レビュー

白くて薄い!? ヘッドフォンユーザーがヤマハの低価格AVアンプ「RX-S601」を導入してみた

 マンションに一人住まいということもあり、普段はヘッドフォンを愛用している。ただ、そろそろスピーカーで音楽を楽しんでみたいと考えていた。どうせならばネットワークオーディオ機能も搭載しており、ハイレゾ再生もでき、映画も楽しみたい……となるとAVアンプ+スピーカーになるわけだが、AVアンプは巨大だし、スピーカーを沢山置くのも……と躊躇していた。私と同じような状況の人も多いだろう。

 小型や薄型のAVアンプで、ネットワーク再生やハイレゾ再生に対応、そしてある程度リーズナブルな機種を……と探したところ、ヤマハが10月上旬から発売している薄型5.1ch AVアンプ「RX-S601」(67,000円)を発見。実際にお借りして、自宅で使ってみる事にした。

薄いけど多機能なAVアンプ

 「RX-S601」のカラーはブラックとチタンがあるが、今回はブラックをお借りした。組み合わせるスピーカーは、いきなり5.1chはハードルが高く感じたので、価格的にもお手頃感のあるブックシェルフスピーカー「NS-BP182」(ペア18,000円)を選択した。ちなみにこの「RX-S601(ブラック)」と「NS-BP182」がセットになった2chモデル「YHT-503JP」(85,000円)も用意されている。

 RX-S601の外形寸法は435×327×111mm(幅×奥行き×高さ)、高さは111mmしかなく、実物を見ると薄さに驚く。フットスタンプこそほかの機種とほぼ同等だが、高さ方向のスペースが節約できるのはありがたい。より大型な上位モデルにすれば、音は良くなるかもしれないが、価格が上がると共に、設置場所も悩ましくなるのが難点だ。S601のサイズならば、いわゆるローボードタイプのラックにも収納しやすい。

RX-S601(左)の高さは111mm。隣のCDプレイヤー(高さ147mm)と比べると薄さがよくわかる
筆者が現在使っているヘッドフォンとヘッドフォンアンプ。まだまだ使う気だがそろそろスピーカーの環境を構築したいと考えていた

 スピーカーもコンパクトなので、TVラックの空いたスペースに楽に設置できた。このサイズなら、書斎などパソコンまわりでも設置しやすいだろう。

ブックシェルフスピーカー「NS-BP182」
テレビの横にラクラク設置できた

 RX-S601はエントリークラスに属する製品だが、HDMIは6入力、1出力を搭載。ドルビーTrueHD、DTS-HD MasterAudioなどのHDオーディオのデコードに加え、4K/60pパススルーやHDCP2.2に対応。5.6MHzのDSDを含めたハイレゾ音源の再生にも対応している。

 さらに、ネットワーク再生機能としてDLNA 1.5もサポート。さらに、ネットワーク再生の新機能「MusicCast」や、Bluetooth受信機能も搭載している。まずは音楽を聴くため、ネットワーク再生機能を試してみよう。

RX-S601のボリュームコントロール周辺。USB端子もある
入力切り替えダイヤル周辺。ヘッドフォン端子や電源ボタンがある
背面入出力。HDMIがメインとなっており、アナログ系は少なめ。個人的にはこの数でも十分事足りる
後述するアプリを使い、USBメモリに入れた音源も直接再生可能だ

高速レスポンスでサクサク使える専用アプリ

 AVアンプではあるが、手頃なエントリークラスなので“ネットワークプレーヤーの入門機”とも言える。

MusicCastでRX-S601を操作しているところ

 普通のDLNAプレーヤー機能も備えているが、注目は「MusicCast」機能だ。NASやPCに保存した音源やネットラジオなどを無線LAN経由で複数の対応機器に配信できるもの。専用アプリ「MusicCast CONTROLLER」(iOS版/Android版)を用いることで、スマートフォンやタブレットなどの端末からMusicCast対応機器のコントロールが可能。電源のON/OFFや入力切替、楽曲の再生/停止、ボリューム調整のほか、サウンドプログラムやエンハンサーなどの設定、ネットワーク上にある再生したい音楽フォルダの指定なども行なえる。

 なお、従来のアプリ「AV CONTROLLER」も使用できるので、シネマDSPの調整などもリモコンを使わず、快適に操作することができる。

 MusicCast対応機器は部屋単位で管理でき、1部屋に複数の機器を登録する事もできる。例えば、1つのスマホから、複数の部屋に設置されたMusicCast機器を制御する事も可能だ。

