総務省、地デジ「緊急地震速報」の技術検討結果を発表

-3つの手法を検討。ワンセグ受信機への送信も


9月4日発表


 

 総務省は、地上デジタル放送における「緊急地震速報」の速やかな伝送に向けた技術的検討を社団法人電波産業会(ARIB)と社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)に依頼。その検討結果が4日に公開された。

 検討された手法は、「文字スーパー(非同期字幕)」、「データ放送のイベントメッセージ」、「AC(Auxiliary Channel)による伝送」の3つ。いずれも速やかな伝送が期待できることから、各手法の特徴や課題などを整理し、実験結果を踏まえて報告された。

 「ACによる伝送」は、放送事業者が運用制御などに利用している伝送路を使ったもので、運用規格/規定とも新たに定める必要があるが、3方式の中で最も遅延が少なく、マルチパス妨害や雑音などに強い。さらに、中央の1セグメント内のACを緊急地震速報の伝送にも活用することで、ワンセグ受信端末で速報を受け取るという方法も期待される。一方で、「文字スーパー」と「イベントメッセージ」については、ARIB標準規格に関わる変更は必要なく、運用規定の変更で対応可能となる。主な特徴は下表の通り。

手法概要伝送遅延
(本線系と比べた場合)
伝送耐性既存互換自動起動その他の特徴
文字スーパー
(非同期字幕)
緊急地震速報の内容(文字情報)を非同期PESによる文字スーパーとして伝送1秒程度早い×・強制表示可能
・文字内容、表示位置、受信機内蔵音を放送局から制御可能
・ワンセグでは運用不可
データ放送の
イベントメッセージ
緊急地震速報の内容を文字・図形情報を用いたデータカルーセル方式で送出し、イベントメッセージを利用して提示制御1秒程度早い○(データ放送非対応受信機は除く)×・文字内容、表示位置、受信機内蔵音、グラフィックスを放送局から制御可能
・選局直後や双方向番組中は表示できないなど運用上制約あり
・ワンセグの全画面表示状態では表示されない
ACによる伝送中央の1セグメントのAC キャリアを利用して、緊急地震速報の地域情報、震源地情報を符号化して伝送1秒以上早い×・伝送遅延が最も少ない
・低CN比やフェージング等に対する耐性が高い
・低消費電力待ち受け、自動起動/表示が可能
・表示は受信機仕様による
・偽情報送信への対策

 今回の報告では、新しい手法であるAC伝送を用いた場合の実験を中心に、検討結果を発表。

 伝送遅延時間に関する実験結果としては、AC信号発生器への入力を起点として、受信機から出力されるまでの時間(伝送遅延時間)を測定。最短伝送遅延時間の測定結果は416msで、最長伝送遅延時間は647msとなった。この実験ではOFDM変調器での遅延時間を412msに設定。ACは本線TSより1フレーム(231ms)早く多重されるため、OFDM変調器におけるACの遅延時間は412msから231msを差し引いた181msとなる。

 そのほか、既存の送受信機との両立性調査や、伝送特性、伝送遅延時間の測定、セキュリティについて検討。両立性に関しては、送信機は机上検討で特に問題がないとし、また、受信機については、試験により問題が生じないことを確認したという。

 伝送特性に関しては、試作した受信機でガウス雑音特性、マルチパス特性、フェージング特性の室内実験を行ない、所要C/Nが-3dBでも受信でき、ワンセグの6.6dBより約10dB低いC/N(Carrier to Noise Ratio:ノイズ混入比)で受信可能ということが確認された。また、マルチパス特性、フェージング特性とも、ワンセグの受信特性よりも約8~10dB 低くても受信できるという。

 セキュリティに関しては、既に規格化されている緊急警報放送と対比して机上検討を行ない、偽の緊急地震速報の情報を送信する手法としては、収録・再送信による手法への対策を検討。その結果、ACの内容として時刻情報を送信し、受信機の時刻と送られてきた時刻情報を照合することでリスクを回避することができるとした。

 参考資料として、文字スーパー(非同期PES型字幕)を用いた場合の遅延量測定テストの結果も報告。8回行なったテストでは、文字スーパーが約900msで、現行の映像スーパーの約2,300msに比べ改善される。なお、多くの地デジ対応放送局で用いられている2パスエンコードを行なった場合、両方式の遅延(相対遅延)差は約1,400msで、文字スーパーの方が約1.4秒早く速報を伝送できることになる。

 Dpaの技術委員会は今後のスケジュールも発表。文字スーパーとデータ放送のイベントメッセージについては、Dpaが作成した改定案がARIBで承認されており、ACについてもARIBの報告を受けて、今後検討を進めるとしている。

 総務省は、今回の検討結果の報告を踏まえ、審議会での検討を経て、必要な制度の整備を進めるとしている。また、上記以外の手法についても民間の自主的な取り組みで実現可能であることから、放送事業者による迅速化に向けた取り組みが進められることを期待するとしている。



(2009年 9月 4日)

[AV Watch編集部 中林暁]