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「映画館でVR! 」、エヴァやおそ松さん上映。VAIOと東映、クラフターの“皆で観るVR”

 VAIOと東映、クラフターは、VR映像を映画館で鑑賞できる「映画館でVR! 」の先行体験上映イベントを7月2日より開催する。映画館施設を用いた多人数同時鑑賞のVR映画興行は日本初となる。開催劇場は東京・新宿のバルト9 シアター7。チケットは短編3作品で1,500円。

STU48のメンバーがゲストとして登場

 3社が共同事業として展開する「VRCC(VR Cinematic Consortium)」のコンテンツ。映画館の中でVRヘッドセットを装着して楽しむもので、自宅やアミューズメント施設のVR体験とは異なり、映画館の本格的な5.1chスピーカーを使って臨場感のある音響環境で、VR映像への没入感を楽しめる点が特徴。映画館側にとっても、既存の劇場に無線アンテナとサーバーを設置するだけで完了するため、低コストで導入できる点を特徴としている。スタンドアロンVRヘッドセットを含む全システムをVRCCが提供する。3社は「日本の映画興行にVR映画という新しい産業をもたらす」としている。

新宿のバルト9
シアター7

 7月2日からの先行体験上映コンテンツはアニメ3作品で、「evangelion:Another Impact(VR)」(4分55秒)と、「おそ松さん VR」(6分24秒)、「夏をやりなおす」(5分44秒)。チケット料金1,500円で3作品とも楽しめる。シアター入り口で渡されるヘッドセットを、スクリーンに投影されるガイダンスムービーに従って着用して鑑賞する。なお、これら3作品を体験できる年齢は13歳以上。上映時間は、3作品とガイダンス映像を含めて約30分。上映回数は、当初1日2回を予定している。

先行上映のコンテンツ

 ヘッドセットは、スタンドアロン型「Pico Neo」を映画館向けに独自にカスタマイズしたものを使用。最大2,880×1,600ドット/90Hz表示に対応し、6DoFセンサーを搭載。装着者が動くことで視点は変わるが、コントローラなどの操作はできないように制限し、物語に集中できるようにするという。先行上映のコンテンツも6DoF対応。

VRヘッドセット
VRCCのVRシステムの特徴

 VRCCは、ハードウェア技術、劇場興行、コンテンツ制作を手がける3社が、映画館で気軽にVR映画を楽しめる環境を提供することを目的に設立。各社の役割としては、VAIOがハードウエア調達・最適化や、ソフトウェアとネットワークを含むシステムを開発。ワイヤレスで多人数が快適に同時視聴できるVR環境を構築する。さらに、ソリューション全体の販売、保守、ソフトウェアのライセンスを行なう。

 東映は、シネコンにコンテンツを配給することで、ハイグレードな体験を提供。VRコンテンツ調達、自主製作の幹事も担う。クラフターは3DCGアニメーション制作力を活かし、VR映画に最適化したコンテンツを制作。VRコンテンツ調達や、自主製作の幹事も担う。

VAIOと東映、クラフターが協力
VRCCのロゴ

 今回の先行体験上映は1カ月程度の期間を予定。動向を鑑みて、本営業の時期や公開劇場などを検討。今後のコンテンツとして、清水崇監督「呪怨」などのホラーや、「仮面ライダー」など特撮作品、音楽ライブ、ドキュメンタリー、長編映画などを予定している。

迫力の音響と映像を、周囲の人と一緒に体験

 3社は26日に記者会見を行ない、VAIOの赤羽良介執行役員副社長、東映の村松秀信 取締役企画調整部長、クラフターの古田彰一社長が登壇。また、ゲストとして、STU48メンバーの石田みなみさん、今村美月さん、田中皓子さん、土路生優里さん、薮下楓さんが登場し、VRコンテンツを体験した。

VAIOと東映、クラフターの3社とゲストのSTU48

 東映の村松秀信取締役企画調整部長は映画業界の現況について、3D映画のヒットや、音楽ライブなど映画作品以外を上映するODS(Other digital stuff)の拡大などを振り返りつつ「近年ではアニメ作品を中心としたヒットで右肩上がりの成長」と紹介。3Dスクリーン数の伸びは鈍化する一方で、4D(4DXやMX4D)、IMAXなどの新しい映画の盛り上がりについて「自宅やスマホでも気軽に映像を楽しめるようになった中、映画館でしか味わえない体験へのニーズが高まっている証拠」とし、「映画館を訪れるバリューをより高める」取り組みとして、今回の「映画館でVR! 」をアピール。

