プレイバック2024

惚れたFIIO K9 AKM購入。ディスプレイは新しい局面へ。オーディオ製品の価格高騰は本当!? by鳥居一豊

そして、筆者の散財は小休止。

昨今の世の中の不景気感を言い訳にするつもりはないが、今年は大きな買い物をほとんどしていない。これまでの散財の余波もあって、欲しいものは多いがそのための資金が足りないという感じだった。というわけで、今年は筆者目線ではなく業界全体を俯瞰しつつ、一年を振り返ってみよう。

本年のほぼ唯一の買い物。FIIO K9 AKM。安価な据え置き型DACだが、一聴して惚れ込み即購入

液晶、有機EL、プロジェクター。3つのディスプレイが競争する時代へ

液晶テレビは、ミニLED+量子ドット技術がさらに進化して、高輝度や広色域に加えて黒の再現性やコントラストでも大幅に進化した。有機ELはLGディスプレイのWRGB方式は昨年からのMLA(マイクロレンズアレイ)技術搭載パネルからの大きな変化はないものの、十分な高輝度表示とこれまでの高コントラストや美しい黒再現をまじえた総合的な映像表現の熟成が進んだ。

そして、サムスン電子のQD OLED。量子ドット技術を組み合わせた有機ELで今年で3年目。1年目のパネルは明るく発色も良かったが暗部階調に難があった。それは2年目でかなり改善され、3年目の今年も順調に改善が進んだ。暗部階調もかなり良くなり、長所である明るさと色再現性に優れた映像になっている。

実際に液晶と有機ELの表示パネルの違いはほとんど変わらないレベルになったと思う。以前ならば両者を並べて見てみれば、有機ELは暗いし、液晶は黒の締まりや暗部が苦しい、と誰でも違いがわかったが、今はそうでもない。量販店の店頭など、一般家庭よりもかなり明るい環境で見ても有機ELが明るさが不足しているとは感じないし、液晶のコントラスト不足や黒の締まりの不足が目に付くようなこともない。

価格を別にすれば、両者の画質的な差はかなり近くなっている。少なくとも輝度やコントラスト、色再現などでは明らかな優劣はほとんどない。価格で選ぶのでなければ、液晶と有機ELのどちらかを選ぶかが難しくなってくるだろう。ただし、絶対的な画質の良いものとなると有機ELが有利になる傾向は変わらないし、有機ELと同じかむしろ優秀とさえ思える液晶テレビもあるが、価格的には有機ELと変わらない価格になっていることが多い。

ソニーはミニLED搭載の「XR90」(BRAVIA 9)を“フラッグシップモデル”と定義。「有機ELを超えるポテンシャルを持つデバイスとして、ミニLEDの更なる立ち上げを目指す」としている。写真は85型「K-85XR90」

そして、大画面化。液晶はついに100インチ級の大画面モデルが現実的な価格で発売されるようになってきたし、有機ELも以前の55型と65型の2本立てから、77型や83型の大画面モデルへとサイズを拡大してきている。こうなってくると、もうプロジェクターの画面サイズと同じだ。100インチ級の大画面ならば唯一と思われていたプロジェクターは、今後直視型テレビを強力なライバルとして迎えることになる。

そんなプロジェクターも、レーザー光源の採用により高輝度化が進んできている。3000ルーメン級の高輝度モデルがかなり増えてきたし、高級プロジェクターだけではなく、JMGOのN1S Ultra 4Kのような実売価格で35万円ほどの比較的手の届く価格のモデルでも3000ルーメンを達成している。しかもRGBレーザー光源ということで色再現範囲も広く、驚異的な実力を持つとも言える。

JMGOのN1S Ultra 4K

高級プロジェクターの雄であるVictorは、超高級モデルであるDLA-V900R、DLA-V800Rに加えて、コンパクト化を果たした新設計のシャーシを採用したDLA-Z7、DLA-Z5を発売し、設置性なども含めてより身近になったモデルを投入してきている。一方でエプソンはもともと強かった身近な価格帯のモデルを充実してきただけでなく、なんと6000ルーメンを達成したEH-QL3000B/Wを投入。直視型ディスプレイに負けない画面の明るさで、明るいリビングなどでも使えるモデルを投入している。プロジェクター側も直視型ディスプレイの大型化に対して着々と準備を進めている。

DLA-Z7

ふだんはプロジェクターを常用している筆者ではあるが、大画面の直視型ディスプレイには脅威を感じていて、プロジェクターがスクリーンなどに投影した反射光を見るのに対して画面が発光するので精細感が高く、実際の輝度やコントラストでも有利な直視型ディスプレイが今後かなり優位になるとは思っている。

