レビュー

本格サラウンドを手軽に。ヤマハの新AVアンプ「RX-V577」

Wi-Fi&ハイレゾ。2chからシアターまで対応する実力派

RX-V577

 AVアンプというと、多くの人は5.1chや7.1chといった本格的なホームシアターシステムを構築する人が手に入れるものと考えるだろう。主たる目的はその通りなのだが、現在のAVアンプはさらに多様化している。ネットワークオーディオ再生機能を盛り込み、ステレオ音楽再生などもかなりのハイクオリティで楽しめるようになってきているのもそのひとつだ。

 ヤマハの「RX-V577」は、そんなAVアンプの売れ筋価格帯である実売価格5万円前後に投入された7chアンプ内蔵の新モデルだ。弟モデルとして5chアンプ内蔵のRX-V477(実売価格45,000円前後)、ネットワーク機能を省略した5chアンプ内蔵のRX-V377(同35,000円前後)がある。

Wi-Fi内蔵がポイントに

 競争の激しい価格帯だけに、RX-V577の機能の充実度には目を見張るものがある。7chアンプ内蔵は前モデルと同様だが、新たに無線LAN(Wi-Fi)を内蔵し、無線LANルータのない環境でもワイヤレスでネットワークオーディオを楽しめるWireless Direct機能を新採用。さらに、一般のリビングなどで実現するにはハードルの高い5.1/7.1chサラウンドのハードルを下げる新機能が意欲的に盛り込まれている。

 定格出力は115W×7ch。新たに小型スピーカーを接続した場合や、サブウーファが無い環境での利用を想定し、重低音再生能力を高める「Extra Bass」や、リア用スピーカーをテレビの脇などの前方に設置して、包み込むようなサラウンドサウンドを実現するという「Virtual CINEMA FRONT」などの新機能も搭載した。外形寸法は435×315×161mm(幅×奥行き×高さ)。テレビやラックの薄型化にあわせて、本体の奥行きを短かめで、設置性も高めている。

RX-V577の前面パネル。右側にあるボリュームツマミや、入力切り替えボタンの配置などはオーソドックスなもの
前面パネルの中央にある「SCENE」ボタン。入力や音場モードなどの各種設定を登録でき、手軽に最適なセッティングに切り替えられる便利な機能だ
背面パネル。HDMI入力が1系統増えていることと、Wi-Fiアンテナの追加が従来モデル(RX-V575)からの主な変更点

ハイレゾ再生対応。自動音場補正「YPAO」の効果をステレオでも実感

HDMI入力は6系統

 レビューにあたり、実機を自宅で使わせていただいた。AVアンプとしては比較的手頃なサイズで設置や接続は容易だ。HDMI入力も6系統備わっており、十分な数の装備と言える。もちろん、4K信号(24p/30p)のパススルー伝送にも対応している。

 まずは、ヤマハの自動音場補正機能「YPAO(Yamaha Parametric Room Acoustic Optimizer)」を使って、室内環境の測定と補正を行なった。測定時間も比較的短時間で完了するし、面倒なスピーカーの距離や音量の調整などがすべて自動で行なえる。

7系統のスピーカー出力端子はバナナプラグ対応
音場測定用の付属マイク。これを視聴位置に置き、音場の測定と補正を行なう
着脱式のWi-Fi用アンテナ。向きや角度は自由に設定できるので、感度の調整も行なえる

 さっそくハイレゾ音源を使ったステレオ再生を試してみた。ネットワーク接続は、無線(ルータ接続)/無線(ダイレクト接続)/有線接続が選択でき、ユーザーのネットワーク環境に合わせて使える。ルータ経由でNASなどの音楽ファイルを再生できるほか、無線LANのダイレクト接続(Wireless Direct)に対応したことで、タブレットやスマートフォンなどと直接ワイヤレス接続し、オーディオ出力可能となった。AirPlay、HTC connectなどに対応している。

