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ユニット直前までデジタル伝送、LINN「EXAKT」がKEF/JBLで利用可能に。KEFとは共同開発
2016年7月28日 16:31
LINNは28日、スピーカーユニットの直前までデジタル伝送を行なう「EXAKT」技術や、その製品についての説明会を開催。他社のスピーカーも“EXAKT”対応にできるのが特徴で、新たにKEF「Reference 5」、JBL「S9900」の対応モデルも発表。Reference 5については、初めて、メーカー同士の協力のもとに完成したモデルとなる。
Reference 5のEXAKT対応モデルは「Reference 5 EXAKT」というモデル名で、既にオーダーを受け付けている。価格はまだ決まっていないが、「Reference 5(ペア1,926,000円)の10%プラス程度のイメージ」だという。また、既にReference 5を使っているユーザーに対して、EXAKT対応にするためのコンバージョンキットも「10%程度の価格で販売予定」。なお、最初からEXAKT仕様のモデルを購入した場合でも、パッシブネットワークは付属するため、通常のReference 5に戻す事もできる。また、9月か10月には「Reference 3」、「Reference 1」用のコンバージョンキットも発売予定。JBL「S9900」EXAKT対応の詳細は今後決まっていくという。
EXAKTとは
従来のオーディオでは、例えばCDプレーヤーからプリアンプ、パワーアンプ、スピーカーへと信号が伝送されて音が出る。EXAKTシステムはその経路を可能な限り省略しつつ、なおかつフルデジタルで情報の劣化・欠落を抑えて実現しようというのが基本的な考え方となる。
ネットワークなどを経由して、ハイレゾを含めたデジタルオーディオを再生できるヘッドユニット「EXAKT DSM」から、オリジナルのデジタル伝送技術「EXAKT LINK」を用いて、EXAKT対応スピーカーにデジタルのままデータを伝送する。
通常のスピーカーはアナログ入力で、マルチウェイの場合はパッシブのネットワークに入力。そこで帯域分割を行ない、ツイータやウーファといった各ユニットに信号が伝わる。
EXAKTシステムの場合は、「EXAKT ENGINE」と呼ばれるDSPをメインとした回路が、デジタルプロセッシングで帯域分割。それだけでなく、その後に音を出力するスピーカーユニットの特性や、低域と高域の時間軸のズレなども考慮した補正も実施。そうして得られた信号を、DACで変換。そのアナログ信号をもとに、ユニット直前のパワーアンプを用いて、スピーカーをマルチアンプ駆動するといった形となる。
このEXAKT対応スピーカーは、LINNが発売しているモデルのように、「EXAKT ENGINE」がスピーカーに内蔵されているモデルがある一方、EXAKT ENGINEを箱に入れたような単体のネットワーク「KLIMAX EXAKTBOX」(170万円)なども用意。ネットワークからの出力を、ステレオパワーアンプの「KLIMAX TWIN」(120万円)などを複数台使い、他社製も含めたマルチウェイスピーカーをドライブする手法もある。
既にスピーカーにパッシブのネットワークが搭載されている場合は、それをスルーしてドライブするための改造が必要になる。そのため、購入したオーディオショップに相談し、LINNのサポートも受けながらEXAKT対応にしていく流れになるという。
“今の技術で最初からオーディオを作るとどうなるのか”
LINN本社の技術部長であるキース・ロバートソン氏は、同社が昔から「再生環境だけでなく、音楽が生み出される制作環境においても音楽信号のロスを減らしていく事が大切だと考えていた」と説明。レコード時代はマスターテープからLPのマスターをカッティングし、それをもとにLPをプレスする工程で、CDでもスタジオマスターからCDマスターを作る際にロスが生まれていた事を紹介。
