換するツールについて紹介したが、これが作り出すファイル形式ももちろん、DSF。再生する場合は、SSMS 2.0で読み込んで再生すれることになる。

WAVで書き出すと、ビット数やサンプリングレートなどを指定して保存できるようになっていた DSD Direct

 以上、DSDを使ってのレコーディングから簡単な編集、再生までを紹介した。今のところは、機能的にはいたってシンプルであるが、DSDIFFとの変換ツールなどができてくれると、さらに面白くなりそうだ。

 また、SACDドライブの搭載とあわせて、i.LINK出力のサポートも期待したい。i.LINKはSACDの信号をデジタルで流すことができ、その出力に対応したデジタルアンプなどもいくつか出てきている。せっかくi.LINKの端子を持っているのだから、DSDデータをi.LINK出力可能にしてくれると、もっと広がりが出て面白くなることは確実だ。

 次回は、大幅に機能アップし、数多くのプロ用エフェクトを搭載した標準(PCM)モードについて紹介する。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報(VAIO typeR)
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/VGC-RC70/
□製品情報(VAIO typeH)
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/VGC-H71S/
□製品情報(VAIO typeV)
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/VGC-VA200DS/
□関連記事
【9月5日】【DAL】ついに登場したDSD対応の新「VAIO」【ハード編】
~ 自社開発チップ「Sound Reality」で高音質化 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050905/dal204.htm
【8月30日】ソニー、「VAIO」で民生用PCで世界初のDSD録音/再生対応
-「Sound Reality」を搭載。WAV/DSD変換機能も搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050830/sony1.htm
【8月29日】ティアック、CDのPCMをDSDに変換するSACDトランスポート
-DSD/PCM対応DACと組み合わせて再生。各126万円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050829/teac.htm
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~ 「DV-RA1000」でDSD録音は浸透するか? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050620/dal195.htm
【5月9日】【DAL】ASIO 2.1がSACDのフォーマット「DSD」に対応
~ 対応チップ搭載VAIOで、DSDという選択肢を提供 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050509/dal189.htm
【4月7日】Steinberg、DSD入出力に対応した「ASIO 2.1」を発表
-音楽製作機器でのDSDフォーマットの普及へ促進へ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050407/stein.htm

(2005年9月12日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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