西川善司の大画面☆マニア
第294回

令和に再爆誕「4原色パネル」からスーパー量子ドットまで。26年テレビ技術を先どり解説!
2026年3月19日 08:00
前回に引き続き、2026年とそれ以降にトレンドとなるかもしれない最新のディスプレイ技術を取り上げていく。今回は「LGディスプレイ&サムスンディスプレイのRGBストライプ有機EL」、「ハイセンスの4原色」、そして「次世代量子ドット」を解説する。
情報漏れてる!? LG&サムスンが「RGBストライプ」ほぼ同時発表
まずは有機ELパネルの話題から。
LGディスプレイ(以下、LGD)は、昨年12月23日にRGBストライプ構造の有機ELパネルを発表。そして、サムスンディスプレイ(以下、サムスンD)も今年1月1日に、RGBストライプ構造の有機ELパネルを発表した。
サムスンDは、新構造を「Vストライプ」と命名。“V”は彼らがQD-OLEDで採用する三角配置を連想させる文字だったため「一体何を言っているんだ?」と映像パネル界隈をどよめかせたが、なんてことはない。VはVertical(垂直)の頭文字から取った、とのこと。なんとも紛らわしい。
まあそれはともかく。両社はライバル企業同士なのだが、重要な技術発表のタイミングは、内通者の存在を疑いたくなるほど、よくシンクロするものだ(笑)
この「RGBストライプ型のサブピクセル構造」(以下、RGBストライプ構造)という用語自体に新しさはない。液晶パネルでは30年以上も前から実用化されてきたからだ。
なんなら有機ELにおいても、有機材をインクジェット印刷方式で形成させるJOLED製の有機ELパネルは、最初からRGBストライプ構造だった。
ここで改めて、RGBストライプ構造とは何かを説明する。
用語解説的に表すならば、「3原色となる赤緑青(RGB)のサブピクセルが整然と列び、正方形状態で収まっている構造」を指す。
以下の写真は、VA型液晶パネルの顕微鏡写真だが、これがRGBストライプ構造の典型事例の1つだ。
現在、モニター向けに出回っている有機ELパネルは、大別して2種類ある。
ひとつは、LGDが採用する有機ELパネルで、RGBサブピクセルに白色サブピクセルを追加した構造のW+RGBスタイル(下写真)。製造した白色サブピクセルだけの有機ELパネル(WOLEDパネル)にRGBカラーフィルタを組み合わせてフルカラーを作り出す。あえて、生の白色サブピクセルを残すのは、輝度補償(輝度不足を補填)のためだ。
もうひとつが、サムスンDの量子ドット有機EL(QD-OLED)パネル。こちらは、RGBのサブピクセルが三角配置になっている(下写真)。製造した青色サブピクセルだけの有機ELパネルの上に、赤量子ドットと緑量子ドットの量子ドット(QD)素材をインクジェットプリンタで塗布(印刷)して作る。
印刷ミスを減らして歩留まりを改善するため、赤緑青のサブピクセルを可能な限り離して配置したい事情から、RGB三角配置となっている。
ちなみに、サブピクセルを取り囲むような“格子状の非表示領域”は、サブピクセルを駆動するためのTFT回路の影だ。これ以外にPDL(Pixel Definition Layer)と呼ばれる画素分離膜もこの影に含まれる。
一般に、液晶に比べて有機ELの方が黒い格子筋が太い(≒画素開口率が低い)理由は、TFT回路のトランジスタ数が液晶画素に比べて有機EL画素の方が数倍も多くなるため、とされている。
RGBストライプ構造のメリットとは
なぜ、RGBストライプ構造の有機ELモニター製品が求められるのだろう。逆に言えば、W+RGB配列やRGB三角配列では、なぜダメなのか?
