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【試聴室探訪】青山にそびえる“Uni-Q”の聖地、KEF Music Gallery Tokyo行ってみた
2026年5月19日 08:00
私たちが日々触れているスピーカーやアンプの音は、一体どのような環境で磨き上げられ、最終的にどのような空間で鳴らされることを理想としているのだろうか?
この「オーディオブランド試聴室探訪記」では、オーディオブランド各社が擁する「音の空間=試聴室」を徹底取材。一般ユーザーも体験できるショールームから、通常は立ち入ることのできない製品開発の最前線であるラボまで、ブランドの音の哲学が宿る空間を巡り、その背後にあるメーカー各社のサウンド思想を浮き彫りにしていきたい。
記念すべき第1回は、2023年12月に東京・青山にオープンしたKEFのフラッグシップ・ショールーム「KEF Music Gallery Tokyo」を訪れた。住所は東京都港区南青山5丁目5番6号。
建築と音が共鳴する「音とアートの融合」
英国の公共放送BBCで電気技師をしていたレイモンド・クック氏が1961年に創業したKEFは、「伝統と革新」という言葉で表されることが多いスピーカーブランドだ。コンシューマーオーディオの世界では、1988年に開発された同軸ドライバー「Uni-Q」で大きなインパクトを与えた。以来、このUni-Qは世代を重ねて最新テクノロジーへ進化を続けながら、KEFの代表的スピーカーに採用され、ブランドを象徴するアイコンとなっている。
そんなKEFが運営する「KEF Music Gallery Tokyo」は、一般ユーザーも入れるオープンな体験ギャラリー。カジュアルなワイヤレススピーカーから超弩級スピーカー「MUON」まで、幅広いKEF製品を試聴できるプレミアムな場として設計された。建物の外側には、“巨大なUni-Q”のオブジェが掲げられている。
そして内部の空間は、いわゆるオーソドックスなオーディオショップとは雰囲気が異なり、洗練された展示スペースとなっているのが特徴。大きなガラスの一面窓から取り入れられた自然光が、Uni-Qドライバーを搭載するスピーカー群を明るく照らしている。
この空間デザインを手がけたのは、「代官山 T-SITE/蔦屋書店」や「FENDER FLAGSHIP TOKYO」で知られる設計事務所、クライン ダイサム アーキテクツ。その共同設立者のひとりであるマーク・ダイサム氏が元々KEFユーザーだったことから、このギャラリー設計を担当することになったそうだ。
店長の星野良太氏は、「建物のコンセプトは音とアートの融合」と語る。
星野氏:「スピーカーをただ並べるのではなく、お客様に空間そのものを楽しんでほしいという思いで設計されました。建物の表に巨大なUni-Qドライバー型のオブジェを配置し、建物全体が縦長のスピーカーキャビネットの形になっているのも、ダイサム氏の『スピーカーみたいな建物にしたら面白いのでは?』という遊び心溢れるアイデアが元になっています」
もちろん、デザイン優先で音が疎かになっては本末転倒だが、BBCスタジオ用モニタースピーカーからスタートした老舗オーディオブランドとしてそこは抜かりない。「LSX II」「LSX II LT」や「Coda W」などのワイヤレススピーカーが並ぶ1〜2階の吹き抜けスペースは、開放的な構造ながら、背面壁には吸音材が仕込まれており、大きなガラス窓には反射を防ぐ自動昇降型のブラインドが完備されている。
普段はスピーカーを陳列するアートスペースが、試聴イベントなどの際にはブラインドを下ろすことで、しっかり音を楽しめるオーディオルームに早変わりするというわけだ。見た目の美しさと音の良さを両立させているのが、このギャラリーの魅力と言える。
ライフスタイル別に設計された、個性の異なる4つの試聴エリア
「KEF Music Gallery Tokyo」には、ユーザーのライフスタイルや目的に応じて、大きく4つの試聴体験スペースが用意されている。以下、順番にご紹介していこう。
