本田雅一のAVTrends

BD、テレビ、コンテンツの2010年トレンドを予測

-“3Dだけ”ではない進化の方向性



 AVTrendsという看板を掲げながら、特定のニュースや製品に関する話題を取り上げることも多い本連載だが、年の最後ぐらいは今年を振り返るとともに、将来のトレンドについて取り上げて締めておきたい。

 いくつかの分野について、それぞれ短めに今年のトレンドと来年のトレンド予測を書いていくことにしよう。

 


■ Blu-ray関連

 今年はソニー、パナソニックがハイエンド製品に高画質、高音質を特に重視した高級機を投入し、一部マニアには話題となった。パナソニック「DMR-BW970」とソニー「BDZ-EX200」は、いずれもプレーヤーに匹敵する機能や性能を持ったBDレコーダだ。

パナソニック「DMR-BW970」ソニー「BDZ-EX200」

 せっかくテレビの大型化、高画質化が進んできたのだから、この路線は何としても堅持して欲しいと思うが、それに関してはおそらく問題ないだろう。両者ともノウハウがかなり溜まり、積み重ねてきているので、少なくとも現在より悪くなることはないと思う。

シャープ「BD-HDW50」

 ただ上記2社のレコーダーには、録画動作とBD-ROM再生の同時動作に関して制限がある。制限の度合いはソニーの方がかなり厳しく、パナソニックの製品は緩い。このため、従来ならパナソニックの方がイイね、ということで話は終わっていたのだが、シャープがAQUOSブルーレイで並行動作が徹底して行なえるよう改良してきた。

 2番組同時にAVCトランスコードで録画しながらBDビデオ再生まで行なえるのはシャープだけ。ほとんどの場面で「使えない」ということがない。画質や音質に関しては、ソニーやパナソニックに一日の長があると思うが、いくら高画質でもプレーヤーとしての使い方に制限が残るようでは勧めづらい。

 もっとも、来年末には両社とも改善してくるだろう。特にソニーは、そろそろプラットフォームに使っているLSIを変更する時期だ。そこで大きく改善することが期待される。来年のトレンドは、同時並行動作の徹底、3D規格対応といったところにある。

□関連記事
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【9月9日】【EZ】全部入りのもういっこ上、ソニー「BDZ-EX200」
~ “思い出もBDに”の新展開も ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/zooma/20090909_314208.html
【11月19日】【RT】シャープの新BDレコーダ「BD-HDW50」をチェックする
「2番組AVC録画」や「同時操作」で簡単さをウリに
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/rt/20091119_330016.html

 


■ 薄型テレビ

シャープ「AQUOS LX1」

 まず液晶テレビはLEDバックライトを使って薄型化した製品が主流になってくるだろう。LEDを高画質のために使うのではなく、薄型化のために使うことでデザインを洗練させ、価格を上げずにカッコイイ製品にするという方向で、各社バリューモデルを作ってくるのではないだろうか。

 当然、省電力もひとつのキーワードになってくるが、LEDバックライトを活用するのであれば、部分的にバックライトの明るさを変化させて黒浮きを抑えコントラストを高める「ローカルディミング」を組み合わせなければ、本格的にな省電力化にはならない。

 一方プラズマテレビは、パナソニックのパネルにいよいよパイオニアの技術が一部取り込まれるようだ。コントラストを高めると共に前面ガラスが直貼りになり、ダイレクトカラーフィルタが搭載されるものと思われる。また3Dテレビにもなる上位モデルは、デュアルスキャンによる高速スキャンで階調表現力の向上なども図られそうだ。

 両方式とも3D技術に対応したテレビも登場する。最初に投入されるのはおそらくパナソニック。春にもプレーヤー/レコーダとセットで発表されるのではないだろうか。プラズマだけでなく、液晶テレビにも3D対応製品があるとの噂だ。ソニーがこれに続いて3Dテレビを発売する事になる。ただし東芝、日立などは3D対応を予定していない。あるいはシャープに関しては、来年中にも対応テレビを出してくるかもしれない。

ソニーの52型3D液晶テレビ試作機パナソニックの50型3D PDP試作機

 もちろん、3Dテレビだけあってもしかたがないのだが、PlayStation 3が初代機を含め3D映像の出力に対応するようアップデートされるほか、テレビの発売に合わせてプレーヤーやレコーダも整備される。

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【9月29日】シャープ、LEDと新パネル“UV2A”採用の「AQUOS LX1」
-環境性能と画質の「LED AQUOS」。40型で実売25万円
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■ 音楽コンテンツ

