小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1123回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ついに8Kに到達。「Insta360 X4」驚異の画質

現在発売中のInsta360 X4

2年ぶりに登場した新作

スポーツ撮りに関しては、アクションカメラの牙城はまだまだ崩せないところだが、一部では360度カメラへの乗り換えが進んでいる。その要因は2つ考えられる。

1つは360度カメラの耐久性が上がったことだ。ケースなしで10m防水や、出っ張ったレンズに対してレンズガードが装着できるようになっている。

もう1つは、後からベストなアングルが切り出せる事だ。アクションカメラはしっかり固定したつもりでも、振動や衝撃でカメラアングルがズレてしまう事がある。そうなるとせっかくのシーンも、肝心の部分が写っていないということが起こりうる。360度カメラなら多少固定角度がズレても関係ないので、1発勝負の撮影ほど強みを発揮する。

とはいえ、多くのメーカーが撤退した後となっては、コンシューマ用360度動画カメラはほぼInsta360とリコーTHETAの2択という状況になっているのが現状だ。そしてまた今年、Insta360の新カメラが登場した。

Insta360 X4は、2022年発売のInsta360 X3に続く次世代機で、5.7Kだったセンサーを8Kまで引き上げたモデルとなっている。もちろん2年分の進化点も盛りだくさんだ。4月16日より販売を開始しており、標準版の価格は公式サイトで79,800円。

販売開始早々爆売れという情報も入ってきている新作を、早速テストしてみよう。

十分に小型のボディ

さて8Kといえば通常は4Kの縦横2倍なので、7,680×4,320ということになる。だが360度カメラの場合は、2つのセンサーを背中合わせに貼り付けた格好になっており、両方の映像をステッチングで1枚の画像に合成する。

したがって本機は8Kとはいっても、長辺は7,680ピクセルだが、短編は3,840ピクセルとなる。実質的には球面上に撮影された8K画像の一部を切り取って、人間が見る事になる。とはいえ元の画像がデカければデカいほど切り出しの解像度も高くなるので、360度カメラの高画素化はメリットが大きいわけだ。

X4はセンサー画素数は公開されていないが、片側のみ撮影するシングルレンズモードでも4K動画が撮影できるので、各センサーは少なくとも4K以上の解像度はあるものと思われる。

ボディ外寸は123.6×46×37.6mm(縦×横×厚さ)となっており、5.7Kだった前作より縦が約1cm、厚さで約4mm大きくなっているが、横幅は同じだ。画素数が増えた割にはサイズ増は十分抑えられている。

8Kカメラとは思えないコンパクトさ

ボディ設計の基本はそれほど大きく変わっていない。上部にレンズがあり、左右とレンズ下にマイク、左側面にUSBポートとバッテリー挿入部がある。バッテリー容量はX3より増えており、連続撮影時間は5.7Kで比較した場合、X3が81分だったのに対し、X4では135分と大幅に伸びている。バッテリー挿入部内にMicroSDカードスロットがある。

バッテリーも大型化されている
レンズ下と両脇にマイク

ディスプレイは2.5インチで、X3の2.29インチから多少大型化されている。ディスプレイ下の2つのボタンも同じだが、右側のボタンの役割が変更された。X3ではシングル、デュアルといったセンサーモード切り換えボタンだったが、X4では撮影モード切り換えボタンとなった。シングル、デュアルもこのモード切り換え内で選択できるので、全体のモードの見通しが良くなっている。

ディスプレイも多少大きくなっている

カメラ部としては、前後のレンズは35mm換算値で6.7mm/F1.9。センサーサイズは1/2インチ。動画コーデックはH.265とH.264が選択できる。解像度は以下にまとめておく。

【動画解像度】

360度モード画素数フレームレート
8K7,680×3,84030/25/24fps
5.7K+5,760×2,88030/25/24fps
5.7K5,760×2,88060/50/30/25/24fps
4K3,840×1,920100/60/50/30/25/24fps
シングルモード画素数フレームレート
4K3,840×2,16060/50/30/25/24fps
2.7K2,720×1,53660/50/30/25/24fps
1080p1,920×1,08060/50/30/25/24fps
ミーモード画素数フレームレート
4K3,840×2,16030/25/24fps
2.7K2,720×1,536120/100/60/50fps
1080p1,920×1,080120/100/60/50fps

画素数が同じでフレームレートが低い5.7K+というモードがあるが、これは5.7Kよりも高ビットレートで撮影できる。ミーモードはシングルモードの一種で、自撮り棒を付けて自分の前に向けてカメラを突き出すと、自分撮りに最適な画角になるというモードだ。