まずは、上述した1〜2階の吹き抜けスペース。主に、1階には「LSX II」「LSX II LT」や「Muo」などWi-Fi/Bluetooth接続で楽しめるカジュアルなワイヤレススピーカーが展示されており、パソコンやタブレットと組み合わせた環境で楽しめるようになっている。
一方、2階にはフォノ入力を搭載するワイヤレススピーカー「Coda W」がメインでアピールされており、レコードプレーヤーと組み合わせて今どきのアナログ体験が可能。サラッと現地を訪れて、気軽にワイヤレスサウンドが楽しめるのが魅力だ。
筆者が訪れた際は、1階に展示されているデスクトップスピーカー「LSX II LT」で、EDM楽曲を再生したのだが、低域に押し出しがあって、かなりメリハリのある音が楽しめた。自宅でオーディオのファーストステップとして体験したらかなり「すごい!」となるサウンド。コンパクトだがしっかりステレオイメージがあり、味付けの少ない軸のしっかりした音を体感した。
中2階にあるリビング風の試聴スペース「THE WIRELESS HIGH-FIDELITY LOUNGE」は、ハイエンドサウンドバー「XIO」や、ワイヤレスのトールボーイスピーカー「LS60 Wireless」「LS50 Wireless II」を使ったテレビシアター体験スペースとなっている。
さらに、サブウーファー「KC62」が用意されていて、思いっきり高品位なテレビの音質アップグレード体験ができる。リビング空間を模してテレビとソファを置いた作りになっていることで、自宅の空間をリアルに思い浮かべながら試聴できるのが良い。
普段のデモでは、訪れた顧客の好みに合わせて、テレビで再生するコンテンツを提案しているそうだ。PlayStation 5をプレーヤーにして、実際の家環境に近い状態になるよう工夫しているのもポイント。
今回は「XIO」でDolby Atmosのサウンドチェックディスクを鳴らしてもらったが、やはり超弩級サウンドバーの実力はスゴい。広がりと解像感のあるサウンドに、初見では目の前のバーから音が鳴っているのが信じられない人も多いだろう。「どこから音が鳴っているの?」と驚くこと請け合いだ。
3階のハイエンドシアタールーム「THE EXTREME THEATRE」には、独自の「シングル・アペアレント・ソース・テクノロジー」を採用したトールボーイスピーカー「Blade Two Meta」が常駐。しかもそれだけではなく、実は室内にKEFの壁埋め込みスピーカーがマウントされており、7.2.4chの立体音響を本格体験できるのがここにしかない魅力だ。2chからマルチまで、ハイグレードな再生を楽しめる。
ホームシアター環境には、ヤマハのAVアンプ「CX-A5100」とHEGELのパワーアンプ「C55」を組み合わせ。さらにオーディオ環境として、LUMINのネットワークプレーヤー「T3」、McintoshのSACDプレーヤー「MCD550」、Soulutionのプリメインアンプ「331」を揃えている。
こちらでは、デフォルトで設置されている「Blade Two Meta」で2ch再生を体験。とにかく静寂感が高くメリハリがあり、精細感のあるサウンドだ。先ほどと同じEDM楽曲を聴いてみると、BPMが変わったかと思うくらい、低音に勢いがあって楽曲のスピード感がより出ている。
また、AVアンプを通してYouTube動画をスクリーンに投影しながら映像と合わせた音も体験してみる。AVアンプのアップミックス効果で広がりのあるサウンドが楽しめて、エンタメ感が溢れる。
そして、オーディオファイルにとっての本丸と言えるのが、KEFの超弩級フラッグシップスピーカー「MUON」が鎮座する特別室「THE ULTIMATE EXPERIENCE ROOM」。KEFの理想の音場作りの思想を、デザイナーのロス・ラブグローブが具体化した「MUON」の佇まいとサウンドは、まさにアートと音楽の融合した姿と言えよう。