ビートルズのリマスター楽曲を収めたアップル型USBメモリ

 今年はビートルズのリマスター版CD発売が話題になったが、そのUSBメモリ版というのも12月に出荷された。サンプリング周波数は44.1kHzでCDと同じだが、量子化ビット数は24bitとなっているFLAC(ロスレスコーデック)ファイルが入っている。

 これがなかなか良い音で、CD版よりずっと気に入ってしまったのだが、高品位の音楽ソースの販売が、来年以降は徐々に増えていくだろう。SACDやDVD-Audioといった高音質フォーマットメディアでのコンテンツ販売が、そろそろビジネス的に厳しくなってきたからだ。

 DVD-Audioに関しては、すでに新譜リリースが皆無になっているものの、SACDはまだまだ毎月発売されている。そのほとんどがクラシックとジャズだが、SACDに関してはオーディオ品位にこだわる向きに一定以上の需要があり、市場でも定着してきた。とはいえ、市場サイズそのものは小さいので、音楽レーベルとしては出しづらい。

 しかし、アーティストにしろ、レーベルにしろ、高品位で録音、編集、マスタリングし、それを可能な限り良い音で楽しんで欲しいという欲求もある。だが、そうした気持ちの面を考慮しても、ディスクを生産して在庫を持ち、世界中に流通させるというのは、少々リスクが大きすぎる状況になってきたということだ。

 そこで高音質指向のレーベルは、大手がiTunes Storeなどでコンテンツを販売するのとは別の観点から、オンラインで販売するようになってきた。筆者が使っているのはLinn RecordsHDTracks.com(HDTracksでの購入には米国金融機関発行のクレジットカードが必要だが、PayPalで支払うことで日本のクレジットカードからでも購入可能)だが、他にもフィラデルフィア交響楽団のようにオーケストラが自身のWebページで音源をFLACで販売しているケースもある。

 日本ではオンキヨーが提供しているe-onkyo musicがあるが、e-onkyoがMicrosoft DRMで制限をかけられているのに対して、上記のサービスはいずれもDRMなしで販売されているのも特徴。

 良い音で音楽を届けたいアーティストやエンジニアがいて、それを欲しいという人たちがいる。でも流通の手段としてディスクは破綻してきた。そんな状況でも、ネットでの販売、配信ならば在庫リスクが減る分だけレーベル側の負担は軽くなる。

 おそらくこうしたサイトは今後増えていくだろう。DLNA 1.5対応のオーディオ機器も増加するだろうから、高品位オーディオソースは徐々にネットワーク配信へと移行していくのではないだろうか。それしか、数年後の高音質音源の絶滅から逃れる方法はないと思う。

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【11月10日】ビートルズのリマスター楽曲を収めた“アップル型”USB
-24bit/44.1kHzのFLACとMP3で収録。世界限定3万本
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■ その他

Shure「SRH840」

 来年の話ではなくて恐縮だが、シュア(Shure)が発売したヘッドフォン、SRHシリーズは素晴らしい製品だった。特にSRH440とSRH840はお勧めだ。なにしろ価格が安い。最上位のSRH-840でさえ2万円しないのだから驚きだ。

 もちろん価格が安くても音が悪ければ台無しなのだが、音もとてもいい。断線してもコードを簡単に交換できるところもいい。SRH840の音はとても2万円以下の音には聞こえない繊細さで、密閉型にもかかわらず音場は広く閉塞感を感じさせない。1万5,000円を切るSRH440は、若干表現が粗くなるものの明るい音調で楽しい音を出す。

 いずれもスタジオ向けのモニタヘッドフォンとのことだが、とてもそうは思えない。もちろん、音の違いをハッキリと聞き分けられるという点ではモニタらしい面を持っているが、決して無機質な音ではなく、音楽的に楽しめる音になっているからだ。

 これだけ価格が安ければ、値段で決めるのではなく、音の好みで両者を選択してもいいかもしれない。とにかくコストパフォーマンスは抜群である。

 ここ数年、オーディオ業界では高品位のヘッドフォンとヘッドフォンアンプが静かなブームになっているが、シュアが市場参入の際に価格面での風穴を開けたことで、今後のヘッドフォン市場に動きが出てくることに期待したい。

 韓国メーカー中心だったUSB入力/ヘッドフォンアンプ付きDACという商品分野は徐々に拡がりを見せており、単体のオーディオDACはUSB入力があるのが当たり前になってきた。前述した高品位音源のネット販売というトレンドもあって、PCに高品位なDACを繋いで手持ちのオーディオ機器で楽しみたいという要求が高まっているからだ。

 玉石混淆で良い音のものもあれば、音質という観点がサッパリ抜けているものもあるが、有名なオーディオブランドも参戦しているので、どんどん製品は良くなっていくに違いない。近いうちに、本連載でもいくつかの製品を取り上げるつもりだ。

(2009年 12月 25日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]