◇ 最新ニュース ◇
【Watch記事検索】

【レビュー】PCスピーカーの枠を越えて進化「KS-3HQM」を聴く

クリプトンの新モデル。24/192ハイレゾもOK


 様々な機種がひしめくPC向けアクティブスピーカー市場に、2010年、ピュアオーディオスピーカー/アクセサリの技術を採用した「KS-1HQM」(49,800円)でクリプトンが参入。鉄球入りスピーカーベースや、インシュレーター、極太電源ケーブルなど、ピュアオーディオの技術を取り入れる事で、ハイクオリティな音質を実現。話題となったのは記憶に新しい。

 その後もカラーバリエーションが投入されているが、遂に「KS-1HQM」の上位モデルとなる、「KS-3HQM」が10月中旬に登場した。価格はオープンプライス/実売89,250円と、既存の「KS-1HQM」(直販49,800円)より高価になっているが、果たして音質面でのパワーアップはどの程度のものか、試聴した。




■KS-1とKS-3の違い

 アンプを内蔵した2chのアクティブスピーカーで、入力端子としてUSB、光デジタル、アナログ音声を各1系統備えている。PCとUSBケーブルで接続して音を出したり、CDプレーヤーと光デジタルで接続、ウォークマンのようなポータブルプレーヤーとアナログ接続して音を出す事もできる。薄型テレビと接続して、リッチな音を楽しむというのもアリだろう。

 上位モデルと言っても、KS-1とKS-3の筐体サイズは同じだ。搭載しているユニットも、ティファニー(旧ピアレス)製の6.35cm径フルレンジで共通。大きな違いは、デジタル系の回路の強化と、アンプ、そしてエンクロージャの素材だ。

ノートPCと組み合わせたところ 左がKS-3、右がKS-1。筐体やユニットのサイズは同じだ
6.35mm径のフルレンジユニットを採用している 筐体は若干斜め上を向いている。これは、机に置いた時に、リスナーの耳の方向に音を届けるためだ。

 まず中身の話だが、KS-1は24bit/96kHzまで対応したDACを内蔵している。高音質音楽配信サービスでは、24bit/192kHzの配信も増えてきたので、やや心もとない。一方、KS-3は24bit/192kHzまでに対応した。対応OSはWindows/Macで、WindowsのサポートはWindows 7の32bit、64bit。Windows 7用のドライバを同梱している。この24bit/192kHz対応が1つ目の強化ポイントだ。

foobar2000で24bit/192kHzのFLACファイルを再生しているところ foobar2000の設定画面。WASAPIモードでも伝送可能だ

 この進化は、ハイレゾ配信の本格化に合わせた自然な流れと言えるだろう。ただ、注目したいのは搭載しているのがDACではなく、24bit/192kHz対応のDDCになった事だ。KS-1はDACでアナログに変換した後、搭載しているデジタルアンプでユニットをドライブしている。一方、KS-3はDACがDDCになり、アンプもピュア・デジタルアンプに変更。DDCからデジタル音声信号のままデジタルアンプに伝送される。ユニットの直前までデジタルで伝送することで、より鮮度の高い再生ができるというのが2つ目のウリだ。出力は25W×2chとなっている。

 【お詫びと訂正】
 記事初出時、KS-1はDACでアナログ変換した後、アナログアンプで増幅と記載しておりましたが、アナログ変換した後、デジタルアンプで増幅の誤りでした。お詫びして訂正します。
(11月27日)

 そして3つ目が筐体の素材だ。KS-1では、筐体の中央部分がアルミ、それを挟むように配置された左右の側板が、モールド樹脂製だった。KS-3では、この側面も含め、全てがアルミになっており、筐体の剛性が向上したという。

 

モデル名 KS-3HQM KS-1HQM
搭載DAC/DDC 24bit/192kHz対応
DDC
24bit/96khz対応
DAC
筐体 オールアルミ アルミ
+
モールド樹脂(側面)
価格 オープン
(実売89,250円)
直販49,800円

 

下が一般的なDAC内蔵スピーカー、上がKS-3の回路伝送図 左がKS-3、右がKS-1。KS-3は側面もアルミに。KS-1はモールド樹脂だった KS-3を上から見たところ


■ピュアオーディオの技術をPCスピーカーに

 ここから先はKS-1と共通する特長だが、おさらいの意味も含めて振り返ってみよう。大きな特徴は、スピーカーとは別に、やたらと重い、黒い升のようなものが2個付属している事。これはスピーカーを設置する「スピーカーベース」で、ピュアオーディオ的に言うならば、強固な地面を仮想的に作る「オーディオボード」に相当するものだ。

 スピーカーベースを手に持ち、ゆすってみると、ザラザラと音がする。中に鉄球が入っており、ベースに伝わった振動が、内部の鉄球が動く事で熱に変わり、振動を吸収する役目をしている。電車のレールを支え、振動と騒音を吸収しているバラストを思い浮かべると、わかりやすいだろう。

