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“スマホファースト”の視聴提案。リアル行動につながるテレビの通信連携

 NHK放送技術研究所で5月26日~29日に開催される、「技研公開2016」のマスコミ向け先行公開から、スマートフォンなどを使ったインターネット連携で多様化する視聴スタイルや、“新しいテレビ体験”提案のデモを中心に紹介する。

NHK放送技術研究所

“スマホファースト”視聴の形

 NHK技研では、インターネットの活用で、生活に寄り添った“新しいテレビ体験”を目指した研究開発を進めており、「放送」、「ネット同時配信」、「VOD」(ビデオオンデマンド)などの違いによって複雑な操作を必要とすることなく、番組を楽しむための仕組みを提案している。

インターネット活用の例

 象徴的な展示の一つは、スマホ向け放送同時配信サービスの“スマホファースト”という形。スマホをメインに動画視聴している人が多いことから、スマートフォンを(セカンドスクリーンではなく)ファーストスクリーンとして番組を楽しむため、番組字幕連携やタイムシフト再生、SNS連携、テレビ連携を実現するアプリを開発。

 このアプリを使った実験は'15年秋にも「試験的提供B」の形で実施されており、今年も秋ごろに希望者に対して実施予定だという。

VOD視聴時に字幕をタッチすると、そのシーンにジャンプ

 アプリを使ったスマホ視聴時は、字幕がオーバーレイではなく画面の下にコメントのように表示され、放送に合わせて字幕が下へ流れる。リアルタイムの放送を見ながら、字幕だけ少し前にさかのぼって見返すこともできる。また、放送ではなくVODで視聴する際には、字幕画面をスクロールしてタッチすると、その場面にジャンプして再生できる。

 気にいったシーンなどはTwitterなどのSNSで共有することも可能。投稿するとそのシーンが短いパラパラマンガのようなクリップで表示される。SNS上の友人がVOD加入者であれば、そのシーンを実際に動画で観ることもできる。スマホを使って外で観ていたVOD番組の続きを、帰宅後に家のテレビへ“キャスト”して、大画面で楽しむといった使い方もできる。

好きなシーンをSNSに投稿
「スマホファースト」時代に向けたサービスの提案

ハイブリッドキャスト共通アプリ規格化。メーカー/放送局問わず利用可能

 放送通信連携の「ハイブッドキャスト(Hybridcast)」関連の新たな動きとして、スマホなど端末共通の「共通コンパニオンアプリケーション(共通CA)」を紹介。

共通コンパニオンアプリケーションの画面

 現状では、家庭内でテレビとスマートフォンを連携させる場合、スマートフォンやテレビなどのメーカーが用意したアプリを使う形となる。これを1つの共通アプリで利用できるようにして、家のどのテレビでも切り替えて連携できるようにするための技術仕様「連携端末プロトコル」を策定中。この仕様はもうすぐ公開され、共通アプリを開発可能になるという。

家にある様々なテレビのハイブリッドキャスト機能が一つのアプリで操作できる

 1つのアプリをスマホにインストールすれば、テレビメーカーを問わずに放送連動コンテンツが楽しめるほか、テレビメーカーもアプリ開発/サポートのコストが削減できる点などをメリットとしている。現時点では東芝、シャープ、三菱電機のテレビで検証が進められている。どのテレビ局/番組も共通で利用可能。

 もう一つのハイブリッドキャストの進化は、MPEG-DASHを用いた動画プレーヤーによる、VOD動画の番組切り替えや動画クリップ挿入などへの対応。新たに「MPEG-DASH IPTVFJ」プロファイルが策定され、テレビやスマホなどのデバイスでVOD動画を再生可能なだけでなく、4Kテレビ所有者は、地上波と同じ番組を4K画質のVODで楽しめるといった使い方ができる。動画クリップとしてCMの挿入も可能で、番組と番組の間にCMを流すという、テレビ放送に近い視聴方法を実現できるようになる。なお、サービスの利用には、テレビ側で「マルチピリオド形式」のVODへの対応が必要。そのためにはHTML5のAPIであるMSE(Media Source Extensions)の対応が必須であり、現行のテレビは対応モデルが限られている。今後IPTVフォーラムやテレビメーカーなどがどういった形で対応テレビを明示するかについては検討中としている。

MPEG-DASHプレーヤーでの動画再生
マルチピリオド形式対応のVODの場合、CMなども連続再生できる

スポーツ生中継に選手のトラッキングデータを重ねて表示

 スポーツなどのライブ放送におけるハイブリッドキャストの使い方として、ネットのコンテンツと同期して提示する技術を研究。サッカーの試合で、選手がピッチのどの位置に立っているかというトラッキングデータを放送と同時に画像で表示。テレビに映らない選手の動きや詳細なデータをアニメーションで表示するといった新しい演出も可能となるほか、タブレットなどを使って、1人の選手がどんな動きをしたかという軌跡で試合を振り返ることもできる。

