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「日本のサイネージは遅れている」。2020年に向けパナソニックとNTTが映像革新で提携
(2015/6/17 18:58)
日本電信電話(NTT)とパナソニックは17日、「映像サービスの革新」や、「ユーザーエクスペリエンスの進化」などを通じて、2020年の「来るべき未来」の実現に向けて、業務提携を行なうことで合意。NTTが得意とするブロードバンドソリューションと、パナソニックが持つ高品質映像ソリューションを組み合わせることで、新たな映像コミュニケーションのスタンダードモデルを提案する。
パナソニックの津賀一宏社長は、「2020年以降を見据えて、2017年度を目処に協業の成果を作りたい。新たな技術を活用して、新たなサービスを作るのではなく、既存の技術の組み合わせによって、新たなサービスを創出するといったことにも取り組みたい」とした。
映像エンターテイメント分野では、高品質なAVデバイスおよびAVシステムとブロードバンドサービスを活用して、スタジアムにおいて、観客の好みの映像を楽しむことができるサービスや、臨場感あふれる映像を日本のみならず世界に届けるサービスなどを提案。スタジアム内に留まらず、様々な映像エンターテイメント分野での展開を図る。
安心・安全分野では、映像モニタリングシステムとサイバーセキュリティ技術などをベースに、安心・安全な暮らしを支えるとともに、必要な情報を、必要な時に手に入れることができるサービスを提供することで、訪日外国人や高齢者、障害者など、誰にでも、やさしい社会を実現するという。
そのほか、映像分野での協業だけに留まらず、スマートシティなどのまちづくり分野においても連携を図り、地域の発展に貢献するとともに、これをベースに海外展開できるモデルづくりにも取り組むという。
津賀社長は、「2020年に向けて、様々なソリューションを実現する機会が増えていると感じている。パナソニックでは、スタジアム総合演出ソリューションのような新たな映像サービス、訪日外国人向けの多言語インタラクティブサイネージなどによるユーザーエクスペリエンスの進化などに取り組み、社会に貢献したいと考えている。パナソニックには、お客様に対して、最も身近に寄り添うことができる家電のDNAがある。それを活かして、お役立ちできる領域を増やそうと考えている」。
「これまでは、家電の中核はテレビであり、いまでも重要な製品であるが、これらのノウハウと蓄積は、家電としてのテレビだけに留める必要はない。ただ、その際に不可欠なのは、活動する空間を知り尽くしたパートナーの力を借りることである。パナソニックが単独でサービスまで展開することは難しい。パナソニックは、小規模で、スタンドアロン型のものを作ることが多かった。これまでの自前主義、単品の端末指向、技術偏重といった考え方も変えていかなくてはならない。パートナーの強みと組み合わせることで新たなソリューションを作りたい」とした。
パナソニックでは、4K/8Kデバイス、マルチアングルカメラ、映像情報デバイス、可視光通信、監視カメラ、画像認識技術などを活用。NTTグループの知見やノウハウと組み合わせることで、新たな時代の映像やディスプレイの創出、新サービスや用途開拓に取り組む考えを示した。
だが、「ここで創出するサービスは、テレビを対象にはしているが、テレビに向いたサービスではない。これまでのような放送を受信するためのテレビに向けたものではなく、毛色の変わったものを提供したい」とし、「薄型テレビの登場によって、ブラウン管テレビの36型という上限サイズが取り払われ、大画面が価値となったが、これを改め、ライフスタイルやライフスペースに最も相応しいものを提供したいと考えている。壁一面のテレビというのもひとつの使い方であるし、20型の4Kディスプレイを手元で使うというのもひとつの使い方になる」と語った。
