本田雅一のAVTrends

OLED TV元年。パナソニックやソニーの“憧れテレビ”の実力は?

 昨年末、欧州で発売していたパナソニックに続き、ソニーも有機EL(OLED)テレビを発表した。他にも国内市場向けにOLEDテレビ投入を予定しているメーカーがあり、国内メーカーとしてはソニーは3社目になると予想されるが、かつて“夢”と言われたOLEDテレビが今年、ほぼ出そろってくることになる。

有機ELテレビ「BRAVIA A1E」を披露するソニー平井一夫CEO

 もちろん、そのパネル供給はLGディスプレイが1社でまかなっており、生産キャパシティは限られている。まだ高価なこともあり、市場全体に占める割合は少ない。

 CTAがGfKと共同で出している予測値によると、グローバルのテレビ出荷台数は2億2,800万台と予想されているが、そのグラフ上にはOLEDテレビの存在は出てこない。売上金額では僅かにグラフ上に出てくるものの、その割合は5%以下にとどまると思われる。

 すなわち「憧れのテレビ」として、OLEDテレビがいよいよ家庭の中にも入ってくるが、実際の売れ筋はまだ液晶テレビ。OLEDも急速に伸びると思われるが、主流になるまでにはまだまだ年数がかかる……というのが、現状と言えるだろう。

OLEDテレビは“待ち”か“買い”か? パナソニックの工夫

 ではOLEDテレビは“待ち”なのか? というと、高画質なディスプレイを望むのであれば、今年モデル以降ならば“買い”の段階に入ってきた。なぜなら、LGディスプレイ製OLEDパネルを用いたテレビにあった問題が、(各社アプローチは異なるものの)今年はかなり解決されてきているからだ。

 たとえば、パナソニックが欧州向けに出荷すると発表したEZ1000(国内向けには別途発表予定だが、細かな仕様や価格などはいずれも決まっていない)は、LG製OLEDテレビが抱えていた問題をほぼ解消していた。

パナソニック「65EZ1000」

 問題とは暗部階調とハイライト部の色ノイズ、バンディングが出やすいことなどだ。RGB各色の特性がバラバラな上に、暗部階調に乏しいため、色を正確に再現できなかったのだ。

 こうした問題を解決するため、時分割で階調表現を増やした上で、疑似階調パターンを上手に使うことで、暗部階調が増えたのはもちろん、ハイライト部の色ノイズや、グラデーションの中で出やすかったバンディングノイズが大幅に解消されている。

 OLEDディスプレイは応答速度が速く局所コントラストが高いため、疑似階調ノイズが見えやすい傾向があるが、少なくとも実機でデモ映像を観た限りにおいては、疑似階調ノイズを感じることはなかった。

 パナソニックは14bitで色補正を処理を行う新型のHCX2プロセッサを使うことで実現しているとしているが、この映像プロセッサの名称は国内では変更になる可能性がある。だが、どんなブランドを使うにせよ、結果として目指している画質は極めて愚直だ。

パナソニックはHCX2プロセッサを搭載

 高い色再現性を実現することで“絵を作りに行く”のではなく、BT.2020とHDRで収められた映像を正確に表現しに行くスタイルだ。欧州向けでは“ΔZERO”と表現していたが、色座標上の数1,000のポイントで正確に色が一致するよう高精度演算を行なうことで、4K/HDR時代のリファレンスとなることを狙っている。

 うまく工夫していると感じたのはHDR映像の表現部分に関する新しい補正機能だ。

 EZ1000は最大800nitsの明るさを表現できるが、UHD BDなどには最大4,000nits程度までの明るい情報が入っている場合がある。これをどのように収めるかがメーカーごと工夫の余地のある部分だが、上手に調整する機能を備えている。

 暗部とハイライトに関して、簡単に明るさ感や白階調の出し方を変えられる調整項目を作り、テレビが置かれている環境に合わせてHDR映像を最適に調整できる。

 明るい部屋においては液晶テレビの方が有利な場面もあるだろうが、ブラックフィルターを追加したことで最暗部の沈み込みもすばらしく全暗に近い環境ではプロフェッショナルレベルの素晴らしい映像を見せていた。とりわけ映画ファンにはすばらしいテレビとなるだろう。

ソニーもOLED TV。液晶新作「X93E」も秀逸

 一方のソニーは噂のOLEDは「A1E」として発表。参考展示ではなく商品名や機能も公開しての発表となった。BRAVIA Z9Dに搭載されるX1 Extremeプロセッサを搭載する。詳細は明日取材する予定だが、パナソニックのEZ1000同様、階調表現の問題は解決されていた。

ソニーBRAVIA A1E

 展示の主力はOLEDテレビだが、ラインナップ上の現実的な主力機種は液晶テレビのBRAVIA X93Eシリーズとなる。製品名は北米向けで、おそらく日本向けにはX9300Eシリーズの銘が与えられるだろうが、こちらも素晴らしい仕上がりだ。

液晶テレビの主力となる「BRAVIA X93E」に注目

 X93Eのポイントは、X9300Dでも採用されたエッジライトの多分割ローカルディミング機能「スリムバックライトドライブ」の光学設計面で磨き込み最大輝度も高めることでコントラストを高めた「スリムバックライトドライブ・プラス」を採用したことだ。HDRディスプレイとしての基礎体力が高まったことに加え、X1 Extremeプロセッサを搭載することで4K/HDR映像はもちろん、フルHD/SDRの映像が大幅に改善している。

 とりわけSDRをHDR相当に変換するダイナミックレンジ拡張機能「HDRリマスター」は、ネイティブのHDR映像と見間違うほどの効果を発揮する。単に”輝きが増す”だけでなく明部のカラーボリューム増加といった、ネイティブHDR映像が持つ長所をSDR映像にももたらしてくれる。

 一般的にSDR映像は明るい領域の彩度が失われるが、HDRリマスターではコントラストの幅が広い映像において明部の色情報も復元されるのだ。たとえば、ネオンサインを映したSDRの映像が、まるでHDRのように先鋭感溢れる映像に。ダイナミックレンジ拡張機能はこれまでにもあったが、ここまで効果的なものは従来なかった。

 これはZ9Dから引き継いでいる長所だが、ノイズリダクション性能が向上しているため、元の画質があまり良くない映像を積極的にダイナミックレンジを拡げてもS/N感が悪化しにくい。

 部屋の照明を暗く落として映像鑑賞するのであればZ9Dとの差は大きいが、明るい部屋で観ている限りには、かなり高い満足度が得られるだろう。話題性はOLEDテレビだが、実質的な量販機としてはソニーのラインナップの中ではX93Eが高画質モデルの中心となる。

 業界で真っ先にOLEDテレビへと参入したサムスンがOLEDテレビから一端撤退した一方で、それ以外の主要メーカーがOLEDテレビへと進む状況は興味深い。サムスンもテレビ向けOLEDの開発を再開したという噂もあるが、当面はLGディスプレイ製のOLEDパネルを”どう使いこなすか”がひとつのテーマとなるだろう。

 またソニーは今世代よりHDR規格のひとつである「Dolby Vision」を採用した。従来、ソニーは技術的に採用する意味がないとしてきたが、主にマーケティング面での理由で採用されたようだ。同様に採用の必要がないとしてきたサムスンやパナソニックの対応が気になるところである。

 いずれにしろ、OLEDテレビに関しては映像コントローラ側の機能と画質チューニングなどによって、メーカー間の画質差はかなり大きいだけに、しばらくはOLEDの画質開発での競争が続くことになる。ソニー製OLEDテレビに関しては、別途レポート予定だ。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「続・モバイル通信リターンズ」も配信中。