本連載ではもうおなじみとなる、PLAYSTATION 3(PS3)のアップデートに関する記事をお届けする。今回は、PS3ファームウエアの開発陣に加え、同時期に大幅なアップデートを行なったプレイステーション・ポータブル(PSP)についても、同時に取材を行なった。 今回インタビューに答えてくれたのは、前回と同様、PS3の商品企画を担当する、商品企画部の松井直哉部長、アップデートなどのネットワークプラットフォームの責任者である、ネットワークプラットフォーム開発部の梅村晃二郎部長の2名と、PS3のファームウエアを担当する、ネットワークプラットフォーム開発部11課の高瀬昌毅課長、そして、PSPのファームウエアを担当する、同5課の野田慎治課長だ。
■ PS Storeのために「同時アップデート」 PSPとPS3は、これまでそれぞれ独自にアップデートを繰り返し、不具合の修正や機能の追加が行なわれてきた。そのため、両機種でアップデートがほぼ同時に実施された、という例は意外と少ない。
梅村氏は、今回の同時アップデートは「完全に意図したもの」と説明する。その理由は、「Playstation Store(PS Store)への、PSPからのダイレクトアクセスにある」という。 梅村:PSPについては、PS Storeへのダイレクトアクセスが一番大きな変更点になっています。ですが、そのためには、PS Storeのサーバー側の対応が必要になってくるのです。 PS3の側でも、Playstation Network(PSN)アカウントの管理などをXMBで行なっていますが、そこがPSPと同じサーバーになっていますので、(互換性維持のために)PS3の側も併せてチェンジしたかった、というところがあります。 梅村氏の言う通り、PSPのアップデートにとって、今回の目玉はPS Storeへの直接アクセスだった。PS Storeでは、PS1規格のゲーム配信「ゲームアーカイブス」の他、PS3/PSP規格のゲーム配信、そして、映像配信などが行なわれている。これまではPS3かWindows PCを介してPSPに転送、という形になっていたが、ファームウエア5.0以降を導入したPSPの場合には、無線LANを使ってPSPから直接アクセスし、各種コンテンツの購入やダウンロードが行なえるようになっている。特にPSPについては、「PSP向けタイトル」についても積極的にダウンロード販売を利用する、という方針で、今後SCEから発売されるPSPタイトルについては、原則的に、「UMDで供給されるものと同じもの」が、ダウンロードでも販売されることになっている。松井氏は、「PSPにとってPS Storeは非常に大きな存在であり、PSN構想当初から、ダイレクトアクセスが予定されていた」と話す。
松井:ダイレクトアクセスは、PSNの構想当初からあったものです。それが、開発順序などの理由でこの時期になった、という風にご理解ください。実は、以前の取材でお話した『PSPのアップデートに関して、まだまだネタがある』という中の一つは、このことを指していたんです。 PSPでのストアの役割は、PS3におけるものと同じと思ってかまいません。現在は、PS3と違い、映像配信は行なわれていませんが、予定はあります。仕組み的にも、出来ない理由はないです。 PS3というのは、PSPにとってマザーシップ的な意味合いをもたせています。ですから、PS3のPS Storeから見えるコンテンツというのは、PSPのものもPS3のものも見えるようになっています。とはいえPSPの場合、(PSPだけで)再生できないものもダウンロードできる、というのはおかしな話なので、コンテンツをマスクして表示しています。 PSPへのダウンロード/転送というのは、単にファイルをコピーしているわけではない。PSPでは、配信に使われる映像/ゲームといったコンテンツでDRMを使っている。
野田:転送時には「機器認証」が行なわれます。これまでは、PS3やPCから転送する時に行なっていたのですが、PSPからのダイレクトアクセスの場合には、ダウンロード時に単体で行ないます。この機器認証というのは、「PSP本体」を認証するものです。ですから、データが入ったメモリースティックを認証されていないPSPに刺しても、動作しません。 あまり知られていないが、SCEは、PS2の時代から、すべてのハードウエアとソフトウエアに、1台/1本につき1つのIDを割り振っている。これを使った認証システムは「DNAS」と呼ばれており、PS StoreでのDRMでも、その一部として利用されているものと推察される。PS Storeの場合にはさらに、認証そのものをPSNのIDとも関連づけ、PSNのID-本体のID-コンテンツのIDをセットにして認証していると予想される。 本体とコンテンツを紐付けるタイプの認証であるため、例えばメモリースティックを買い換えるなどするために、内容を別の新しいメモリーカードにコピーした場合も、「本体が同じ」であれば動作することになる。
