本田雅一のAVTrends

2010 International CES前日レポート

10インチ前後の画面に適したデバイスに注目するCEA



 テクノロジ業界にとって今年最初のトレードショウ「International CES」が始まる。それに先立ってCEA(Consumer Electronics Association)は、昨年までのデータや今回のCESにおける展示を元にした分析レポートの講演を開催した。

 このイベントは毎年恒例のもので、業界全体を俯瞰し昨年のヒット商品をまとめるとともに、データを元に今年ヒットするだろう製品とその市場規模、あるいは成長分野について予測を示すものだ。データはCEA独自の集計やCEA会員企業の製品発売動向、GfKによるデータなどを組み合わせている。

2009年に成長した分野の一覧。細分化したカテゴリでしか大きな成長を示せないところに苦しさが見える
 たとえば2009年、最もも伸びた製品は1,100万画素を超えるデジタルカメラで908%の成長率(さらなる高画素化が低価格機に及んだため)。これに肉薄するのがイーサネット付きテレビ(日本ではすでにほとんどの機種に装着済み)で、フラッシュメモリタイプのHDカムコーダやLEDバックライトのテレビなどが続く。写真の表にあるHTIBというのはホームシアターセットの事で、Blu-ray付きのセットが売れ始めたということだ。

 いずれも数字は正確なものだが、条件を切りすぎているため、すでにユーザー動向が見えている現象ばかりしか見えず、今年のメガトレンドが見えづらい。参考程度に見ておく方がいいだろう。



■ 3D対応映像機器の増加は既定路線

 さて、ではCEAのアナリストが見る今年のCESトレンドだが、これも全く初耳というトレンドは少ない。たとえば、3Dを中心に新しい映像機器が多数登場するだろう事は、あらかじめ予想されていたものだ。ソニー、パナソニックはもちろん、サムスン、LG、特にサムスンは3Dを中心にしたプロモーション作戦を大規模に展開することがわかっている。

 CEAの予測では今年販売されるテレビのうち10%以上が3D対応となり、これが2013年には25%近くまで上昇するという。ネットサービスに接続できるテレビの割合も増加し、同じく2013年には半分以上のテレビがイーサネットを持ち、インターネットサービスと何らかの連携による機能を提供するとしている。

テレビ全体の出荷に対する3D対応TVの割合予測ネットに接続できるテレビの増加予測。もっともCEAも実際に接続をしていない家庭が多い事が問題との認識はしているようだ


■ スクリーンサイズの空白とは

10インチ前後のスクリーンサイズに適した製品が空白になってい
 ひとつ斬新な発想と感じられたのは、“スクリーンサイズの空白”という話題だ。画面サイズが変化するごとに製品の近い方は変化し、たとえば5インチ前後はポータブルカーナビやスマートフォン、3インチ以下なら携帯電話やデジタルカメラといった、各サイズごとに市場を支配するデバイスがある。ところが10インチ前後にはそれがないというのだ。日本では小型モバイルPCが存在するが、ワールドワイドで成功している製品となると確かになかった。

 Netbookは、そのサイズにすっぽりとはまる支配者に収まりそうだが、CEAでは電子ブックリーダが、ここに入ってくると考えているようだ。NetbookはPC技術の応用で、PCとの根本的な業界構造差はないが、電子ブックリーダはディスプレイ技術、サイズや使いやすさ、インターフェイスデバイスやLSIビジネスなど、様々な新しいビジネスを今後、生み出していくだろう。

 また、Netbookの多くはリビングルーム用端末として使われており、インターネットアクセスや電子メール閲覧と作成、ネットショッピング程度にしか使われていないというデータもある。その程度ならば、何もクラムシェルのノートPC型デバイスである必要はなく、タブレット型の電子ブックリーダにNetbook的機能を加えればいいという考え方も生まれつつある。

 CEAの予測によると、電子ブックリーダは2010年は2009年の2倍売れ、さらに2012年にはその2倍に成長する見込みとのこと。これだけ右肩上がりならば、各分野の大手が放っておくハズがない。たとえばインテルも電子ブックリーダ市場には積極的で、将来的にはx86ベースのLinuxを用いた電子ブックリーダプラットフォームを推進すると考えられる。

2010の成長予測。この中で新規分野と言えるのは電子ブックリーダと3Dテレビ家電売上の年間推移と今年の予測家電売上、カテゴリごとの比率

 もっとも、こうした成長分野の予測がある反面、マイナス成長が多いのも事実だ。昨年はほとんど成長分野が無かったが、今年もそれは変わらない。世界市場における家電製品の売り上げも、昨年から今年にかけてゼロ成長との予測だ。

 ただし、ゼロ成長でもその中身はずいぶん変化しているとCEAのレポートは指摘している。家電業界全体の収益構造が大きく変化し、製品分野ごとの収入シェアがこの5年で激変していることに加え、販売地域ごとの売り上げ構成比率も大きく変わってきているからだ。

 ざっくりと言うと2010年には中国、日本、アジア圏(インドを含む)を合わせた家電売り上げ規模が、北米と西欧を合わせた数字と同じになるというものだ。このトレンドが続くなら、来年にはアジアが北米・西欧を市場規模で追い抜くことになる。

 もっとも日本市場に関しては成長の芽は見えないため、成長は主に日本以外の市場で見込めるということになろう。いずれにしろ、従来の欧米中心のマーケティング手法ではなく、グローバルな展開を意識した計画が必要になるということだ。

各地域ごとの市場成長率。ドルベースのため日本が大きく成長しているように見えるが、実際には円高の影響で見かけ上伸びているだけ家電売上の地域ごと構成比率
液晶テレビが世界の家電業界を牽引することになるとの予測だが、その主役は新興市場

 もっとも、彼らの報告を注意深く見ていると、昨年のような楽観論はない。昨年の同じセッションで、CEAのアナリスト達は「2009年も後半になれば景気は持ち直し、特に北米の消費は回復基調になる」と話し、様々なメディアで“そんなハズがない”と批判されていた。今年は成長分野は非常に限られていると話しており、それも大きく成長する分野は「LEDバックライト付き液晶テレビ」という条件が付いている。

 しかし、分野は限られているものの「10インチ前後のスクリーンサイズを支配するデバイス」の登場への期待感や、Kindleに代表されるようにコンテンツ・通信サービス・ハードウェアが一体になった製品が成功し始めていることで、再びの成長への復帰に対しては自信を持っているようだった。

ブルーレイディスク市場は急速に伸びている
アジア経済権は欧米に匹敵する規模に成長するとの予測

(2010年 1月 7日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]