シャープ奥田社長、「鴻海による買収、追加出資ない」

~26日に株主総会を開催、業績悪化で謝罪も


会場は大阪・中之島のグランキューブ大阪

 シャープは、2012年6月26日午前10時から、大阪・中之島のグランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)で、第118期定時株主総会を開催した。

 議長を務めた片山幹雄取締役会長による開会宣言のあと、「まず、お詫びしなくてはならないことがある」とし、出席役員全員が起立。片山社長は、「3,760億円の赤字という大変厳しい業績となり、株価を含め、株主の期待に応えることができず、誠に申し訳ない。役員一同、業績の回復に向けて努力を傾注していく。一層の支援をお願いしたい」と株主に謝罪した。

 報告事項として2011年度の業績に関してビデオを放映。国内液晶テレビ市場における需要の急減、大型液晶パネルの需給悪化、太陽電池の大幅な価格下落などの影響で、最終損失では過去最大となる3,760億円の赤字になったことなどを示した。


片山幹雄会長(モニター画像を撮影)総会はグランキューブ大阪で開催

奥田隆司社長(モニター画像を撮影)

 続いて、対処すべき課題については、4月1日から社長に就任した奥田隆司氏が説明した。

 ここでは、「シャープの目指す方向」、「経営体質の改善」の2つの観点から説明。鴻海(ホンハイ)グループとの戦略的グローバル・パートナーシップの構築に向け、鴻海グループへの第三者割当増資に加え、大型液晶の基幹工場であるシャープディスプレイプロダクト(SDP)の株式の一部譲渡に合意したこと、凸版印刷および大日本印刷の堺工場における液晶カラーフィルター事業をSDPへの統合に合意したことについて説明。これらにより、液晶カラーフィルター事業の一体運営による生産プロセスの高効率化とバリューチェーン全体を通した付加価値の取り組みを行なうことで、堺工場の操業安定とコスト競争力強化を実現できることなどを強調した。

 「赤字の大半は、大型液晶事業に起因するものであったが、これを新SDPに移管し、経営の安定化を図る」とした。

経営体質の改善

 また、亀山工場のライン転換を推し進める一方、IGZO液晶の用途拡大と応用商品の創出、プラズマクラスターイオン搭載製品の拡充とグローバル展開を強化することなどを示した。

 「シャープの目指す方向」では、「自前主義からの脱却」、「真のグローバル企業への成長」、「サービスを含めた業態へ」、「新たな需要の創造(新オンリーワン戦略)」の4つの観点から言及。「エレクトロニクス業界においては、デジタル化、グローバル化といった大きな構造変革が起こっているが、シャープは、これにスピード感をもって十分に対応できなかった反省がある。開発、生産、販売、サービスまでをすべて自前でやる垂直統合の本来の強みが発揮できなかったことが業績悪化の要因である。いまや、液晶テレビや携帯電話のデジタル家電製品は、生産規模の大小で勝負が決まる世界になっており、多少の技術優位性は意味を持たなくなっている。自前主義からの脱却に向けて、そこで、鴻海グループと戦略的業務提携をした。鴻海グループは、約9兆円の売上高を誇り、EMSとして年間100億台のデジタル機器を生産している。シャープは、すべてを垂直統合で手がけるのではなく、強いパートナーを活用しながら、新たに世界で勝てる仕組みをつくることが必要である。シャープのブランド、商品企画力、開発力を生かすために、鴻海の生産技術力、調達力、コスト競争力を活用。さらに、デジタル家電分野での提携範囲を広げるために、鴻海グループから約10%の資本出資を受け入れた」とした。

自前主義からの脱却「真のグローバル企業への成長サービスを含めた業態へ
新たな需要の創造(新オンリーワン戦略)

 またその一方で、「シャープは、新たなビジネスモデルの構築に取り組むが、独自技術によって、新たな需要創造を目指すこれまでの姿勢は変わらない。『創意』を目指す経営にも変化がない。また、鴻海グループから、これ以上の出資や、役員を受け入れるつもりはない」などとした。

 そして、「シャープは、今年、創業100周年を迎えた。ユーザーの目線の製品を他社に先駆けて市場に投入するのがシャープのDNAである。これを徹底的に強化していく。シャープはデジタル製品分野で逃げない。この分野において、グローバルで戦える世界企業を目指す。一歩ずつ成果を出し、信頼と業績を回復し、株主をはじめすべてのステークホルダーの期待に応えたい。今年は『シャープ復活の年』にするという覚悟をもって、役員が一丸となって業務遂行に当たる」と力強い言葉で説明を締めくくった。