DRMの運用のルールは、コンテンツの種類や国によって異なっている。例えば、現在ダウンロード販売されているPSP用ソフトの場合、「ダウンロードした1機種のみ」で利用できる、というわけではないようだ。ダウンロードと機器認証を行ない、ゲームの入ったメモリースティックを別のPSPに差し込んだ場合でも、問題なくゲームは動作する。これはおそらく、買い換えなどの際にも柔軟に対応できるように、という配慮によるものと考えられる。 他方、PS3からの映像転送については、一度PSPへと転送すると、PS3への書き戻しは行なえない。また、認証を行なったPSPに挿入していたメモリースティックを別のPSPに刺した場合にも、「認証が必要です」との表示が行なわれ、再生が行なえないようになっている。ゲームに比べ、より厳密なルールが採用されているようである。 なお、コメント中に出てきた「PC向けのPS Store」は、現在システム更新に伴うメンテナンスのため、サービスが休止されている。サービスが再開された場合には、PSPに対する転送を中心としたストアとして、「PS3、PSPのものと同様に使えるようになる」(松井氏)とのことだ。 ■ アドビからはじめて「組み込み用Flash9」供給 PSPが、「PS Store導入」という、ビジネス面での役割が大きなアップデートであったのに対し、PS3については、これまで同様、どちらかといえば「機能拡張・機能改善」という意味合いが強い。 中でも大きいのは「ウェブブラウザでのFlash9への対応」と、「映像ディスク再生における、クロマアップサンプリングの改善」、そして、「XMBからの映像再生時に、『シーンサーチ』機能を導入」というといったところだろうか。 特に「Flash9の導入」については、実質「ニコニコ動画対応」といっていいほど、ニコニコ動画への対応が注目されている。実際、ニコニコ動画への対応については、SCEに対し、非常に多くの要望が寄せられていたという。
松井:機能改善要望のレポートには、毎週毎週、それこそ「ニコニコ動画への希望」がない週がないくらい、ご要望が高かったですね。 梅村:実は、前回の取材の段階ですでにFlash9への対応をすすめていたのですが、まだお話はできなかったんですよ。ニコニコ動画に限らず、Flash9に未対応ということで、ゲームの公式サイトなどでも、PS3では見れなかったサイトが多かったので、それに対応したかったというところです。 Flash9対応、と一言でいうが、決して簡単なことではない。PCならともかく、ゲーム機や携帯電話、家電といった「組み込み機器」でFlash9に対応した機器はほとんどない。そもそも、メモリなどの資産に限りがある組み込み機器向けのFlash対応については、携帯機器向けの「Flash Lite」を利用する場合が多く、PCと同様の表示を実現するのは難しいという事情があった。
高瀬:Flash9への対応は、去年の暮れぐらいからはじめていました。Adobeさんから供給されている、組み込み機器向けのFlashのうち、どれを選ぶか、というところからはじめています。結局、それを我々でカスタマイズして搭載しています。 梅村:Adobeさんとはもう長く一緒にやらせていただいていまして、その関係から、組み込み用の技術を提供していただきながら、こちらでカスタムする、という形を採っています。
高瀬:実は、「Flash9対応の組み込み向けSDK(開発キット)」って、世の中にまだ公開されていないんですよ。今回は特別に供給していただき、搭載しています。 すなわち、「PCアーキテクチャ以外でFlash9にほぼ完全対応した」機器は、PS3が最初の存在、ということになっているようだ。 タイミングの悪いことに、PS3のアップデートと時を同じくして、PC用のFlashの世界では、Adobeより「Flash10」が発表されてしまっている。とはいえ、開発スケジュールを考えると致し方ないところだろう。実際には、コンテンツのほとんどがまだFlash9対応であることを考えれば、実質的な問題はないといっていい。「今すぐに”10やります”とは言えませんが、(PS3用も)新しくしていくというのは、これまで通り流れではありますね」と高瀬氏は話す。 ニコニコ動画対応という点で、特に評判が良いのが、「拡大機能」を使った場合の表示だ。動画部分と右のコメント部がいい感じに全画面に拡大されるため、非常に見やすいのだ。
