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4K/HDRはアニメにも効果大! ガンダム初UHD BD「ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY」を体験

 ガンダムシリーズ初の4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)「機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY」(品番:BCQA-0001/8,000円)が12月22日に登場する。その発売に先駆け、2K BD版と4K/HDRのUHD版を比較視聴、“アニメのUHD BDはどうなのか?”を体験した。

機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY 4K ULTRA HD Blu-ray
(C)創通・サンライズ

 既報の通り、「機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY」は「機動戦士ガンダム サンダーボルト」有料配信版の全4話に、新作カットを加えたものだ。2K Blu-ray版(BCXA-1121)は6,800円、DVD版(BCBA-4767)は5,800円で7月29日に発売されているが、新たにUHD BD版が12月22日に発売される。発売・販売元はバンダイビジュアル。

 UHD BD版のディスクは1枚組で、本編は70分。映像はHEVCの16:9/2160p。音声はDTS-HD Master Audio 2.1chとリニアPCMステレオで、日本語/英語音声を収録。日本語/英語字幕も収録している。

UHD BD版と通常のBD版を比較視聴してみる
(C)創通・サンライズ

どのように4K/HDR化していくか

 アニメ作品の多くは、1,280×720ドット、つまり720pで作られている。バンダイビジュアルによれば、「機動戦士ガンダム サンダーボルト」は制作開始時に、4Kマスター制作も視野に入れた、従来よりも高解像度で作る事をコンセプトに掲げていたという。

 しかし、制作レンダリングにかかる時間なども考慮すると4Kでアニメを作る事は難しく、それでも通常のアニメよりは高解像度で、なおかつ4Kにもアップコンバートもしやすい解像度として1,440×810ドットで作られた。

 そこに、パナソニックが4K/HDR映像化の話をもちかけ、実現したのが今回のUHD BD版となる。

 流れとしては、1,440×810ドットのQuickTimeで作られたデジタルデータをマスターとし、この映像をHDRグレーティング。松尾衡監督の意向を反映させながら、シーンごと、キャラクターの動きごと、カットごとに光の明るさをどれくらいにするかを決め、それに合わせて調整しながらHDR化していったという。

下の段が「機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY」UHD BD化の流れ

 こうして完成した2K/HDRの映像を4Kにアップコンバートし、UHD BDに収録するためにHEVCでエンコードする。パナソニック株式会社アプライアンス社ホームエンターテイメント開発センターの柏木吉一郎氏は、「フィルタリングがかかる事で映像の質感が変化するが、4Kで最終的に視聴する際の映像がベストになるよう考慮した上で、4Kアップコンバートのパラメータを細かく調整した」という。

パナソニック株式会社アプライアンス社ホームエンターテイメント開発センターの柏木吉一郎氏

 その後、オーサリングを経てディスク製造へと続くが、オーサリング時に入れるメニューにも工夫がある。「映像がHDR化してより明るい表現ができるようになっているのに、メニューがSDR用のままだと、全体としてアンバランスになってしまうので、メニューもHDR映像に合わせ、明るくするところは明るくするなど調整した」とのこと。

 さらに日本語/英語の字幕も収録しているが、これも同様で、「HDRではシーンによって明るさの表現が大きく変化するが、字幕の明るさだけが一定だと、例えば暗いシーンにも関わらず字幕が凄く明るく見えるなど、映像の邪魔になってしまう事もある。そうならないように、シーンに応じて明るさを調整している」という。

メニュー画面もHDR映像に最適化したものになっている
(C)創通・サンライズ

実際に映像を観てみる

 比較視聴のテレビとしては、VIERAのハイエンド機「DX950」65型の「TH-65DX950」を2台用意。4K/3,840×2,160ドットのVAパネル、高輝度な直下型LEDを採用し、1,000nitを超える高輝度化を実現。もちろんHDRに対応している。

比較視聴の環境

 LEDバックライトはローカルディミング(部分駆動)にも対応しており、制御エリア数を従来機AX900の4倍に増やし、黒の沈み込みを向上させ、コントラスト性能を高めた。日本国内で初めてUltra HD Allianceによる「Ultra HDプレミアム認証」を取得した4Kテレビでもあり、同認証で定められた、1,000nit以上の高輝度、黒レベル0.05nit以下、HDR対応、BT.2020入力対応でDCI色域90%以上、解像度4K(10bit入力対応)を満たしている。