ロケーション(Zone)と部屋(Room)単位で対応機器を管理できる。電源のON/OFFもこの画面で行なう
再生ソースの選択画面

 実際にAndroid端末にインストールしたMusicCast CONTROLLERを使ってネットワーク再生を試してみる。無線LAN関連の初期設定を終え、機器を選び(今回はRX-S601)、Roomの設定を済ませれば、すぐに使用可能になる。組み合わせるNASはQNAPの「TS-112P」を使用した。

 アプリのレスポンスはすこぶる速く、電源のON/OFFや再生関連の操作、設定画面への遷移、NASへのアクセスなど、アプリの当該項目をタップした瞬間に機器側が反応する。あらかじめNAS側で音源の入ったディレクトリのアクセス設定を調整しておけば、当該ディレクトリへのアクセスもスムーズに行なえる。

無線LANネットワークを検索する
選択したネットワークへの接続画面。Roomの初期設定はほぼこれだけ

 再生機能はいたってシンプル。頭出し、曲送り、リピート、シャッフルと簡単な再生設定があるほかは、曲を選択するだけ。アプリ自体もアイコンベースのUIで複雑な設定はほとんどないので、AVアンプ初心者でも操作に迷うことはないだろう。

NASなどのネットワークストレージ機器からソースの入ったフォルダを選ぶ
音源の入ったフォルダにアクセスしたところ
再生画面
サウンド設定画面
サウンドプログラム

 MusicCastでは、ハイレゾ音源のネットワーク再生も可能だ。S601では、FLAC/WAV/AIFFの192kHz/24bitや、Apple Losslessの96kHz/24bitの再生に対応。DSDも5.6MHzまでのファイルが再生できる。

 ネットワーク再生は通常のDLNAとは異なり、ヤマハ独自の規格を用いて伝送しているそうで、特に操作レスポンスの面ではこの恩恵を強く感じた。ただ、データ量の大きい楽曲によっては、音が飛ぶ事があった。しばらく停止してから再開すると普通に聴けるので、無線LANの環境やバッファの具合にもよるのだろう。このあたりは、アプリのバージョンアップでの解消に期待したい。

 なお、今回はMusicCast対応機器が1台だけなので試せていないが、対応モデル間での連携もできるという。例えば、アナログ音声入力端子を備えたMusicCast対応製品に、ポータブルプレーヤーを接続。その入力音声をデジタル変換し、MusicCastのネットワークに配信、それをスマホのアプリで受け、別のMusicCast対応製品から再生させる事もできるそうだ。

ヘッドフォンとAVアンプ&スピーカー、音の聴こえ方はどのように違う?

 セッティングが完了したので、JiLL-Decoy associationの「ジルデコ6 ~Just a Hunch~」(DSF 5.6MHz)を再生してみた。

 このアルバムは、DSDで聴く前に、CDやMP3で聴いていたのだが、DSD 5.6MHzのサウンドは明確にそれらとはクオリティが違う。今までの音源にはない、圧倒的な“音の密度”というべきか、耳に入ってくる情報量の違いからくる“凄み”のようなものが感じられる。
 ソファに体を預け、スピーカーから流れる音楽に聴き入るのは、普段ヘッドフォンで聴くそれとは明確に異なる体験だ。特に音の広がりやディテールの聴こえ方が変わってくる。

 一概にどちらが優れているとも言えないが、ヘッドフォンでもスピーカーでも輝くシーンがそれぞれにあり、個別の良さがあるのも事実だ。

 だからこそ、既存のヘッドフォンをメインとしたシステムと、スピーカーで音楽を楽しむシステムが、いつでも好きに選べるのはリッチな気分だ。ヘッドフォンやヘッドフォンアンプは、良いモデルを揃えようとすると10万円を超えてしまう事も珍しくないが、「RX-S601」+「NS-BP182」の組み合わせは10万円以下と比較的安価で、それなりのスピーカー再生環境、ネットワークプレーヤー環境が構築できてしまうコストパフォーマンスの良さが、個人的にとても気に入った。

視聴位置に合わせて音声出力を調整する「YPAO」

 ところで、ヤマハのAVアンプには、スピーカーの設定を自動で行なう「YPAO」(ヤマハ・パラメトリック・ルーム・アコースティック・オプティマイザー)という機能が搭載されている。これは実際の設置環境でユーザーが視聴するであろう位置に専用マイクを設置し、スピーカーから出るテストトーンをマイクに拾わせ、捉えた音をもとに出力する音声を調整することで、ユーザーが聴く音を最適化する機能だ。