高瀬:あれは偶然ではなく、そうなるようにソフトを作っています。小さな画像や文字でも、その部分を示すことで、画面にうまくフィットして拡大するようになっています。それが、ニコニコ動画に生きてくる、ということです。動画なら、「ここが明らかに動画だな」という部分を見つけて、そこを大きく拡大しているんです。これは動画に限らず、Jpegなどの画像でもそうなんですが。 こういった部分は、PS3に搭載されているウェブブラウザが、「テレビで見る」ことを前提に、SCEがオリジナルで開発してきたものだからという部分がある。初期には、PCに比べ動作速度やウェブページの再現度で劣ることもあったが、「今は、IEなどでみたとおりに近い、ということを考えて検証しています」と高瀬氏は話す。Flash9への対応もその一環だ。 高瀬:どこがどう見えるかは、世の中で広く使われているサイトをリストアップ、ランキングして、上位のサイトから調整を行なっています。ただし、あまり個別に調整しすぎると、互換性そのものに問題が生まれるので、慎重に行なわないといけないのですが。 改良されているのは表現力の部分だけではない。今回、Flash9対応にあわせ、特に大きな改善が行なわれたのが「速度」である。例えばウェブ内での動画再生のフレームレートにしても、「単純比較で3倍程度に上がっているはず」(高瀬氏)という。同様に大幅な能力上昇が行なわれているのが、Java Scriptの処理速度向上だ。PCと違って自由にアプリケーションを追加できないPS3の場合、ウェブアプリが利用できるようになることは、大きなプラスとなる。
高瀬:Java Scriptの実行速度は、我々のベンチマークでも、以前に比べ2.8倍くらい速くなっており、パソコン上で見るものと遜色ないレベルになっています。項目によっては逆に速いぞ、というくらいで。最近でてきた、Google Chromeのようなさらに進んだソフトには負けますが、IE7などの一般的なウェブブラウザよりは速いかと考えています。 そもそも、PS3は演算能力こそ高いものの、ハードウエア資産はPCに比べ余裕がない。特にメモリは、トータルでも256MBしかない。しかも、ゲームを動作させねばいけない関係上、OS部はそのメモリを占有するわけにもいかない。PS3やPSPのファームウエアアップデートは、OSのメモリ占有部を減らす戦いでもあったようだ。PS3の場合、発売当初にはOSが56MB程度占有していたようだが、現時点では、「2.20以降、OS占有量は43MB」(梅村氏)になっている。ウェブブラウザを利用している時にはより多くのメモリを使っているのだが、それでも物理搭載量である256MBの壁は大きい。各種ウェブアプリを快適に使えるPCの場合、メモリが1GB程度必要であることを考えれば、その差は歴然だ。 ただし、PS3のウェブブラウザの場合には、メモリの制約をある程度緩和する仕組みも導入されている。 高瀬:PS3のメモリが苦しいのが前々から問題ではありました。しかし、バージョン2.0から、HDDを使った「仮想記憶」に対応したため、ある程度緩和されました。それでも、HDDへアクセスに行くと遅くなるので、メモリとの戦いである事実に変わりはないのですが。 梅村:そうですね。PS3全部にHDDが標準でついているのが、結果的に大きな助けになっています。 PS3ならではの部分は、Flash9の動画機能にも隠されているようだ。ニコニコ動画などでの動画再生は、現状まったくコマ落ちがない、というわけではないが、同価格帯のPCよりは遙かにスムーズである。その実現には、PS3ならではの構造がある。 高瀬:Flash内のH.264の再生は、SPUで独立処理しています。ウェブの解釈などとは独立して処理できることで、フレームレートをあげやすいという特徴があります。今後すべてのコマ落ちが解消できる、とまでは断言できませんが、PS3ならではの強みといえるでしょう。 ■ PSPでのFlash対応は厳しい?! リソース不足だが改善に取り組む さて、Flashという点で、次に気になってくるのはPSPである。PSPのブラウザは、PS3のものとは違い、携帯電話や組み込み機器で広く使われているACCESSのNetFrontをベースとしたものだが、PSPでもFlashへの対応を期待したくなってくるのが人情だろう。だが、どうやらそれはかなり厳しいことのようだ。 野田:PSPについては、リソースが圧倒的に足りない状況なんです。かなり前から、「その次をどうするか」に苦労している、というのが実情です。一つ入れると他をあきらめる、という状況で。なにかを追加するには、何かを減らしたり最適化したり、ということが必要になっています。 例えば、今回のバージョンアップで全画面表示・フルキーボード(QWERTY)による文字入力が実装しました。欧米の人からの要望が多かったからなのですが、これも苦しかった。