 筆者は主に有線接続で使ったが、その場合、Wi-Fi関連の回路は電源がオフになるようで、無線LAN内蔵によるノイズ混入など音質的な影響を気にする人にも安心だ。

 ネットワーク再生では、WAVやFLAC音源を最大192kHz/24bitに対応。新たにApple Lossless(ALAC)の96kHz/24bitやギャップレス再生なども可能になった。

無線LANの設定画面。WPSボタンやPINコードを用いた設定などに対応する
ギャップレス再生の概念図

 最近よく聴くスティングの「The Last Ship」から表題曲を聴いてみたが、低域の伸びが向上し、音像に厚みのあるしっかりとしたサウンドが楽しめた。2013年モデルのRX-V575から外観に大きな変化はなく、いわゆるマイナーチェンジ的に感じるが、同社の上級モデルを担当した技術者も加わって音を仕上げているという。実売5万円クラスのモデルとしては、かなりの実力だ。

 面白いことに、もっともHi-Fiであるはずの「ダイレクト」よりも、YPAOによる音場補正などが加わった「ストレート」の方が、空間の広がりやステレオ音場の奥行き感がよく出るのだ。これはまさしくYPAOの効果で、筆者としては自室のアコースティックチューニングをさらに追い込む必要があると感じさせられた部分だ。スピーカー2本のステレオ再生でも音場感にここまで違いが出るというのは、部屋の音響特性の影響が意外に大きいことを実感させられる。さまざまな家具などが共存する一般的なリビングでは、その効果はさらに大きいだろう。

 ピュア・オーディオ的な発想では、こうした電気的な補正は敬遠されがちだが、これを自分の耳だけで補正するには、10年以上はみっちり経験を積まなければ容易にできることではない。お金をかけるより大変なことなので、こうした機能は積極的に利用した方がいいだろう。AVアンプをステレオ再生に使うということは、YPAOのような自動音場機能を持たないステレオアンプと比べても音質にとって有利になるポイントと言える。

 さらに付け加えれば、7chものアンプを備えるだけに、バイアンプ駆動などに挑戦することもできる。AVアンプの豊富な機能はオーディオ初心者にとっても有効な機能が数多く盛り込まれているのだ。

 クラシック曲などを聴くと、倍音を含んだ弦の音色が艶やかで美しい再現だ。音場の見通しの良さと、楽器の響きが丁寧に描写され、実に表現力が豊かだ。中低音も非力さを感じることなく音楽を支えてくれるので、スケール感もしっかりと感じられる。

 5万円のAVアンプでこんな良い音がしちゃっていいの? と、余計な心配をしてしまうほど。紹介したとおり機能面でもかなり充実した内容を持つが、RX-V577の一番の魅力はこの音だろう。

AV CONTROLLER

 RX-V577の各種設定は、テキスト主体の画面メニューで行なえるが、ネットワーク再生の場合は残念ながら日本語表示には対応しておらず、少々不便な面もある。その点、無料で提供されるスマホやタブレット用のアプリ「AV CONTROLLER」を使えば、日本語表示もできるし、スマホなどで手元で手軽に楽曲の検索や再生操作が可能だ。

 また、AV CONTROLLERは、3月下旬に最新バージョンとなる「AV CONTROLLER ver.4.00」が提供される予定だ。ネットワーク再生以外でも、電源のオン/オフや入力切り替え、音量調整などの操作もすべて手元で行なえる。試作版を試させていただいたが、グラフィカルなインターフェースは直感的な操作ができ、基本的な操作からさまざまな設定まで非常に使いやすかった。

