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まずは「自動車」を狙う。シャープがフリーフォーム液晶披露
デザインとUI革新で差別化。MEMSや高精細中国スマホ
(2014/6/18 16:14)
シャープは18日、大阪市阿倍野区のシャープ本社において、中小型液晶事業に関する説明会を開催。液晶ディスプレイのデザインの自由度を持たせた「フリーフォームディスプレイ」を新たに発表した。
従来のディスプレイは、表示領域の外周部に、ゲートドライバと呼ばれる駆動用回路を配置するために一定の額縁幅が必要であるため、四角形状が一般的であった。新ディスプレイは、ゲートドライバを表示領域内にある画素のなかに分散して配置することで、額縁を極めて細くするとともに表示領域にあわせて自由な形状のディスプレイを設計することができるのが特徴だ。
IGZOのTFT特性を利用して、ドライバ形成技術を進化。従来技術では、パネルの両側にドライバを配置するために四角となっていたが、新技術では、画素内にドライバを分散配置するため、パネル額縁にはドライバが不要になり、3辺超狭額縁化が可能となる。
これによって、自動車のスピードメーターの形状にあわせたデザインにしたり、スピードメーターとその他のモニターをひとつのディスプレイとしたインパネとして提案できるほか、円形ディスプレイを搭載したウェアラブル機器や、浮遊感がある新たな映像体験を実現する大型デジタルサイネージといったデザイン性が求められる用途での利用を想定している。
シャープ 代表取締役専務執行役員 デバイスビジネスグループ担当の方志教和氏は、「フレームレスの大型テレビや丸い形のテレビ、フレームレスなライフログデバイスやウェアラブルデバイス、フレームレスなスマートフォンおよびタブレット、黒いつなぎ目がないマルチディスプレイなどの利用が可能になる」としたほか、「この技術を活用することで、ディスプレイの真ん中に穴が開いたものを作ることも可能」などと述べた。
また、「フリーフォームディスプレイに関する特許は押さえており、他社が容易に真似ができないデザイン価値を提案できる。四角いマザーガラスからデザイン性のある形で取るために、2割程度のロスは発生するだろう。だが、歩留まりへの影響はなく、大きなコストアップは考えていない」という。
さらに方志代表取締役専務執行役員は、「まずは自動車メーカーに提案を行なっている。全世界約10社の自動車メーカーに訪問し、そのほとんどの自動車メーカーが興味を示しており、将来の採用に向けても前向きである。だが、自動車への採用には2~3年かかるとみており、2017年度から事業化することになる。早ければ2016年度にも一部採用があるだろう」とした。
「すでに、2、3社の自動車メーカーと、デザインインを開始している」(シャープ 執行役員 ディスプレイデバイス事業本部長の和田正一氏)という。
フリーフォームディスプレイの生産については、「三重工場の規模の小さな生産拠点を活用することになる。技術的なめどがついた段階であり、生産は来年半ば以降に開始することになる」としており、三重第1工場あるいは第2工場での生産となりそうだ。
IGZOの進化でFFDやMEMS展開を強化。中国でも高精細化
方志代表取締役専務執行役員は、同社の中小型液晶事業の方向性について説明。「新規独自技術の開発により、新たな競争軸を創出することが、液晶市場をリードしていくことにつながる」と述べた。
シャープでは、現在、中小型液晶の生産拠点として、三重工場、亀山工場を持ち、さらに、2005年に富士通から買収した米子工場において、MEMSディスプレイの開発を行っているほか、同社最初の液晶パネル工場であり、研究開発機能を持つ天理工場がある。
三重工場は、1997年に稼働した第1工場、2000年に稼働した第2工場。そして、中小型液晶の主力工場のひとつとして2003年に稼働した第3工場がある。また、亀山工場には、特定メーカー向けの中小型液晶を生産する2004年稼働の第1工場、2006年からテレビ向けの液晶パネル生産を開始する一方で、2012年からIGZO液晶の生産を開始し、2013年からスマホ向けの液晶パネル生産を開始した第2工場がある。
方志代表取締役専務執行役員は、「三重第3工場は、最先端パネル工場として、ユーザーへの新規提案と市場創出を担う。また、亀山第2工場は、第8世代マザーガラスによる生産能力を生かして、ボリュームゾーン展開の際に活用していくことになる。さらに、三重第3工場では、4Kや8K化への進化、亀山第2工場ではIGZOの4Kへの進化を担うことになる」と位置づけた。