 株主総会では、午前10時50分頃から株主の質問を受け付けた。

 鴻海がシャープを買収するという一部報道があったことについては、奥田社長が回答。「私も片山も、鴻海の郭台銘(テリー・ゴー)董事長とは、何度も会っている。トップ同士の打ち合わせ、実務同士の打ち合わせがうまくいくことによって提携はうまくいく。この協業では、共存共栄、共生、相互繁栄が目標。協業をやる以上は、1+1が3や、5になることを目指したい。報道のような事実はない」と完全否定した。

 SDPの社名変更などについては、「鴻海との間では、様々な件で協議をしている。SDPの社名変更についても協議もしており、社名をどういう形にするかは取締役会で決定する。SDPの役員人事についても、最終的にお互いの取締役会で協議するが、SDPの社長については、シャープ側からの出向になる」。

 また、米VISIOからの出資の話があったとされる件については、「もともとSDPへの出資を考えたときに、出口を持っている企業。つまり、当社の顧客(パネル供給先)からの出資が望ましいと考えたこともあるが、それはやめた。結果として、鴻海に決めた」と、一部事実があったことを認めた。

 鴻海への技術流出が懸念される件については、「法務部門、管理部門を強化すべきというのは指摘の通りである。SDPがシャープ本体から切り離されたあとも、法務や特許管理などに関する社員を出向させ、シャープ本体の関連部門と、ピッチャーとキャッチャーのような関係を構築する。鴻海との協業はぜひ成功させたい。協業を成功させるためにはトップマネジメント、事業を推進する人の理解が必要であり、相乗効果がでるような協業を進めたい」と語った。

 また、「中国人とのビジネス。庇を貸して、母屋を取られるということにもなりかねないのではないか」という株主の厳しい口調での指摘もあったが、奥田社長は、「鴻海と協業をやる以上はグリッドを強めて仕事をしていきたい。台湾企業と協業する以上は、我々がリーダーシップを取り、管理するところは管理するということを実行していきたい」と語った。

 鴻海の従業員の労働問題や自殺などの事件が起こっており、これがシャープのブランドに影響しないのか、という質問に対しては、藤本俊彦取締役常務執行役員が回答。

 「確認を行なっているが、これらの一部は事実であると認識している。鴻海ではその都度、改善し、引き続き適切な労働環境の改善に取り組むと聞いている。鴻海には多くの有力企業が顧客としている。これらの大手企業が、鴻海に対して、厳しいコンプライアンス、法令遵守、ガバナンスに目を光らせている。当社もそのうちの1社。そのため、これからも継続してこうした問題が続くとは認識していない。改善は進むと認識している。当社への悪影響はない」とした。
 
 テレビ事業に対する過剰投資に関する質問については奥田社長が回答。「堺工場への投資を決定したのは2007年。当時、液晶テレビの需要予測について、あらゆるデータを参考にし、また、液晶は自ら需要を作っていくものであるという考えから投資を決めた。しかし、リーマンショックや超円高により、液晶の価格が下落。国内、中国の需要減も加わって、工場の稼働減へとつながった。2008年1月から比較すると、ドルに対する円は4割上昇し、ウォンは2割下がっている。韓国とは60~70%もの差がつき、これを技術で解消したようとしたが、あまりにも速くて追いつかなかった。グローバル競争を勝ち抜くためには、企業のグローバル化と、工場操業の安定化が大切である。鴻海にはいい顧客がいる。この顧客からの受注を、堺工場の60型以上のパネルの需要拡大につないでもらい、堺工場の操業率をあげる。毎年、クリスマス商戦の仕込みは7~9月に行なう。現在、この仕込みをがんばっている。新たな協業によって、もっと競争力を持った工場に変えていきたい。大型液晶の需要はまだ拡大する。テレビ以外の用途でも拡大が図れると考えている」とした。

 経営体質の改善に関する質問については、奥田社長が回答。「2011年度は大変な赤字を出してしまい申し訳ない。2011年度は、3度に渡る業績の下方修正と、最終赤字によって、信頼を失った。経営者として申し訳ない。この反省に基づいて、経営体制を刷新した。大きな経営課題は財務体質の改善。企業価値を高めるためにいかに収益をあげるか、儲かる商品を作るかが鍵。不退転の覚悟で、業績と信頼の回復に取り組む決意をここで表明する」と語った。また、高橋興三取締役副社長執行役員は、「グローバル化の遅れが大きい。日本国内は大切であるが、それとともにシャープは海外マーケットをクリエイトできる会社にし、韓国のサムスンと互して戦っていかないと、明るい未来はない。地域本部に権限を委譲する体制とした。これによってグローバルで戦える会社にしたい」と語った。

