西田宗千佳のRandomTracking
第644回
発売近づくソニーホンダ「AFEELA 1」。実車試乗とインタビューから見える「新しいプラットフォーム」
2026年1月9日 14:45
ソニーホンダモビリティが開発中のEV「AFEELA 1」の出荷が近づいている。
今年のCESにはソニーグループの姿がない。だが、例年はソニーグループのブースがある場所にソニーホンダが出展、AFEELA 1をアピールした。
アメリカ・カリフォルニア州での出荷は2026年後半より開始され、日本市場でも2027年前半の発売が予定されている。価格は8万9,900ドルから。
今回会場には、米国オハイオ州の生産ラインで作られた、量産を前提とした試作品が展示された。その詳細をお伝えする。
また、ソニーホンダモビリティの川西泉・代表取締役 社長 兼 COOにも単独インタビューを行なった。
川西社長の口から出てきたのは、これまでの自動車に関する話とはかなり毛色の異なる話であり、「プラットフォーム論」にも絡む話題になった。
日本では2027年前半出荷、2028年にはさらなる新型も
冒頭で述べたように、AFEELAはようやく出荷を迎える。カリフォルニア州で2026年前半、とされていたが少し遅延し、今年後半からの出荷となる。日本での出荷時期はその半年後だ。
プレスカンファレンスでは、クロスオーバータイプの新型「AFEELA Prototype 2026」も公開された。こちらはより内部空間が広めになっている。基本設計はAFEELA 1と共通部分が多いが、もちろん変更点も多々ある。早ければ2028年にも出荷を予定している。
会場に置かれていたAFEELA 1は、実際に製品を量産するラインで同じように組み立てられたもの。変な言い方だが、いままでの展示車に比べ「製品感」がより強い。
特に変わったのはソフトの部分だ。
AFEELA 1は車内での体験を重視したEVであり、車内ディスプレイ上ではAndroid(AOSP)をベースとしたOSの上で各種アプリが動いている。それらがちゃんと自由に動くようになっていた……という感じだろうか。
動画や音楽の利用はもちろんだが、PlayStation 4/5を対象としたリモートプレイも動作していた。
これらのアプリケーションは自動車内に組み込まれたセルラーネットワークデバイスを介して通信をするので、スマートフォンなどを介したテザリングを使う必要はない。もちろん、自宅などでWi-Fiを介してつなぐこともできる。
モーターサウンドには「ホンダF1」も
ダッシュボードのデザインや、車内で聞こえる走行時のモーター音(e-motorサウンド)などは、まとめて「スキン」のような形で切り替えられる。
たとえは「HRD(ホンダ・レーシング・ディベロップメント)」デザインのスキンでは、e-motorサウンドも、1965年にF1で初勝利を挙げた「ホンダ・RA272」のエンジン音になっていた。ホンダが持つ実車から収録された音を使ったものだ。
音の面では、AFEEA 1にはソニーが開発した「AFEELA Immersive Audio」が搭載されているのが大きい。
音質がいい、と言ってしまえばシンプルだが、自動車の中で求められる要素をしっかり作り込んできているのが特徴だ。それはDolby Atmosなどの立体音響に対応している、という話だけではない。
自動車の中で音を聞く場合、車内の席全体に音を広げることもあれば、個々の席で快適に聴きたい、というニーズもあるだろう。それを両立するのが「AFEELA Immersive Audio」の特徴だ。20個のキャビンスピーカーと8個のシートスピーカーを搭載しており、それを生かした再生ができる。
コントロールパネルから「その音はどの座席で聴くのか」を切り替えることもできるし、席ごとに別の音を流すこともできる。
4席にそれぞれ、シートスピーカーは2つずつ設置されている。それを独自技術で制御し、前方座席・後部座席の左右の3つで、それぞれ独立した音響空間を構成できる。
さらに、各席の音声には、自動車内向けのノイズキャンセル技術も入っている。仕組み的には、自動車の動きをとる三軸のセンサーの情報を元に、車体に伝わる固有振動など、自動車特有の情報をCAN(Controller Area Network)経由のものも含めて取得、さらにソニーの音響技術でノイズキャンセルをかけて、「自動車内なのに走行音が気になりづらい音響環境」を実現しているという。
「走りの味わい」はまだ秘密
こうした部分は、ディテールは別として、以前から公表されているもの。ソニーホンダが「AFEELAが別の車とは異なる部分」としてアピールしてきたもので、情報をずっと追いかけている人からみれば「もう知っている」という話が多い。
AFEELAの「自動車としての価値」については、これまであまり語られてこなかった。実車の走行体験も行なわれていない。筆者も、発売を控えた今年のCESでは「実車に乗って走りを体験」できると予想していたのだが、それは今回も行なわれなかった。
なぜ同社は、AFEELA 1の「走り」について秘密を貫くのか?
