パナソニック津賀新社長が会見。「8兆円で満足はしない」

-大坪社長「赤字で社長0点だが、成長への布石」


津賀新社長(右)と、代表取締役会長に就任予定の大坪文雄現社長(左)

 パナソニックは28日の取締役会において、6月27日付けで津賀一宏専務が代表取締役社長に就任する取締役人事を内定。大坪文雄社長は、代表取締役会長に就任すると発表している。これを受けて、29日に都内で記者会見が行なわれ、津賀新社長と、代表取締役会長に就任予定の大坪文雄現社長が出席した。

 津賀新社長は、大坪氏から人事について聞かされた時を振り返り「我が耳を疑うばかりで、まさに青天の霹靂だった。それから時間が経つにつれ、経営をとりまく環境の厳しさに立ち向かっていく決意と、1月から新たにスタートしたパナソニックの船出の舵を握る事への、心躍る気持ちが芽生えてきた。そして今では、世界中のお客様、お取引先、社員の皆様も含め、広く社会に対しての責任の重さを痛感している」と、心境を語る。

 その上で、「パナソニックは2018年に創業100周年の節目を迎える。そこに向けて、エレクトロニクスNo.1の『環境革新企業』を目指しており、そのために粉骨砕身頑張り、次の世代に繋げていきたい」と抱負を語った。



■「次のお客様価値」を提供する将来のAVC事業

津賀新社長

 新社長に就任する津賀氏は、現代表取締役専務。2008年にパナソニック オートモーティブシステムズ社の社長、2011年にはAVCネットワークス社の社長に就任するなど、主にAV機器の分野を歩んできた。

 津賀氏は現在のパナソニックについて、「2011年度の通期連結業績見通しとして、売上高8兆円としているが、パナソニック内部のパワーから考えると、“8兆円で満足すべきではない”と考えている。ただし、単に数字を伸ばしていくという視点ではなく、どこに我々の成長を見出していくのかが重要になる」と語る。

 「環境革新企業を目指しているが、環境分野だけを伸ばしていくのは難しい。今あるドメインが、成長性、収益性を実現できるようなフォーカスの当て方をする必要がある。例えば、私が担当しているAVC社では、これまで画質や音質など、性能の良さにフォーカスする一方、エコ&スマートといった部分には、あまりフォーカスしていなかった。だが、先進国において、今後も生活を豊かにしていくためには、無駄を省いた合理的な成長が欠かせない。エコ&スマートをコンセプトに、AVCの領域でも今後成長していく事は十分可能だと考えている」という。

 同時にパナソニックでは、「街まるごと」、「家まるごと」ビジネスに代表されるように、様々な事業において、ソリューション型ビジネスへの転換も進めている。その際に重要となる基準として津賀氏は、AVC事業での経験も交えながら「お客様価値を見直す事」を挙げる。


AVC事業を例に挙げ、将来像を語る津賀新社長

 「B to Cでは、お客様価値を明確にする事が重要。AVCの視点で、例えばカメラの場合、お客様価値を本質的に捉えていなくても、最初から存在するカメラ市場に向けて、そこに“良い商品”と称する商品を投入すればいいというのがこれまでの考え方だった。しかし、“お客様は何のためにカメラで撮影するのか?”、“撮った後でどうするのか?”までを考えると、B to Cだけでなく、B to Bも融合させたような事業こそ、お客様の次の価値を提供できるのではないか。これが、私が考えているAVC分野の将来の姿とした。

 その上で、「お客様の価値を明確にして、その価値に沿った活動をしっかりやらなければ、成長性、収益性は上がらない。これはオートモーティブ含め、他のドメインでも同じ。その考え方ができないドメインが仮にあっても、他のドメイン間の連携で、補っていけばいい。その結果として、“8兆円に満足する企業ではない”と考えている」と語った。




■ソリューション型ビジネスと新興国への取り組み

 ソリューション型ビジネスへの転換を進めた大坪氏は、その将来性について、「パナソニックの持つ、従来の商品、サービス体勢の強みを集約化して、2018年に、我々の事業の大きなウエイトを占めるようにしていきたい。電気自動車のシェアや、各家庭での発電・蓄電・売電、そして街全体のソリューションが数年で陳腐化しないための施策など、この事業の萌芽は色々なところで見ることができる。また、家電全体を制御する必要性は、どのメーカーにおいても必要になってくるだろう。決まったビジネスモデルが存在しないところへの挑戦となり、新しい土壌を作るには時間が少しかかると思うが、我々がトップランナーとして走りうる分野になると思っている」と予想。

 同様に推進してきた、新興国への取り組みについては「新興国にも、もっと生活に密着した製品を投入したいと考え、生活研究所を世界10カ所に作り、現地の人を主体とした製品へのニーズ、隠れたシーズを探し出し、それを活かした商品化を進めている。これは先進国でやっているようなマーケティング、宣伝などの活動と同じであり、こうした取り組みでビジネスが伸びる手応えも感じている。製造業としてやるべきことを、素直にやればいいと考えている」。

 「また、中国、ベトナム、インドなどの新興国では、インフラが不安定で、停電がしょっちゅう起きたり、一つの家庭で消費できるエネルギーに制限が設けられていたりする。こうした地域では、商品の基本機能として、省エネが求められている。従来は、パナソニックの手で、パナソニックの工場でとこだわっていたが、今後はODM、OEMもフルに活用し、パナソニックブランドを一気に広める事が重要。その成功事例も出てきている」と、成果を語った。



■厳しい経営環境での6年間を振り返って

大坪現社長

 大坪氏は社長就任から6年間、パナソニックを大きく変える施策も行なった。パナソニックへの社名変更や、パナソニック電工、三洋電機との経営統合だ。一方で、同社は3日に発表した2011年度通期業績見通しで、最終損失が過去最悪の7,800億円という大幅な赤字になることを発表。テレビや半導体分野での構造改革への取り組みが大きな課題として存在する。

 大坪氏は、「7,800億の赤字は、社長という立場で、その責任を痛感している。毎年利益を出すのは当然の事だが、将来的に企業が発展していくために、どのような基盤を作るのかも重要だ。(もし経営統合をせずに)三洋の車載用電池、太陽光発電、電工の持つ電材やビル周り、家まわりなどが無い状態で、パナソニックだけで、テレビ・半導体の構造改革をするだけで済んだのかといえば、それはありえないと思う。2018年を目指し、我々は何をすべきなのか、どういう方向性をとるのか。確実な利益回復を図るために、必要な事だったと思う」と振り返った。

 また、経営統合によるシナジー効果を、「衆知を集めた全員経営」という松下幸之助氏の言葉を交えて紹介。「東日本大震災後、三洋のソーラー技術とパナソニックの技術を組み合わせたソーラーランタンが大変なヒット商品になった。「GOPAN(ゴパン)」も、三洋の開発現場で初めて見た時は、発想のユニークさに驚いたが、動作音がうるさく、市場の出す台数も少なかった。そこで、パナソニックの専用部隊が参加し、大ヒット商品となった。こうしたシナジーを生む体制は、1月から本格的にスタートした。今後はより大きな、シナジーメリットのある展開も生まれるだろう」とした。

 最後に大坪氏は、「社長として自身を採点すると何点か?」という質問に対し、「皆様方に評価していただきたいが、巨額の赤字を出したという視点では、0点どころか、マイナスだと思っている。しかし、そうであっても成長への布石となる新しい体制を発足できたとすれば、何十点か、少し点数がいただけるのではないかと思っている。自身の達成感、心の中では大いに満足しているが、それで本年度の大きな赤字が打ち消されるとは思っていない」と厳しい採点をした。

 一方、創業家出身以外では、最年少となる55歳での社長就任について聞かれた津賀氏は、「報道で最年少という言葉を多く使って頂いているが、それでも55歳ですので、あまり年少だとは思っていません(笑)。年齢よりも、不可欠なのは“スピード感のある経営”であり、それができなければ55歳であっても意味がないと思っている」と語った。


(2012年 2月 29日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]