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ソニー'14年度は「エレクトロニクス構造改革をやり切る」

新経営方針。TV黒字化可能、PS4はハード単体で利益

 ソニーは22日、2014年度経営方針説明会を開催した。「エレクトロニクス事業の構造改革完遂」を掲げ、本年度に本社間接部門で30%、エレクトロニクス販社で20%の大幅なコスト削減に取り組むとともに、テレビ分社化などを進めるなど、3,000億円規模の構造改革を実施。これにより、2015年度に4,000億円規模の連結営業利益を目指す。2014年度も構造改革完遂のため、最終損益は赤字となる見込み。

「構造改革をやり切る」が2014年度の目標
平井一夫CEO

 平井一夫社長 兼 CEOは、純損益1,284億円の赤字に終わった2013年度決算を振り返り、「社長就任時から宣言してきた、エレクトロニクス事業のターンアラウンド(反転/黒字化)を達成できなかったことは忸怩たる思い。2年連続最終損益が赤字となることで、多くのステークホルダの期待に応えられず申し訳ない」と語り、2014年度は徹底した構造改革を行なうことを宣言した。

 平井社長は、「コアと位置づけた製品については、成長ドライバになりうる製品も出てきたが、赤字事業がこれを打ち消し、全体として収益改善が想定通りに進まなかった。変化が激しく、厳しい競争環境の中だが、我々の変化への対応力、スピードが足りなかったと言わざるを得ない」と2013年度を振り返り、「2014年度は社長就任時に掲げた3カ年計画の最終年になるが、2015年度以降に抜本的に収益をあげられる企業になるために、本年度は『構造改革をやり切る年』と位置づける。度重なる下方修正や赤字を継続する体質を変える。『何年続けて構造改革をやるのか』というお叱りについても真摯に受け止める。来年以降に先送りしない。強い決意を持って取り組む」とした。

2013年度の最終損益は赤字に。2014年度も大規模な構造改革により、赤字を見込む
成長ドライバになりうる製品も出てきたが……

販社/本社中心に構造改革し、テレビ黒字化必達

 構造改革はエレクトロニクス事業が中心で、パソコンのVAIO事業売却とともに、テレビ事業についても、7月1日を目処として新会社「ソニービジュアルプロダクツ」として、分社化。販売会社と本社間接部門の固定費削減とともに、4Kを含む高付加価値戦略を一層進め、2014年度のテレビ事業黒字化を進める。

4Kを中心に高付加価値化でテレビ事業の収益改善を図る

 テレビの分社化は、'13年度の赤字により、10期連続でテレビ事業が赤字になったことを受けての対応。平井CEOは、「テレビ事業が10年連続の赤字となったことは、大変重く受け止めている。2年前に戦略を見直し、数量拡大策を抜本的に変え、固定費を見直し、モデル数量削減をすすめた。2013年度は4Kを中心に高付加価値シフトも進み、お客様やディーラー様からは『ソニーらしい製品が出てきた』という評価も得ることが出来た。しかし、それでも黒字化は達成できなかった。現象面としては新興国の成長鈍化、為替の悪影響と、言うことはできるが、私自身は結局外部環境の変化に柔軟性に対応できる体制になりきれていなかったと分析している。新会社にはテレビ事業に必要不可欠な機能を入れるとともに、それを支える販売部門、本社部門の固定費削減を進めて、外部環境変化の影響を最小化する事業体制にする」とし、新会社の代表取締役社長に就任予定の今村昌志氏を軸に一貫性とスピードを持った高付加価値戦略に取り組む姿勢を示した。

 加えて、「今季の黒字化は達成可能と見ている。1,600万台という販売台数見込みに、強すぎるという懸念の声があることも認識している。しかし、仮に下方修正を行なうことがあっても、迅速/柔軟に対応できる力が備わってきたと考えている」とし、事業売却や撤退は考えていないことを強調した。ただし、「資本提携といった話があれば、否定しない」とも語った。

 また、エレクトロニクス販売会社全体として、2015年度までに2013年度比で約20%の費用削減を行なうほか、本社間接部門も約30%の費用削減を行なう。すでに北米の販社は1/3まで人員削減を行なうなど、地域ごとに判断する方針。これらの構造改革のために、2014年度に合計3,000億円以上の費用を計上。「大きな費用だが、これにより2015年以降に年間1,000億円以上のコスト削減が図れる」とした。

事業構造改革の概要

 これらの施策や、PCなどの損失事業の解消、ゲーム&ネットワークサービス/モバイル/イメージングのコア3事業の収益貢献、エンタテインメントや金融の安定的な収益貢献などにより、2015年度には4,000億円規模の営業利益を目指すとする。

PS4はハードウェア単体で収益化。クラウドテレビサービスも開始

重点事業の収益改善策

 構造改革に注力する2014年度だが、エレクトロニクスのコア3事業などの収益拡大も図る。平井CEOは、「よく『エンタテインメント、金融が、本業のエレクトロニクスを支えるソニー』と言われるのだが、エレキ、エンタ、金融の全てが本業」と述べ、各部門における収益拡大策を紹介した。

 ゲーム&ネットワーク事業については、PlayStation 4(PS4)を一層推進し、「ホームコンソールナンバーワンを堅持する」とした。「PS4はすでにハードウェア単体で利益を計上しており、従来のプラットフォームビジネスとは異なる事業体制となっている」とのことで、サブスクリプションサービス「PlayStation Plus」の加入促進も図る。PS4の販売台数は4月7日時点で700万台を超えているが、半数がPS Plusに加入しているという。

