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“発想の転換”が生んだシャープのフリーフォーム液晶
'17年実用化へ。「他社にすぐ追従されない」
(2014/7/7 18:09)
シャープは、自由なデザインが特徴の「フリーフォームディスプレイ」やMEMSディスプレイなど、中小型液晶ディスプレイへの取り組みに関する記者説明会を行なった。同技術は車載ディスプレイなどに向けて2017年度の実用化を予定。6月に大阪で記者会見を行なったが、今回は東京で技術の詳細や今後の展開などについて説明した。
開口率の低下をIGZOなどがカバー
「フリーフォームディスプレイ」は、従来の四角形にとらわれない自由な形を実現したディスプレイで、車のスピードメーターなどで様々なデザインを採用可能。従来技術では、パネルの左右両側にゲートドライバと呼ばれる駆動用回路を配置するために一定の額縁幅が必要だが、新技術は画素内にドライバを分散配置。ゲート信号線を内側から外側に向けて駆動し、パネル額縁にはドライバが不要な3辺超狭額縁化を可能とした。
これにより、車のスピードメーターの形状に合わせたデザインにしたり、スピードメーターとその他のモニターをひとつのディスプレイとしたインパネとして提案可能。さらに、フレームレスな大型テレビや、円形ディスプレイを搭載したウェアラブル端末、フレームレスなスマートフォン/タブレット、マルチディスプレイなどへの応用を想定している。まずは車載機器への採用を見込み、2017年度の実用化を予定している。
同社はこれまでも駆動回路の集積/小型化による狭額縁化を行ない、“フレームレス液晶”に取り組んできた。しかし、開発を進める中で中型以上のサイズにするには低温ポリシリコン液晶では技術的に困難だったという。
そこで、「従来は考えもしなかった発想の転換」により生まれたのが今回の技術だという。デザインの自由度が高まる一方で、従来はフレーム部にあった配線がディスプレイの表示領域に入ることから、開口率はその分下がるが、IGZOの低消費電力や、バックライトの工夫により、こうしたトレードオフを無くしつつ「形を変えることの価値」を訴求していく。
生産コストに関しても、パネルそのものに大きな違いは無く、円形に切るといった工程で違いが出てくるが、こういった点についても「技術開発でコストを従来並みにする」としている。なお、IGZO以外にLTPSやアモルファスシリコン(a-Si)でも、技術的には可能としているが、トランジスタサイズの小さなIGZOの場合、前述した開口率の低下を抑えられ、より大きな画面に向いているという。今回の発表に至った経緯として「一足早く発表することで権利を取得した。この技術を活かすIGZOを他社に先駆けて実用化しているため、すぐ他社に追従されることはない」(ディスプレイデバイス開発本部 表示モード開発センター 伊藤康尚所長)としている。
車載以外の、テレビやウェアラブル端末といった製品への搭載について、実現の時期は明らかにしていないが、画面サイズの大型化などについては「亀山第2工場で生産できるIGZOであれば可能」(ディスプレイデバイス開発本部 開発戦略統括 今井明氏)としている。
また、最新の取り組みの一つとして、クアルコムと共同開発しているMEMSディスプレイも紹介。カラーフィルターや偏光板を使用しないため光の利用効率が高く、特に赤や緑といった色の表現が一般的な液晶に比べて向上。色域はNTSC比で120%で、コントラストも従来の液晶に比べ優位としている。
さらに、MEMSシャッターが温度依存しないことから、マイナス30度でも動画表示できるなど過酷な環境下でも変わらず利用可能な点を紹介。発表会場には7型/1,280×800ドット(217ppi)の新開発MEMSディスプレイを展示。高色再現範囲のカラー展示や、ローパワーモードでの切り替え表示などの画質をアピールした。
応用例としては、超低消費電力のタブレットや、晴天下でも高い視認性の全天候型タブレット、車のサイドミラー映像を表示するディスプレイ、バイクナビなどを想定。今後の大画面化については、技術的には可能だが、駆動部分の大型化が伴うため、需要に応じて開発を検討するという。
MEMSディスプレイの開発は、2005年に富士通から買収した米子工場で行なっており、現在は2.5世代。生産コストについては「今後MEMSが普及していく中で、大きなマザーを作って行けば、若干のコストアップはあるかもしれないが、長い目で見ればほぼ同じレベルになるのでは」(伊藤氏)とした。
「デザイン価値提案」と「新たな市場開拓」
シャープのディスプレイデバイス開発本部 開発戦略統括 今井明氏は、同社の中小型ディスプレイ事業の取り組みについて、需要動向やスマホ/タブレット向けの高精細化の推移などをデータを元に説明。中小型液晶市場はスマホ/タブレット向けが2013年には3兆9,000億円から、2017年には1.7倍の6兆8,000億円になるという予測を示した。車載向けなどは、2017年に2013年比1.4倍の7,800億円へ成長すると見込んでいる。フルHD超の解像度を持つスマートフォンの構成比は、2013年の11%から、2017年には44%に、タブレットは、2013年の20%から、2017年には56%まで伸長すると見ている。
こうした中で、同社は6月より三重第3工場で生産開始した500ppiクラスのWQHD(2,560×1,440ドット)解像度を持つパネルや、 亀山第2工場で7月から生産開始予定のフルHDパネル(400ppiクラス)などを挙げ、IGZO/アモルファスシリコン/低温ポリシリコンそれぞれの特性に合わせた多様なニーズに応えられるという点をアピール。フリーフォームディスプレイでは「他社が容易に真似できないデザイン価値を提案し、MEMSでは従来の液晶では達成できなかった超低消費電力/耐環境性能/高色純度による新たな市場を開拓する」とした。