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本田雅一のAVTrends

2007年、オーディオの楽しさに立ち返る
-10万円クラスに充実の新製品が多数登場




 今年も残りあと少し。すでに年末商戦も終わりへと向かっている時期だが、普段はこの連載、あるいはAV Watchでは扱っていないピュアオーディオ製品から、いくつか気に入っているものをピックアップ。個人的に気に入ったポイントを紹介するというシンプルな構成で話を進めたい。

 AV Watchは当然ながら、Audio and Visual Watchだが、オーディオに関してはポータブルオーディオやPC関連オーディオなどの扱いが多く、純粋に音質を追求する方向の記事は少ない。

 おそらくオカルト的オーディオ談義に至るのを防ぐ目的もあるのだろう。もっとも、オーディオのおもしろさは、一見、オカルト的に思えることが、経験を重ねることでひとつの方向へと収れんしていく。そんなプロセスを楽しむ趣味でもある。

 今年は個人的に映像関連の記事ばかりに偏っていた反省から、再度、オーディオに対して向き合う機会が多くなった年だった。AV業界にもオーディオ復古的な流れができつつあることも一因だが、比較的買いやすい国産の優秀なオーディオ機器が生まれてきたことで、以前よりも勧めやすい価格帯に優れた製品が登場しているのが主因だ。


・CDプレーヤー

 一部の製品を除き、国産のCDプレーヤーは苦手だった。キレ味や高域のヌケの良さ、レンジの広さを感じさせるためか、高域がクセっぽく重心の高い音の製品が多かったからだ。さすがにハイエンドに近くなると落ち着きも出てくるが、当然、価格も高くなり勧められる人も限られてくる。

PD-D9

 そんな中で個人的に感心したのがパイオニアのPD-D9(138,000円)。量販店では実質10万程度で買えてしまうこの製品。主観だが、見た目は狙いが見えすぎて、かえってダサい。が、実際の質感は高く、アルミで構成されたシャシーとアナログ、デジタルで専用電源を搭載。どっしりとした落ち着きがある。

 何より内蔵DACによるアナログ音声の質がいい。パイオニアの普及プレーヤーはレンジ感ばかり強調され、高域に独特のキラキラとした輝きが付加される印象が強かったが、D9のは量感は適度ながらコシのある低域。中高域から高域にかけて丁寧に描き分け、歪み感、クセっぽさが少ない実に素直な音だ。

 適度に奥行きと広さを感じさせる空間を演出しながら、音像はしっかりとしている。このあたりはジッターを低減させるサンプリングコンバータの効果だろうか。歪み感の少なさやスムースな耳あたりの心地よさ、質感表現のボキャブラリが豊富な点は、ウォルフソン製DAコンバータの特性もあるだろう。

 D9はSACD再生も可能(2チャンネルのみ)だが、こちらもCD以上にすばらしい出来。音場に散らばる音と音の間を埋める空気感、質感の豊富さがSACDの魅力。そうした微細な雰囲気をきちんと伝えてくれる。

 価格を考えればかなりお買い得。正直に言おう。まさかパイオニアが、こんな質の高いCDプレーヤーを出すとは思わなかった。もう少し重心を下げてくれるといいが、上を見ればキリはない。手頃な音楽プレーヤーをお捜しならば一度試聴してみてほしい。

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・プリメインアンプ

ヤマハ「A-S2000」

 デノンのPMA-CX3(126,000円)やラックスマンのSQ-N100(189,000円)など、10万円台半ばに、いわゆる団塊世代向け製品が多いこのジャンル。どの製品もかつてのオーディオブームを思い起こさせる力の入れ方だが、ここではピュアオーディオに久々に取り組んでいるヤマハのA-S2000を取り上げたい。

 横幅430mmの標準コンポサイズに、縦長のトーンコントロール&バランス調整。アルミ削りだしのソースセレクタとボリューム。スイッチ類はレバー型にサイドウッドと、かつてのヤマハ製オーディオ機器を彷彿とさせるデザインで注目を集めたS2000シリーズだが、中でもアンプのA-S2000(208,950円)が良い仕上がりだ。