RGBストライプが求められる背景にあったのが、“視距離が短い”モニター製品において、単色/純色での直線表現であったり、画数の多い漢字や図版の輪郭表現などで、不自然な揺らぎやジャギーが視認されることがあるからだ。
W+RGB配列では、4つのサブピクセルが1ピクセルの中にあるため、複数の隣接ピクセルで似たような色を発色させた場合でも、演算の結果、輝度補償で予想だにしない形で、白色(W)サブピクセルが動員されることがある。これが結果的に、1ピクセル単位の表現に不条理なジャギーを発生させる。
一方、RGB三角配列では、水平方向に見た場合、緑(G)サブピクセルが独立しているため、周囲のサブピクセル駆動状況によっては、この緑が単色として浮きやすい。同様に、水平方向に隣接して列んだ赤(R)と青(B)も、紫(マゼンタ)の偽色を作りやすい。
これらの理由は、サブピクセルをじっくり観察すると納得がいくだろう。分離したサブピクセルで1ピクセルを表現している以上、どの配列にも一長一短はあるものなのだ。
さらに言うと、Windows OSやMacOSのシステム文字フォント自体が、RGBストライプ構造を逆手に取った“疑似アンチエイリアス表現”でデザインされている。
このため、RGB+WストライプやRGB三角配置のPCモニターとは相性がよくない。この点も、有機ELパネルのRGBストライプ構造移行への大きな後押しとなったとみて間違いないだろう。
視距離が短いモニター機器では、こうした弱点がバレやすい。有機ELパネルの製造技術精度が上がったことで、従来は踏み込めなかったサブピクセル構造の見直しにメスを入れた、ということなのだろう。
2026年はRGBストライプ型有機ELモニター元年に
LGD、サムスンDから相次いでリリースされたRGBストライプ構造パネルだが、採用したモニター製品の数はまだそれほど多くはない。
サムスンD(すなわちQD-OLEDパネル)のRGBストライプ採用機は、ASUSのウルトラワイド「PG34WCDN」、MSIのウルトラワイド「MPG 341CQR QD-OLED X36」と「MEG X True AI Gaming Monitor」、そしてサムスン謹製の4K「Odyssey OLED G8」(G80SH)の4モデル。
対するLGD(すなわちWOLEDパネル)のRGBストライプ採用機は、ASUSの4K「ROG Swift OLED PG27UCWM」の1モデルのみ。意外なことに、LG謹製モデルは1月時点ではまだ不在だ。
現状、LGD・サムスンD共にRGBストライプ構造パネルを“テレビ製品”にも採用する動きは見られない。
モニター製品と比べ、テレビ製品は視距離が長く、実写映像表示能力が十分であれば、対応を急ぐ必要がない。逆に言えば、モニター製品で求められる1ピクセル単位のドット表現の品質について、テレビ製品はそれほど口うるさく言われない、と判断しているのだろう。
それにW+RGB配列を採用するLGDにとっては、明るさが重視されるテレビ製品において、輝度性能のブーストに貢献する白(W)サブピクセルは捨てにくい、という理由もありそうだ。
というわけで2026年以降、有機ELモニター製品に関しては、RGBストライプ採用機が徐々に増えてくることだろう。1ピクセル単位の表現の品質にこだわりたいユーザーは、当該モデルを要チェックだ。
“外光反射特性”を改善したサムスンQD-OLEDパネル
サムスンDのQD-OLEDパネルに関しては、サブピクセルの改良以外にも、ちょっとしたホットトピックがある。それは、QD-OLEDパネル特有の“紫シフト”しがちだった外光反射を改善したことだ。
下は、CES 2026会場にあった比較デモを筆者が撮影したもの。右が外光の紫シフトを低減した新パネルを採用するASUS「ROG Swift OLED PG32UCDM Gen3」(PG32UCDM3)である。
これまでのQD-OLEDパネルでは、輝度低下を嫌い、表示面側には光学フィルターの適用を意図的に避けていた。