サラウンド再生の実力もかなりのもの。シネマDSPの効果も調整可能

 ステレオ再生での基本的な音の実力の高さがわかったので、サラウンド再生の期待も大きくなる。BDビデオ「ローン・レンジャー」を見てみたが、シネマDSPを使わないストレート再生では、チャンネルセパレーションが良好で前後左右の音の定位が明瞭だ。ゆっくりと動き出す機関車の音、飛び交う銃弾などが自由自在に移動する。非常に情報量の豊かな再現だが、個々の音にもしっかりと厚みがあり、実体感を伴った再生ができるので、空間が薄っぺらく感じることもなく、臨場感たっぷりのアクションを満喫できる。

 強いて言うならば、機関車の動輪の重みや凄みを感じさせる低音の底力などがもう少し欲しくなる。それは専用の試聴室でかなり大音量再生をしたときに感じるもの。一般的な家庭環境ではそこまでの音量やパワーは必要ないし、そうした絶対的なパワー感を求めるならば今後登場する上級機を選ぶといいだろう。

 ここでヤマハ得意の「シネマDSP」を試してみる。「ローン・レンジャー」の場合、中低音に厚みのあるバランスとなり、後半のスピード感たっぷりのアクションの迫力を倍増してくれる「アドベンチャー」が好ましかった。ヤマハが独自に開発した音場創生技術である「シネマDSP」は、まさにヤマハAVアンプの代名詞的な存在だが、BDソフト黎明期に登場したハイエンドモデルのDSP-Z11で大きく音場パラメーターが見直され、ロスレス圧縮による情報量豊かなサラウンドをより自然で豊かな臨場感が得られるように進化している。RX-V577も、音場空間に高さ感を加味する「バーチャル・プレゼンス・スピーカー」機能などを備えた「シネマDSP」(3Dモード)が搭載されている。

 これまであまり意識していなかったのだが、原音の情報を力強く描き出すRX-V577で聴いていると、「シネマDSP」の効果がよりわかりやすくなったと感じる。こうしたDSPによる残響の付加は、BDソフトに記録された情報に演出を加えるものだから、HiFi(高忠実度)な再生ではない言われることもあるが、ゆったりとした低音の響きが特徴的で、それでいて中高音の残響はかなり短いという映画館の特有の音は、一般的な家庭の音の響きとは違うもの。映画館的な音を家庭で実現するにはこうしたDSPプログラムは有効だ。

 実際に、もっとも演出的な色づけが少ない「ストレート」で聴いてみると、低音に適度な量感がつき、不要な音の反射の影響がなくなることで部屋が一回り広くなったような音場空間に感じられる。それでいて、低音の盛り上がりがカブって声が不明瞭になったり、微細な音が埋もれてしまうようなこともない。これをシネマDSPとYPAOの効果がオフとなる「ダイレクト」に切り替えると、急に空間が萎んで、普通の家で聴く映画の音になる。これは寂しい。

AV CONTROLLER 4.0ではスマホなどからCINEMS DSPの詳細設定や確認が行なえる

 こうしたDSPによる効果は、好みもあるので、HiFiに徹する人もいれば、もっと派手な演出効果が欲しいという人もいるだろう。上級機では、AVアンプの操作メニューがGUIになり、シネマDSPの効果量の調整も行なえるのだが、テキストベースの操作画面であるRX-V577では調整が行なえない。

 しかし、前述の「AV CONTROLLER 4.00」を使えば、RX-V577でもその効果量の調整が可能になるのだ。しかも、BASICモードではグラフィカルなイラストをタッチして音場空間を広げる/狭めるという形でわかりやすく、効果を調整できる。より本格的な「アドバンスモード」では、残響成分の波形を調整する形で詳しい調整が可能。マルチチャンネルステレオ再生でのチャンネル間のバランス調整なども行なえるなど、かなりの高機能だ。

 これを使ってシネマDSPの効果を好みに合わせれば、より積極的に使いこなすことができるようになるだろう。「AV CONTROLLER 4.00」による操作のもうひとつのメリットと言える。