川西社長は理由を「制度の問題」と説明した。
公道でテストをするには、許認可を受けてナンバーを取得する必要もある。既存の自動車メーカーからそれも素早くできるが、ソニーホンダは新参者なので、その点で時間もかかる。
もちろん、手続きを急げば対応はできただろうし、クローズドな場所で走るならナンバーはいらない。だが、ソニーホンダとしては「走りの体験を急いでアピール」することを良しとしていないようだ。
予約者やメディア関係者への「走行体験」は、もっと発売が近づいてからになるようだ。
中央集約を避けてブロックチェーン導入
今回の発表の中には、世の中的にはあまり注目されていない部分もある。別の言い方をすれば「理解されていない部分」といってもいいだろうか。
それは、「ブロックチェーン技術」の導入だ。
発表会の中で川西社長は「On-Chain Mobility Service Platform」を公開した。
AFEELA 1の上ではいろいろなアプリやサービス、コンテンツが使える。それらへの報酬や評価をブロックチェーン上に構築し、評価や利用量に応じた報酬分配を実現しよう……という考え方と言っていい。
普通ならここでは、「自動車内のアプリストア」のような仕組みを作るものだ。要は、スマホでのアプリプラットフォームと同じように、プラットフォーマーが収益をアプリ開発者やコンテンツ提供者に分配する仕組みである。非常にシンプルであり、それ自体が否定されるものではないと思う。
だが、川西社長は「色々と考えた結果、従来とは異なる仕組みが必要なのではないか、という考えに至った」と話す。
その流れはこういうことだ。
スマホやゲームなどのプラットフォームは、本質的に中央集権的なものだ。多数の利用者・開発者を集めないと機能しない。それがゆえにうまくいく部分があるし、規模が大きいがゆえに価値がある。
一方で、自動車というプラットフォームは、スマートフォンほどの数にはならない。そのうちの1メーカーであるAFEELAはさらに少なくなる。
クリエイターや発案者には報酬が必要だ。ただ、メーカーから一方的に報酬を払うのでは持続性の問題もある。すなわち、従来の「数の論理」に依存しない自律的な成長環境を作る必要があるわけだ。
その中で「特定の企業がすべてを管理・収益化するモデルからの脱却も考える必要があるのでは、と考えていた」と川西社長は話す。
もちろんこれは、スマホやゲーム機といったビジネスモデルを否定するものではない。ただ、違う環境では違うものが必要、ということなのだ。
日本ではブロックチェーンというと仮想通貨が想像され、あまりイメージが良くない部分もあるし、「すでにブームは過ぎた」という印象を持つ人もいるだろう。
だが、ブロックチェーンを単に支払いに使うのではなく、評価やデータを分散・蓄積する存在として使うという用途はありうるし、その上で報酬としての仮想通貨連動、というものもあるだろう、
特に大きいのは、個人の車が走行することで価値を得る「Drive to Earn」も仕組みとして考えられる、という点だ。
自動車は従来、走ると古くなって「価値が下がる」ものだった。だが、データを蓄積できる「ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)」の場合、走ること・使うことは行動データ・運用データという価値を生み出すという側面もある。
データは個人にとっても企業にとっても価値のあるものだ。特にAIが車両を制御する場合、データの価値は大きい。
そこで従来型のプラットフォームの場合、プラットフォーム運営企業に個人の走行データや嗜好情報が独占的に吸い上げられるかたちになる。
そうではなく、ユーザー自身がデータを管理できるオープンな体制を構築する……という考え方も必要になってくる。ブロックチェーン上にそうしたデータの価値を載せ、積み上げていくことは、車両を乗り換えてもデータを引き継ぐことにもつながる。
こうした考え方は、かなりわかりづらいものだ。発表会の情報だけでは、そこまでの可能性を読み取るのも難しい。川西社長は「社内でも広く理解されているとは言い難い」と笑う。
自動車の価値は「動く」こと。移動していく情報と様々な情報の掛け合わせで、新しいエンターテイメントが生まれる。
「動画や音楽を楽しむのも重要ですが、それだけで売りたいわけでも、売りたいと思っているわけでもない」と川西社長は言う。移動情報の掛け合わせで生まれる新しい価値が生み出すアプリやサービスが、自動車の価値を高める。その姿はいまだ見えているわけではなく、いろいろな試行錯誤が必要になる。
川西社長は「これらの仕組みはクラウド上にある」と話す。AIも同様で、走行を司る機能はローカルAIだが、AFEELA 1を構成する「ソフトウェア」は、大半がクラウドに存在することになる。
すなわち、SDVとは「車両の中にあるソフトが変わる」だけでなく、「クラウドと車両の両方でソフトが変わる」ことで価値が高まる存在なのだ。
そこで「報酬とデータのありよう」を自由な形で考えるために、AFEELAでは「On-Chain Mobility Service Platform」を採用することになったわけだ。

