YPAO専用マイク
本体前面のマイク端子に接続する
三脚などを使ってマイクがユーザーの頭部分に来るように位置を調整する

 具体的には、スピーカーの接続と位相の確認、スピーカーのサイズとマイクまでの距離、音量と音圧、周波数特性などを測定し、部屋の音響効果に合わせた出力音声に調整する。実際に試したところ、調整前と調整後では、僅かな差ではあるが、音の抜けがよくなったように感じた。

 本来ならば、自室の音響環境に合わせて機材を細かくセッティングすべきなのだろう。しかし、普通のユーザーは調整に必要な評価基準を持っていないし、自分が納得いくまで何度も繰り返しテストするのは正直ハードルが高い。

 そういった“ちょっとひっかかる”部分を、機器の側で簡単にフォローしてくれる配慮はありがたい。

5.1chスピーカーとセットになったホワイトモデルも用意

 冒頭に書いたように、RX-S601単品にはブラックとチタンの2色がカラーバリエーションとして用意されているが、それとは別にホワイトカラーのモデルも存在する。

 これは、ホワイトの5.1chスピーカー「NS-PA40(W)」(実売4万円前後)と、ホワイトのRX-S601をセットにした「YHT-903JP」というモデルだ。ホワイトのAVアンプ単体販売は行なわれていないが、この5.1chスピーカーセットを買うと、ホワイトのAVがアンプが手に入るというわけだ。

 それにしても、白いAVアンプというのは珍しい。実際に部屋に置いてみたいと思ったので、こちらもお借りして、設置してみた。

ホワイトの5.1chスピーカー「NS-PA40(W)」(実売4万円前後)と、ホワイトのRX-S601をセットにした「YHT-903JP」
ホワイトカラーのRX-S601

 スピーカー構成はトールボーイ型のフロントスピーカーが2本、サラウンドスピーカーが2本、センタースピーカーとサブウーファが各1本の全6本だ。

 筆者の部屋の広さではギリギリ収まるくらいのセッティングだったが、色がホワイトであるため、あまり圧迫感というか、大げさな感じが無く、スッキリと見える。「黒いアンプやスピーカーが沢山置いてある部屋にしたくない」という人には、これくらい思い切った色のセットも良いだろう。

5.1chスピーカーセット「NS-PA40(W)」と合わせて設置したところ

 Blu-rayの「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」など、映画を再生してみると、やはり2chのヘッドフォンで聴くのとは段違いの臨場感がある。2chスピーカーで聴いていたのと比べても、さらに臨場感がアップする。サブウーファを追加した事による重低音の迫力にも圧倒される。

 「サラウンドだからこうなるだろうな」と予想はしており、筆者自身はそれほど頻繁に映画を観るわけではないのだが、本格的なサラウンドを体験すると、かなり気持ちを揺さぶられてしまう。私のように、「まずはAVアンプと2chスピーカーだけでいいかな」と思っていても、これを体験すると、徐々に買い足していってサラウンドシステムを構築し、「ホームシアターを楽しんでみるのもいいかもしれない……」と思うようになった。

必要十分な機能性とハイコストパフォーマンス

 RX-S601と上位機種の主な違いは、出力の大きさや、Dolby Atmosなどの新サラウンドフォーマットへの対応、入出力端子の数や、入力映像の4Kアップスケーリングの有無などだ。

 筆者の場合は、それほど大出力は必要としておらず、ソフトがまだ少ないDolby Atmosにもあまりこだわっていない。一度セットアップしたら、気分に応じてヘッドフォンとスピーカーの出力を使い分けられたらいいな、という温度感で使い始めたので、機能や入出力数はむしろ私にマッチしていると思う。

 さらに上位モデルにも興味が出たという時は、詳しい機能差が同社の製品情報ページで比較できるようになっている。

 AVアンプの魅力は“これさえあればOK”という全部入り感にあると思う。ここで求められるポイントは、バラバラに存在している映像や音楽の入出力ルートを一本化し、それらが簡単に楽しめるようになることだろう。

 RX-S601の良さは、AVアンプとして必要十分なスペックを確保しつつ、ハイレゾやネットワーク再生といったトレンドも押さえ、同時にそれらが使いやすく機能的である事だ。なおかつ、安価にまとまっている点も高評価だ。また、それほど広い部屋に住んでいるわけでもない筆者にとって、薄型で設置場所にも悩まないサイズ感もありがたかった。

 特に「MusicCast CONTROLLER」アプリがもたらす利便性は高く評価できる。家のどこにいても、端末からボタンをタップするだけで即座に機器が反応するレスポンスの良さは、ぜひ体験していただきたい。AVアンプの最初の1台としてオススメできるモデルだ。

(協力:ヤマハ)

関根慎一