前方だけで5.1ch再生「バーチャル・シネマ・フロント」

リモコン

 RX-V577は、Wi-Fi内蔵を含めた充実したネットワーク再生機能や、シネマDSPをはじめとする優れたサラウンド機能を持ち合わせ、なおかつ肝心の音質の実力も高い。DVD時代のAVアンプでは最新のサラウンド規格に対応できないなど、AVアンプの買い換えを考えている人には好適なモデルと言える。

 しかし、それだけではない。本格的なホームシアターを実現するにはハードルが高いと諦めている人にとっても役立つ新機能がRX-V577には盛り込まれている。そのひとつが「バーチャル・シネマ・フロント」。本来ならば後方に置くサラウンドスピーカーを、前方に配置してサラウンド再生を実現する機能だ。

バーチャル・シネマ・フロントの動作イメージ。後方にスピーカーを設置せずに、サラウンド再生を行なう

 このモードでは、もともと前方に置く、フロントLR/センターのスピーカーから出る音には加工を加えず、サラウンドチャンネルの音だけ「24kHz保証HRTF技術」を加えたバーチャル再生を行なうという。フロント音場はそのままで、リアチャンネルだけバーチャル化するものだ。

 ちなみに、こうしたバーチャル再生で使われる「24kHz保証HRTF技術」とは、同社のサウンドバータイプのスピーカーでも採用される「Airsurround Xtreme」と同じもの。一般的なバーチャルサラウンドでは、仮想的に再現できる後方の音は15kHz程度までに制限され、定位感などが得られにくいが、その高域限界を24kHzまで高めることで仮想的な音の定位をきめ細かく再現できるというもの。

 バーチャル再生のため、良好なサラウンド効果が得られるスイートスポットはやや狭くなるが、後方への音の広がりもしっかりと感じられる。後ろのスピーカーを置くことができず、泣く泣くサウンドバータイプなどのバーチャルサラウンド再生で我慢している人のステップアップにも丁度いいと感じた。

サブウーファなしでも重低音の力感などを再現する「Extra Bass」

 さらに言えば、スピーカー2つだけのステレオ再生時でもバーチャルサラウンド再生が行なえる「バーチャル・シネマDSP」もある。つまり、ネットワーク再生などの音楽再生はきちんとステレオ再生を行ない、映画を見るときはバーチャルサラウンドで楽しむという使い方だ。これならば、実現はかなり容易になるだろう。

 筆者が考える活用法としては、「バーチャル・シネマ・フロント」とリアル5.1chの使い分け。普段はリアスピーカーもすべて前方に置いて使い、週末などにはリアスピーカーを後方に置いてリアル5.1chサラウンドを楽しむというスタイルだ。もちろん、ステレオ再生用のアンプとしてRX-V577を使い、段階的に5.1chへステップアップしていくのもいいだろう。「サラウンドは実現できないからAVアンプは不要」と切り捨ててしまうのはもったいないし、こうしたバーチャル再生機能をうまく使えば、サラウンド再生はより身近になるだろう。

買い換えにも入門層にも最適。本格的なサラウンドの楽しみを

 AVアンプを使った本格的なサラウンドというと、「自宅の環境では無理」と諦めてしまう人が少なくないのは残念だ。というのも、筆者自身はもはやサラウンドなしでは映画を見たくないとさえ感じるほど、サラウンドの魅力の虜だからだ。ベストの音が得られる場所に座れることが少ない映画館も最近はすっかり苦手だ。映像と音はバランスが重要で、フルHDから4Kと高精細化や高画質化が加速しているのに、音は依然としてステレオ再生のままでは、あまりに釣り合いが取れない。映像と音のバランスが揃わないと両者が一体となった相乗効果によって生み出される臨場感が得られず、せっかくの4Kテレビもただのきれいなテレビとして感じられないことだってある。

 だからこそ、まずは体験してみて欲しい。映像と音が一体となって得られる迫力と興奮は、多少の困難なら克服しようと思える力になるはず。RX-V577はその良いパートナーになってくれるだろう。

(協力:ヤマハ)

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40〜60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。