本田雅一のAVTrends

ソニーならではのOLED TVを実現するもの。BRAVIA A1Eの画質/音質を体験する

 前回のコラムでは評価を先送りしていたソニーの「BRAVIA OLED」ことA1Eシリーズ。77型、65型、55型の3モデルがラインナップされる新製品は、発売時期、価格とも未定だが、日本での発売は決定している。今回のコラムでは、画質、音質ともに現地で確認できる範囲内での詳報をお伝えしたい。

BRAVIA A1E(75型)

ソニーならではのOLED TVを実現するもの

 まず、採用している有機EL(OLED)パネルはLGディスプレイ製。これは前回のコラムでも紹介しているが、満を持してのソニー製OLEDテレビということもあってか、CES会場で会う知人に「あれはソニー製パネルですか?」と尋ねられたが、大型のテレビ向けOLEDパネルはLGディスプレイしか生産を行なっていない。

 したがって、LG、パナソニックと同じパネルを使っていることになるが、ソニーCEO兼社長の平井一夫氏は「“OLEDだから”というディスプレイ方式だけで選んでもらえる時代ではない。画質、音質、デザイン、佇まいといった、感性に訴える部分で差異化し、OLEDというジャンルの中で選んでもらえる製品になればいい」と話す。

 確かにOLEDと液晶は、単なる画質差以上にそのデバイスとしての特徴が異なる。部屋の照明を落とし気味にした上で映画を観るならば、OLEDの方が良い体験を得られるだろうが、明るい部屋で一般的なテレビ番組やスポーツ番組を観るならば液晶の方が良い場合もある。

 液晶はバックライトの輝度を調整することで、かなり柔軟に視聴環境に合わせたパネル輝度の範囲調整が可能だが、OLEDの場合は画質を損なわないためにパネルが表現できる輝度範囲をなるべくそのまま、ストレートに使って映像を表現した方が良い結果が得られやすい。

 適材適所で選ばれるひとつの選択肢として、OLEDを用意したというスタンスだ。では同じパネルを用いたテレビのが複数ある中で、何が“BRAVIA OLED”の特徴なのか。大きくはふたつ。X1 Extremeの優れた映像処理と、パネル自身をスピーカーにしてしまう「アコースティックサーフェス」だ。

 BRAVIA Z9DシリーズでデビューしたX1 Extremeプロセッサは、HDR映像時代に対応するため、大幅に回路規模を拡大した次世代向け映像プロセッサだ。その中には、直下型LEDバックライトにおけるLEDの1個づつを個別に輝度調整した上で映像を破綻させない、Z9Dならではのバックライトマスタードライブ(BMD)に特化した機能部分もあるが、実はあらゆる種類のディスプレイに対応すべく“仕込み”が組み込まれているという。

 OLEDを採用するA1Eの場合、それはLGディスプレイ製OLEDパネルにおいて良好な階調を実現する制御にも使われているようだが、階調を引き出す部分に関しては一切公開していないという(パナソニックEZ1000は時分割制御とディザなどの組み合わせとのことだった)。

 ソニーはそもそも最高輝度に関しても公開していない。パネルスペック通りなら最大800nits程度のハズだが、ディスプレイパネルはあくまでもキャンバス。ある種類のパネル特性の中で階調を表現できるのは大前提で、その上にどんな“絵”を描けるかの勝負ということだ。

 そうした意味では、すでにZ9Dでも証明されている新しいノイズリダクション、スーパービットマッピング(SBM)による階調性改善、HDRリマスターによるSDR映像のHDR化など、X1 Extremeの長所こそがA1Eシリーズの画質面における優位点と言える。

HDRリマスターオフ
HDRリマスターオン

 SBMによる階調性改善は、とりわけSDR映像のHDR化で効いてくる。階調補正処理は一般に、強くかけすぎるとディテールを失いがちだが、X1 Extreme世代の処理では弊害をほぼ感じない。その上でデータベース参照型で、表示対象の映像素材ごとに適切なHDR変換をかけることで、放送を含む一般的なフルHD映像を、驚くほどキレイに見せる。

 質の高い4K/HDR映像……たとえば高品位なUltra HD Blu-rayソフトでの差は小さくとも、日常的に観るだろうSDRのフルHD映像において大きな差が出る。それがX1 Extremeの良さだ。

 そうした意味では、徹底的に“監督の意思”を重視し、映像制作サイドの意見を取り入れて基準モニターに近い再現性を目指したパナソニックのEZ1000とはコンセプトが大きく異なる。投入時期も近いとみられるだけに、良いライバル関係になるだろう。

BRAVIAフラッグシップの座はOLEDのA1E? 液晶のZ9D?

