「インディ・ジョーンズ」BD発売会見で語られた制作秘話

-VFX/音響担当者が思い出のシーンを振り返る


インディ・ジョーンズ コンプリート・アドベンチャーズ
Lucasfilm, Indiana Jones and related properties are trademarks and/or copyrights, in the United States and other countries, of Lucasfilm Ltd. and/or its affiliates. TM & (C) Lucasfilm Ltd. All rights reserved. All other trademarks and trade names are properties of their respective owners.

 Blu-ray BOX「インディ・ジョーンズ コンプリート・アドベンチャーズ」の発売を記念した記者会見が米国時間の16日、サンフランシスコ郊外のスカイウォーカー・ランチで開催。その会見の模様が現地より届いた。

 「インディ・ジョーンズ コンプリート・アドベンチャーズ」(13,650円/PPWB134604)は、9月14日にパラマウント ジャパンから発売。音声はDTS-HD Master Audioで収録するほか、日本語も5.1chサラウンドで収録予定。ディスクは本編BD 4枚に、特典BD 1枚を加えた5枚組。特典は、新収録のものを含む、ドキュメンタリーやインタビューなどを用意しており、詳細は既報の通り。

 記者会見が行なわれたのは、テクニカル・ビルディングと呼ばれる建物の地下にある劇場。登壇したのは、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」のVFXを手掛けたデニス・ミューレン氏(「スター・ウォーズ」シリーズのVFXなどで知られる)と、「インディ・ジョーンズ」シリーズ全作の音響を担当したベン・バート氏(スター・ウォーズでR2-D2の声や、ライトセーバーの音、ダースベイダーの音なども作成している人物)。


左がデニス・ミューレン氏、右がベン・バート氏
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 一番の思い出を聞かれたミューレン氏は、「魔宮の伝説」のトロッコ・シーンについて語った。「意外にも予算があまりない映画だったから、ミニチュアのセットを使って、スチ-ルカメラで撮影するというアイデアを思いついて、みんなに喜ばれたよ。約90メートルにも及ぶ坑道を作らなくて良くなったから、ずいぶんお金を節約できたんだ。そうして、約30メートルのミニチュアの坑道を作って、ストップモーション・アニメの要領で1フレームずつ撮影していった。映画で使われるのはほんの数秒だったから、それで大丈夫だったんだ。出来栄えも良くて満足したよ」。また、同作で俳優デビューを飾ったことも打ち明けた。「ハリソン(・フォード)が旅客機に乗ったとき、ライフ誌を持ったスパイが写るだろ。あれが私なんだ。とても奇妙な経験だったよ。いつもはカメラの後ろにいるのに、その日はカメラの前に座り、ハリソンと肩を並べた。『一体、私は何をしているんだ? 』って、自分にツッコミを入れたよ。ただ、もっと大きい役かと思ったけど、意外に小さな役で悔しかったね(笑)」と、カメオ出演の経験を振り返った。

 サラウンドのバランスだけでなく、効果音も作るバート氏は、「インディ・ジョーンズ音集」の制作秘話も披露。「『魔宮の伝説』のトロッコの音は、夜のディズニーランドで収録したものを使ったんだ。閉園後のディズニーランドにお邪魔して、音楽を消してもらい、照明を付けたスペース・マウンテンやビッグサンダー・マウンテン、マッターホルンに乗って録音した。乗り物の舞台裏が全部見れて、興味深かったね。それから、このスカイウォーカー・ランチでも、いろいろな音を作って録音した。「失われたアーク」制作当時、ここはまだ何もない場所でね。カエルがゲロゲロ鳴いていたもんさ。丘にはいろいろな大きさの石がたくさんあるから、そうした石を集めてゴツゴツした岩肌に転がしては、ゴロゴロ、ガラガラという音を録音し、スタジオで加工した。『失われたアーク』で寺院が崩れるシーンなどに使ったよ。インディ・シリーズの岩関連の音は、あの時作った音なんだよ。それから、この劇場があった場所は何もなかったから、爆発音を録音するためにいろいろなものを爆破させ、ピストルやライフル、機関銃などを発砲して、その音を録音した。薬莢が落ちる音がなかなかうまく録れなくて苦労したもんさ。とにかく、ひたすら発砲していたら、近所の人が通報したのか、テロが起きたかと思われて、警察の車が押し寄せたことがあったよ」とのこと。