 なお、従来の2K BDの輝度は最大100nit。UHD BDは10,000nitまで対応している。UHD BDプレーヤーとしては、HDR視聴用に「UB900」を、SDR(2K BD)用にレコーダの「BZT9600」を使用した。

2K BDとUHD BDのスペック比較表。2K BDは最高輝度100nitだが、UHD BDは10,000nitまで対応する

 「TH-65DX950」はVAパネルを使っているため、視野角を考慮し、2台をやや内ぶりのセッティングにして視聴を開始した。

 冒頭、タイトルのロゴが表示される時点でまるで映像が違う。UHD BDは白い文字が鮮やかでクッキリと見え、背景とのコントラストが強い。そして暗闇の中で「ヴォン!」と赤く光るザクのモノアイも、光の鋭さがUHD BDの方が圧倒的に強い。静かに獲物を狙うモビルスーツの怖さが、HDR化でより際立つように感じる。

左がHDR映像のUHD BD、右がSDRの2K BD。写真では違いが伝わりにくいが、モノアイの光の強さはHDRの方が強烈で、その差は歴然としている
(C)創通・サンライズ

 漆黒の宇宙空間を、縦横無尽に飛び回るバトルシーンも、スラスターの鮮やかな光や、飛び交うビーム・ライフルの軌跡がHDRの方が遥かに鮮烈。面白いのは、ギュンギュンと立体的な超高速挙動でデブリを避けまくるフルアーマー・ガンダムの姿が、SDRでは速すぎて目で追えない瞬間があるが、HDRではスラスターの光が鮮烈であるため、急に軌道が変わっても目で追いやすく、バトルの内容がわかりやすい。

 圧倒的な強さで迫るガンダムは、ジオン軍の兵士達に“連邦の白い悪魔”と恐れられたが、攻撃をもろともせずに突っ込んでくるフルアーマー・ガンダムのボディの白い輝きがHDRでより鮮烈になっており、“白い悪魔”と呼びたくなる気持ちがよくわかる。もちろん作品タイトルでもあり、劇中に登場する“サンダーボルト”もより印象的になっている。

コロニーの奥にある光の鮮烈さに大きな違いがある。松尾監督は「アナログセルアニメ時代の透過光の表現がまた使える!」と語っていたそうだ
(C)創通・サンライズ

 単純に明るい部分が強くなったのではなく、宇宙空間の何もない部分の暗さや、会話シーンでのジャケットの影の部分などに注目すると、HDRでは暗部がより暗く、画面が引き締まって見える。宇宙空間で浮遊するシーンでは、黒の締まりが良いので、奥行きが深く感じられ、画面に立体感が出てくる。

(C)創通・サンライズ

 鑑賞前は、HDRで明るい部分の光が強くなると、アニメでは“アラが目立つのでは?”、“リアルさが薄れて絵っぽくなってしまうのでは?”と心配していたが、この作品ではモビルスーツの表面の細かな傷などもしっかり描き込まれているので、その部分に光が当たって鮮烈に強調されても、リアルさは損なわれず、むしろ「うわ、こんな部分もしっかり描き込まれていたのか」と関心するシーンもあった。

 4Kアップコンバートによる不自然さも無く、輪郭はとても滑らかだ。従来のBDは、映像のレートは最高40Mbpsで、MPEG-4 AVCを採用しているが、UHD BDはより効率の良い圧縮ができるHEVCで、転送レートも最高100Mbpsに引き上げられているため、激しい戦闘シーンでも像の崩れやノイズは感じられず、映像は安定している。

 全編を通して鑑賞したが、困ったのはついついUHD BDの画面ばかり観てしまう事だ。比較視聴なのでまんべんなく交互を見比べようと意識しているのだが、UHD BDのHDR画面の方が鮮烈でドラマチックであり、“映像の力が強い”ため、「おお、HDRではこんな表現になるのか」と思ったまま、視線が離れず、UHD BDの画面ばかり観続けてしまう。この違いは歴然であり、HDRという言葉を知らない人が観たとしても恐らくひと目で違いがわかるだろう。