東映の村松秀信取締役企画調整部長
映画業界の現況
3Dスクリーン数の伸びの鈍化
4D、IMAXの隆盛

 同社グループの映画館T・ジョイが、2000年に日本初のデジタルシネマ上映設備を導入し、2010年に全スクリーンのデジタル化を完了したことなどデジタル上映導入の先駆けとなっていることや、業界で唯一東西に撮影所を持つこと、アニメ「プリキュア」シリーズや「ドラゴンボール」、「ワンピース」や、特撮の「仮面ライダー」シリーズなど豊富なIPを持つことを強みとし、「これまでにないVR体験を提供する」とした。

 今後の具体的なVR上映作品については検討中としながらも、前述の「呪怨」や「仮面ライダー」のほか、アイドルやアーティストのライブなどの作品を計画。村松氏は「今はVRコンテンツを視聴するのは30分が限度と思っている。1時間半から2時間の作品の一部をVRにして、全編の中にVRを盛り込む作品も、将来的に作っていきたい」とした。

東映の持つコンテンツ
今後計画しているコンテンツ

 クラフターは、博報堂の映像コンサルタント会社として設立され、現在CGアニメをワンストップで制作。三鷹の森ジブリ美術館の短編アニメ「毛虫のボロ」のCGパートなども手掛けている。

 古田彰一社長は「CGで手書きアニメのように見せる“セルルック”だけに留まらず、リアルタイムエンジンやAIといった最新技術で表現の進化を起こす『スマートCGアニメーション』をコンテンツ制作にフル活用する。上映システムは、通常の興行を止めることなく簡単な工事で導入でき、いつもの映画館が最新VR体験が楽しめる場に早変わりする」と説明。

クラフター 古田彰一社長

 特にヘッドフォンで耳を塞がない点を強調し、「映画館はハイクオリティな音響設備が整っており、劇場のスピーカーで楽しみながら周囲の気配も分かる。ホラーでは隣の人の悲鳴も聞こえるし、コメディでは笑い声も聞こえ、音楽ライブではみんなで盛り上がれる。その場にいる大勢で一体感を共有できる。コンテンツも6DoF対応により奥行きがあり、没入感を顕著に感じられるように、第1弾はあえてアニメーション作品とした。アニメの中に入る感覚を強く体験できる」と説明した。

 古田氏は、興行のスタイルとして、良い作品が集まった時点ですぐ上映する「STOCK & GO」である点を説明。まだ潤沢なコンテンツが無い現状で、このシステムであれば、良質なVRを提供でき、劇場も興行の隙間時間を活用できる」とした。

 さらに、VRCCがオープンプラットフォームである点を強調し、コンテンツ制作者や、保有しているVRコンテンツを公開したいホルダー、劇場に導入したい興行主、多人数でのVRイベントを実施したい事業者などに対し参加を呼びかけ、パートナーの拡大を図る方針を示した。

これまでの上映デモの様子

 VAIOの赤羽良介副社長は、PC事業だけでなく「(ロボットなどの)EMS事業も軌道に乗せた」と説明。それらに続くソリューション事業の第1弾が今回のVR事業となる。「これまで培ったコンピューティング技術を活かせることに加え、多くの人にVRを体験してほしいという気持ちがある。大迫力のサウンドによって非日常の世界を体験しながら、周りの人も同じ空間にいるのが音で分かる。VRは将来の新たなコンピューティングにつながる期待感もあり、VAIOとして知見を深めたい。今後もVR体験の質の向上や、コンテンツ制作のしやすさなど、継続して向上することを目指して取り組む」とした。