 肉体派のインディは、素手で殴る乱闘シーンも多い。インディのパンチ音についても裏話があるという。「実際に顔にパンチをしても、音はほとんど出ない。でも、映画の中では、破裂音がする。それは昔の映画の影響なんだけどね……。とにかく、既存のパンチ音集からの音を使いたくなかったから、野球用品やフットボール用品、レザージャケットを使って、オリジナルの“インディのパンチ音集”を作ることにした。空中に投げたミットをバットで思いっきり打つ音も良かったけど、カボチャは最高だったね。クロケットのボールをソックスに入れて、ヌンチャクのように使ってカボチャを“死ぬまで”殴った。素晴らしい音だったよ(笑)。そうして、パンチ、ボディブロー、キックなどの音を作って録音して、“インディ音集”に入れていった。それらは、シリーズ全体を通して使用しているよ」。

 「インディ・ジョーンズならでは」というオリジナリティについて質問が飛ぶと、バート氏は「インディは、ムチとピストルと拳(こぶし)という武器を持っている。それら全部の音を「失われたアーク」の時に作ったんだ。そうして、一度作った音を、ほかのインディ映画にそのまま、または加工して使った。最初に取りかかったのは、確か銃の発砲音だったと思うよ。いろいろな種類の銃をスカイウォーカー・ランチに持ち込み、望みの音が録れるまで、ランチ内のいろいろな場所、谷や広場、林の中、下水パイプなどで発砲して、録音した。興味深いことに、このミキシング施設の入っているテクニカル・ビルディングが建っている場所は、当時は何もない谷で、ここでも発砲音を録音した。それが今、ミキシング・スタジオになっている。面白いよね」と答えた。

 サウンドデザインを手掛けた中で、特にお気に入りのシーンについては、「『失われたアーク』の中では、バーのシーンの銃撃戦の発砲音。インディは自分のピストルを発砲し、ナチのスパイはマシンガンを発砲した。そして、弾が跳ね返ったりして、弾丸が部屋中に飛び交った。あの瞬間が「失われたアーク」で一番好きだね。なぜなら、ぼくは銃の発砲音が大好きだからかもね。子供の頃、それを何度も録音したもんさ。そんなぼくに、大きな銃撃戦のシーンの音を作るチャンスを与えられた。たまらない経験だったよ。『魔宮の伝説』は、トロッコの追跡シーンだね。トロッコがまるでジェットコースターみたいに走り、相手を追跡する。あのシーンは、BGM(音楽)が付いてないんだ。トロッコの走る音と、声と、銃を発砲する音。車輪が回り、カーブするときにはキーキーという音をたて、トロッコ同士がぶつかる。本当にいろいろな音が必要だったから、まるで音楽を作曲しているみたいだった。ただ、楽器ではなくて、金属の塊や金属の車輪を使ったけどね。いろいろなジェットコースターの音を録音した。夜のディズニーランドに行き、マッターホルンやスペース・マウンテンなどに乗せてもらって、走る音を録音した。そうした音の数々で、あのトロッコの追跡シーンの音を作ったんだ。『最後の聖戦』は、飛行機の空中戦のシーンだよ。このシーンもBGMはなく、セリフもほとんどなかった」とのこと。

 

記者会見後には、敷地内のアーカイブ倉庫で「インディ」シリーズの小道具見学が行なわれた会見で話題になったトロッコや、「魔宮の伝説」の冒頭に出てきた黄金の像、「失われたアーク」の聖櫃、「最後の聖戦」の聖杯、そして、ムチと帽子をはじめとした衣装などが並んでいた。今秋にロサンゼルス郊外で開催の“インディ展”に向けて準備しているところだという
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 最後に、ベン・バート氏のコメントを掲載する。

 「インディ・ジョーンズ レイダース 失われたアーク<<聖櫃>>」で少し修正を入れたんだ。今はサラウンドのトラックを広げることができるけど、当時はできなかったからね。

 興味深いのは、いくつかの音は、「インディ・ジョーンズ レイダース 失われたアーク<<聖櫃>>」のオリジナルのモノラルのサラウンドのトラックに入っているものだった。

