プレイバック2024

AI作曲・編曲はもう当たり前!? 音楽制作が激変した2024年 by藤本健

2024年を振り返ってみると、世の中的にも個人的にもAIによる激変の1年だったように思う。それはDTM・音楽制作の分野においても同様であり、作曲、編曲、歌声合成、ミックス、音源分離、ノイズ除去……などAIが威力を発揮する範囲はどんどん広がり、さらにそのパワーが増してきている。

きっと10年後の未来から2024年を振り返ると、「あのころが、過渡期っであり、その後まったく違う時代に入ったんだ」なんて思うのではないかと想像しているところだ。実際どんなことが起きているのか見ていこう。

AI、活用してますか?

読者のみなさんは、いわゆるAIをどのくらい活用しているだろうか?

筆者はまだまだ全然有効活用できておらず、「もっと上手に使わなきゃ」、「もっと有効活用しなくちゃ」と焦りすら感じるくらいではあるが、もはやChatGPTなしには、仕事も生活も成り立たないほどになってきている。もっともChatGPTに課金するようになったのなんて、今年の2月からだから、1年も経ってないわけだが依存度はどんどん高くなっている。

さすがにChatGPTに原稿を書いてもらうのはまだ難しそうだけど、優秀な校正・校閲スタッフとして利用できるし、英語が苦手な筆者にとっては翻訳ツールというよりも英語のやりとりをしてくれるスタッフとして働いてもらっている。

もちろん日常のお金のやりくりなどにもアドバイスしてくれるので頼り切っているところではある。もっとも、結構な頻度で、もっともらしく嘘をつくのが困ったところではあるのだが、きっと嘘つく癖は、徐々に直ってくれると期待しているところではある。

一方で、クルマで遠出する際は、AIによる自動運転機能が大きな威力を発揮してくれる。もっとも、トヨタのレーダークルーズコントロールなる機能によるもので、自動運転レベル0~5まであるうちの「2」だから、まだ人間による運転のほんの少しをアシストしてくれているだけだが、あるとなしでは大違い。

これだって10年後には「昔は、クルマを人間が運転してたらしいよ。だから事故なんてことがあったらしい」って子供たちが喋っているのを夢想しているところだ。

AIが生成した作品に、人間が感動し涙するレベルまでもうすぐ?

さて、では音楽制作のAIはこの1年で何がどう変わってきたのだろうか?

まず大きな進化をしてきたのが、自動作曲・自動編曲の世界だ。中でも「Suno AI」(02)や「Udio AI」(03)などは、思いつくままに日本語でプロンプトを入力すると、かなりのクオリティーの楽曲が簡単にできてしまう。

Suno AI
Udio AI

筆者がSuno AIを知ったのはちょうど1年前、2023年12月12日あたりだったが、従来の自動作曲とは次元の異なるクオリティーの高さに驚いた。

この時点では1分20秒程度の楽曲が作れるバージョン2だったが、その後、バージョン3、バージョン3.5、そしてバージョン4へアップデートしていき、機能・性能とも向上すると同時に、生成可能な音楽の時間も4分と伸びてきている。

例えば、12月15日現在、Suno AIのトップページを見ると、Suno AIで生成した日本語の曲がいろいろ公開されている。いくつかピックアップすると、こんな感じだ。

「願いを叶えてください (Please Grant My Wish)」
AurasVseillya
https://suno.com/song/6e59171d-4c4a-4be7-867c-72bfbd2ee7b3

「狂気の蛇髪少女✨」
Wine loves flowers
https://suno.com/song/b809ff75-5490-4a9c-a52e-0d2d57b77a8d

このボーカルもAIによるものであり、基本的には歌詞を入力して、どんな曲にしたいかを指示すれば、このレベルのものができてしまうのだ。

歌詞だって、ChatGPTなどに頼めば、すぐにそれっぽいものが生成できてしまうので、すべてお任せの世界。そろそろ、AIが生成した作品に人間が感動して涙してしまうレベルになりつつある。

2025年には、人間の作詞・作曲・編曲をAIが上回ってしまっても不思議ではない。もしかしたら一番のヒット曲が実はAIによって作られていた……なんてことが、あとからバラされる事件が起きるかもしれない。そうなったとき、プロの作詞家、作曲家、編曲家は生きていけるのか、心配になるほどの時代に入ってきているのだ。

自動作曲において、演奏スキルも音楽理論も不要

この自動作曲において、演奏スキルは不要だし、音楽理論なんてまったく知らなくてもOK。ただし、人間が感動する楽曲、ヒットする曲を生み出すためには、すべてAIにお任せ、というわけにはいかない。どんどん生成される曲を聴いて、取捨選択するとともに、よりよい曲へブラッシュアップしていくには、使う人のセンスが求められる。

つまり、いまどんな曲が世の中で受け入れられるのか、どんなサウンドがウケるのか……といった知識とセンスが求められるわけであり、ここにおいては人間の能力がどうしても必要になってくるわけだ。

もっとも、これまでもヒット曲を生み出すのは、必ずしも音大を出た人、というわけではなかった。やはりセンスとスキルがある人が強かったわけだが、今後AIの時代にはスキルすら不要になりそうだ。音楽家がどうやって生きていくのか、難しい時代に突入してきたように思うところだ。

AIシステムが作詞・作曲した曲の著作権は誰のもの?

ところで、そうしたAIシステムが作詞・作曲した曲の著作権は誰のものなのか、そもそも著作権は存在するのだろうか?

その辺、まだ法律が追い付いていないところもありそうだが、日本の著作権法では、機械が生成した音楽は“生成物であって著作物にはならない”。サルがたまたまペンで描いてしまった図形と同様の扱いだから、誰も著作権を持たないのだ。

とはいえ、ものすごく綿密にプロンプトを与えて、楽曲を生成していき、その人でないと絶対生成できなかった創意工夫がいろいろあった場合、著作権を主張できる余地はありそう。

もちろん、まだ判例があるわけではないので、今後法律家などの間で議論は起きるかもしれない。先ほどの話のように、大ヒット曲が実はAI作曲だった、なんてカミングアウトされたときに、大事件に発展していくのかもしれない……。

ちなみに、作詞においては実はすでにAIが使われているケースは少なくなさそうだ。

もちろん、すべてAI作詞だったら、生成物なのだとは思う。けれど、たとえば1番の歌詞は自分で書いて、それをChatGPTなどに渡して、いろいろ条件を与えた上で2番、3番を生成してもらったとしたら、その人の著作物になる可能性も高そうだ。そもそも、その生成過程を人にバラさなければ、もはや分からないところに来ている。難しい世界だ。

10年も先ではないかもしれない。「まさに2024年が音楽制作の世界における過渡期だった」と振り返るときが、近い将来くるのではないだろうか?

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto