ニコ動、コメント付きの電子書籍表示サービス開始

-「ニコニコ静画(電子書籍)」。角川が漫画など無料公開


右から角川グループホールディングスの角川歴彦会長と、ドワンゴの川上量生会長

 ドワンゴは8日、「ニコニコ動画」内の新サービスとして、電子書籍が読める「ニコニコ静画(電子書籍)」を開始した。同時に、角川グループホールディングスが、無料で読めるオンライン雑誌「角川ニコニコエース」を創刊。毎週火曜日に最新号が発刊され、1週間限定で無料配信される。ほかにも無料コミックを用意している。

 PCのFlash対応ブラウザ向けに提供するほか、iPhone/iPad用無料アプリ「ニコニコ静画(電子書籍)」も既に公開しており、iOS 4以降をサポート。Androidには2012年に対応する予定。

 また、この「ニコニコ静画(電子書籍)」は、角川グループホールディングスが展開している電子書籍配信プラットフォーム「BOOK☆WALKER」と連携しているのも特徴。「BOOK☆WALKER」が配信するライトノベル、コミック、文芸作品、ゲーム関連書籍、新書、実用書などが「ニコニコ静画(電子書籍)」から、コメント機能を使いつつ閲覧できる(対応作品のみ)。




■漫画や小説をコメント付きで楽しむ

 「ニコニコ静画(電子書籍)」が、通常の電子書籍サービスと大きく異なる点は、ニコニコ動画と同様にコメントがつけられる事。ページをめくるなどのボタンを下部に備えており、この欄にあるコメントマークを押すと、画面が若干暗くなり、そこに白文字でコメントが流れる。

 動画と同様に、右から左に流れるコメントを投稿できるほか、文章のどの部分、漫画のどのコマに対してのコメントなのかわかりにくいため、文章やコマに線引きをした「範囲指定コメント」をする事もできる。

サービス開始時点では、PCとiPad/iPhoneに対応するコミックの表示イメージ。左下のコメントボタンを押すと暗くなり、コメントが表示される部分を指定してコメントする事が可能に
そらのおとしものを表示しているところコメント表示画面
ツイートが本の帯になる機能も

 またTwitterとの連携機能も装備。「○○という作品の、○○ページの、ここが面白い」などのコメントをリンク付きで投稿でき、フォロワーがそのリンク先に飛ぶと、該当作品の該当ページに直接ジャンプできる。しかし、後述する「BOOK☆WALKER」で有料購入した作品についてツイートした場合、同じ本を購入したユーザーではないと該当ページには飛べない。購入していない場合は本の表紙ページにジャンプする。なお、有料書籍でも、冒頭の無料で読める範囲であればツイートし、直接ジャンプする事が可能。

 Twitterで投稿されたコメントは、書籍の表紙に設けられた帯部分に、リツイート数などと共に表示される。




■BOOK☆WALKERの作品が「ニコニコ静画(電子書籍)」で楽しめる

角川コンテンツゲート サービス開発部の栗本直彦マネージャー

 無料コンテンツ以外に、角川が展開している「BOOK☆WALKER」で購入した書籍も「ニコニコ静画(電子書籍)」から、コメント機能を使いながら楽しむ事ができる。ただし、「BOOK☆WALKER」で取り扱っている書籍全てが「ニコニコ静画(電子書籍)」に対応しているわけではない。「編集部や著者さんによって、様々な考え方があり、今回のサービスがどのようなものか、確認したい声がある。また、全ての作品がコメント機能に向いているとは思っておらず、向き不向きがあると考えている」(角川コンテンツゲート サービス開発部の栗本直彦マネージャー)という。