 もちろん、そうした音のオリジナルはステレオで録音していた。ラッキーなことに、そうしたオリジナルの音をすべて保存していて、今回、見つけることができたんだ。だから、オリジナルの映画版に入っていた音と照らし合わせて、それにピッタリ合うように、ステレオの音をつけることができた。同じ音の内容ではあっても、もっと空間を、奥行きを感じられる音を付けることができたんだ。

 それから、いくつか、新たに音を付け加えた箇所があるよ。それらの音は、インディ音集から消してしまったものだった。消してしまった音は、ファイト・シーンで使った、体を殴った時の音だっていうのは分かっていた。1981年当時、それらのテープを消してしまったんだ。だから、オリジナルで使ったのと同じ生地を使って作ることにした。音がそこだけ突出しないようにね。

 ブルーレイやDVDでリストレーションが行われているというのは知っているよ。でもそれらは、音響効果をオリジナルとがらりと変えてしまっている。古い映画に新しい音を入れているんだ。そういうのは、とてもがっかりするよ。なぜなら音の違いがぼくにはすぐに分かって、なぜそんなことをするのだろうって考えてしまうからね。だから今回、そういうのは絶対にしたくなかった。今の時代、映画の音の部分にはたくさんのスペースがある。ぼくらは、オリジナルの音源集から、オリジナルの音を持ってきて、以前はスペースがなくて入らなかった場所に入れるというのをやった。そうすることで調和が保てるんだ。

 「失われたアーク」のオリジナルのサラウンドトラックは、ここに自分たちのミキシング施設がまだなかったから、ロサンゼルスの素晴らしいミキシング施設でミキシングをした。1981年当時の劇場のサラウンドはとても問題があった。正しく再生されるかどうかまったく分からなかったんだ。音量レベルだけでなく、そもそも、再生されるかどうかも疑わしかった。だから、「失われたアーク」のオリジナルのミックスは、左、中央、右というものだった。サラウンドトラックを使わなかったんだ。そうして、音楽や音響効果、セリフの音やバランスが正しいかどうか、ジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグのアプルーバルをもらった。そして、アプルーバルが出た後で、別のミックスを作った。コンサバなサラウンドのエフェクトを入れたものをね。ほとんどの映画館は、少なくともフロントのスピーカーはちゃんと作動するだろうと知っていたから、それがきちんと再生すれば、サラウンドもうまく行くだろうって考えた。素敵な味付けって感じでね。でも、話のメインの内容については、サラウンドに入れないことにしたんだ。でないと、きちんと再生されない映画館では、観客が話について行けなくなる可能性が出てくるからね。THXが存在する前、デジタル革命の前の時代だったからね。そうして今、「インディ・ジョーンズ レイダース 失われたアーク<<聖櫃>>」を聴いた時、「ぼくらはなんて恐ろしいくらいコンサバなサラウンドにしていたんだ」って思ったよ。今なら、もっと豊かな経験ができるように作れる。だから、同じオリジナルのRawのマテリアルで、作り直そうじゃないかって考えて、それを実現した。だから、サラウンドはとても基本形だけど、やり直しをちゃんとしているし、モノラルではなくステレオの音楽をサラウンドに入れている。それがぼくらがやったことの一つだよ。

 何年か前、こんなジョークがあった。「みんなサラウンドに変わってしまう」ってね。実際、5.1chの後、7.1chが出て、11.1chが出て、今はドルビーAtmos Processが出てきた。ぼくは、こうした3次元を感じる音が好きだよ。でも、観客はどうなのだろう。最初にぼくがステレオを始めた時、気が散ると感じる人もいた。サラウンドだと、座っている場所、例えばスピーカーの近くだと、そうなることもある。だから、セリフの声をあまり近くに配置した音響を作らないようにしなければならなかったりする。でも、時間が経ったり、映画作家が最先端の経験を採用しようとすると、そうした考えは変化していく。今は、部屋中に音が回る時代となり、音が回るのが当たり前となっている。ホームシアターでも映画館でもね。そういう流れというのは、映画の内容に合ってさえいればぼくは大歓迎だよ。

 




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コンプリート・アドベンチャーズ


(2012年 8月 21日)

[AV Watch編集部 中林暁]