同社では、中小型液晶市場は、スマホおよびタブレット向けが年率14.5%で成長すると予測。2013年には3兆9000億円の市場規模が、2017年には1.7倍の6兆8000億円になると予測している。また、車載向けなどでは、年率8.7%で成長。2017年には、2013年比1.4倍の7800億円に成長すると予測している。さらに、スマートフォンおよびタブレット向けの高精細化が進むと予測。スマートフォンにおいては、2013年には11%だったフルHD以上の構成比が、2017年には44%に、タブレットにおいては、2013年には20%だったものが、2017年には56%と過半数に達すると予測した。
そうした市場予測を背景に、シャープでは、スマホやタブレット、車載市場向けの展開を強化。また、高精細化に向けた事業展開が今後の柱と位置づけている。
その一方で、中小型ディスプレイについては、中国スマホメーカーとの取引拡大が、事業拡大に向けて重要な意味を持つことを強調した。
「現在、世界のスマートフォン市場における中国メーカーの販売台数シェアは約3割だが、2017年には4割を占めるものと予想している。当社にとっても、中国スマホメーカーとの取引が重要になる」とし、「中国のスマホメーカー全体で約20社と理解している。そのなかで、13社とファーストサプライヤーとして、シャープがメインに取引する形になっている。昨年は7社の中国重要ベンダーとの取引だったが、これが今年は13社に拡大することになる。今後も安定顧客との取引拡大に取り組む」とした。
また、「中国スマホメーカーと取引するパネルが、収益性が高い高精細ゾーンに移行している。この勢いは、先進国メーカーの4倍速ともいえるものだ。2014年度下期には、ほとんどが高精細ゾーンのパネルの取引になる」と予測した。
シャープでは、2014年6月から、スマホ向け5.5型WQHD(2,560×1,440ドット)パネルの生産を三重第3工場で開始し、7月からは中国スマホメーカーへの供給を開始するほか、2014年7月からは、亀山第2工場において、高精細フルHD(1,920×1,080ドット)のIGZO液晶パネルを生産し、同様に中国スマホメーカーに供給する予定だ。
また、方志代表取締役専務執行役員は、「高精細化や狭額縁化の競争は限界を迎える。その一方で、低消費電力化のニーズは今後も続いてくことになるだろう。高精細化するなかでも低消費電力は競争軸になる」としながらも、「新たな競争軸として、異型ディスプレイによるデザイン性能、屋外視認性や低温環境での表示性を追求する耐環境性能、センサーを統合することなどで操作性を高めるユーザーインターフェース革新があげられる。これまでの液晶では限界があった市場にも参入でき、市場を創造できる技術が必要である」と語った。
これからの3つの新たな競争軸に関しては、スマートフォン向けには、2015年度から本格化すると見ており、タブレットおよびノートPC向けでは、2年遅れて2017年度から本格化すると予想している。
デザイン性能の自由化では、今回発表したフリーフォームディスプレイを差別化製品にあげる一方、耐環境性能という点では、MEMSディスプレイをあげた。さらに、ユーザーインターフェース革新では、IGZO液晶のタッチパネルの低ノイズ性や、センシングデバイスとの融合などをあげている。
とくに、MEMSディスプレイに関しては、「マイナス30度の環境でも動作し、外光特性にも優れた耐環境性能を実現できるのに加えて、桁違いともいえる超低消費電力、有機EL以上の色表現が可能となる高色純度が、大きな特徴。従来のディスプレイでは達成できないような新たなディスプレイ市場を開拓できる」と期待を寄せる。
MEMSディスプレイは、クアルコムと共同開発しているディスプレイ技術であり、カラーフィルターや偏光板を使用しないため、光の利用効率が液晶モジュールの2倍以上も高いこと、MEMSシャッター速度が温度依存しないため、マイナス30度でも動画表示が可能であること、NTSC比115%という色再現範囲が広いという特性がある。
外光が当たり、厳しい温度環境となるオートバイのインパネなどへのディスプレイ搭載なども可能にする技術だと位置づけているほか、長時間の連続使用が可能な超低消費電力タブレットや、どんな環境でも視認性が高い全天候型タブレットなどにも利用できるという。
「カメラで撮影した映像を、暑くても、寒くても即時に表示できることから、自動車のピラーに後方の画像を映し出し、サイドミラーレスといった応用も可能になる」としている。
方志代表取締役専務執行役員は、「シャープは、これまでも時代を先取りするディスプレイを世の中に送り出してきた。今後も引き続き、驚きと感動を与える商品を創出する」と語った。
なお、有機ELディスプレイについては、「消費電力などの問題や、ウェアラブルの応用性などを含めて難しいと考えている。研究開発は進めているが、納得いただける製品になるかという点で課題がある」などと述べた。