キーボードって、ゲーム画面やブラウザなど、「なにかが出ている上」に出ますよね。ですから、キーボードを表示するだけでも大変なんです。 以前のPS3のファームウエアアップデートに関するインタビューの中でも、「リソースの余裕は、刀を研いでいくような感覚で空けていく」というコメントがあった。PS3はもちろんだが、発売から4年近くが経過したPSPの場合、ハードウエアスペック的にも余裕がなくなりつつあるのは事実なのだろう。これまでの機能強化内容を考えると、驚くほど様々な苦労があっただろことは想像に難くない。 リソース面での苦労は、もうひとつある。PSP-2000およびPSP-3000は、別売のケーブルを使うことで、テレビに対して映像と音声を表示できるようになっている。今回のファームウエアアップデートにて、ゲームアーカイブスのタイトルをプレイ時に、フル画面で映像を表示することができるようになっている。また、XMBの表示やウェブブラウザ、動画表示なども、フル画面表示が可能だ。だが残念ながら、PSP規格のゲームは、解像度が低いこともあってか、画面中央部にしか表示できない。 野田:PSPのゲームを動かしながら全画面表示を実現しようとすると、システム側でなんらかの負荷が増大してしまい、今までのように安定した動作ができない可能性があります。今のところ、実現するには、ハードウエア的になんらかのサポートが必要になると考えており、(ファームウエアだけでの実現は)難しいと思います。 アーカイブスについてはエミュレーションを内部で、ソフトウエア的にやっています。その負荷を調整することで全画面表示を実現できたのですが、PSP規格ソフトウエアの場合には、難しいかな、と思っています。 残念ながらこのあたりは、ハードウエアスケーラーを搭載していない携帯機である現行のPSPでは、難しいということのようである。 ■ クロマアップサンプリングの詳細は? PS3のアップデートに関し、AV面で気になるのは「クロマアップサンプリング」だろう。実際試してみたところ、DVDおよび地デジを録画したBD-Rの場合、発色とコントラストの面で大幅な画質向上が確認できた。 とはいえ、「今までもクロマアップサンプリングはやっていなかったわけではない」と高瀬氏はいう。今回のアップデートでは、「より高画質なものを導入した」というところであるようだ。 高瀬:今までも、4:2:0から4:2:2へのアップサンプリングは行なっていたのです。ですが今回、さらに高画質なものを実現し、搭載することになった、ということです。HDの画質でももちろん効果はあるのですが、元々HDは画質が高いので目立たないんです。SDの場合、画質向上効果がはっきりとわかります。 なお、直接画質面でのソフト開発を担当する、ソフトウエアプラットフォーム開発部 2課の縣秀征課長からは、以下のようなコメントを得ている。 Q:具体的にどのようなアルゴリズム処理を行なっているのか? A:4:2:0→4:2:2変換の際に、動き適応型のクロマアップサンプリング処理を行なっています。処理は、PS3オリジナルの特別な方式です。ただし、技術的な詳細については、非公開とさせてください。 Q:BDMVフォーマットで記録されたBDでは、なぜクロマアップサンプリング機能が利用できないのか? A:お客様からのリクエストがあれば対応を検討していきますが、従来通り、ユーザーの方にもメリットを実感していただけるものに仕上がらなければ本体機能として実装しない方針です。 BD-ROMタイトルでは現在、改良版クロマアップサンプリングが適用されていないのだが、これもどうやら、「情報量の少ないDVDや地デジでは補完効果が大きいが、情報量の大きい市販映像タイトルではそこまでめざましい効果は出ない」ということのようである。 現状でも、1080i収録のBDビデオタイトルのプログレッシブ化など、「出来そうだが実装していない」機能はある。それと同様、「単に実装するのではなく、”明確な画質向上”が見込めた段階で実装する」というポリシーを適用する、ということだと考えられる。 なお、クロマアップサンプリングは、DLNAやメモリーカード、HDD内などの映像にも適用されていない。PS3は、ディスク収録の映像を再生するプレーヤーと、それ以外の映像をXMBから呼び出す再生機能という、2系統の映像再生処理系がある。両者では高画質化機能など細かな違いがあるのだが、今回のクロマアップサンプリングも、ディスク系のみに採用されているものだ。 ■ ようやくPS3にも登場した「シーンサーチ」
