ミニレビュー

“目玉おやじ”のような360度カメラ「Gear 360」。スマホと連携し手軽にVR

 9月に開催された「東京ゲームショウ」は、各社のブースにHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が設置され、VRゲームを紹介。さらに10月13日にはPS VRも発売されるなど、“VR元年”と呼ばれる2016年の盛り上がりも高まっている。

スマホのGalaxy S7 edge「SC-02H」と「Gear 360」

 とはいえ、PS VRやHTC viveなどのVR対応HMDは、それ以外にも高性能なPCや、ゲーム機が必要だったりと、環境を揃えるのはハードルが高い。そんなVR環境を、1社で、手軽に提案しているのがサムスン電子だ。

 同社は御存知の通りスマートフォンのGalaxyシリーズを手掛けるほか、それを挿入する事で手軽にVR体験ができる「Gear VR」も発売している。ここまでは「VRの表示」を可能にする製品だ、「VRコンテンツの作成」するものとして登場したのが「Gear 360」(オープンプライス/実売4万円台後半)だ。

Gear 360

 カメラというより“目玉おやじ”のような見た目にインパクトがある。前後に2つの魚眼レンズと1,500万画素のセンサーを搭載。3,840×1,920ドット/30fpsでの360度の動画や、静止画が撮影できる。レンズはF2.0。

 てっぺんに大きな録画ボタン。側面にメニューと戻るボタンを装備。側面のドアを開くとmicroSDとバッテリのスロットがある。ステータスを示す一行ディスプレイは上部にあるが、映像を表示するディスプレイは無い。設定などは本体でも可能だが、映像の確認はBluetoothで連携したスマホアプリ「Gear 360(Manager)」で行なう。設定操作もアプリからの方が便利だろう。側面にはNFCも備えており、対応端末であればワンタッチでペアリングできる。

てっぺんに大きな録画ボタン
側面にはNFCマーク
microSDカードとバッテリ挿入スロット

 アプリでは、カメラの映像をリアルタイムに確認したり、撮影解像度や露出などの設定変更、撮影指示も可能だ。アプリはサムスンの端末の場合はGalaxy Appsから、他のAndroid端末ではGoogle Playストアからダウンロードできる。対応端末としててアナウンスされているのはGalaxy Note7、S7、S7 Edge、S6、S6 Edge、S6 Edge +、Note 5だ。手持ちのXperia Z5でGoogle Playストアからアプリを探してみたが非対応だった。

「Gear 360(Manager)」

 カメラの撮影スタイルはおもに3つあり、フロントカメラだけを使って180度の撮影をする「シングルレンズ:フロント」と、リアカメラだけを使う「シングルレンズ:リア」、どちらも使って360度撮影する「デュアルレンズ」が選べる。今回はせっかくなので「デュアルレンズ」をメインに撮影した。このカメラ切り替えはアプリからだけでなく、Gear 360本体でも可能だ。

 録画スタートは簡単で、上部の録画ボタンを押すか、アプリの録画ボタンをタップするだけ。アプリにはカメラがとらえている映像が表示される。普通の動画撮影に加え、タイムラプス撮影や、ループ録画もできる。

ディスプレイが小さいので閲覧性はいまひとつだが、本体のみでも設定操作などできる

 スマホに表示するスタイルも選択できる。フロントとリアカメラが撮影している映像が、画面の上下に別れて表示される「デュアル表示」、左右につながる「パノラマ表示」、球状で表示して指でドラッグすると角度を変えて見られる「360度表示」が選べる。

 さっそく手に持って撮影を……と考えたが、カメラがまん丸なので、つかむと後方のレンズを手のひらで隠してしまう。レンズにかからないよう指でつまんで……というのも難しいし、そのまま撮影したら思いっきり手が写り込んでしまう。底部に三脚穴があり、そこに取り付けるミニ三脚がセットになっており、脚をたためば持ち手のようになる。この三脚と一緒に使うスタイルが基本と考えた方が良いだろう。

付属のミニ三脚をグリップのように使える
三脚穴は体部にある

 スマホで映像をチェックしながら、頭の上で手持ちしたり、一脚の先端に固定しながら撮影してみた動画が以下だ。全て3,840×1,920ドット/30fpsで撮影している。

Gear 360 サンプル動画
静止画サンプル

 カメラが小さく、丸いので、あまり威圧感が無い。作例は人のいない場所で撮影したが、人が多い場所でも“いかにもカメラで撮影している”感は薄く、気軽に撮影できるだろう。ボディカラーが白いというのもポイントかもしれない。小型三脚を活かし、仲間で飲み会などをしている時に、テーブルの中央に置いておくというのも面白いだろう。

