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超小型ケーブルレスBTイヤフォン「EARIN」はどう作られた? 誕生の秘密
(2016/3/10 12:28)
スウェーデンのベンチャー企業、Epickal ABが開発した、ケーブルレスのカナル型(耳栓型)Bluetoothイヤフォン「EARIN」。直径14.5mm、奥行き20mmで重さわずか約3.5gという超小型サイズであることや、左右のユニットを繋ぐケーブルを無くしたデザインが特徴で、'15年末にモダニティから直販32,184円(税込)で発売。注目を集めている。
10日、来日した開発者の1人であるペア・ゼンストローム(Per Sennstrom)氏が、開発に至った経緯や今後の展開について、都内で説明した。Sony EricssonやNokiaに勤めた経験を持つゼンストローム氏が、3人のエンジニアとEpickal ABを起業。約150万ドルの資金調達に成功し、EARINを産み出した。
「耳にフィットする、小さくてケーブルレスなイヤフォンを作りたかった」
EARINは、耳栓形の小型ボディに米Knowls製のバランスドアーマチュア(BA)ドライバと、独自開発のBluetoothチップやアンテナ、バッテリなどを内蔵。ペアで構成されている。ゼンストローム氏が「耳にフィットする、小さくてケーブルレスなイヤフォンを作りたかった」と語るとおり、Bluetoothイヤフォンとして「世界最小クラス」を実現した。
Bluetoothコーデックは、AAC、aptX、SBCをサポート。周波数特性は20Hz~20kHz、感度は105dB、インピーダンスは25Ω。BAドライバを選んだ理由は、ダイナミック型ドライバを採用するよりも本体を小型化できることと、実際にプロトタイプで試聴を重ねた結果、「ダイナミック型よりBA型の方が音が良かったため」だという。
開発にあたって試行錯誤を重ねたのが「Bluetoothのアンテナ設計」と「バッテリの小型化」。Bluetoothの仕様として、スマホとBluetoothイヤフォンのように機器同士が1対1でペアリングするのが基本だが、EARINは左右が完全に独立したワイヤレスユニットで構成されるため、左ユニットで受信した信号のうち、右チャンネル分を右ユニットに飛ばし、左右でステレオ音声を同期させる手法を用いている。左右を繋ぐケーブルを備えた通常のBlueoothイヤフォンでは、ケーブルをアンテナとして使う製品も存在するが、EARINではそれができない。
「言葉にすると簡単なようだが、開発には苦労した。当初は音質的な問題も抱えていた」と話すゼンストローム氏は、Bluetoothの電波は体内を通過せず、頭の周りに信号を飛ばす必要が有るため、アンテナ感度が重要になる。耳に隠れるほどの小ささがコンセプトであるため、アンテナの開発ではコンパクトさと感度のバランスに苦労したという。このアンテナ小型化の技術については特許も取得している。
バッテリの開発についても「筐体サイズとバッテリのバランスを見つけるのに苦労した。EARINの(内部パーツの)大部分をバッテリが占めていると言っても過言ではない。新しくバッテリを作ってくれる会社を探し、製造委託を行なった工場には新しい方法を開発してもらった」。
EARINはシンプルかつミニマルなデザインを追求し、音量調整ボタンだけでなく電源ボタンも省いている。充電時に使う、アルミ削り出しの専用カプセルから出し入れとイヤフォンの電源オン/オフが連動する仕組みで、金色のロゴマークが充電用接点を兼ねている。イヤフォン側のバッテリ容量は60mAhで、連続再生時間は約2.5~3時間と比較的短いが、専用カプセルにも600mAhのリチウムイオンバッテリを内蔵。持ち運びながらフル充電が3回分行なえるという。充電時間はイヤフォン、カプセルとも約70分程度。さらに、ユニットを片耳ずつ使うモノラルモードにより、最長約10時間の使用を可能としている。カプセルの外形寸法は21×95mm(直径×厚み)、重量は42g。
iOS/Android対応の専用アプリ「EARIN」も提供し、左右ユニットのバッテリ残量確認やBASSブースト、ステレオ/モノラル切り替えなどがアプリ上から行なえる。3月末には海外ユーザーからの需要に応え、Windows Phone(Windows 10 Mobile)向けのアプリもリリース予定。
付属品としてコンプライ製のイヤーピースを同梱。ゼンストローム氏は「音に影響する、非常に重要なパーツ。開発時に色々試したが、最終的にはコンプライに落ち着いた」と話し、遮音性の高さを評価。今後のモデルでアクティブノイズキャンセリング機能を採用する予定はなく、「パッシブでも十分騒音を低減できる」としている。
小さいと紛失が気になるが、ジョギングなどスポーツ時に使用する落下防止用のシリコンアタッチメントも付属。モダニティでは左右ユニットや専用カプセルの個別提供も行ない、紛失や故障などに対応する予定だが「具体的な提供方法は検討中」(モダニティ 営業&マーケティングマネージャーの岡村健治氏)とのことだ。
Kickstarterで150万ドルと8,000人の出資者を確保。次期モデルも検討
EARINを開発したベンチャー企業、Epickal ABは、ゼンストローム氏と、キリル・トラジコフスキ氏(Kiril Trajkovski)、オレ・リンデン氏(Olle Linden)によって'13年に創業され、スウェーデン南端にある街、ルンドに本拠を構えている。
3人はSony EricssonやNokiaに勤務した経歴をもち、またお互いに音楽好きでもあった。「集まってお茶を飲みながら話すうち、通常のイヤフォンからケーブルをなくしたいというコンセプトが生まれ、EARINの開発がスタートした」という。ゼンストローム氏は現在、エンジニアチームの取りまとめや資金調達などの財務管理などを取り仕切っているという。
EARINの開発にあたり、資金調達の手段としてKickstarterを活用。高い注目度を背景に、最終的に8,000人の出資者・コミュニティメンバーと総額150万ドルの出資を得た。この額は当時のプロジェクトとしては世界で40番で、欧州では5番、北欧では最も多かった。
「EARINは本当にハイテクな商品。時間と資金が必要になることは分かっていた。でも従来のやり方、つまり銀行や投資会社に出資を募る方法ではなく、クラウドファンディングを選択した。(出資者に対して開発状況をオープンにすることで)出資者からダイレクトに反応をもらえる。また、EARINの企画には自信があり、成功する自信もあったので注目を集めることができた。だが反響は予想以上で、これほど成功するとは思っていなかった」(ゼンストローム氏)。
日本国内の販売代理はモダニティが担当。製品が耳栓サイズで小型なため、大型什器を用意して店頭展開を行なっている。取り扱いのきっかけは、モダニティのCEO、レジス・ヴェラン氏(Regis Verin)が友人から「モダニティ向きの商品がKickstarterにある」と紹介されたこと。国内での初披露は'15年12月開催の「ポタフェス2015 冬」で、実際にブースでは多くの人々が試聴に詰めかけていた。
今後の展望については、「ワイヤレスイヤフォンメーカーの先駆者として、(小型アンテナ開発など)技術的な優位性を保ちながら、市場のリーダーになろうと考えている。“次に何を出すのか?”と多くの期待が寄せられている。メーカーとして開発の手は緩めていない」(ゼンストローム氏)。次期モデルの詳細については明言を避けたが、ドイツ・ベルリンで秋に開催予定のコンシューマーエレクトロニクスショー「IFA」では何らかの発表が予定されているようだ。