KS-3に付属する「スピーカーベース」 振るとザラザラと音がする。中に鉄球が入っているそうだ

 このスピーカーベースの上に、黒いおはじきのようなインシュレータ×3個を設置。スピーカーを3点支持する。底板全体でべったり支えてしまうと、エンクロージャ自体の自然な振動を阻害してしまうので、適度に筐体振動を残しつつ、ピンポイントで支持しているわけだ。

 また、スピーカーの振動が机や床にまで伝わってしまうと、そこが振動して音を発し、再生音が濁ってしまう。それを防ぐのが前述のスピーカーベース。実際に大音量で再生してみると、スピーカー自体に指を触れると振動しているが、すぐ下のスピーカーベースはまったく振動していない。もちろん、その下にある机にも振動は伝わっていない。余分な振動を周囲に伝えず、スピーカーの音だけを耳に届ける事が、クリアな再生の秘訣というわけだ。

インシュレーターも付属 3点支持でスピーカーを支える

 KS-1という先輩がいるので、もうお馴染みの構成だが、改めて考えてみてもマニアックな作りだ。PC用アクティブスピーカーの世界に、ピュアオーディオの技術が上手く持ち込まれている。KS-1、KS-3のどちらも、PC用スピーカーとしては高価だが、スピーカーだけでなく、ハイレゾ対応のDAC or DDC、重量級のスピーカーベースとインシュレータ、そして極太の電源ケーブルを採用したACアダプタなどが、最初からセットになった製品と考えると、価格の印象も変わってくるだろう。

 「PC用スピーカーだから別にいいんじゃないの?」と考えず、音に悪いポイントは徹底的に対策してやるぞという姿勢が面白い。PCで音楽を聴くという行為が、音質は二の次だった時代が終わり、「PCで聴くからこそ、よりハイクオリティな音を」というニーズが生まれている事を、象徴するようなモデルと言っても良いだろう。

 なお、細かい話になるが、KS-1とKS-3に付属するスピーカーベースを比べてみると、KS-3の方が少し背が低い。中の鉄球も少なくなり、重さ(2台合計)も800gから700gに減少している。これは、前述のように、上に乗るスピーカーの素材が変わり、スピーカー自体が重くなったため、バランスをとるための工夫だそうだ。

 エンクロージャにも細かな違いがある。両方ともリアバスレフなのだが、KS-3では、バスレフポートのダクトをダンプした、ダンプドバスレフ型になっている。これは、バスレフのスピーカーで低域が無制動になり、歪む事を防ぐためのもので、連続気泡型のモルトプレーンを使ってダンプしているという。ピュアオーディオ用スピーカーでは密閉型をメインにしているクリプトンらしいこだわりだ。

左がKS-1、右がKS-3のスピーカーベース。ちょっと薄くなっている 背面端子部とポート部分
付属の電源ケーブルとACアダプタ 付属のリモコンも


■音を聴いてみる

 PCはWindows 7、再生ソフトはfoobar2000を使用。USBケーブルは付属のものと、クリプトンの「UC-HR」も使用した。

 KS-1とKS-3に共通する音の特徴は、クリアで雑味の無い中高域と、立体的かつシャープな音像が楽しめるところだ。まず、KS-3で「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生すると、冒頭のギター、ヴォーカル、後から入ってくるベース、個々音像がキッチリ分離して定位。音像自体も明瞭で、特にヴォーカルは「ここに口がある」と明確にわかり、歌い出す前に息を吸い込む「スッ」という音も、他の音に埋もれず聴き取れる。筐体の素材と共に、DDC+デジタルアンプ構成になった事も、この違いに寄与しているようだ。

 同じ曲をKS-1とKS-3で比べてみると、すぐに違いがわかるのが低音の量感だ。KS-1で聴くベースは、量感が豊富で「ヴォーン」という低い音のカタマリがこちらに押し寄せてくる。KS-3に変更すると、低音の余分な膨張がバッサリと無くなり、タイトで締りのある低音に変化。迫力の面ではKS-1の方が上なのだが、聴きこんでいくと、膨らんでぼやけた低音がモッタリと吹き寄せてくるKS-1に比べ、KS-3のタイトな低音には、ベースの弦の硬い音と、それがベースの筐体に反響して発生する響きの音がキッチリ描き分けられているのがわかる。

 中高域もかなり激変する。どちらもクリアでヌケの良い音なのだが、KS-1からKS-3に切り替えると、クリアな音からさらにベールを剥ぎとったように聴こえる。まさに“目の覚めるような”サウンドだ。違いに注意してみると、KS-1の高域には、エンクロージャが振動して発生するボワッとした付帯音がまとわりついている。この付帯音は、前述の低音の量感にも通じており、悪いものとも言えないのだが、KS-3でこの響きが剥ぎ取られ、中高域の明瞭度がさらに向上すると、戻れなくなる。クリアだと思っていたKS-1の音が、ぼんやりした音に感じられてしまうのだ。