 再生時は、カメラ内の動画をスマホのアプリ経由でストリーミング視聴する形になる。表示モードは先程の録画時と同様に、デュアル表示、パノラマ表示、360度表示が可能だ。また、見ている角度を変える場合は、指でドラッグして変えるだけでなく、スマホのセンサーを使って、角度を変えるモーションビューが選べる。

 Gear VRで視聴する場合は、スマホとGear VRを接続。画面の指示に従い、Oculusのアカウントを作成してログイン。Oculusアプリから視聴する形となる。前述のモーションビューと機能的には似ているが、使うアプリは違う。しかし、Gear VRにスマホを装着すると自動的にOculusアプリが立ち上がるので戸惑う事はないだろう。

Gear VR

 なお、Gear VRでのVR視聴は、カメラからのストリーミングはできず、スマホのストレージに保存された動画のみ。そのため、Gear VRを使う前に、VR視聴したい動画は「Gear 360(Manager)」アプリを使い、カメラからスマホへコピーしておく必要がある。

 転送すると、Oculusアプリ内の動画ファイル再生メニューに、コピーした動画が並ぶので、それを選んで再生するという流れだ。

 Gear VRでの視聴は、まさに自分がGear 360に変身したような感覚が味わえる。後ろを向けば、後ろの景色が、下を見ればカメラを持ち上げている自分の頭が見える。

 一脚に取り付けて、木の下で撮影すると、人間はなかなか入り込めない枝と枝の隙間などにもカメラを入れられて面白い。VR視聴すれば、目の前に枝、振り向くと間近に葉っぱ、というような臨場感たっぷりの体験ができる。自分が小さくなって、木の上で冒険しているような気分だ。

 慣れないうちはついカメラを急に上下させたり、向きを急に変えたりしがちだが、そうした映像をGear VRで視聴すると、誰かに頭を掴んで強制的に揺さぶられているような感じで気持ちが悪い。撮影時は定点観測カメラのように動きを止めるか、できるだけゆっくり動かすように注意した方が良いだろう。

 屋外で撮影した日は、あいにくの天候でコントラストの低い風景となったが、レンズの正面方向にある木の枝や葉っぱ、地面の落ち葉などは細かく解像されている。ホワイトバランスも自然で、アプリからはHDR機能や露出補正も設定できる。

 360度カメラでは、前後のレンズで撮影した映像を繋ぎ合わせているスティッチ部分の処理が気になるところだが、Gear 360は非常に自然だ。細かく注意して見ると、枝や天井の模様が少しズレている部分もあるが、空白が見えたり、色がおかしいなど、不自然さが無いので、普通に鑑賞していると繋ぎ目そのものに気づかないかもしれない。夜間の撮影でも目立つノイズはあまり出ない。

 スマホに転送した動画は、VR視聴するだけでなく、アプリの「Gear 360(Manager)」でカット編集や、YouTubeなどへのアップロードも可能だ。パソコンで編集したい場合は、サムスンのページから、「Gear 360 ActionDirector」という編集ソフトもダウンロードでき、ハイライト動画作成機能などが利用できる。

Gear 360 ActionDirector

360度撮影と視聴が手軽にできる魅力

 Gear 360とGear VRの組み合わせは“手軽さ”が最大の魅力だ。360度動画は今までのカメラと違い、どのような映像が撮影できたのか、VR視聴するとどのように見えるのかが、撮影現場でパソコンを開かず、スマホで確認でき、Gear VRもあればVRでの見え方も体感できる。専門的に感じる360度動画との距離を縮めてくれる製品だ。

 前述のようにVR視聴するためには撮影動画をカメラからスマホのストレージにコピーする必要がある。長時間撮影してファイルサイズが大きくなると、ワイヤレス伝送には時間がかかるのが難点だ。有線接続など、よりストレスの少ない方法も欲しいところだ。

 カメラ単体でも撮影できるので、PCと組み合わせて編集やアップロードもできるが、対応スマートフォンがあった方がやはり便利だ。そのためにも、対応端末の増加に期待したいところだ。

 カメラ部は小さく、丸く、ポケットやバッグに入れやすいので持ち運びしやすい。グリップにもなるミニ三脚と共に持ち歩く事が多くなるので、ちょっとした場所に設置しやすいのも利点だ。普通のカメラではアングルも細かく調整しなくてはならないが、このカメラではポンと置くだけでOKという気軽さもある。散歩や旅行などに持ち出すと、アクセントとして面白いだろう。

山崎健太郎