ゲーム&ネットワーク事業の収益改善策

 また、ネットワークサービスにおいて、音楽、ビデオなどのエンターテインメント領域で、「ダウンロードからストリーミング」というトレンドになっていることに言及し、Music Unlimitedなどのサブスクリプション(月額課金制)サービスの拡大とともに、ゲーム領域でのストリーミング対応強化について強調した。

 クラウドゲームサービス「PlayStation Now」は今夏に米国でスタート。また、クラウドベースのテレビサービスも米国で2014年内に開始予定で、人気テレビ番組の生放送なども同サービス上で実現し、「革新的な体験を提供する」とした。ゲーム、音楽、ビデオサービスなどネットワークサービス関連売上は2013年度に2,000億円を超えており、さらなる拡大を図る。好調なハードウェア販売とネットワークサービスの相乗効果により、「PS4は、PS2を超える収益を生むプラットフォームになる可能性がある」とアピールした。

Xperiaの優先事項はリスク管理。エンタメはネットワーク局を持たない強み

 モバイルについては、Xperiaのフラッグシップモデルだけでなく、普及価格帯製品も強化。フラッグシップは地域ニーズにあわせてラインナップを強化し、特に米国市場の強化を意識しているという。また、スピーカーやヘッドフォンなど、スマートフォン周辺機器も強化、ソニーならではのスマートウェア製品も増やしていく。周辺機器は「事業の安定性強化にも寄与する」とした。

モバイル事業の重点施策
スマートウェアも強化

 ただし、平井CEOがモバイル事業で最も強調したのは「リスクマネジメント」。「今年度、最も大事なことは事業環境の変化や需要落ち込みに対処すること。スマートフォンはコモディティ化/低価格化などが叫ばれるリスクの高い事業。迅速に事業プランが変更できる体制を整えていく」とした。

 イメージングは、センサー強化などでセット/デバイスの両面で事業を拡大。付加価値の高い魅力的な製品を手がけるとした。また、4K対応の放送用カメラなど、業務用の展開も売り切りからソリューション提案への事業転換を図る。コンシューマ向けは、高付加価値コンパクトとデジタル一眼を強化。アクションカム、レンズスタイルカメラなどの新しい価値提案も行なっていくという。

 エンタテインメントについても、ネットワークサービスとの連携強化などを図るとともに、映画分野においては合計3億ドルのコスト削減策などを実行。また、ダウンロードからストリーミングという流れとともに、オリジナルのコンテンツが「最初にネットに出る」というデジタルコンテンツ流通のトレンドを紹介。従来はまずテレビで人気番組が放送されていたが、米国においてNetflixやAmazonなどの映像配信サービスが最初のウィンドウ(配信先)となっていることから、「これまで4大ネットワーク(注:ABC、NBC、CBS、FOX)やシンジケーションを持たないことでSPEの利益率が低いと言われてきたが、ネット配信が2次利用先でなく最初のウィンドウになることで、巨大ネットワーク局を持たないことが強みになる」と強調した。

エンタテインメント事業の重点施策
コンテンツ資産/制作力を活用

 金融分野については、生命、損保、銀行3社の順調な拡大を背景とし、引き続き顧客満足度の向上と安定的な利益成長を目指す。さらに、介護事業も4本目の柱として育てていくとする。

 オリンパスと協力するメディカル分野は、2015年度の市場導入に向け、3Dや4K技術を活用した外科用硬性内視鏡の開発などを予定。手術室用のシステムインテグレーション事業なども強化し、すでに導入実績が出てきているとする。2020年度に売上高2,000億円を目指す。

ウェアラブルなど次世代投資も2014年度は構造改革最優先

デバイスソリューション事業担当の鈴木智行 執行役EVP

 技術開発の方向性については、デバイスソリューション事業 RDSプラットフォーム担当の鈴木智行執行役EVPが説明。デバイス技術により、エレクトロニクスのコア事業の差異化を目指す方針で、特にイメージセンサーとバッテリ、低消費電力技術を強化。情報処理技術については、認識、ナチュラルUIなどの研究を進め、家庭などの空間で自由に映像や音楽を楽しめる「ライフスペースUX」や、AR技術、「ウェアラブル」の開発を進めるとする。また、新規事業創出のために、専用の組織を立ち上げている。

 バッテリは、モバイル向けのラミネート型ゲルポリマー電池に注力し、特にウェアラブル向けでの応用を想定。また、蓄電システム向けにオリビン型リン酸鉄リチウムイオン二次電池などの研究も強化し、カナダ最大の電力会社であるハイドロ・ケベックと合弁会社を設立することなどを紹介した。これらの技術開発を「構造改革後の成長のための投資(平井CEO)」とし、経営資源を集中することをアピールした。

技術開発の取り組み
デバイスの強化方針

 平井CEOは、「自由闊達、人のやらないことをやるといった、ソニーのDNAはいつまでも持ち続けなければいけない。一方で変えなければいけないものは、変化を恐れてはいけない。変革を成し遂げ、世界に先駆けた新しい商品、サービスを生み出す。ソニーの商品に触れた時、驚きと感動をもたらす。この思いをソニー社員が共有している。厳しい試練の時で社員にも苦痛/負担を強いるが、2014年度は構造改革をやりきり、投資やチャレンジを可能にする財務体質に戻すことに徹底的に取り組む」と締め、あくまで2014年度は構造改革を優先する姿勢を示した。

(臼田勤哉)