 奥田社長は、「人材についても、自前力だけでなく、他社の血を入れることを考えていく。国籍を問わず、優秀な人材を積極的に投入していく考えである」と語った。

 また、高橋副社長は、「北米、欧州、中国の3拠点では、研究開発、技術開発、マーケティング、商品企画、営業、生産までの一貫した体制が整っている。今後は、アジアでも同様の体制を構築する。中国の販売会社のトップには、中国語がしゃべれる社員を派遣しているが、欧州のトップは現地の人材を登用しており、米国においても各分社のトップに日本人は1人もいない。マーケットをよく知った現地の人を据えていく動きへと舵を切りたい」などとした。

 業績が悪化するなかでの取締役の増員については、片山会長が回答。「厳しい経営状況のなかで、緊急事態を乗り越えるためには、こうした体制が必要。これまで営業担当役員は、海外と国内を一緒にみていたが、緊急事態を乗り切るには、国内営業担当取締役、海外営業担当取締役、さらには中国担当営業担当取締役というように、グローバル展開を進めるため、地域にすべて取締役体制できちんと網羅できる体制にしないと売り上げの確保ができない、あるいは商品開発ができないと考えている。その点を理解していただきたい」とした。

 一方、携帯電話事業の遅れに対して、大畠昌巳執行役員が回答。「これまで国内の携帯電話事業は、シェアナンバーワンを堅持していたが、2011年度はシェアが3位となった。急速に進んだスマートフォン化と、従来型の携帯電話の低価格化への取り組みが遅れた。シャープは、2010年度からスマートフォンには取り組んできたが、昨年から韓国勢やアップルの進出が急速に進み、それに遅れたことは反省している。シャープの強みである商品企画力、マーケティング力、そしてIGZOでの省エネ技術などの活用により、事業を強化していきたい。また、海外においては、鴻海との協業によって生産力、コスト力を活用することで、今後、中国市場で事業を強化していくことから開始し、そののちに、米国をはじめとする海外に打って出る」とした。

 製品については株主から次のような質問も出た。

2009年発売の「ネットウォーカー(NetWalker)」

 「ネットウォーカーをはじめとして、これまで登場した革新的とする製品が何度も製造中止になっている。そのため、シャープの製品はサポートが続くかどうか心配であり、新たなデバイスを手に取る気にはならない。これが負の遺産になっている」

 この指摘に対しては、水嶋取締役副社長が回答。「同感である。真摯に反省しなくてはならない問題。しかし、立ち止まるわけにはいかない。積極果敢に取り組んでいく。シャープ全体のサービス体制の確立に対して、専門組織を作り、サービスを一元化して取り組むことも体制であり、その点では、今後改善していきたい」とした。これに対して、株主は、「製造中止になった製品の技術が、次の製品にどう生かされているかを発信してもらえば、自分が購入した製品が製造中止になっても無駄になっていないのだ、というボジティブな気持ちになれる」と指摘。片山会長が「指摘の部分は反映したい」とした。

 また、奥田社長は、シャープのモノづくりについて、「今後は、いかにユーザーと接点を持つかが重要なキーとなる。修理、サービスの人がサービスを通じて、いかに顧客とつながるかが重要である。また、新たな家電商品を作り上げるような取り組みにも着手しており、多くのオンリーワン技術をいかに生かすか、新たなオンリーワン商品をいかにつくるか、新たな緊急プロ制度の見直しにも取り組んでいる。これから新たな商品をつくるためには、事業部門の垣根を落として、事業本部が融合する仕組みで商品が生まれることが大切。また、サービス、システムとなると、さらに垣根を減らして、すべての事業本部が、商品につながる仕組みが必要になる」などとした。

 さらに、「シャープのリモコンは難しい。シャープはどっちを向いて商品を開発しているのか」という指摘については、「シャープは、お客様の立場で、製品開発、営業、サービスのすべてに取り組んでいる。顧客の満足を高めるために、迅速、確実にサービスを行なっていく」と水嶋副社長が回答。さらに片山会長が、「お客様からの声は、直接社長に届くような仕組みにした。ときには、本部長を超えて社長に届くようにしている」と語った。

 今後のシャープのコア事業はなにかという質問については、水嶋繁光取締役副社長執行役員が回答。「エネルギーソリューション事業が今年は大きく伸びると考えている。これをソリューションとしてコア技術にしたい。健康・環境事業でも、健康、安全、安心の意識の高まりが成長につながると考えている。今後、高い成長率を目指す。新規分野では、教育関連事業が世界中で大きく成長する。ここは当社の多くの技術が活用できる分野と認識している。また、医療分野は世界中が注目している市場であり、新興国では医療インフラ整備、先進国では健康保険制度の破綻といった課題がある。シャープは、1960年代から医療分野へ取り組んでおり、これを発展させる形で世界の医療の発展に寄与したい」とした。

 なお、第1号議案の剰余金処分の件、第2号議案の取締役12名選任の件、第3号議案の監査役2名選任の件はいずれも可決され、12時18分に閉会した。


(2012年 6月 27日)

[ Reported by 大河原 克行]