 一方で「Z9DとA1Eは、どちらもX1 Extremeを使っているが、どちらが本命なのか?」という意見もあろう。しかし、この2機種は大きく特徴が異なる。方式が異なるのだから当然と言えば当然だが、映像の力強さはZ9Dの方が上だろう。ピークの輝度がおそらく2倍程度あると思われるため、当然と言えば当然だ。

 もちろん最大の画面サイズや価格も異なる。同程度のサイズなら(未発表ではあるものの)A1Eの方が高価になると観られる。おそらくZ9Dの74インチモデルとA1Eの65インチが同じ価格帯に入って来るのではないだろうか。

 またZ9Dの方が力強い映像が得られると書いたが、65インチではA1Eの方がより良い画質を得られると思う。配置されているLEDの数が異なる(ローカルディミングの分割数も異なる)からだ。とはいえ、明所ならばZ9Dの優位性は動かないだろう。

 一方で部屋の灯りを落とした状態であれば、ピーク800nitsもあれば充分に明るく、HDR感に溢れる表現が行なえるのも事実だ。完全な“黒”が得られ、局所コントラストが極めて高いことなども総合して考えれば、映画派にはA1Eの方が良い。

 さらにOLEDパネルが薄型であることや、バックライトマスタードライブにはバックライト部の厚みが必要なことを考え合わせると、デザインや部屋の中における“佇まい”を考えるならば、圧倒的にA1Eの方が良いとも言える。

 どちらも異なるデバイスながら、同じプラットフォームの上に構築されており、予算と目的に応じてユーザー自身が選択すべき商品と言える。

音で勝負するBRAVIA OLEDのアコースティックサーフェースとは

 もうひとつの特徴である「アコースティックサーフェス」と名付けられたサウンドシステムは、パネル背面に電磁アクチュエータを取り付け、表示パネルを振動させることで音を出す技術を応用したものだ。

アコースティックサーフェイスを駆動するアクチュエータ

 1枚のパネルでも“分割振動”という現象が起きるため、左右ステレオ音声の再生が可能であり、再生可能帯域も比較的広い。同じアクチュエータは、LGも最新モデルで採用しており、おそらく元となる技術の供給元は同じだろう。

 液晶の場合、バックライトが存在するため、背面にアクチュエータを取り付けることができない。かつてNECが23インチの液晶テレビ兼ディスプレイをバンドルしたデスクトップパソコンを発売したことがあったが、その際には液晶の前面にアクリルパネルを配し、その両端にアクチュエータが配置されていた。だが、OLEDにはバックライトがないため、ディスプレイパネル自身を駆動する。

 もっとも、OLEDパネルを構成するガラスはスピーカー用ダイアフラムとして適した特性を有していない。より良い音とするために信号処理がかなり必要な上、画面自身を揺らすために低域はカットする必要がある。

 そこでDSPによる信号処理で対策を行なった上で、さらに薄型パネルを活かす立て掛け型スタンド部にサブウーファーを仕込んでいる。スタンド部にはチューナなどの電子回路も収められており、卓上カレンダーのような仕掛けで自立する仕組みだ。

 スタンド部のカバーを外すと、その中にサブウーファーのポートと各種入出力端子が姿を現す。

スタンド部のカバーを外すと、その中にサブウーファーのポートと各種入出力端子

 なお、このサブウーファー部は折りたたむことも可能で壁掛けにも対応している。壁掛け時に適切な音質となるよう、自立スタンドと壁掛けではサブウーファーの音響処理を変えているという。

 その音質だがOLEDの超薄型を活かしたスッキリしたデザインながら、広帯域なことに驚かされる。音圧も充分で映画など映像作品を迫力ある音で愉しめるだろう。画面の中から音がするため、セリフ位置が自然なことも特徴だ。テレビ内蔵スピーカーのレベルは超えている。

 ただし、DSPでガラス特有の音を抑えているためか、やや開放感に乏しい音となること、高域にちょっとしたクセを感じること、それにサブウーファーとの音のつながりが甘いことなど、若干の問題はある。

 とはいえ、同様の技術を用いたLGのシステムと比べるとバランスはよく、そのスタイリッシュさとともにライフスタイル空間の中における佇まいを重視するユーザー層には、単独である程度以上の音を保証してくれるアコースティックサーフェスはA1Eシリーズの大きな魅力になるだろう。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「続・モバイル通信リターンズ」も配信中。