しかしこれが仇となり、外光(室内情景含む)が入り込んだ場合、青色有機EL層および量子ドット層などで反射・散乱する際に、赤青成分が強まり、画面内の映り込み情景が紫色にシフトすることがあった。
外光の入射角度によっては画面全体に散乱伝搬して画面全体が紫を帯びるなど、QD-OLEDパネルの弱点の1つとして指摘されていた。
2026年版の新しいQD-OLEDパネルでは、表示面はハーフグレアで、クリアな見映えの表示にもかかわらず、周囲情景が映り込みにくい新光学フィルムの適用が製品メーカー側で選択できるようになったと思われる。
なお、この特殊光学フィルムの動作原理は、今まで広く使われてきた他の外光の反射低減技術と変わらない。
入射してきた外光の一部はフィルム表面で反射するが、残りの光はフィルム内部へ進入してフィルム内部底面で反射し、再び表面から出てくる。このとき、フィルムの厚みや素材を調整することで、後から出てきた光の「波の位相(山と谷)」を、最初の表面反射光と逆転させて出射させるのがポイントとなる。
これにより、二つの反射光は波の山と谷が重なって相互に打ち消し合い、反射光として目に届く光が消えてしまう(≒低減される)。
紫シフトを低減する光学フィルムの設計では、層の厚みと屈折率を調整。さらに低減効果が最大となるよう、多層構造化を行なっている。
というわけで、2026年のQD-OLEDゲーミングモニターでは、この紫色の黒浮き排除に対応した低反射技術の採用が進むものと思われる。
前述のASUS「PG32UCDM3」に適用されたフィルムは「BlackShield Film」という名称だったが、MSIでは、この機能性フィルムを「DarkArmor Film」、GIGABYTEでは「ObsidianShield Film」と呼称している。
名称は異なるものの、目的は紫シフト低減とそれに伴う黒の締まり強化であり、効果はどれも同じだ。
QD-OLEDパネルの製品を“暗室気味の環境”で活用しているユーザーには無関係だが、明るめの部屋で使用する予定で、QD-OLEDパネル採用機の購入を検討している人は、チェックしておくといいだろう。
ハイセンスの4原色(1)黄色追加のマイクロLEDディスプレイ
CES 2026で発表されたハイセンスの4原色パネル技術は、映像パネル界隈では大きな話題になった。
4原色パネル……!? それってまさか!?
「そうじゃあ……。そのむかし、三重の亀山というところで、目の付け所がシャープ過ぎたとある日本の家電メーカーが、2010年前後だったかのう。QUATTRON(クアトロン)という名の4原色パネルを世に送り出したんじゃが……」
なんてナレーションの回想シーンが始まった読者もいそうだが、まあ率直に言って、アレ系の話が令和の世に再爆誕なのであった。
ちなみに。
そのむかし、短期間ではあったが「AQUOS QUATTRON Watch」なる特別企画ページが設立されていたこともある。そのメイン執筆者は……。
ぜひ、当該ページを開いて確認して見てほしい(笑)
ただ、ハイセンスの提唱する4原色パネルで興味深いのは、異なる角度から“2種類”の提案が行なわれたことだ。
まずはマイクロLEDディスプレイ用の4原色パネル技術から見ていこう。
CES 2026では、伝説のQUATTRONと同じ“黄色(Y)”のサブピクセルを追加した、RGB+Yの4原色サブピクセル構造を採用したマイクロLEDディスプレイパネルの実機デモが公開された。
実際の表示映像を見た筆者の印象は、「発色は良好で、純色は鮮やかで輝度も明るい」。という、マイクロLEDディスプレイを見たときの定型句の感想となった。
というのも、RGBの純色LEDサブピクセルの時点で圧倒的に美しいため、黄色のサブピクセルの恩恵がパッと見ただけでは効果が分かり難いのだ。
デモ映像では、逆光気味で雪山を照らす夕日のシーンなどを流していたので、その時のオレンジ色の空模様は色深度が深かった、とは思う。
