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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第244回:ハイビジョンがポケットに。SANYO 「DMX-HD1」
~ いよいよ登場する、噂の「ハイビジョンXacti」 ~


■ 各社思惑が錯綜するHD戦略

 コンシューマビデオカメラの世界でも、いよいよ今年から本格的にハイビジョン世代へ突入しそうな気配だ。ビデオカメラをリリースする各メーカーからは、そろそろHDの初号機が出揃い始めている。

 現時点では記録メディアをどうするかで2択となっており、HDVのようにDVテープを使うか、Panasonic P2camのようにメモリを使うかである。もちろん水面下では、HDDを使ったり、BDやHD-DVDを使うという方向性も模索されていることだろう。

 そして今年初めのCES 2006で初めて一般に公開されたのが、かねてから噂のあったXactiのHDバージョン、「DMX-HD1」(以下HD1)である。これまでのXactiのスタイルを継承しながらハイビジョンが撮れるということで、大きなインパクトを与えた。当然記録媒体は従来同様SDカードで、メモリ記録陣営にもう一つ強力な援軍が現われた。

 HD1は2月下旬発売予定で、価格は126,000円となっている。従来のXactiより大幅に高いが、そこはハイビジョンということで仕方がないだろう。しかし既にネット通販では、8万円半ばから9万円半ばという値段が付いているようだ。

 今回はいよいよ発売を間近に控えて、画質評価可能な機材をお借りすることができた。ハイビジョンは本当に、ポケットに入るのだろうか。早速試してみよう。


■ キレある良質のデザイン

 まずはいつものようにデザインから見ていこう。全体的なイメージは確かにXactiなのだが、厚みはある。だが曲線部分を減らしてすっきりした造形のため、厚みや大きさが気にならない。見た目のバランスが非常によく、逆に過去のC5やC6の妙にうすべったいデザインの方がバランスが悪かったのだと感じさせる。

 ボディは樹脂製だが、チタングレーの塗装が重厚で、かつ精巧なイメージを与える。カラーバリエーションは今のところはない。

 レンズはコニカミノルタ製の光学10倍ズームで、画角は38mm~380mm(35mm換算)とある。この数値はおそらく静止画撮影など4:3画角のもので、16:9画角の場合は異なるだろう。

若干大型化したが、キレのいいデザインセンスが光る 正面に赤外線受光部があるのもポイント




撮影モードと焦点距離(35mm判換算)
モード ワイド端 テレ端
HD動画 手ぶれ補正なし
手ぶれ補正あり
SD動画 手ぶれ補正なし
手ぶれ補正あり
静止画
38mm

190mm

 撮像素子は1/2.5型、総画素数約536万画素の1CCDで、フィルタは原色。手ブレ補正は電子式で、静止画撮影には補正が効かないのは以前と同じだ。

 今回静止画用フラッシュは、ポップアップ式に変更された。本体上部にあるボタンでポップアップする。またフラッシュ格納部には外部マイク端子が設けられたのも新しい。

上部にはポップアップ型フラッシュ ステレオミニミニタイプの外部マイク入力端子 通常のステレオミニ端子への変換ケーブルも付属

 モニタは2.2型有機ELで、総画素数は約21万画素。ハイビジョンのモニタとしてはサイズが小さいが、精細感が高く、撮影時の不自由はあまり感じない。素性はいい表示方式だと思うが、三洋は1月31日に有機EL事業からの撤退を発表している。

モニタには2.2型有機ELディスプレイを採用 モニタ内側のボタン類。配置もよく考えられている

 モニタ内側には、主電源スイッチ、HDとSDの切り替え、静止画連写ボタンがある。主電源を入れておけば、モニタの開閉と連動して電源がON/OFFできる点は変わっていない。

 背面に回ってみよう。操作ボタン類はこれまでのXactiと変わりないが、サイズに余裕があることでボタン類が大きくなっており、操作性は大きく向上している。特に頻繁に使用する動画、静止画ボタンとズームレバーが大きくなった点は、初代からC4までの操作感に近くなっている。

ボタン類が大きくなり、操作性が向上 SDカードスロットは背面に独立 バッテリも大型になった

 SDカードスロットは背面に独立したスロットになっている。若干大型化したバッテリは本体右側に収納部があり、容量は従来の720mAhから1,200mAhへと変更されている。だが動画の連続撮影時間は約60分と、これまでのXactiと変わりない。単に消費電力が増した事への対応ということだろう。

