ミニレビュー

デジタルクロスオーバー内蔵のオンキヨーAVアンプ「TX-NR929」で自作スピーカーをフル活用

 久しぶりにAVアンプを買い替えた。購入したのはオンキヨーの「TX-NR929」(2013年7月発売/18万円)だ。覚えきれないほどある機能の中で、ただ1つ「デジタル・プロセッシング・クロスオーバー・ネットワーク(以下デジタルクロスオーバー)」を自作スピーカーとの組み合わせで試したいと思い購入に至った。購入は6月で、発売から1年近く経っていることもあり、10万円以下になっていたことも購入を後押しした。

オンキヨーのTX-NR929

デジタルクロスオーバーとは

 デジタルクロスオーバーはTX-NR929の中で主役とは思えない機能で、この製品を買った方でも「何それ? 」と思ったかもしれない。まずはデジタルクロスオーバーについて簡単に説明してみよう。

マルチアンプシステムは通常チャンネルディバイダを使用する

 一般的にマルチアンプシステムを構成するには、プリアンプとパワーアンプの間にチャンネルディバイダを挿入し、アナログ信号を低音、高音に分割してウーファ用、ツイータ用のアンプでそれぞれのスピーカーをドライブする。現在はチャンネルディバイダの存在自体が一般的とは言えず、高級オーディオ用や業務用といった製品が主流だ。信号の分割処理はアナログ方式とデジタル方式がある。

TX-NR929

 TX-NR929のデジタルクロスオーバーはDSPを使用してデジタル方式で低音、高音を分割する機能だ。ザックリ言うとプリアンプ部にデジタル方式のチャンネルディバイダを内蔵しているということだ。元々9.1ch対応の製品なので、5.1chや7.1chで使用する場合は使用しないパワーアンプが余る。それを利用して本来のフロントスピーカー用アンプにフロントの低音、フロントハイ用アンプにフロントの高音を振り分けることで、1台でマルチアンプシステムが構築できることになる。

スピーカー内部のLCネットワークを使うシングルワイヤ、バイワイヤとデジタルクロスオーバーの比較(オンキヨーのサイトより一部を省略して引用)
スピーカー位置の前後差もタイムアライメント補正が可能

 クロスオーバーさせる周波数は250Hz、320Hz、400Hz、500Hz、630Hz、800Hz、1,000Hz、1,250Hz、1,600Hz、2,000Hz、2,500Hz、3,200Hz、4,000Hz、5,000Hzの14通りから選ぶことができる。それぞれのスピーカーの出力レベル、正相、逆相の設定、スピーカー位置の前後差もタイムアライメント補正で片方の音をディレイさせることで調整が可能だ。減衰特性は12dB/oct、96dB/octといった数値は公開されておらず、メーカーの概念図を見るとほぼ垂直に減衰している。

自作スピーカー活用にぴったりなAVアンプ

 なぜ筆者はデジタルクロスオーバーが気になったのか……。一応筆者のオーディオ環境を説明しておこう。アンプはここ2世代はAVアンプ。AVアンプを使用しているが、映画を観ることはまれで、音楽と映画の比率は99:1で圧倒的に音楽だ。ピュアオーディオ派と聞かれると、昔から「プアオーディオ」と答えていた。あまりお金を掛けずにそこそこの音で細く長く付き合うという考え方だ。そもそも自分の耳の能力が高くないので、そこそこの音でそれほど不満もない。

 音楽ソースはMP3のファイルをNASに保存。iTunes PCと名付けた音楽専用PCからUSB、DACを経由してAVアンプにつないでいる。レコードの再生環境は維持しているが、レコード自体は10年以上前に大半を処分。手元に残したわずかなレコードもノンビリとCDに置き換えている。

専用PCをテレビにつなぎiTunesをトラックボール付ワイヤレスキーボードで操作
REGZAのHDズームでiTunesを拡大表示して見やすくしている
数少ないレコードも徐々にCDに置き換え中(左)。CD化されないレコードやCD化されていても見つけられないアルバムもある(右)

 スピーカーはウーファが25cmユニットの自作、ツイータがJBLの2426Jにウッドホーンの組合せ。ドライバーはTADのTD-2001の前身と言われるEXCLUSIVEのED-915も持っているがお蔵入りしてかなりの年数が経っている。当然スピーカーネットワークも自作で、百均で買ったプラケースに入れてスピーカーの後ろに転がしている。サブウーファが38cmの自作。アンプ内蔵ではないので、自作のモノラル真空管アンプで駆動している。

メインのスピーカーは自作ウーファとドライバー+ウッドホーン
スピーカーケーブルの途中に自作LCネットワーク
全体像はこの様な感じ。自作サブウーファはテレビ台を兼用。右端は仕事スペース