担当者に尋ねたところ、すぐさまグローバル展開する予定はないそうだが、表示デモの近くには「163MX」という型番を表すプレートが掲げられていた。
ハイセンスは、中国と一部の海外市場向けに、136型の4KマイクロLEDテレビを約1,500万円前後(日本円換算)で発売した実績を持つ。もしかしたら、この163MXも富裕層向けに提供する計画はあるのかもしれない。
また、担当者に“Y”を追加した理由を聞いてみたところ、かつて筆者がシャープのQUATTRONを取材したときのことを思い出せる内容であった。
気になるその理由は「暖色系の色域を広げるため」。
具体的には、オレンジ色方面では夕焼け、黄色方面ではヒマワリ畑のような自然情景、琥珀や真鍮、黄金などの特定材質の輝き、そして特に人間の肌(スキントーン)の再現のリアリティを上げるため、と説明してくれた。
加えて「BT.2020色空間カバー率を業界最高値にまで上げる」という目標もあったとか。
QUATTRONが現役だった時代には、BT.2020色空間はまだ存在していない。ただ、細かい事情は異なるものの、シャープが黄色サブピクセルを導入した理由もほぼ同じだった。
当時、映像業界が基準としていた色空間は、HDTV標準色空間として採用されていたBT.709色空間。しかし、BT.709はおよそ5万点に及ぶ、自然界で取得された各材質色をプロットしたJIS規格のSOCS(Standard Object Colour Spectra)物体色データベースを全くカバーできていなかった。
このためシャープは、黄とシアンを加えたRGB+YCサブピクセル構造の5原色パネルを、QUATTRONよりも前に試作。最終的に5原色とならなかったのは、製造コストの問題。そしてシアンではなく、黄が採用されたのは、当時の判断として「人肌の色の再現力を向上させたい」という思いが強かったためだ。
で、時代が進んだ2026年の現在。
4K/HDR映像時代における標準色空間のBT.2020では、SOCS物体色の99%をカバーできるようになった。
下は、RGBミニLEDバックライト搭載レグザ「116ZX1R」の実機測定値から作成した色度図だが、前出のBT.709色空間の図からはみ出ていた黄色方向の物体色はかなりカバーできていることが見て取れるはず。
おそらく、RGBのマイクロLEDチップそのものがサブピクセルとなる、真のマイクロLEDディスプレイパネルならば、レグザ「116ZX1R」と同等か、それ以上のカバー率となるはずだ。
もしかしたら、こんな疑問を抱く読者もいるかもしれない。
「最新のマイクロLEDチップなら、赤緑の混色でも相当広範囲の黄色は作れるはず。果たして黄色のサブピクセルは必要なのか?」と。
確かにその意見は一理ある。しかし、ハイセンスが4原色を採用した背景には、別の理由があると筆者は見ている。
もちろん、ハイセンスとしては、シンプルに「黄色領域の色ダイナミックレンジを上げて、最高峰のスペックを実現したい」という願望があって採用したとは思う。
実際、黄色方向の最外周色域(色度図でいうところの右上、波長580nm付近)は、純色の赤と緑の2頂点を結んでできるカバー境界線から微妙に外れる。
波長570~590nmあたりの、純色の黄色マイクロLEDがあれば、3頂点で混色ができるようになるため、BT.2020色空間の黄/橙領域の最外周までをもカバーできるようになるはずだ。
で、この黄色マイクロLEDチップはごくありふれたものなのか? というと、そうでもない。誕生したのは2024年で、量産が始まったのは、ごく最近のことなのだ。
実は黄色LED自体は1970年代から存在はしたが、マイクロメートル級の小さな黄色LEDチップで、ディスプレイ用途に耐えうる高効率なものは長らく存在しなかった。
話が長くなるのでグッと短縮するが、青や緑のLEDチップは、主にインジウムガリウム窒化物(InGaN)系、対する赤や黄のLEDチップはアルミニウムガリウムインジウムリン(AlGaInP)といった化合物半導体で作られるのが一般的となっている。