 Xactiは、充実した付属アクセサリ類にも特徴がある。まずドッキングステーションだが、円盤形なのはお馴染みとして、背面にコンポーネント端子が設けられた。専用ケーブルで、D4と音声出力が得られる。もちろん従来同様、S、コンポジット用のケーブルも付属している。

コンポーネント端子が着いた新ドッキングステーション 変換ケーブルでD4端子に お馴染み小型接続アダプタも付属

 ストラップとレンズカバーにも改善が見られる。ストラップの根元に、レンズカバーのヒモを固定できる切れ込みが入っているのだ。これで撮影時にレンズカバーがプランプランしてどこかに引っかかったり、風に吹かれて三脚の足にカチンカチンぶつかることもなくなるわけだ。こういうものすごい小さいところもきっちり手を入れてくるのが、三洋流である。

 今回はリモコンも変更された。再生時の操作だけではなく、撮影時のシャッターやズームなどのリモートにも使えるよう、改良されている。

ストラップとレンズカバーにも細かい改良が キャリングケースも大型化。右は初代Xactiに付属のもの リモコンは撮影時にも使用できるようになった


■ 解像度はもう一歩だが発色がいい動画

 まずは本機のメイン機能である、ハイビジョンの動画撮影を試してみよう。撮影のレスポンスは従来のXactiと変わりない。またSDとの切り替えも瞬時に行なわれるので、ある意味ハイビジョンで撮れるというありがたみみたいなものが薄く、「あれ? これでホントに撮れてんの? 」という肩すかし感がある。

 HDでの撮影中は、モニタ画面の下にHDと表示されるが、そもそもSDモードでは16:9画角で撮れないので、モードを間違うという心配はなさそうだ。

HD撮影時のモニタ画面表示 SD撮影時のモニタ画面表示

 録画品質としては、HD撮影ではHD-SHQとHD-HQの2段階、SDではTV-HR、TV-SHQ、TV-HQ、WEB-HQの4段階となっている。SDでは新たに60fpsのHRが設けられ、以前のTV-SとWEB-Sモードが廃止された。全体的に上の解像度方向にシフトしたため、まあ妥当なところだろう。

動画サンプル
モード 解像度 フレーム
レート
ビットレート 2GB SD
収録時間
サンプル
HD HD-SHQ 1,280×720ドット 30fps 9Mbps 28分45秒
ezsm01.mov (5.9MB)
HD-SQ 6Mbps 42分42秒
ezsm02.mov (3.79MB)
SD TV-HR 640×480ドット 60fps 6Mbps 42分42秒
ezsm03.mov (3.48MB)
TV-SHQ 30fps 3Mbps 1時間22分
ezsm04.mov (2.16MB)
TV-HQ 2Mbps 2時間
ezsm05.mov (1.84MB)
TV-SHQ 320×240ドット 15fps 500kbps(実測) 7時間39分
ezsm06.mov (2.71MB)

再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 HDで撮影された映像は、ハイビジョンらしく細かい部分まで精細に表現されてはいるが、水面などランダムな動きの多いシーンでは、圧縮ノイズが目立つ。

 また情報量の多い広い絵では、遠景の細かい部分が圧縮でつぶれてしまう傾向があるが、MPEG-4である以上ある程度のつぶれは仕方がないだろう。一方で割と即物的な、寄りの絵の方が落ち着いて見ることができる。

遠景のディテールはもっさりしている やや寄りめの絵のほうが高い解像感を楽しめる

 レンズのコーティングがアレなのか、フレアは若干出やすいほうかと思われるが、スミアに関しては意外に耐性が高い。もちろん全然出ないわけではないのだが、プログラムAEではそのあたりを上手く調整して撮ってくれる。マニュアルでNDを使ったり絞りを変えたりとあれこれやったが、あんまり上手く行かなかった。

マニュアルでいろいろ調整したが… プログラムAEのほうが上手く撮れる

 ただしプログラムAEでは、動画撮影開始から5秒ほどはゲインが安定しないクセがある。人物はチャンスがモノを言うので仕方がないが、風景などはそのあたりを見越して長めに撮っておく必要がある。