 サービス開始時点で、有料コンテンツを購入できるのは「BOOK☆WALKER」からのみだが、将来的にはニコニコポイントでの決済代行機能も提供する予定。

 「ニコニコ静画(電子書籍)」はあくまでビューワーとして機能し、各電子書籍販売サービスから購入したコミックや小説を、「ニコニコ静画(電子書籍)」から楽しむというイメージで、「ニコニコが販売プラットフォームを作るつもりはなく、楽しんでもらうための機能を提供するもの。書籍に新しい体験を加えるものと思って欲しい」(ドワンゴの川上量生会長)という。ドワンゴでは今後も取扱い出版社を拡大していく予定。




■角川グループが用意する無料コンテンツ

 角川グループでは、今回の連携記念として、以下の作品を無料で配信する(一部は期間限定)。

  • テルマエ・ロマエ 1巻
    (11/8~11/22限定/著:ヤマザキマリ/発行元:エンターブレイン)
  • エイジプレミアム Vol.1~3 一斉配信
    (発行元:富士見書房)
  • 4コマなのエース出張版(発行元:角川書店)
  • 角川ニコニコエース(発行元:角川書店)
  • グーグル、アップルに負けない著作権法 PREVIEW EDITION
    (著:角川歴彦/発行元:アスキー・メディアワークス)

 

11月25日から、「電撃コミックジャパン」を無料化。創刊号から11年12月号までの全てと、11月25日配信開始の12年1月号以降、全ての「電撃コミックジャパン」が無料化される「エイジプレミアム」の1~3号も無料化。1号は常時無料、2、3号は12月9日まで無料となる
角川ニコニコエース

 さらに、ニコニコ動画と角川書店が提案する新たな電子書籍コンテンツとして、
無料WEB漫画誌「角川ニコニコエース」を創刊。アニメ化決定の話題作や、連載中の名作などの人気漫画を集めたもので、毎週火曜日に更新。1週間無料で配信する。掲載タイトルは以下のとおり。


  • そらのおとしもの
  • 大好きです!!魔法天使こすもす
  • デッドマン・ワンダーランド
  • ケロロ軍曹
  • タイガー&バニー
  • 東京ESP
  • ナナマル サンバツ
  • アニコイ

 

 また、2011年12月にはユーザー投票による新人作家マンガの勝ち抜きコンテスト「ニコニコエースコミック総選挙」も予定。優秀作品の連載、コミック化も検討。今後も追加タイトルや新人連載を加え、30タイトル以上が予定されている。

 ビジネスモデルについて、角川の栗本氏は「BOOK☆WALKER向けのアプリは累計30万ダウンロードを突破しており、今回のニコニコ動画さんとの連携を、ホップ・ステップ・ジャンプのジャンプにあたるものだと認識している。電子書籍業界の活性化を目的としており、無料で沢山の人に触れて、読んで頂く事が大切だと考えている」と説明。

角川コンテンツゲートの安本洋一取締役

 ドワンゴのニコニコ事業本部企画開発部の伴龍一郎部長も「角川さんとの取り組みに関して、お金がどうこうとは考えていない。“ニコニコでもっと気軽に本と出会う”をキーワードに開発したもので、とにかくユーザーに喜んでいただければ、そして新しい本と出会えるサービスにしたいと思っている」という。

 角川コンテンツゲートの安本洋一取締役は、書籍の上にコメントを流す効果について、「コミックの上にコメントが流れることで、コメントという新しい価値が生まれるものと信じている。ここでしか見ることができないデジタルコミック誌などを用意しており、突っ込みやすいタイトルばかりなので、どんどん突っ込んでいただきたい。今後も新しいコンテンツをどんどん出していければ、新しいソーシャルリーディングの形を作るものになる」と展望を語った。




■角川は電子書籍販売でamazonと交渉中

トークセッションの模様

 発表会の第2部では、「電子書籍とソーシャルリーディング」の未来、と題したトークセッションが実施され、角川グループホールディングスの角川歴彦会長と、ドワンゴの川上量生会長が登壇。メディアジャーナリストの津田大介氏が進行を担当した。