そしてマイクロメートル級の微細マイクロLEDチップの場合、AlGaInPで作ると発光効率が悪く、寿命も短いため、マイクロLEDディスプレイとして採用しにくい。
つまり、青や緑のマイクロLEDチップをInGaNで作ることは比較的容易な一方、波長の長い光……黄や赤で光るマイクロLEDチップを作るのは困難とされてきた。
波長を長くするにはインジウムの含有率を上げる必要があるが、インジウムの含有率を上げれば上げるほど、その結晶の安定性が悪くなる。
業界では、波長500~600nm領域(緑から黄にかけて)のマイクロLEDチップをInGaNベースで開発することの難度が高いことを「グリーン・イエローギャップ」と呼ぶくらいなのだ。
マイクロLED業界の願いとしては“オールInGaN”で微細チップを作りたいが、前述の課題から、赤色のマイクロLEDチップは旧態依然のAlGaInPで作られている。性能維持や延命のための対策と工夫をして、だ。
このような背景を頭に入れたうえで、ハイセンスの4原色を振り返ると、製造における何かしらの技術革新があり、InGaNベースでの黄色マイクロLEDの量産化を果たしたことが見えてくる。。
この技術革新の内容については、大画面☆マニア1回分のネタにもなりそうなので、本稿ではあえて省略する。いつか、マイクロLEDディスプレイ特集でもやる機会があれば、その時にでも解説したい。
では、この黄色のマイクロLEDを開発したのはどこか? というと、それは中国第3位のLEDチップメーカーの乾照光電(Changelight)社だ。実はここ、2023年にハイセンスに買収されて、子会社となったばかりなのだ。
そりゃあ、子会社の作った大発明なので、親会社としては使いたくもなるというもの。
ハイセンスがマイクロLEDディスプレイに黄色のサブピクセルの導入した理由には、こうした事情も関係していると、筆者は考える。
ちなみに。
筆者の取材によると、民生向けのマイクロLEDディスプレイが誕生するのは、赤緑青のマイクロLEDチップがオールInGaNベースで製造できるようになったとき、と考えている業界関係者は多い。
黄色のマイクロLEDをInGaNベースで実用化したChangelightは、当然、赤色のマイクロLEDのInGaN化にも取り組んでいる。彼らにとって黄色は通過点なのだろう。
なお、現在もマイクロLEDは赤チップだけAlGaInPベースなので、InGaNベースの青や緑チップとはウエハーが別。
このため、ディスプレイパネルとして形成させるとき、数千万個のマイクロLEDチップをウエハーからベース基板へパッチワークするマルチトランスファという超ハイコストかつ時間の掛かる工程が必要となる。100インチ前半で、未だに価格が数千万円レベルなのはこの工程の難度が原因である。
もしもチップがオールInGaNになると、同一ウエハーで赤・緑・青の全てのサブピクセルのマイクロLEDチップが製造できるようになる。大画面のベース基板に対し、RGBマイクロLEDチップを一括実装することも可能になるかもしれない。
逆にオールInGaNが実現するまで、マイクロLEDディスプレイは業務用か富裕層向けのディスプレイパネルとなり続けることだろう。
ハイセンスの4原色(2)シアン追加のミニLEDバックライト
前述の通り、ハイセンスはマイクロLEDディスプレイに黄(Y)を加えたRGB+Yの4原色サブピクセル構造を採用したわけだが、もうひとつ、LEDに関連した新技術を発表した。
それが、ミニLEDバックライトにシアン(C:水色)を加えた、RGB+Cの4原色ミニLEDバックライトシステム「RGBミニLED evo」だ。
この採用意図について、前述のハイセンス担当者に質問をぶつけてみたところ、以下のような返答が帰ってきた。