ミーモードは前回X3でテストしているので、意味が分からない人は参考にして欲しい。なお、写真解像度は72MP(11,904×5,952)か、18MP(5,888×2,944)の2択となる。

製品パッケージとしては、これまで別売だったレンズガードが標準で付属するようになっている。こちらは樹脂製だが、ガラス製のプレミアムレンズガードと自撮り棒がついたキットも91,500円で販売される。

樹脂製の標準レンズガードが付属

Insta360はアクセサリが充実しているのもポイントだ。今回はほぼ必要なものが一緒になったクリエイターキット+αをお借りしている。

X4用サーモグリップカバーは、標準同梱品だ。これはカメラ本体に装着して放熱するためのカバーで、8Kの長時間撮影に対応する。なお破損防止カバーではないので、スポーツ時のプロテクター的な効果はない。

ボディの放熱を助けるサーもグリップカバー

自撮り棒にプラスする格好で使用する「マルチファンクション バレットタイムハンドル」は、カメラを真上に付ければ延長グリップとミニ三脚となり、横に自撮り棒とカメラを付ければ、バレットタイム撮影用のぐるぐる回るグリップになる。

ミニ三脚にもなるマルチファンクション バレットタイムハンドル
自撮り棒と組み合わせると、バレットタイム用ハンドルにもなる

クイックリーダーは、ライトニング端子時代のiPhoneやiPad用アクセサリだ。本体のUSBポートカバーを取り外してこれを接続する。リーダーの中にはMicroSDカードスロットがあり、ここにカードを入れておくと、本体ではなくこちら側のカードに動画が記録される。

外部のメモリーカードへ記録してiPhone等へ直刺しできるクイックリーダー

撮影後に取り外し、底部のライトニング端子でiPhoneなどに吸い上げるというスタイルだ。iPhone等へはカメラとのWi-Fi接続でも転送できるが、大量の動画を撮影した場合は転送に時間がかかる。それを解消するための物のようだ。ただしこれをカメラに取り付けると防水防塵ではなくなるので、その点は注意していただきたい。

マイクアダプタは、同じくカメラのUSB-C端子に取り付けて外部マイクを接続できるアダプタだ。入力はアナログミニ端子なので、多くのビデオ用マイクやラベリアマイクが接続できる。底部のUSB-C端子は充電用で、PCへの接続転送やUSB-Cタイプのマイクには対応していないようだ。

外部マイクが接続できるマイクアダプタ

マイクコールドシューは、純正品ではなくUlanzi製のアクセサリだ。カメラと三脚の間にこれを挟み込み、RODEのWileress Goシリーズのレシーバをクリップで挟み込んで固定できる。

Ulanzi製のマイクコールドシュー
三脚とカメラの間に挟んでレシーバーを固定する
裏側から見たところ。レシーバーのクリップで挟み込んで固定

良好な画質とSN

では早速各モードをテストしてみよう。撮影可能なモードとしては、以下のようになる。

  • 360度
    動画、アクティブHDR、タイムラプス、タイムシフト、バレットタイム、ループ録画、スターラプス、バースト、インターバル、HDR写真、写真
  • シングルレンズ
    写真、動画、FreeFrame動画、ミーモード、ループ録画

まずはX4の目玉である8K動画撮影である。あいにく撮影日は曇天であったが、360度モードで撮影してみた。以前は手ブレ補正モードがあれこれ選べる作りになっていたが、今回はFlowState手ブレ補正が自動的に付加される。そのため特に設定する事なく、悪路でも安定した映像が得られている。

8K30p撮影の360度映像から切り出し

元が8Kなだけに切り出しても解像度が高く、前方だけのアクションカムと変わらない使い勝手だ。自動露出補正も追従性がよく、トンネルに入っても素早く反応する。

HDR動画では、最高画質が5.7K/30pまで落ちる。おそらく画像処理プロセッサの能力的に8Kは無理だったのだろう。通常の動画撮影では空の雲のディテールは白く飛んでしまっていたが、HDRでは綺麗に表現できている。

5.7K HDRで撮影

今回はバレットタイム用のハンドルもお送りいただいているので、バレットタイム撮影も試してみた。専用モードに切り替えるだけなので、カメラ的には難しくない。

バレットタイム用ハンドルに自撮り棒、その先にカメラを取り付けるわけだが、自撮り棒の長さが1.14mあるので、結構な長さである。またX4も重量が203gに増えているので、これを振り回すとまあまあな遠心力になる。