 細かい部分の表現、例えば遠景の枝先のような部分では、若干輪郭に荒れを感じる。どうもMPEG-4エンコードに起因するノイズのようだ。しかしこれはOPTIONの画質調整で、「ソフト」や「ソフトビビッド」を選択すると見えなくなる。若干映像が甘くなるが、気になる人は使い分けるといいだろう。

OPTIONの画質調整は4モード 「ノーマル」では枝先のノイズが気になる 「ソフト」では解像感は落ちるが、ノイズは気にならない

 発色に関してはかなりくっきり出るタイプで、撮影後の満足感は高い。また肌色の発色もなかなか綺麗で、好感が持てる。ただ試した限りでは、発色が非常に強い赤が朱色に転んでしまう傾向があるようだ。これは以前のXactiも同じような傾向を持っていた。

動画サンプル

ezsm07.mov (53.4MB)
HD-SHQで撮影した動画をQuickTime Proで編集してみた

強い赤は朱色に転ぶ傾向が 色の階調表現はかなり頑張っている



■ ぎっちりした高解像度が楽しめる静止画

 次に静止画機能を見ていこう。本機はCCDが約536万画素で、実はSD解像度の最終モデル「Xacti C6」の600万画素よりも少ない。だが撮れる映像としては、本機の方があきらかに解像感が高い。やはりここはレンズ部の質の違いが如実に現われていると考えていいだろう。

 撮影可能サイズは、5Mを基本に6段階。ピクセル補間による10Mモードも健在だ。ただC6で搭載された「縦撮り」機能は搭載されていない。その代わりと言っては変だが、本機ではXactiシリーズで初めて、連写/オートブラケットモードが搭載された。ただしピクセル補間を行なう10Mモードでは連写ができない。

静止画サンプル
画質モード 記録解像度 サンプル
10M 3,680×2,760ドット
5M-H 2,592×1,944ドット
5M-S
2M 1,600×1,200ドット
1.2M 1,280×960ドット
0.3M 640×480ドット

 ハイビジョンが撮れるのももちろんHD1の魅力には違いないが、コンパクトデジカメとしてここまでの表現力があれば、これも一つの魅力として十分アピールするだろう。

ディテールはかなり精密 肌色の発色もナチュラルだ 逆光補正がないのはやや残念

濃い赤はややのっぺりした印象 夕景の発色も結構楽しめる 輪郭の立ったギッチリした絵作り

 動画でもそうだが、絞り優先にしてもシャッター優先にしても、露出の適正値をカメラが教えてくれるわけではないので、取り始めたら真っ黒とか真っ白とかいった事が起こる。マニュアルで調整するというよりも、自動で動かないように固定するといった意味合いの使い方と考えるべきなのかもしれない。



■ いくつかの悩みどころ

 ここで撮影時の使い勝手と将来性について、いくつか言及しておこう。

 Xacti最大のポイントである、動画撮影中の静止画撮影ももちろん可能だ。ただ静止画だけを撮影するときよりも、レスポンスが劣る。シャッターを押してから実際に撮影されるまで、最大で1秒ほど遅れるので、そのあたりは覚悟しておいた方がいいだろう。

 本機を三脚で使用する場合は、三脚のフネにひっかかって、液晶モニタが閉じられなくなる点は要注意だ。モニタ部の長さがあと1mm程度短ければ閉まったのだが、惜しい。

 またHDの最高画質では従来の3倍のビットレートを必要とするので、撮影途中のカード交換は十分考えられる。今回はSDカードスロットが背面に独立しているので、三脚使用中でもカード交換は容易になった。

 そのSDカードに関しても、今タイミング的に難しいところにさしかかっている。現在SDカードで主流なのは、転送速度が2~5MB/s程度のタイプで、手持ちのこのタイプのカード(ハギワラシスコム製)で試してみたところ、さすがに撮影が止まってしまうようなことはなかった。だが低消費電力を謳ったSDカードでは、書き込み速度を押さえているものもある。このようなものを使用したときは、最悪の場合、HD動画撮影が途中で止まってしまう可能性がある。

 SDカードにはさらに、転送速度20MB/s以上の製品あり、さすがにこのタイプならば速度的には十分だが、まだ価格は高い。また現行のSDカードは、フォーマットがFAT16であるため、最大容量が2Gとなっている。これ以上の容量となると、今年のCESで発表になったSDHCカードへの対応が必要になるのだが、HD1ではファームウェアのアップデートなどでサポートする予定だという。