 高域の解像感の違いだけではない。音色も2モデルは微妙に違う。KS-1は、側面に使われているモールド樹脂が振動する音が重なり、プラスチックっぽい響きがかすかに感じられる。一方、KS-3はアルミの硬質で冷たい色が微かに感じられる。この違いも、KS-3の高解像度、抜けの良さという印象に寄与していると想われる。

 低音の迫力を抜きにして考えると、やはり情報量の多さ、輪郭のさらなるシャープさなどでKS-3の方が優れていると感じる。だが、好みによるところもある。例えば「山下達郎/希望という名の光」を再生すると、KS-3ではスッキリと見通しが良く、分離が良いため、ヴォーカルも聴き取りやすい。

 しかし、ベースの張り出しが胸を圧迫するのが心地良い曲なのに、KS-3ではそこが弱い。KS-1に変更すると、「グォーン」とうねるような低音が押し寄せてくれて、美味しく聴く事ができる。「この曲にはKS-1の方がマッチするみたいだな」と思うのだが、モコモコした低音にヴォーカルが埋もれがちになってしまい、歌詞がすんなり耳に入って来ない。「いや……やっぱりKS-3の方が……」などと、実に悩ましい。KS-1では、量感ある低音に、高域の抜けが若干負けてしまうようだ。

インジケーター部分はKS-1と同じ。赤いランプの輝度が低く、明るい部屋では少し見にくい

 なお、前述のように、再生中はエンクロージャの振動はスピーカーベースで相殺され、机に伝播していない。試しに、ベースからスピーカーを下ろし、インシュレータも使わず、そのまま机の上に設置してみた。すると、中域にモコッとした膨らみが発生。高域の見通しも悪くなる。なんというか、普通のスピーカーの音になってしまった。再びベースに乗せると、霧が晴れたようにパーッと目の前が広がり、音場の奥の奥まで見通せるようになり、一味違うスピーカーに戻る。実験のようで面白い。

 それにしても、KS-3の場合、ニアフィールドで、これだけ鮮度の高い音を聴いていると、音場の広さや音像の定位が異様なほど明瞭で、普通のオーディオスピーカーを聴いているのとは、また別の魅力がある。超絶技巧の「Yes/Fragile」では、いろんな場所に定位する音像から様々な音が出てきて、玉手箱のようで実に面白い。

 何かに似ていると思っていたのだが、開放型の高級ヘッドフォンを聴いている時の感覚に近い。ヘッドフォンの場合、ユニットと耳が近く、細かな音まで聴きとれる利点がある。高級機ヘッドフォンになると情報量も増大するので、スピーカーではなかなか太刀打ちできない音になる。

 KS-3の音は、スピーカーでありながら、ヘッドフォンのように耳にダイレクトに届く感覚がある。左右のセパレーションが抜群なのも、ヘッドフォンのように感じる理由の1つだろう。であると同時に、広がる音場のサイズや、音像が頭から離れ、キッチリ目の前に定位するのは、スピーカーならではの利点だ。ヘッドフォンマニアが、「たまにはスピーカーで聴いてみよう」という時に、すんなり入りやすいモデルと言えるかもしれない。ただ、「スピーカーなんだから、迫力の低音をドーンを出して欲しい」というニーズにはマッチしない。あくまで解像度や情報量重視の、マニア向けサウンドだ。




■まとめ

 スペック面で、24bit/192kHzに対応したのが特徴だが、単に入力できるようになっただけでなく、高解像度な描写に磨きをかけることで、ハイレゾ音源の情報量を、より引き出せるスピーカーに進化したと言えるだろう。

 「ちょっと良い音のPCスピーカーが欲しい」、「USB DACの追加でハイレゾ音楽を聴いてみたい」という2つのニーズに、1台で応えてくれるモデルになっている。高価ではあるが、USB DDC、スピーカー、オーディオアクセサリをセットで買うと考えれば、高すぎるというほどではないだろう。外部アナログ入力や光デジタル入力も備えているので、他のUSB DACなどと組み合わせる事も可能だ。

 ただ、そうは言っても、約9万円という価格は、なかなかポンと払えるものでもない。個人的にはUSB DAC機能を省いて、価格を抑えた「シンプルなスピーカー」バージョンの登場にも期待している。

 なお、KS-3は、直販サイト専門だったKS-1とは異なり、一部のオーディオショップにも展示もされている(製品ページに記載されている)。KS-1と比べ、試聴しやすくなったのは大きな違いだ。その際は、前述のようにニアフィールドで真価を発揮する製品なので、立ったままスピーカーを見下ろして聴くのではなく、家の机に座っている気分で、顔を寄せて聴いてみて欲しい。近くで聴く、小さなスピーカーだからこその魅力が感じられるだろう。


(2012年 11月 27日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]