その上で、「我々はリンレコードを持っている経験も活かし、スタジオマスターファイルをそのままユーザーに届けるDSシリーズを2007年に誕生させた。当時は“そんなスタジオマスターファイルはどこにあるんだ”と言われたが、我々(リンレコード)が出していけば、他社も追従してくれると考えていた。そして今日、いろいろなスタジオがマスタークオリティの音楽配信をスタートしてくれている」と語り、高音質音源の配信にいちはやく取り組んできた事を振り返った。
キース氏はEXAKTシステムについて、「これまでのオーディオの常識から離れ、“今の技術で最初からオーディオを作るとどうなるのか”を考えた結果。スピーカーユニットの手前ギリギリまで、ロスなく伝送する。我々が理想とする姿にかなり近づいたものがEXAKT」と言う。
同時に、低損失なデジタル伝送だけでなく、ネットワークの部品やユニットの特性などで、理想的な波形がすぐに変化してしまう事、位相のズレも発生する事をグラフを交えて説明。デジタル処理でそれらを補正できる事も、EXAKTの大きな特徴の1つと紹介。
その上で、「こうした成果を、LINNだけがスピーカー開発に用いるのではなく、オープンなものとして他社のスピーカーにも提供していきたいと考えた」とし、B&Wのスピーカーなどを“EXAKT仕様”にできるようにしてきた経緯も説明。さらに、他社の技術者がEXAKT仕様のスピーカーを開発できるように、デジタルクロスオーバーを作るためのツールもLINNが作成、供給する体制を作っている事も明らかにした。
また、KEFとのコラボについては、「LINNのスピーカーのメインエンジニアであるフィリップ・バッドに、“EXAKTをオープンにして一緒にスピーカーが作れるのなら、どのメーカーがいいかな?”と聞いたところ、“KEFなら、我々がやろうとしている事に興味を持ってくれるだろう”と即答された。それで、LINNからKEFにコンタクトをとった」と、経緯を説明。
KEFの技術部長であるジャック・オクリーブラウン氏は、「我々も、タイムアライメント(時間軸方向)のズレの解消に昔から取り組んできた。高域は急峻に音が出るが、その後にリンギングが出る。ウーファは立ち上がりが遅く、反復もある。2つのユニットからの音が組み合わさると、高域と低域に時差が残り、それが不自然さに繋がる」と説明。そうした問題を、アナログ技術で解消するため、生み出したのがKEFの代名詞でもある同軸ユニットの「Uni-Q」だとした。
このUni-Qで音を出す事を踏まえ、ユニットの特性も考慮した上でEXAKTのデジタル補正をすると、入力信号とほぼ同じ波形を再生する事が可能になったという。さらに、スピーカーとして理想的な点音源に近い同軸ユニットであるため、スピーカーの正面で計測した時だけでなく、上や下にズレた位置からサウンドをチェックしても、変化が少ない事も利点として紹介。「KEFが求めていたUni-Qの点音源の利点と、EXAKTが求めているところは、ほとんど同じだと感じた」という。
音場や音の深みにも大きな効果
発表会場において、KEF「Reference 5」とJBL「S9900」の、パッシブネットワーク(通常の状態)と、EXAKTバージョンを比較試聴した。再生装置は「KLIMAX EXAKT DSM」と「KLIMAX EXAKTBOX」、パワーアンプの「KLIMAX TWIN」×3台だ。
「ドコドコ」とドラムが反復するような楽曲で比較。パッシブからEXAKTに切り替えると、低域の音像がシャープになり、分解能がアップ。低い音に含まれている細かな描写が見やすくなる。そのためか、スピード感も増したように感じられ、歯切れの良いサウンドに聴こえる。
同時に、ドラムの響きが背後に伝わっていく空間の広さも、EXAKTの方がより深く、広く、広大に感じられ、それが立体感もアップさせている。
大編成のクラシックでは、空間の広さと情報量の増加により、音が出る前のフワッとした空気の流れというか、空気感のようなものも感じられるようになる。
男性ボーカルで比べると、お腹から出ている声の低い成分がよりリアルに聴こえるため、“人間って喉だけで歌っていないんだな”というのがEXAKTではよくわかる。むろん、ハイエンドなスピーカーをハイエンドなシステムでドライブしているので、パッシブでの音も非常にクオリティが高いのだが、それでもEXAKTによる恩恵はハッキリと、誰にでもわかる違いとして確認できた。