だが、現行の製品を見ると100インチオーバーの大画面に適した画作りと考えるとまだ熟成が足りないとも思う。まだまだ“テレビ放送を見るためのテレビが大きくなった”印象で、大画面になるとよりきれいに見えるというよりも粗が目立つと感じることも少なくない。プロジェクターは100インチ級の大画面を主戦場として長い歴史を経ているため、大画面ならではの映像の見せ方が上手いと感じる。

また、大画面で直視型ディスプレイが不利になる要素としては、視野角と動画応答性がある。視野角は液晶が不利ではあるが視野角を光学的に補助する技術も進んできているのでこれらは必須になるだろう。有機ELも視野角は実用上十分に広いが、それでも多少は視野角の影響があるので、大画面では視野角を補助する技術も不可欠になるだろう。動画応答性は液晶が主に苦しいところ。素早い動きの場面で動きボケを感じてしまうし大画面ではそれが目立つ。コストが高くなってしまうが、4倍速(240Hz)駆動なども必要になるかもしれない。

もうひとつは、購入時あるいは買い換え時のコスト(金銭および労力)。100型ともなると直視型ディスプレイの設置などは大変だ。今は配送や設置サービスが充実しているのである程度の大画面には対応すると思うが、このあたりの問題が100型の薄型テレビの普及のカギになるだろう。買い換えとなると古いテレビの撤去と引き取りが加わるのでさらに大変だ。このあたりについては、テレビメーカーや販売店が一体となって対策を考えていく必要がありそうだ。

オーディオ製品が高騰しているのは事実。だが、良いこともある。

筆者も含めて、ある程度オーディオ経験を積んできた人にとって、頭の痛い問題であるのが価格の高騰。オーディオ製品は古くなったとか、壊れたという理由ではなく、より良い音を求めての買い換え(グレードアップ)が多い。グレードアップなのだから、現有のものよりもワンランク上のものを求めるだろう。当然ながら価格は高い。それが感覚的に納得できるならいいが、あまりにも高騰してしまうと購入欲がそがれるし、オーディオへの熱意自体が萎えてしまうことにもつながる。今年に限らないが、近年各社の最上位モデルとなるとなかなかの高価格となっていて、それを嘆く人の声が増えている。

オーディオ製品の価格高騰は事実だ。筆者自身も新製品を試聴する機会は多いが、素晴らしい音だが価格的にはとても手の出ないモデルだと諦めることは少なくない。しかし、半導体部品をはじめとする材料の高騰など、仕方のない部分もある。このままでいいとは思わないが、ベテランのオーディオマニアの方の一部が言うような、このままでは若い人がオーディオを始めることができない。オーディオ自体が縮小してしまうというような心配はないと思っている。

今年のオーディオで、個人的には一番関心したのがこの点だ。エントリークラスの製品に優れたモデルが数多く登場しているのである。たとえば、マランツの「MODEL M1」とデノンの「DENON HOME AMP」だ。筆者が試聴で惚れ込んで帰り道に買って帰ったFIIO K9 AKMも(エントリークラスではないが)価格的には親しみやすいもの。

スピーカーでも、ペア10万円ほどのエントリークラスの製品で素晴らしい製品がいくつも発売されている。特にヘッドフォン関連やデスクトップオーディオ関連は市場も拡大しているジャンルだけに、手頃な価格で優秀なモデルは数多い。中国系メーカーが世界市場を舞台に大量生産と低コストで勢力を高めている現状もあるが、決してすべてのメーカーがお金持ちだけを相手に利益を追求しているわけではないのだ。

左からデノンの「DENON HOME AMP」、マランツの「MODEL M1」
FIIO K9 AKM

特にスピーカーは、筆者自身が「もうこれでいいじゃん」と思うくらい立派な音がするエントリーモデルといくつも出会った。この理由は、スピーカーの解析技術やシミュレーション技術が発達して、何度も試作を繰り返すようなことをしなくても一定の性能を出すことが可能になったこと。電機的な制約が少ないので世界規模でビジネスがしやすいメリットもある。そして、上級機で開発した新素材や新しい部品などを流用するなど、高価な上級モデルで得た成果によって高音質化も図れるということだ。

各社の最上位モデルのような目を引く要素はないし、誰もが納得するような良い音ではないかもしれないが、手の届く価格で優れた製品を発売できるのもメーカーの実力を示すものだと思う。これは筆者自身の反省点でもあるので、今後は積極的に各社のエントリークラスの製品に注目したいと思う。

ともあれ、テレビの世界は新たな局面を迎えているし、オーディオもエントリーも高級機もいろいろ楽しませてくれるだろう。個人的にもBWVのH-1というスピーカーを入手しており、来年はいろいろと新しい挑戦をしようと計画中だ。面白いことはまだまだいっぱいたくさんある。来年もさまざまな面白いことを話題にしていきたいと思う。

BWVのH-1
鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。