 もしこれが実現すれば、HD1は初めてSDHC対応予定を謳った製品ということになる。SDHCは、今年前半には4GBの製品がリリースされると言われているので、今HD1用に2GBのSDカードを買うかべきどうかは、悩みどころだ。

 これまでHDビデオカメラでは、動画から静止画の切り出し機能を設けているものもいくつかある。動画の解像度が高まったために、静止画の切り出し機能の需要も増えることだろう。

HD動画から静止画を切り出す機能もあるが なぜかVGAサイズで切り出される

 HD1にもHD動画から静止画の切り出し機能があるが、どういうわけか上下に白い枠が付けられて、VGAサイズにリサイズされてしまう。1,280×720ドット程度の静止画ではどうしようもないという意見もあるかもしれないが、それでもそのままのサイズで切り出せないのは、惜しい気がする。


■ 総論

 日本のハイビジョン放送フォーマットが1080iであるせいか、720p方式をニセハイビジョンなどと思っている人もいるようだ。だが世界的に見れば、この2つの方式はどちらも正統なハイビジョンである。

 コンシューマ用途としてみれば、放送に使える使えないはあまり問題ではない。それよりも、ハンドリングがいいフォーマットの方が便利だ。例えばPC上で利用するといった使い方では、最初からプログレッシブで画面サイズが若干小さい720pは、使い勝手がいいはずだ。

 720pのハイビジョン映像をMPEG-4で録画するというXacti HD1は、「ハイビジョンだ、うわー」と構えるよりも、そもそも今までのSDサイズじゃもの足りない人のための、ちょっと綺麗な動画カメラ、というポジションが一番しっくり来るだろう。

 そもそもHD映像の記録メディアがほとんどない状態では、ファイルのままとっとくしかないのである。以前ならば、子供の成長記録を末永く残すために光メディアの保存は必須、という図式になっていたが、最近は気軽に撮れてPCに放り込んでいつでも活用、というスタイルに変化しつつある。ビデオカメラの使われ方も、確実に変化してきているのだ。

 もっとも現時点では、720pでしかもMPEG-4が編集できるソフトウェアがそう沢山あるわけでもないので、しばらくは各編集ソフトの対応状況を睨みながら運用ということになるだろう。

 個人的な意見だが、今回のH1は、値頃感で折り合いが付いた段階で、まず買っておいて損はない。筆者はこれまで、初代Xactiからの進化をずっとWatchしてきたが、その経験からするとHD1に続く製品は、小型化して行くに従って性能的にどんどんダメになっていく可能性が否定できないからである。

 ハイビジョンのビデオカメラとして見れば、解像度という点で満点は差し上げられないが、HD初号機として気合いを入れ直したからこそ実現できた、このスペックではないかという気がする。

 HD1はハイビジョンを日常化する製品として、うまく機能していくだろうか。これの売れ行き如何で、コンシューマのハイビジョン映像活用シーンは大きく変貌する可能性を秘めている。


□三洋電機のホームページ
http://www.sanyo.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0601news-j/0111-1.html
□製品情報
http://www.sanyo-dsc.com/products/lineup/dmx_hd1/index.html
□関連記事
【1月11日】三洋、720p MPEG-4撮影可能なハイビジョン「Xacti」
-2GB SDカードに20~40分撮影可能。126,000円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060111/sanyo1.htm
【1月7日】【EZ】ビデオカメラはテープレスの時代へ
~ XactiのHDモデル、gigashotの1.8型HDDモデル ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060107/zooma235.htm
【2005年11月30日】【EZ】ついに600万画素到達の三洋「Xacti C6」
~ 唯一無比の動画デジカメはサンヨーを救えるか ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051130/zooma231.htm
【2005年3月9日】【EZ】新デザインを採用した「サンヨー Xacti C5」 ~ このスリム化は是か? 非か? ~ http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050309/zooma196.htm
【2004年8月25日】【EZ】前モデルの問題点を駆逐した「Xacti C4」
~より使い勝手が上がったSDビデオカメラ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040825/zooma168.htm
【2003年10月29日】【EZ】ビデオカメラの新常識!? 「SANYO Xacti C1」
~底力を見せつけた入念設計に脱帽!
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031029/zooma131.htm

(2006年2月15日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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