ビクター、木の振動板採用のカナル型イヤフォン最上位
-振動板大型化と制振強化でレンジ拡大。実売3万円
日本ビクター株式会社は、ウッドドーム振動板を採用したカナル型(耳栓型)イヤフォンの上位モデル「HA-FX700」を2010年2月上旬に発売する。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は3万円前後の見込み。
同社はウッドドーム振動板を採用したイヤフォンとして、2008年2月に「HP-FX500」(実売15,000円前後)を発売しているが、FX700は新設計のユニットや、デュアルハイブリッド構造などを採用することで、さらに音質を高めた上位モデルとなる。
ビクターは振動板としての素材の物性値(伝搬速度 対 内部損失)が、従来のコーンやポリプロピレンなどより理想的であることから、木を成型加工した振動板を積極的に採用している。FX700はFX500と同様に、カバ材をドーム状にした「ウッドドーム」を使用している。
FX500との最大の違いは、ユニットの口径が8.5mmから10mmへと大型化したこと。表面積が2倍になり、円錐形ドームとすることで歪率も改善させるなど「低域の歪の減少と、伸びのあるピュアな中高音を実現した」(ビクター)という。
これにより、再生周波数帯域はFX500の8Hz~25kHzから、6Hz~26kHzへ拡大。感度は104dB/1mW、インピーダンスは16Ω。最大許容入力は200mWとなっている。また、振動板大型に伴ない、ハウジングも一部が膨らんだ形状に変化。ハウジングにもカバ材が使われている。
ハウジングにもカバ材を使用 | 背面 | 接続端子はステレオミニ |
ノズルには角度がついている | FX500(左)との比較。ユニットが大口径化したため、ハウジングの一部も太くなった | 左が振動板素材の物性値。右は円錐形ドームにすることで改善した歪率を示したもの |
ホーム・エンタテインメント事業部 AVコミュニケーション統括部 技術部 第1設計グループ 技師チームリーダーの内田裕氏 |
この機構はFX500でも採用していたが、ユニットの背面に配していたFX500から発展し、FX700では前面にもブラスリングを配置し、より強固に対策している。「ユニットの振動を外に漏らさず、振動ロスを極力抑えるのが目的で、芯の太い、臨場感豊かな、空気感のある音が再現できた」(ホーム・エンタテインメント事業部 AVコミュニケーション統括部 技術部 第1設計グループ 技師チームリーダーの内田裕氏)とのことで、同社ではこの機構を「デュアルハイブリッド構造」と名付け、特許出願もしている。
構成パーツの一部。一番右と左から二番目列の中央にある金色のパーツがブラスリング。ユニットの前後に配置する | デュアルハイブリッド構造 | ハウジング内部の構成図 |
ほかにも、多数の音響調整部品を内蔵。高域のバランスを調整する「スクリーン」、前面に向かう中低域のバランス調整と高域のバランス調整を行なう「リングダンパー」、全面に向かう中低域を調整する「ダンパー」、制振ジェルなども搭載している。
ケーブルは0.8mのY型で、0.7mの延長ケーブルも付属。コードを除いた重量は9.6g。イヤーピースはシリコンタイプ(S/M/L)と低反発タイプ(S/M)を用意。キャリングケースも同梱する。
高級感のあるパッケージ | キャリングケースも付属 |
■ FX500の利点をそのままに、ワイドレンジ化
発表会場では、短時間ながら試聴できた。
「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生すると、アコースティックベースの低音に芯が1本通り、ベースの弦がゆるまず、ガツンと硬さを保ったまま低音が沈み込んで心地よい。中低域の量感も豊かで、温かみのある音場の空気感が良く伝わってくる。それが高域に付帯音として色付けされることもなく、抜けの良いクリアな音も確保。制振機構の優秀さを感じさせる正統派なサウンドに仕上がっている。
豊かかつ、締りのある低音とクリアな高域という特徴はFX500と良く似ている。比較試聴でFX700に着け替えると、FX500の傾向をそのまま残しつつ、上下のレンジを一段広げたワイドレンジサウンドに変化する。クラシックの大太鼓の迫力がアップするとともに、解像感が向上したことで生々しさも増している。
従来のFX500ユーザーはもちろんのこと、ダイナミック、バランスド・アーマチュアのユーザー問わず、高級イヤフォン購入を検討している人には一聴の価値がある再生音だ。
(2009年 12月 24日)
[AV Watch編集部 山崎健太郎]