逆に、PS3のXMBで搭載されたのが「シーンサーチ」機能。元々はPSPで、1年ほど前から搭載されている機能だが、サムネイルを見ながら、映像の好きなところへ簡単に飛べる使いやすさが受けていた。PS3への搭載が熱望されていた機能である。 高瀬:PS3で実装が遅れたのは、より多くのファイルフォーマットに対応させるためです。PSPの場合には対応フォーマットが限定されているものの、PS3は対応ファイルフォーマットが非常に多い。一部だけで対応、というわけにはいかなかった、ということです。前々から話はあったんですが、やっと今回できるようになりました。特に、サムネイルがダーッと出る部分、あれがどこまで出せるか、が課題だったんです。 以前より、「PS3で様々な映像フォーマットに対応するのは非常に苦労が多い」という話は耳にしていた。シーンサーチにおいても同じ問題があるというのも意外ではある。 高瀬:基本的に、きれいなフォーマットで作られているものは、(コーデックを問わず)それほど問題ないんです。 PS3が裏で苦労しているのは、世の中にある色々な変換ソフトで作られた映像でも、きちんと動くようにしているところなんです。DivXと一言でいっても、色々ありますし。(規格から外れ気味で)そもそも再生が難しい、というものも多いんです。そこでさらにシーンサーチを、というのは、色々問題がありました。こちらで公式に「この圧縮ソフトを推奨」というのもなかなか言えないところがあるので、世の中である程度メジャーなソフトについては、考慮して対応しているという感じです。 シーンサーチがXMB側にあってディスク側にない理由は、「個人で撮影された映像などの、きちんとチャプターが設定されていない場合に、特に有効な機能だと考えているため」(高瀬氏)だ。ディスク系はチャプターが存在することも多く、優先度が低い、という判断なのだろう。ただ、テレビ番組の録画ディスクなどでは、必ずしもチャプターが設定されているとは限らないので、シーンサーチが欲しくなるシーンも多い。今後、是非ディスク側への実装を検討していただきたいところである。 録画番組の視聴という点では、DLNAのDCTP-IP対応が気になるところだ。今回も再度確認したが、これまで通り「現在検討していますが、リリースは未定」とのコメントにとどまっている。 ■ スクリーンショットや動画を「ネット」へ PS3のアップデートでは、表からはわからないものの、興味深い変更が加えられている。それが、「ゲームのスクリーンショットと、動画キャプチャー」だ。動画キャプチャー機能は、2007年11月に公開された「1.90」から、スクリーンショットは今回から対応している。これらの機能は、ゲーム内でXMBを呼び出せるようになったことと連携して搭載されたもので、ゲーム側で「対応」が行なわれていれば、利用が可能になる。 高瀬:ゲームの画面をキャプチャして、XMBの「Photo」列に収納する、という形です。基本的には、ゲーム側が動作している解像度でキャプチャされることになり、フルHDでキャプチャもできます。キャプチャ形式はPNGです。負荷が低く、PCで標準的に表示できる、ということが選択の理由です。 梅村:動画については、すでに今でも可能ですね。「まいにちいっしょ」で対応しています。動画ですので、フルHDというわけにはいきませんが……。 これらの機能は、PS3のHDD内に保存するだけでなく、ネットワーク上のサービスに自動アップロードすることも可能となっている。 梅村:動画の場合、現時点で対応しているのはYouTubeだけですね。 高瀬:我々の側でアップロード先として提供しているのがYouTubeだけ、ということです。ゲームメーカーさん側が独自実装すれば、ほかのサービスでも利用可能です。 梅村:もちろん、システム側で用意するサービスを増やすこともできるんですが、まだ具体的な予定はないです。写真や映像については、いろんなサイトに公開して共有できるようにしたい、とは思っているんです。ただ現状、公式にサポートができているのはYouTubeのみ、というところです。 意外なことに、この方針はPSPでも共通している。ハードリソースの少ないPSPではあるが、「すでに準備はできている」と野田氏は話す。 野田:ゲーム側でつくりたい、という意志があれば、スクリーンショットを保存できる、というAPIはすでに提供しています。動画の方はまだできていませんが、今後そのようなライブラリを提供していこう、という予定はしています。 ニコニコ動画の例を挙げるまでもなく、ゲームが「プレイしている人だけ」で完結する時代はすでに終わっている。プロモーションという意味でも、ゲームの楽しみを広げるという意味でも、ネットを使いユーザー同士のコミュニケーションを円滑化する仕組みは重要になっている。現在のように、キャプチャカード付きPCを使うことなく気軽にゲームの映像が共有できるようになれば、様々な可能性が広がることだろう。ただし、これらの機能はあくまで「ゲームメーカーの判断に基づく」ものであるため、すべてのタイトルで使えるわけではないのが残念なところだ。ゲームメーカー側には、ぜひ「オープンな共有の可能性」を評価して、前向きな搭載を望みたいところである。 これに限らず、PS3とPSPでは、「ネットを使った連携」を重視している、と松井氏は話す。