 今回の連携を記念したコンテンツとして、自身の著書を無料で公開した角川氏は「著作権に関する面白い意見や、著作権の権威である人達のコメント、国会図書館の館長や、川上君とのエキサイティングな対談もあり、著作権に関心がある人には充実した内容になっていると思う。この本に、今回のコメント機能を使って、注釈のように、後から自分でコメントを入れられるのが面白い」と自ら活用の事例を紹介。

 津田氏は、Twitterに書籍についてコメントする機能で、中味の文章を引用しながらツイートする機能が無い事を指摘。これを受けて川上氏は、「やるべきだと思うけれど、著者の意向などもあるので、そこはゆっくり進めていきたい」と語り、「電子書籍内に対する検索機能も実現したい」とした。

 今後のコンテンツの増加について、角川氏は「ソーシャルと聞くと、作家は自分の本の悪口を書かれるんじゃないか思い、心にガードができてしまう。そうではなくて、ソーシャルは皆で盛り上がろうというパーティーのようなもの。それがわかってもらえれば、今回のようなサービスで提供できる書籍の数も飛躍的に増えるだろう」と予想。

 津田氏も「ミュージシャンには盛り上がるライヴがあるが、物書きにはそういったものが今まで無く、羨ましいなと思っていた。だからソーシャルで盛り上がるのは、物書きにとって嬉しいところがある」と語った。

 こうした「“ソーシャルな部分”も含めたコンテンツが、著作権の新しい概念になる」と語るのは川上氏。「例えばニコニコ動画の人気番組だと、10万くらいのコメントがあり、ツイートも数千とか1万などになる。そうなるととても全て読めないし、Twitterでもそれだけ多いと翌日検索しても引っかからなくなってしまう。TwitterやFacebookなど、コメントする場所は増えているけれど、このようにコメントが保存できない場合もある。コンテンツホルダが、作品に対してコメントを保存し、特定の著者に対してストックしていくような形になっていくと思う」と語る。

角川グループホールディングスの角川歴彦会長

 さらに、「コンテンツの引用というのは、それが古いものであっても、引用された時点で新しい情報になる。ニコ動では流行り廃りがあるが、初音ミクなんかは二次創作の連鎖が拡散しているからブームが終わる気配がない。様々なジャンルでコンテンツの寿命は短くなっているが、二次創作や、コメントをつけるという行動により、コンテンツの寿命が長くなり、魅力が高まる事にも繋がる」と分析した。

 質疑応答では、amazonが日本でもKindleを使った電子書籍ビジネスを展開予定で、出版社に対して厳しい条件を突きつけていると一部で報道された事について、角川氏に質問が飛んだ。角川氏は、「amazonは日本の出版社の本をあれだけ売っているので、出版社との信頼関係が既にあり、電子書籍販売に関して、画一的に強行な条件を突きつけるというのはありえない。電子書籍の価格決定権をamazonが持ちたいと言うのは自由で、それが認められればそれで良いよねという話。出版社が嫌だと思うなら、話しあっていけばいい。角川グループも1年前からハードな交渉をずっとやっており、今11条件ぐらいに煮詰まってきて、かなりいいところまできている。出版社としてのめないところもあるが、話し合っていると、解決の糸口は見えてくるもの。まだ契約はしていないけれど」と笑った。


ドワンゴの川上量生会長

 さらに「amazonの取り分が55%という数字の話も出ているが、それは電子書籍化も含めて、全てamazonに依頼したらという事だと思う。やはり出版社には、自己責任で、(自ら)電子化する必要があるのでは」と語った。

 最後に川上氏は、今回のサービスについて「始まりにしか過ぎないけれど、予想以上にスタートとしては面白い一石を投じられたのではないか」、角川氏は「電子書籍はどれだけユーザーにリーチできるかが重要。ニコニコ動画のようなところが、ユーザーにリーチする方法を考えてくれれば、ソーシャルと電子書籍は相性が良いのではないかと思う。そしてソーシャルでは“共有”、“シェア”という考え方が重要になるが、それを著作者に了解してもらう努力をしていかなければならないと思う」とした。



(2011年 11月 8日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]