 10年前にプロジェクタを導入したが液晶テレビを買ってから稼働率は激減。昨年、川崎にオフィス兼住居を借りたのだが、プロジェクタは名古屋の自宅に残してきた。名古屋では7.1ch環境だったが、川崎では5.1chに変更している。映画を観ることは少ないが、音楽を聴く場合の基本が2.1chなので筆者にはAVアンプは都合がよい。

 改善したい点がいくつかある中で、少し前からLC(コイル/コンデンサー)ネットワークを見直したいと思っていた。だがLCネットワークの変更はそこそこ面倒臭い。まずスピーカーのインピーダンスはフラットではなくエンクロージャ(箱)によって変化するので計算通りには行かない。クロスオーバー周波数を下げるとパーツ代も高くなる。そんな矢先に現れたのがデジタルクロスオーバーだ。

 このデジタルクロスオーバーがあればクロスオーバー周波数は画面を見ながらリモコンで選ぶだけ。LCネットワークも不要。本来はアンプとスピーカーを直結させることで音がよくなることが主なのだろうが、ズボラ&プアオーディオの筆者には「メッチャ楽、さらに数千円×数個のコイルを買わなくていいから安い」と、まさに夢のような機能なのだ。

狙いのセッティングがより簡単に

 LCネットワーク付きのスピーカーケーブルのまま仮設置をしてTX-NR929の設定をデジタルクロスオーバーにすると「正しく設定しないとスピーカーを破損する恐れがあります。」と警告が表示された。確かにアンプとドライバーが直結なので、ウーファとツイータ(ドライバー)の接続を間違えると怖い。手元にスピーカーケーブルはあったが、見た目が異なるスピーカーケーブルを購入し、将来的に間違いが起こらないように対策をした。設定画面ではクロスオーバー周波数、それぞれのスピーカーの出力レベル、正相、逆相の設定、タイムアライメント補正が可能だ。設定操作は簡単だが、セッティングを煮詰めるには時間を要しそうだ。

デジタルクロスオーバーを選択すると警告が表示される
接続ミスを防ぐため見た目が異なるベルデンのケーブルを購入。バナナプラグもこの機会に一新した
設定画面。操作は簡単だがセッティングを煮詰めるのは簡単ではなさそうだ

 耳のよい人は聞きながらセッティングを進めるのだろうが、筆者は簡易な測定を行なっている。今回はフリーソフトのWaveGeneとWaveSpectraを使用して、周波数特性をチェックしてみた。測定はパナソニックのコンデンサーマイクユニットWM-61Aを搭載したマイクを使用。自宅マンションでの測定なので部屋の影響もあるし、外部の騒音の影響も受けるが、1つの目安にはなる。

 1つ目のグラフはウーファの素の状態。LCネットワークなしのケーブルでつないだものだ。2,000Hz過ぎから下がっていることがかわる。2つ目のグラフはクロスオーバー周波数を2,000Hzに設定したもの。2,000Hzから急激に減衰していることが分かる。

LCネットワークなしの素の状態
クロスオーバー周波数を2,000Hzに設定。5,000Hzくらいまで波形が見られるのは2次高調波や暗騒音の影響

 3つ目のグラフはクロスオーバー周波数を1,000Hzに設定したもの。1,000Hzから減衰しているが減衰特性がややゆるやかとなっている理由は分からない。最後はツイータも加えた状態で測定した。まだまだ細かなセッティングはこれからだが、LCネットワークやアッテネータで調整することと比べれば手軽にセッティングを変えられるのは大きなメリットだ。

クロスオーバー周波数を1,000Hzに設定。減衰特性がややゆるやかになったが、それでも96dB/octくらいとなっている
ツイータを追加した状態(サブウーファなし)。細かなセッティングはこれから行なう予定

 クロスオーバー周波数を下げたことで、ドライバー+ウッドホーンの領域を広げることができ、LCネットワークもなくなり音の輪郭がハッキリした印象だ。まだまだセッティングに時間が必要だが、簡単に設定が変えられるデジタルクロスオーバーは狙いどおりに便利な機能だ。

 デジタルクロスオーバーはあまり注目される機能ではないので他社も追従せず、オンキヨーも新製品の発表時にあまりこの機能をアピールしておらず、今後の製品への搭載が怪しい感じがしている。それが筆者の背中を押した理由でもあるが、できればAVアンプの標準機能として各社が搭載して欲しいと思っている。

 TX-NR929はスマートフォン内の曲をBluetoothでつないで再生できたり、NASに保存したMP3やハイレゾ音源を直接再生できたりと機能面は天こ盛りな反面、BluetoothのコーデックがSBCだったり、NASから再生する際の操作性が今一つだったりと不満もある。このあたりも含めしばらく筆者の試行錯誤が続きそうだ。

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奥川浩彦