松井:今後のアップデートの中では、「インタラクティブエンタテインメント」ということで、インタラクションをあげていきたい、という思想があります。 中でも、PSPのリソースが足りない部分を、PS3側の計算リソースを使いながらPSPでうまく処理をする、といったように、うまく補完しあうことで連携が可能だと思っています。 また、「Life With Playstation」のように、「朝つけてニュースを見る」といったような、PS3を朝から使うようにする、といった考え方もあります。PS3・PSPともに、まだまだ生活シーンの中で活躍できるところがあるのでは、と考えていますので、そういう視点で、まだまだファームのアップデートというのは継続してやっていきたい、という風に考えています。 松井氏の言う「PSPの能力をPS3で補完する」という発想は、PS3発売後すぐに実装された「リモートプレイ」から始まるものだ。前述のように、PSPで「PC並のFlash対応」は難しい。だが例えば、PSPからPS3をリモートプレイで接続、PS3側のFlash対応ウエブブラウザを使って表示する、といったことができるわけだ。「PSPでニコニコ動画を見る」という1点で考えると、さすがにこれだけの仕組みを使うのはコストの面でどうか、と思うが、「携帯端末からPS3の能力を生かす」という可能性そのものは、確かに魅力的といえる。 PSPとPS3の連携という意味では、もうすぐ大きな機能が登場する。10月30日より、PS3を介して、インターネット対戦に対応しないPSPタイトルを「ネット対戦可能」にするソフトウエア「アドホックパーティー」のβテストが開始されるためだ。PCでも「Xlink Kai」などのサービスで実現されているものだが、SCE自身が提供することで、より設定が簡単で、安定したサービスになる可能性が高い。 ただし、この機能が使えるのは無線LANを搭載するPS3のみ。すなわち、20GBのPS3では利用ができないのだ。リモートプレイの場合には、無線LANのアドホック機能を使わず実装できるため、別途無線LANルータなどがあれば利用できるのだが、アドホックパーティーの場合、文字通り「アドホック接続」に依存するため、アドホック接続が使えないルータ経由では利用ができない。20GBモデルでアドホックパーティーを使う方法はないのだろうか? 残念ながら、現時点では厳しいようだ。 梅村:今のところは、USBなどで無線LANアダプタを増設する、といったことは難しいです。残念ながら20GBモデルの場合、解決方法はありません。 ちなみに前出のように、アドホックパーティーは「アプリケーション」だ。SCEより、PS3向けに提供されるものの場合、OSの機能として「ファームウエアアップデート」で提供されるものと、「アプリケーション」として別途ダウンロードするものがある。両者の違いは、どうやら「容量」であるようだ。 梅村:本体に全部入れると、アップデータの容量が大きくなるんです。「Life With Playstation」などはかなり大きいので、それは分けたい。それに、開発チームの違いなどもあり、開発タイミングを合わせるのが難しいという事情もあります。すべてを合わせると、提供のタイミングが難しくなりますので。 どうやら今後も、「アプリケーション」として追加される機能と「OS」として追加される機能では、棲み分けが続きそうである。 ■ 80GB版PS3のRSXは「65nm」 なお最後に、ハードウエア的な情報を一つ追加しておきたい。 10月30日より、日本でもHDD容量を80GBに増やしたPS3が発売になる。松井氏によれば、「ハードウエア的な仕様変更はほとんどない」とのこと。ただし、40GB版では90nm世代のプロセスで製造されていたRSXが、80GB版では65nm世代に変更される。SCE広報の説明によれば、日本では出荷される80GB版の全数がCell、RSXともに65nm世代となる。 20GB版/60GB版から40GB版への切り替えの際とは異なり、冷却機構などに大きな変更はないと見られ、公称スペックも消費電力は280Wと変化なしだが、実働時の消費電力や発熱は低下している可能性が高い。 □SCEのホームページ (2008年10月23日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部 |
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