「競合他社は、2026年にやっとRGBミニLEDバックライトを導入する速度感だが、我々にとって、RGBミニLEDバックライトの採用元年は2025年だ。そこで、競合他社との差別化も狙い、我々は今年、第2世代のRGBミニLEDバックライト技術の投入に踏み切った。それが、シアン(C)を追加した“RGBミニLED evo”だ」
差別化を図るために、シアン(C)を追加した。一定のなるほど感はあるが「ちょっと進化ペースが早すぎやしないか?」と思った人も少なくないだろう。
このハイペースの原動力となっているのは、ハイセンス傘下にあるChangelightの存在。前段の4原色サブピクセル構造の一件と同じで、LED開発元のChangelightが作ってしまったからだ。
韓国の「サムスン vs LG」が技術を発展させたように、中国においてもライバル企業との熾烈な闘いが繰り広げられており、技術の進化が早いのだ。
第2世代RGBミニLEDバックライト技術として、ハイセンスが「RGBミニLED evo」の投入を他社よりも早く実現できたことまでは納得できたが、ではなぜその追加の一色が「シアン」(C)なのか。なぜ黄(Y)ではないのか。
この疑問に対する、ハイセンス担当者の回答は「2つある」と教えてくれた。順番に解説していこう。
1つめは「BT.2020色空間カバー率を110%にまで拡大できる」というもの。
前出のRGBYサブピクセルの話題のところで示した、BT.709色空間とSOCS物体色分布の色度図を今一度見てみると、色度図でいうところの左側……つまり、水色領域に赤緑青の3原色(≒3頂点)でカバーできない色が多くあることが分かる。
今回のRGBミニLED evo技術で新設されたシアン色ミニLEDの光の波長は、ハイセンス側のプレゼンテーション図版を深読みすると、480nm前後ではないかと推察される。
実はこれ、一般的なシアン色として定義されている波長の490~520nmと比較すると、ハイセンスのシアン色ミニLEDの光波長は短いのだ。むしろ、純粋なシアン色よりも、一般的な青色ミニLEDの光波長の450~460nmの方に近い。実際、一部のRGBミニLED evo関連資料には「シアン色というよりもスカイブルーに近い」と記されているのはそのためだ。
では、RGBミニLEDバックライトにスカイブルーが追加されることで、どうしてBT.2020色空間のカバー率が上がるのか?
SOCS物体色分布において、カバー率が低めとなりちがちな、色度図左側の水色領域を、シンプルに緑と青の2色(2頂点)ではなく、緑とスカイブルー、青の3頂点で囲ってしまうことができるからだ。
実際の表示映像が受ける直接的な恩恵としては、南国のエメラルドグリーンに輝く海辺、艶やかなターコイズで彩られた工芸品、美術品や宝石の色再現性は劇的に高まることが期待できる。
また、深い青から、水色(シアン色)を経由しての青緑へのグラデーション表現なども、疑似輪郭を起こさず滑らかに表現できるほどの色ダイナミックレンジも獲得できることだろう。
ところで、この「スカイブルー」というのは、イメージ的には「濃く深い水色」という感じの色だ。となると、ここでまた新たに「シアン色じゃなくてスカイブルーにしたのはなぜ?」という新たな疑問が湧く。
実はこれに対する回答こそ、「シアン色の採用、ふたつめの理由」が絡んでくる。
RGBミニLED evoにおけるシアン色を追加したふたつ目の理由は、「有害だと主張されるブルーライト(400~450nmあたり)を低減したときの表示映像の彩度落ちを劇的に改善できる」というものなのだ。
緑と青の2色(2頂点)の混色で、青色から水色領域の発色をカバーしている従来のRGBミニLEDバックライトでは、ブルーライト低減を行なった時には、青色ミニLEDの出力が弱まるため、この領域の彩度が徹底的に欠落してしまう。
これに対し、RGBミニLED evoでは、ブルーライトカットモードにおいては、青色から水色領域の発色を、緑とスカイブルーの2頂点の混色でカバーするようになるので、純色の青色の色深度は激減してしまうが、その領域の発色の再現度はかなり維持されるようになる。
