ニュース

NHK、100日でも劣化しないシート型有機EL「iOLED」

8Kスーパーハイビジョン地上伝送も安定性向上

左が従来のOLED構造、右がiOLEDの構造

 NHKは、薄くて軽いシート型ディスプレイを実現するため、酸素や水分に強い有機ELデバイス「iOLED」を開発。さらに、単一周波数ネットワークを使い、8Kのスーパーハイビジョン映像を地上伝送する実験にも成功した。どちらも、5月30日~6月2日に開催する、「技研公開2013」で展示する。

有機ELデバイス

 NHKと日本触媒が共同で、フィルム基板上でも長期間安定して発光する有機ELデバイス(OLED)の開発に成功した。従来のOLEDは、基板上に陽極、有機層、電子注入層、陰極の順序で積層して成膜していくが、基板材料としてフィルムを使った場合、時間の経過とともに基板側と陰極側の両方向から、大気中の酸素や水分が進入。電子注入層と陰極を劣化させ、寿命を短くしていた。

 そこで、酸素や水分の影響を受けにくい電子注入層の材料を開発。さらに、劣化しにくい陰極用材料を使用。これらの材料を積層して成膜できるよう、陽極と陰極の位置を入れ替えた逆構造とすることで、長期間安定に発光する「iOLED」(逆構造OLED/inverted OLED)を実現した。iOLEDでは基板上に陰極を成膜するため、下地の劣化を考慮しなくて済むという。

 この結果、通常のOLEDは、100日間大気中にさらしておくと発光面積が約半分になってしまうが、iOLEDは同期間でも劣化しないことを確認したという。

スーパーハイビジョンの地上伝送

上の図がSFN送信のイメージ。送信側と受信側の双方で水平偏波用と垂直偏波用のアンテナを使用し、両方の偏波を同時に使用して伝送を行なう「偏波MIMO」技術を使用している。下図のように、2つの電波が弱め合うと、ビットの誤りが生じやすい周波数が発生する
時空間符号化の仕組み

 NHKでは、スーパーハイビジョン(SHV/7,680×4,320ドット)映像の地上放送を実現するため、超多値OFDMと、偏波MIMOを組み合わせた大容量地上伝送技術を研究開発している。昨年の5月には、地上波でのSHV野外伝送実験に世界で初めて成功している。

 今回は新たに、時空間符号化の手法を用いた単一周波数ネットワーク(SFN)による地上伝送実験に成功した。現在の地上デジタル放送では、周波数を有効に利用するために、複数の送信局で同じチャンネルを使用するSFN技術が使われている。しかし、SFN技術では、2つの送信局から同一チャンネルで同じ波形の信号を送信するため、それらの電波を同時に受信すると、互いに弱め合う周波数が生じ、受信品質が劣化するという課題がある。

 そこで、新たに、時空間符号化を用いて送信所ごとに異なる波形の信号を生成し、各送信局から別々に送信。受信側では、異なる信号を受信するため、電波が互いに弱め合うことなく、より安定して受信できるようになったという。

(山崎健太郎)