 柏木氏によれば、「現在市場にあるHDR対応テレビの中で最も明るいものが約1,000nitだが、それに対応する映像を実現した」という。これには、松尾監督の「(HDRの効果を抑え気味にするのではなく)まったく別の映像にしようというくらいの気持ちで取り組もう」という意向もあったそうだ。

 しかし「全てのシーンをHDRで明るくする必要はなので、効果的かつ自然に見えるかどうかに注意しながら監督と共に作業をしていった」(柏木氏)という。また、暗部の描写やグラデーションの表現についても、「従来のBDは8bitだが、UHD BDは10bitなのでより豊かな階調表現ができている」という。

 なお、UHD BDには映像特典として「ガンダムシリーズ 4KHDR トライアルフィルム」(約5分)も収録されている。これは、「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」、「機動戦士ガンダムUC」、「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」、「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」の4作品の一部を、今回のUHD BD本編と同じ技術を用いてテスト的に4K HDR化したトライアル映像だ。

 こちらも鑑賞したが、いずれの作品でもHDR化の効果は非常に高いと感じる。「機動戦士ガンダムUC」のサイコフレーム描写もより鮮烈で神秘的なものになっていいた。そして面白かったのが、セルアニメで、フィルムマスターの「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」(1997)、と「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」(1991年)の4K HDR化だ。

「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」から。昔の作品でもHDR化の効果は高いと感じる
(C)創通・サンライズ

 最新の作品と比べると、もちろん映像的には懐かしさ感じる作品なのだが、HDR化で光が鮮烈になると、メリハリやインパクトが強くなるためか、映像に古臭さをあまり感じなくなっていた。もちろん光が強くなった部分で、フィルムのグレインが目立つようなシーンもあるのだが、それよりも爆発やビームの光が鮮烈になる事で、現実の光景のようなリアルさが追加され、新しさを感じるのかもしれない。

 柏木氏は、「(フィルム時代の古い作品のHDR化は)マスクを丁寧に行なわないと、何もかも光ってしまい、難しい部分もある」とする一方で、明るい部分の表現については、「デジタルマスターの作品は、SDRの上限である100nitに、信号が当たってしまっている状態。しかし、過去のアニメはフィルムで残っているので、それを再度スキャンしてデジタル化すれば、(デジタルマスターの旧作より)明るい部分の情報はより残っていると言え、HDR化しやすいという面もある」とした。

 また、バンダイビジュアルによれば、アニメ制作者にもHDRの効果は認知されてきており、制作の段階からHDR化する事も見据えた作品作りを今後はしていくべきだという声も挙がってきているという。

松尾衡監督からのコメント

 制作当初から想定していない仕様のものが世の中に出る事は、正直嬉しいとは言えないものです。ただ、「4K UHD BDを作りましょう」という意見が出てくれた事は、望外と考える事は出来るわけで、前向きに受け取ろうとしたのです。パナソニックでの映像チェックは、そんな気分で向かったわけで、一歩下がった自分がいたのは事実です。

 ところが、見せて頂いたテスト映像は驚きの連続。HDRという、初めて見る技術には驚きばかりで、「これを手に入れられるのか」という喜びばかりでした。もちろん想定した絵ではありません。しかし、想定以上の魅力が付加されている。

 解像度が上がる効能以上に、HDRには今までに無かった魅力がある。テレビは確かに発光体だ。しかし、今まで一番明るいものは真っ白。ただの白。眩しいくらいに明るくしても、自然な光じゃないんだ。自然には当たり前にある“光”。ならば、最大限受け取りたい。

 機器の限界を試すくらい、強烈にHDRの恩恵を受け取った映像にして欲しい。新しい技術に触れると、我儘になるものなんだな。

 必然として、2KのBDとは違う絵作りになっています。でも、これも一つの回答なのだと言える仕上がりになっています。ぜひ、今までのブルーレイや配信の映像と見比べて欲しい。最大数値の光は「サンダーボルト」に本当の雷を運んでくれたことに気づくはず。

 久しぶりに感じる技術イノベーション。次回はこれを確信犯で操ってみたい。そう思わせる4K UHD BD初体験だった。

 松尾衡(監督)

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