また、人間の目の網膜にある視細胞のうち、主に色を感じる視細胞の円錐体の中の青センサーに相当するS錐体は、波長480nm前後のスカイブルーの光に対しても十分に「鮮やかな青」として感応できる。このため、ブルーライトカットモードにおいても“青の存在”の知覚がある程度は維持される効果もあるという。
映像美を楽しむよりも、長時間プレイを優先したいコアゲーマーに対しても、画質を完全にあきらめることなく高画質表示ができるというのは素晴らしい取り組みだと言える。
また、ブルーライトを嫌うユーザーはオフィスワーカー系PCユーザーにも多いので、RGBミニLED evo技術は、テレビのみならず、PCモニター向け技術としても応用が進むかもしれない。
ハイセンスは、RGBミニLED evoについて、「WOLEDに対して30%以上も発光エネルギー効率が良い」と主張している。しかしこれは、スカイブルー(シアン)色の追加とはあまり深い関係はない。
RGBミニLEDバックライトは、赤緑青(RGB)の純色光(RGBミニLED evoならCも)を個別に発光できるため「白色光を全画面に光らせてから、カラーファイルターを介して3原色を得るWOLED式よりも無駄がないでしょ」ということを言っているに過ぎない。
同じ理屈で、RGBミニLED evoは、光源が通常のRGBミニLEDよりも、スカイブルー(シアン)1色分多いので、WOLEDや従来のRGBミニLEDよりもピーク輝度性能が高い、という点もアピールしていた。
RGBミニLED evoに関し、あとひとつ補足解説しておきたいものがある。ハイセンスが展示ポップでアピールしていた「RGBミニLED evoによる発色は、134ビット駆動となる」という記述についてだ。
実は、映像技術界隈では「RGB+Cの4原色バックライトなのに、134ビットの“134という値”は4で割り切れないのでおかしい。136ビットの間違いではないか」という議論があった。
これについて、筆者の推測考察を述べると、「おそらく134ビットで合っている」ということになる。
理屈はこうだ。
RGBミニLED evoは、RGB+Cの4原色バックライトだが、液晶パネル自体は、RGBサブピクセル構造のままだ。ここがポイントだ。
液晶パネルは10ビット駆動(FRC込み)なので、駆動ビット数は「10ビット×RGB」で総計30ビットだ。
そしてミニLEDバックライトは、総計26ビット駆動の「10ビットPAM駆動」に「16ビットPWM駆動」を組み合わせたものである可能性がきわめて高い。
そういえる根拠は、ハイセンスのRGBミニLEDバックライトシステムをベースにしたレグザ「116ZX1R」が、26ビット駆動であることを公言しているからだ。
つまり、RGB+Cの4原色ミニLEDでは、「ミニLED 26ビット駆動×4原色=104ビット駆動」となり、前述の「液晶パネル側の30ビット駆動」と合算して、トータル134ビット駆動になる、という算段だ。
次世代QD(1)量子ドットを直接発光させるEL-QDディスプレイ
2026年は、ハイエンド級の大画面液晶テレビ製品を中心にして、RGBミニLED技術の採用が進むとみられる。
ハイセンスのように、4原色ミニLEDバックライトの採用に乗り出すメーカーも出てきたわけで、そうなると「量子ドットは終わりなのか?」という疑問も出てくることだろう。
答えは「ノー」だ。
映像パネル業界では、量子ドットをふたつの方向性で、今後も活用しようとする動きが見えてきている。
まずひとつは、量子ドットに直接電界を与え、量子ドットそのものを直接発光させる「電界発光量子ドット(EL-QD)ディスプレイ」だ。
発光原理は有機ELとほとんど同じだが、量子ドットは無機物系の半導体ナノ結晶であるため、有機物ベースの有機ELのような焼き付きを起こしにくい。開発進捗度は、実験室での試作レベルといったところだが、マイクロLEDディスプレイの民生化よりも早いとみられている。
その理由はふたつ。