テレビ画面上(右上)に、リアルタイムで選手のトラッキングデータを表示

 ハイブリッドキャスト技術仕様2.0版では、放送とネットの同期機能が規定され、受信機上のアプリで放送の基準時刻の取得が可能となった。新たに開発した放送とネットの基準時刻の変換技術により、UTC(Cordinated Universal Time/世界共通の標準時刻)に基づくネットのコンテンツを放送に高精度に同期して表示。

 今回の取り組みでは、メディア向けのスポーツデータ配信を行なっているデータスタジアムがトラッキングデータを提供。中継会場で専用のカメラを使ってリアルタイムに制作されたトラッキングデータをネット配信し、クラウドサービスを用いて中継会場から受信機にデータを直接配信。放送の中継映像に同期して表示できることを実験で確認した。

 ただし、現行のテレビではこのサービスに対応できず、今後テレビメーカーなどが製品化するハイブリッドキャスト技術仕様2.0版対応モデルが必要となる。今後NHK技研では、サービスの実用化に向けて効率的なデータ配信方法の検討や運用規定への反映を進めるという。

タブレットでデータを見ながら試合を振り返る

視聴とリアル行動を結びつける連携技術

 展示テーマの一つとして「行動連携技術」を紹介。スマートフォンなどの他のコンテンツと連携強化することを「他のエンターテインメントに視聴者を奪われる」と捉えるのではなく、通信を活用して積極的に多様な視聴スタイルを提示することで、結果的に視聴者の普段の行動と番組とのつながりを、自然な形で作っていく取り組みが多く提案されている。

 NHKは、大河ドラマ「真田丸」に関連した活用を紹介。真田家ゆかりの地である長野県内を旅行している時に、スマートフォンから「「真田丸『奪回』で紹介された小諸城が3km先にあります」といった形で通知するといった使い方をデモしている。

スマートフォンを持って旅行すると、旅先の場所に近い番組関連情報が通知
真田丸関連の情報が表示された

 NHK以外のテレビ局も参加。TBSテレビは、アニメ視聴をリアル行動へ結び付ける仕組みを紹介。VODでアニメ「カミワザワンダ」を視聴すると、キャラクターの「プロミン(目に見えない不思議なモンスター)」の画像を集められるというもので、例えば番組をVOD配信で視聴すると、連携するスマホアプリにバグミン(暴走したプロミン)が“捕獲”される。そのスマホを持ってコンビニに行って表示されたバーコードを店内でスキャンすると、バグミンが“浄化(デバッグ)”され、プロミンがチャージ。次のテレビ放送時にプロミンが召喚され、手持ちのコレクションに加わるという仕組みになっている。

「カミワザワンダ」VOD視聴で入手したバーコードを持って店頭でスキャン
次回に家のテレビで視聴した時に、コンテンツを入手できる

 テレビ朝日は、テレビの視聴予約や番組関連ページへのアクセスログなどの情報を元に、視聴者の好みに応じたオンデマンドコンテンツへと誘導するサービスを検討。ハイブリッドキャストの拡張APIとMPEG-DASH再生機能を使った番組サービスの例を展示しており、例えばテレビで「秘湯ロマン」を視聴予約すると、VOD動画配信されている4K画質版の「秘湯ロマン 4K」がレコメンドされ、対応テレビなら高画質で楽しめるといった使い方をデモしている。

テレビ朝日のデモ。視聴予約などから他のコンテンツをレコメンド
秘湯ロマンの予約から、4K配信版へ誘導

 フジテレビは、サービスが好調という動画配信のFOD(フジテレビオンデマンド)を用いて、テレビ放送へと誘導する仕組みを紹介している。現在、FODで動画を視聴すると、関連する書籍(原作など)がおすすめされるという機能は実装されており、これをテレビ放送とも結びつけることを検討している。

フジテレビのメディア間連携デモ

 動画配信の課題として、多くの人が同時に一つの動画へ集中した時のサーバーの負荷への対策を提案。一つのサーバーに視聴が集中した場合の対策として、配信側のエンコーダでリアルタイムで伝送レートを変更する適応制御技術や、受信状況に応じて配信経路を切り替えたり、視聴規模に応じてユニキャストからマルチキャスト配信に切り替えるといった方法を紹介。

マルチキャスト/ユニキャストの切り替え
ネット混雑時には、Wi-Fiを使った端末間通信の活用も
「プライバシー保護用暗号技術」のパネル展示
「タイムシフト視聴環境における番組発見行動」の調査結果

(中林暁)