VAIOの赤羽良介副社長
VAIOのEMS事業とソリューション事業

上映作品を体感。短時間でもVRの良さを凝縮

 7月2日からの上映作品は、2015年に「日本アニメ(ーター)見本市」で公開された「evangelion: Another Impact(Confidential)」をVR向けに設計し直したという「evangelion:Another Impact (VR)」や、“自分の好きなキャラクターと目を合わせ続けられる”という「おそ松さん VR」(アドアーズで上映された作品をVR上映向けに最適化)、ドイツで開催された「CEBIT」で上映されたオリジナル「夏をやりなおす」の3作品。

evangelion:Another Impact (VR)
おそ松さん VR
夏をやりなおす

 これらのうち、「夏をやりなおす」を、瀬戸内を拠点に活動するSTU48の石田みなみさん、今村美月さん、田中皓子さん、土路生優里さん、薮下楓さんが体験した。

左から、STU48の石田みなみさん、今村美月さん、田中皓子さん、土路生優里さん、薮下楓さん
VRヘッドセットを装着

 夏の日差しがまぶしい校庭、女の子と2人きりの教室など、最初はさわやかな青春ラブストーリーを予感させるが、途中から物語は意外な方向へと急展開。ラストまで目が離せない内容となっている。体験したSTUも思わず隣のメンバーの手を取り合うシーンがあるなど、短時間ながら十分にVRを楽しんだ様子だった。

 土路生さんは「想像以上にリアルな世界。教室にいるような感じがして、青春時代を思い出しました」とコメント。石田さんは「自分の目線に合わせて動くから、女の子が視線が合ったようでドキドキしました」。今村さんは「蝉の声とか色々聞こえて、そこの世界にいるような感覚」、薮下さんは「映画好きの人はもちろん、あまり映画見ない人も、VRでは自分が主人公になったように感じてワクワクするので、皆さんに見てほしいです」とそれぞれ感想を語った。今後VRで観てみたい作品については田中さんが「洋服が好きなので、ファッションショーの映画で、自分がランウェイを歩くような作品」を挙げた。

土路生優里さん
石田みなみさん
今村美月さん
薮下楓さん
田中皓子さん

 実際にヘッドセットを装着して、「夏をやりなおす」のコンテンツを体験してみた。ヘッドセットを装着していても、ヘッドフォンなどで耳を塞がないため圧迫感が少なく、作品に没頭しながらも周囲の状況が何となくわかるのは安心感がある。ゲームのようなインタラクティブ性はないものの、周りの目を気にせず、360度の好きな方向を観られるのは、普通の映画鑑賞にはない自由度の高さだ。

 音響については、話す相手の声が聞こえる方向が視線と連動するため、スピーカーで聞いていることを意識しなくなり、現実世界に近い自然な感覚。アクションなど、音の移動感が激しい作品も鑑賞してみたくなった。映像についても、短い時間にVRの良さを自然に盛り込んだ内容で楽しめた。もっと高解像度なゴーグルが今後開発されれば、コンテンツのリアルさもよりアップするだろう。単に技術としての新規性だけでなく、VRをうまく活用して物語へ入り込めるような映像の未来を想像させる、期待感の高まる体験だった。

先行上映のコンテンツ

「evangelion:Another Impact (VR)」(4:55)
別の場所、別の時、決戦兵器 の起動実験が行われていた。秘密裏に開発と実験が進められていた「Another No.=無号機」は、ヒトの制御を受け付けず、突如暴走を始める──。「Another No.=無号機」は、何のために作られたのか?「別」の世界で起動したエヴァの、暴走と咆哮の物語……。
おそ松さんVR(6:24)
人気TVアニメ「おそ松さん」の初VR作品。6つ子たちの日常にVRで潜入体験。舞台は、ファンにはお馴染みの銭湯。TVアニメと同じ豪華声優陣が、プレイヤーである自分に話しかけてくれる。どうやら、自分は6つ子の願いごとをひとつだけ叶えられる超能力者らしい。6つ子たちの願いとは?果たして、その願いは成就するのか……?
夏をやりなおす(5:44)
夏の強い日差し。蝉時雨が聞こえる校舎。そこに、ひとりの少女が背中を向けてしゃがみこんでいる。自分の存在に気づいた彼女は立ち上がり、話しかけてくる。「ずーっと、待ってたんだよ。あの夏から……」。彼女の口から次第に明らかにされる「あの夏」の真相。会いたかった人は、会ってはならない人だった……。VRの為につくられたオリジナル作品。主題歌は、3人組音楽ユニット「ケラケラ」(ユニバーサルシグマ所属)による同作タイトル「夏をやりなおす」