Insta360の特徴的な機能、バレットタイム

振り回すのにかなり力が要るのもさることながら、以前のようにヒモではなく先端に重りの付いた棒を振り回すことになるので、まあまあ危ない。周囲に人や物がないかを十分に注意して撮影する必要がある。

もしこの勢いで何かにぶつかったら、カメラはもちろん、レンズは確実に破損すると思われる。このためにレンズガードが標準付属になったのかなとも思われる。

強力な特殊撮影

時間を圧縮した撮影ができるのも、Insta360の強みだ。「タイムシフト」と「タイムラプス」は似たような機能だが、タイムシフトはカメラ自体が動いて撮影することを想定しており、コマ撮りながらも手ブレ補正が効く。このため、普通に撮影して早回しするよりも、滑らかな映像が撮影できる。撮影では何度も段差を乗り越えているが、動画上はまったくわからない。

タイムシフトによる撮影

タイムラプスは、カメラ側を固定した定点観測的なコマ撮り機能である。日暮れから日没後まで撮影してみたが、日が暮れてからもノイズまみれになる事なく、SN良く撮影できている。

タイムラプズによる撮影

さらに星空撮影向けの「スターラプス」もある。あいにく曇天で星が見えなかったので撮影していないが、画素数を上げながらも感度の高いセンサーを使用しているようだ。タイマー録画機能もあり、朝5時に日の出を撮影する場合でも、カメラさえセットしておけば早起きする必要がない。

Insta360は、自撮りを意識した機能を多く備えている。シングルモードのミーモードなどもそうだが、提供されている編集ソフト「Insta360 Studio」にはディープトラックという追跡機能があり、360度撮影しても人物をトラッキングして追いかける事もできる。

ディープトラックで常に対象をトラッキングできる

そこで気になるのが、音声収録の能力だ。Vlogなどしゃべりの集音がどれぐらい可能なのかテストしてみた。

デフォルトは「風切り音低減オート」だが、「方向性強調」は前後に指向性を付けたモードで、しゃべりの撮影にも十分だ。カメラがワイドなので、かなり近づいてもバストショットぐらいで撮影できるところもメリットである。

今回アクセサリとしてお借りしたマイクアダプタを使って、RODEのWireless MEで集音してみた。Wireless MEはワイヤレスマイクがL側、レシーバー内蔵マイクがR側にアサインされるので、集音は左寄りになっているが、これはWireless ME側の設定でモノラルセンターにもできる。

各マイクモードとマイクアダプタをテスト

ワイヤレスマイクなら広範囲に動き回っても一定のクオリティで集音できるので、Vlog収録のみならず、実験や検証動画など、カメラアングルを気にすることなく状況を一括で抑えるといった用途に幅広く使えるだろう。

ワイヤレスマイクが付属するDJI OsmoPocket 3のクリエイターコンボのような製品もあるが、Insta360では自社製マイクを製品化していない。そのかわり、多く普及しているRODEのワイヤレスマイクに対応したという事だろう。

総論

センサーサイズが同じで画素数が8Kに到達したということで、暗部のSNが心配になるところだが、実際に撮影してみると暗部も問題なく撮影できている。センサーが良質ということもあるだろうが、プロセッサ側のNR処理もレベルが上がっており、この2年間の進化を十分に感じさせる仕上がりとなっている。

標準モデルでもヒートカバーやレンズガードが付属しているあたりも、長時間撮影すると落ちる、レンズが出っ張ってるのでぶつけて破損したといったユーザーからのフィードバックを、よく研究したようだ。

ただ標準レンズレンズガードは、若干光の向きによっては反射があるようだ。気になるようなら、ガラス製のプレミアムレンズガードを別途購入するといいだろう。いずれにせよ、レンズむき出しで使うのは定点撮影の時だけで、アクション撮影時にはレンズガードを付けるというのが標準になったということである。

また今回はマイクアダプタを使用してみたが、別途なんらかのマイクは必要になるものの、音声収録にはかなり強力であることがわかった。特にワイヤレスマイクは昨今いい製品が沢山でてきており、こうしたものと組み合わせるのもまた、トレンドと言えそうだ。

360度カメラは、VRの流行とともに全天球コンテンツを制作できるとして一時期流行したが、VRもコンテンツの方向性が変わってきたことから、生き残り策を模索する必要があった。その中でもInsta360は、撮影よりも後処理を重視して非常にうまく生き残った。アクション撮りに限らず自分撮りの新しい方法論として定着した感がある。

X4が8Kまで到達したことで、取りあえず画素数的には頂点に行きついた感がある。この方向の進化は一段落だろう。そして次に何を仕掛けてくるのか、そういうところも非常に楽しみなメーカーである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。