プレーヤー機材は、TransRotorのターンテーブル「ZET1-M2」、アキュフェーズのSACDプレーヤー「DP-750」、さらにLUMINのネットワークプレーヤー「X1」に、同トランスポート「L2」を用意。アンプ類はBurmesterのプリアンプ「088」と同フォノアンプ「100」に、 Soulutionのモノラルパワーアンプ「701mono」を2台組み合わせる構成だ。
最新のネットワークオーディオから、CD、そしてアナログまで、様々な音源を用いて「MUON」の超弩級サウンドを満喫できる贅沢な空間となっている。まずライブ収録のハイレゾ音源をネットワーク再生で楽しむと、空間の再現性やサウンドステージが広大で、本当にライブ会場にいるような気持ちになる。ギターの弦の艶かしさや分離感も心地よい。
先ほどの「Blade Two Meta」の精細感と比較すると、こちらは音が面でせまってくる感じだ。EDM楽曲ではボーカルのエフェクトがわかりやすく、さらに音圧とスケール感があるので、もっと広い空間で聴いているかのように錯覚するほどだった。
初心者からマニアまで。KEFが提案する「スピーカーのある生活」
さて、普段この「KEF Music Gallery Tokyo」を訪れるのはどんな客層なのか。星野氏に尋ねてみると、今どきの新しい音楽の楽しみ方を享受するユーザーの姿が見えてきた。
星野氏:「昔ながらのオーディオファンだけでなく、20〜40代の比較的若いお客様が訪れることも多いんです。YouTubeの紹介動画を見て興味を持った、という方が多いのが特徴ですね。グループで来店し、アニソンやアイドルソングなど『推し』の音源を最大グレードのサウンドで楽しむ、といった新しい聴き方も増えています」
また「何を買えばいいかわからない」という初心者に対しても、ギャラリー全体で丁寧に寄り添っていくスタンスだ。
星野氏:「これまでヘッドフォン/イヤフォン再生で音楽を楽しんでいた方が、スピーカー再生に興味を持ったとき、『どんな機材が必要かわからない』とつまずくことも多いですよね。そんな方にこそ、KEF Music Gallery Tokyoの出番だと思っています。手持ちの機器が使えるかといった具体的な悩みから、再生ソースに合わせた環境提案まで、スタッフが直接ご案内します」
もちろん、ここを訪れる客層には往年のオーディオファイルも多い。量販店とは異なり、静かな環境かつゆったりした室内で聴けるのは大きな魅力だからだ。そういったマニア層の中で、“サブウーファー需要”が伸びているのも最近の面白い傾向だという。
星野氏:「オーディオファンのお客様から、元々の2ch環境にサブウーファーを足して音をカスタマイズしたいという相談を受けることも多いんです。2chだけではなく、ビジュアル環境も含めて音のアップグレードを狙っている方が増えている印象ですね」
そんなマニア層に対しては、自宅の試聴室環境や組み合わせる機材とのバランスも踏まえながら提案を行なっている。なお、KEF製品を鳴らすアンプやケーブルの選定に「公式の正解」はないと星野氏は言う。
星野氏:「推奨アンプ出力やインピーダンスの数値を基準に、その中間あたりを狙うのが一つの目安となりますが、正解は人それぞれ。特定のブランドに縛られず、ユーザー様の好みでシステムを組み上げていける楽しさも、KEFで作るオーディオの魅力ですから」
青山の地にそびえ立つ“巨大なUni-Q”の中へ
製品展示のギャラリーでありながら、製品体験のオーディオルームとしても機能する「KEF Music Gallery Tokyo」。“アートと音楽の融合”を目指したその空間には、現代のライフスタイルに合わせた多種多少な音楽の楽しみ方があった。
最新のワイヤレススピーカーで推しの声に浸るもよし、ハイエンドスピーカーで音の極致を探るもよし。ぜひあなたも、東京・青山の地にそびえ立つ“巨大なUni-Q”の中に足を踏み入れてみてはいかがだろうか? いつもの音楽スタイルが、新しいステージにアップデートされるはずだ。




