 標準価格は20万円を超えるが、このS2000をフラッグシップとして、今後、ヤマハは下位モデルも展開する予定があるという。

 見た目はクラシカルだが、音の方は現代的。どこかしとやかさを感じさせるフェイスとは裏腹に、音の方はエネルギッシュでスピード感のある、ワクワクとさせる楽しさ、元気の良さを感じる。弦楽器に暖かみやふんわりとソフトな音場感を求める向きよりも、ジャズやロックを切れ味の良いリズムで楽しむ人に向いている。

 全段バランス駆動で、出力の正極、負極の両方に同一タイプの素子(通常、バランス回路では一方がNPNなら、他方はPNPを使う)を用い、グランドをフローティングで組む独自の回路構成。左右チャンネルで4つの増幅部が存在するパワーアンプ部に対し、すべて対称に4つの独立した電源供給、メカニカル設計を行なうなど、なかなか凝った設計。

 プリ部も含めて完全バランス伝送と聞くと、入力もバランスでとなるが、実はアンバランス(通常のRCA接続)の音も悪くない。変換回路の特徴なのか、アンバランスの方が低域の量感が増えて感じられるが、伸びやかで見通しの良い中高域の雰囲気は失われず、本機の特徴を十分に生かせる。

ラックスマン「SQ-N100」 デノン「PMA-CX3」

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・スピーカー

パイオニア「S-3EX」

 国産スピーカーで今年ダントツの出来は、パイオニアのS-3EXだと思うが、2本で約70万円のスピーカーはいくらコストパフォーマンスが良いとはいえ(音質傾向の好みはともかく、クオリティに関しては100万円オーバーの海外製とも戦える質の高さがある)、手軽とは言い辛い。手が出る人ならば、上位のS-1EXをも超える楽しさを持つ音を是非とも試聴して欲しいが、低価格なレンジではB&Wの新600シリーズが印象的だった。

 素直で得手不得手の少ないスピーカーブランドの代表格のようなB&Wだが、低価格レンジの600シリーズに関しては、従来は今ひとつ。上位シリーズの800シリーズを基礎に下方展開するのがB&Wのいつもの手法だが、以前の600シリーズは800の親戚筋というよりも、B&Wの名を冠した別シリーズという印象だった。

 ところが、新しい600シリーズはどれも800シリーズの親戚筋。素直で透明感のある素晴らしい音を、実質8万円を切る価格帯で実現している。特にブックシェルフの685(92,400円/ペア)、686(75,600円/ペア)の出来は良く、コンパクトモニターCM-1にも通じる質の高い音を出してくれる。

 同一シリーズのトールボーイ型、683(113,400円/1本)と684(86,100円/1本)も気になるという人もいるだろう。こちらもお勧めだが、どちらかと言えば下位モデルの684が扱いやすい。平面のメタル振動板をウーファーに使う上位モデル683の方が低域の力感、量感ともにあるが、ミッドレンジとはやや質感が異なる。帯域ごとの質感が揃う684の方が音をまとめやすい。

B&W 685(左)、B&W 686(右) B&W 683

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・イヤホン

 雨後の竹の子のように、カナル型のステレオイヤホンが多数発売された今年。これもバランスドアーマチュアドライバの流通が増え、企画次第で多様な製品を商品化できるようになったからだろう。

 バランスドアーマチュアドライバを用いたイヤホンは、日本ではエティモティックリサーチのER-4(筆者も愛用している)から人気に火がついた。低域の量感が薄いという弱点はあるが、繊細で解像度の高く情報量も豊富な音が出せるバランスドアーマチュアドライバだが、ドライバ径を変えた複数のユニットを使ったり、低域用に太めのドライバを複数個使うといったマルチウェイのイヤホンが登場。

 マルチウェイのバランスドアーマチュアタイプイヤホンは、筆者も一時シュアのE5cを使っていたことがある(コードの扱いにくさと、低域の強調がやや過多で好みとずれていたため現在は使っていない)。

Ultimate Ears「Triple.fi 10 Pro」

 そんな中、M-AudioがUltimate Earsのコンシューマ向けイヤホンを扱い始めたと人づてに聞き、ならばと聴いてみたのだが、乗り換える気にまではなれなかった。Ultimate Earsはプロ向けのモニター用イヤホンで高いシェアを誇るメーカーだが、コンシューマ向けはちょっとばかり味付けが濃く、ドンシャリ気味。