ひとつは小型化が難しく、1枚パネルでの製造がハイコストなマイクロLEDディスプレイとは違い、EL-QDは、中小サイズから実用化が始まるとみられるため。
ふたつめは製造面。ベース基板となるバックプレーン工程は有機ELパネルの製造工場がほぼそのまま利用できる。
画素形成を行なうフロントプレーン工程は、そのままとはいかないまでも、画素の発光層を形成するための量子ドットの塗布プロセスはインクジェットプリンタを活用することになる。QD-OLEDパネルのフロントプレーン工程との共通性は多い。
基板の上に「バンク」と呼ばれる微細な仕切りをあらかじめ形成し、そこにプリントヘッドから、赤・緑・青の量子ドットインクを直接、指定のマス目の中に落としていく工程となるので、メタルマスクが不要。つまり、大画面の製造難度も、QD-OLEDパネル程度だと思われる。
EL-QDパネルの研究開発には、韓国勢としてはサムスンディスプレイ、中国のTCL、BOEが力を入れているほか、日本企業のシャープ(鴻海傘下)、昭栄化学工業(Shoei Chemical)も実用化に名乗りを上げている。特に昭栄化学工業は、量子ドット技術の世界的パイオニアであった米国のNanosysを2023年に買収しており、勢いがある。
ざっくりとした肌感だが、2030年頃までには、試作パネルなどが出てくるかもしれない。
次世代QD(2)変換精度が向上した「スーパー量子ドット」
EL-QDディスプレイよりも、もう少し現実味のある、発展形の量子ドットの活用技術としては、TCLが2026年から実用化に乗りだす「スーパー量子ドット」技術がある。
CES 2026の会場では、TCLブースにて、この「スーパー量子ドット」技術のデモが行なわれていた。TCLでは、今後この技術を「SQD(Super Quantum Dot)」としてブランディングしていくようだ。
SQD技術に用いられる新素材の量子ドットは、粒径が従来の約60nm級だったのに対し、約5nm級にまで微細化されている。
入射してきた光の波長を特定色に変換する量子ドットの機能はそのままだが、この微細化により、その変換精度が格段に鮮鋭化したという。つまり、変換された色の純度が高くなり、スペクトラム幅は細くなり、スペクトラムの分離精度も劇的に改善されるというのだ。
その恩恵もあって、BT.2020色空間カバー率が従来の量子ドット技術では80~90%だったのに対し、SQDでは100%に到達するという。
さて、下がSQDにおける実体光源として用いられるミニLEDだ。
実体光源は、肉眼でも写真で撮影しても紫色だった。ブースに説明担当がいなかったため、「なぜ紫色なのか?」については、明解な回答は得られていない。
もしかすると、スーパー量子ドット(SQD)技術では、実体光源の波長を、あえて405~415nmの紫色(青紫色)として運用するアイディアがあるのかもしれない。
もし、本当にこの紫色が正式採用されているのだとすれば、その採択理由は、波長が短い(≒周波数が高い)光の方が、エネルギー量が大きく、量子ドットでの発光効率が良いからだろう。波長が短い光の方が、量子ドットにぶつけたときに、目的の色を高効率に明るくで光らせることができるためだ。
ちなみに、従来の量子ドット技術では、実体光源としての青色ミニLEDの青色光をそのまま表示に用いていたわけだが、もし、この紫色光源採用説が正しいとすれば、SQDでの青色光の取り出しには、従来の量子ドット技術では不要だった「青色のスーパー量子ドット」が必要になる。これは興味深い。
まだ分からないことが多いSQD技術だが、実用化第1号のテレビ製品として「X11L」シリーズが投入される。北米地区で発売が開始されたばかりで、価格は98インチモデルが約1万ドル、75インチモデルが7千ドル、85インチモデルが8千ドルとなっている。
果たして日本投入はあるのか? 楽しみに待ちたい。








