また、「エンターテイメント、コミュニケーション、セキュリティの3つの分野からNTTグループと協業する。NTTグループに期待するのは、いつでもどこでも利用できるネットワーク、快適なモバイル環境、公共スペースへ展開する力。日本全国へ横展開を図り、新時代の映像サービスをつくるとともに、日本の社会の姿や未来像を世界にも発信したい」と語った。
さらに、「様々なサービスをローカライズするときに、ICTの標準技術の上で構築されているのかが大切である」と、新たな映像サービス創出における課題を指摘してみせた。
なお、パナソニックでは、東京オリンピック/パラリンピック関連事業で1,500億円の事業創出を目指しているが、「今回の協業は直接的には含んではいない。協業による組み合わせで創出するサービスなどを通じて、新たな領域へと進出。世界に発信できるものを新たに加え、様々な形で発信することで、新たなビジネスへとつなげたい」と述べた。
「日本のデジタルサイネージは遅れている」
NTTの鵜浦博夫社長は、「映像サービスの革新と、ユーザーエクスペリエンスの進化を目指し、2020年に日本に集まる様々な人たちに楽しんでもらえる環境をつくりたい」とし、「パナソニックは、オリンピックのワールドワイドパートナー企業であり、NTTが2020年を目指すと考えた時点で、パートナーは決まっていた。ほかは考えられなかった。今年の春先に津賀社長と話し合いの場を持ち、協業を決定した」と明かす。
また、鵜浦社長は「デジタルサイネージという観点でみれば、まだまだ日本は遅れている。東京の中心部においても、そのほとんどがアナログであり、欲しい情報が手に入らないという問題がある。また、東京オリンピックまでに30を超える言語対応をしてほしいという要望も出ている。いかにシンプルで使いやすいものにするかが大きなテーマである」。
「日本の魅力を伝えるためにも、様々な情報を、様々な言語で、正しく伝えることが大切である。そのためには、デジタル化とともに、ユーザーインターフェースの統一、あるいは標準化する必要があると考えている。あるところではスマホをかざすだけで情報を得られるが、別の場所ではアップロードしなくてはならない、あるいはアプリをダウンロードしなければ使えないというものもある。これでは、『おもてなし』にはならない。技術の競争をするのではなく、シンプルで、使いやすいインタフェースを実現し、日本のなかでは同じ使い方ができるといったことを目指したい」。
「情報サービスを提供する側に対しては、APIをオープンにして提供し、情報の受け手側はスマホをかざすだけでいいというシンプルな使い方に統一するといったことができるといいだろう。政府や、関係方面にも提言しているが、基本部分はパナソニックの力を借りて、標準的な使い方を確立していきたい」と述べた。
鵜浦社長は、具体的な利用シーンとして、Wi-Fiを活用したサービスを挙げた。
「スタジアムを訪れた国内外の人たちが、それぞれに異なるデバイスを持ちながらも、楽しむことができるサービスを提供したい。それを実現するひとつの考え方がプレミアムWi-Fi。スタジアムを訪れた8万人すべてがWi-Fiに接続して、リッチコンテンツを配信するということは不可能。ファンクラブなどを対象に事前登録した人を対象にIDを付与し、これらのユーザーに対して、プレミアムWi-Fiサービスを提供することができる。ここでは新たなパートナーとの連携が必要になり、ここでNTTグループにとってのビジネスチャンスが生まれる」とした。
さらに、「2020年は新たなビジネスモデルを生み出すきっかけになる」としながら、「パナソニックとの協業は、2020年につながるだけでなく、地方創生にもつながると考えている。別のパートナーにも協業のなかに入ってもらって、安心・安全を提供する新たなサービスを作りたい。NTTとパナソニックだけでは、次の展開が難しい。デジタルサイネージなどの道具立ては、我々が行ない、その上でコンテンツサービスを行なうパートナーと新たに協業するということもあるだろう。こうした個別サービスについて、新たなパートナーとの協力関係を築く可能性がある。NTT自らは、触媒役としてサービスの融合に取り組むことになる。そして、これは海外にもつながる取り組みだと考えている。日本の産業の発展に役立ちたい」と語った。