 しかし、Triple.fi 10 Pro(直販49,800円)を試してみると「これもアリか」と思わせるバランスに仕上がっていた。モニター用モデルに比べれば、まだ演出が濃いところはあるが、恣意的なまでに低域を強調していることはなく、マルチウェイのバランスドアーマチュア採用イヤホンの中では、もっともバランスが良いと思う。

 音の表情の彫りが深く、細かな音がマスクされずに耳に届くバランスドアーマチュアドライバならではの的確な描き分けと、バランスドアーマチュアドライバが不得手なレンジの広さが上手に両立されている。低域は中低域の量感ばかりを強調したチューニングが多い中にあって、音場の雰囲気を演出する本当の低域を出そうと腐心しているのが感じられる。

 ということで、個人的に今年の年末に購入しようかと悩んでいるリストナンバーワンに位置する製品となった。価格も立派だが、音の方もそれ以上に本格派。比較的ドライブしやすいため、iPodなど携帯型オーディオプレーヤーとの相性もいい。


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 今回はいつもと趣向を変えてオーディオ製品からいくつかを紹介したが、“これがいいから買い換えろ”という意図で書いたわけではない。矛盾していると感じるかもしれないが、オーディオ製品は長いスパンで使うものだ。自分のペースで欲しいコンポーネントを揃え、換えた方が良いと思うものだけを買い換えていけばいい。

 映像機器の場合、対応規格が古くなったり、機能が最新になったりすると、すぐに買い換えるという読者も多いだろう。特に規格や収録フォーマットの変更の場合、買い換えもやむなしという場合がある。しかしオーディオのフォーマットや技術の流れはもっとゆったりとしている。

 オーディオの最も悪い購入パターンは、新製品を自分の部屋に導入して、数日で自分の中の評価を確定させてしまい、気に入らないとすぐに中古品として下取りに出して新しい製品を買うことだ。これでは何も解決しない。

 古くからのオーディオファンなら熟知していると思うが、オーディオ製品の能力を引き出すには、綿密なセッティングや工夫が不可欠だ。なぜならオーディオ機器はデジタルもアナログも、微細な振動や電源ノイズ、ケーブル構造や素材からの影響を逃れることができないからだ。

 だから、ケーブルを変更すれば音が変わるのはもちろん、たとえばメカニカルな筐体の強度、あるいはネジの〆具合、ネジの本数や素材、組み合わせるパネルのかみ合わせ、電源タップ、電源ケーブルなどで音の質感(柔らかさ、硬さや音域バランス、ノイズ感、音の立ち上がり、余韻の残る長さなど)が大きく変わる。

 しかし、エントリークラスの製品は、ラックと接触する足や筐体に、さほど大きなコストをかけられない。スピーカーやアンプ、いや数万円で買える一体型ミニコンポでもいい。足の下に何かを敷いてみると、不思議と音が変化するハズだ。これは何も不思議なことではなく、接触する物質が変化したため、共振周波数が変化して振動が音に与える影響にも変化が生まれているからだ。

 だからスピーカーとスタンド(あるいは机や棚、床など)の間に10円玉を挟んでも、数万円のインシュレータを挟んでも、音は必ず変化する。ケーブルの端子ケースが金属かプラスティックかで音が違うのも、安物でいいから一度、アナログラインケーブルを自作してみるとわかるだろう。どんなオーディオグッズでも音は変わる。

 それでもオーディオはオカルト的と言われるのは、高いものを買ってチューニングしたつもりでも、良い音になるとは限らないからかもしれない。何をやっても音が変化し、それにコストをかけていると「良くなっている」と思いこむ。そうなってしまうと、まじない師にすべてを託すのと同じだ。良くなるどころか、どんどん悪くなってしまうこともある。

 重要なのはお金をかけることではなく、どのように手を加えると、どんな変化が起こるのかを自分自身で探しむこと。手持ちの機材のセッティングで好みの音調を探していく感覚を身につけていかないと、何度も機器を買い換えていくことになってしまう。

 ちょっとした調整で好みの方向に微調整し、持っている機材の能力を引き出したり、欠点をマスクしたり、長所を活かしたりできることを知れば、きっと映像だけでなく音の質にも興味を持てるようになるはずだ。高い機材、評価の良い機材を買ってポンと置けば、それで好みの音が出てくるわけじゃない。そういう、一筋縄でいかないところが、実はオーディオの楽しいところなのだ。

(2007年12月18日)


= 本田雅一 =
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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AV Watch編集部

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