本田雅一のAVTrends

“3D元年”を感じさせる怒濤のCES

-プレスデイの各社3D技術を早見する



 一昨年末にパナソニックが3DプラズマテレビをCEATECで披露して以降、テレビ業界は3D対応の話題が繰り返し報道されてきた。これまでの動きというのは、機器やコンテンツが3Dへの動いている動向を探るものばかりだった。しかし、今年のInternational CESからは事情が変わってくる。

 これは3Dに関してプレゼンするとき、すべてのメーカーが話していることだが、3D映像ビジネスが映画産業において、すでに大きな成果を挙げてきていること。それに伴い3D映画が続々制作されていること。さらに3DゲームソフトやBlu-rayビデオの3Dフォーマットが策定されるなど、業界内の標準が確立してきたこと。これらが揃ってきた事で、今年、いよいよ各社が一斉に「よーい! ドン!」とビジネスを開始するからである。

 このような状況のため、今回のCESには各社とも「隠し球」とも言える話題を持ち込んで3D技術を訴求しようとしている。3D元年を肌で感じさせる怒濤の日となった、CESプレスデイを発表会では触れられなかった話題も織り交ぜながら振り返ろう。


■ 攻勢に出る韓国勢

 日本市場にはほとんど影響がないものの、世界市場全体を見れば韓国勢は無視出来ない存在だ。昨年までは大きな展示会でも、ほとんど3Dに関する展示を行なっていなかった韓国勢だが、このCESにはキッチリと合わせて3D液晶テレビを揃え、年内の発売を行なうと発表してきた。

LG電子のフルHD 3Dプロジェクタ「CF3D」。0.61インチのSXRDを使っている
 また、LG電子は3D対応ホームプロジェクタも商品化をする。サムスンは5つの製品ラインに3D対応モデルを用意し、15機種もの3D対応テレビを用意するという、まさに3D大作戦の様相を呈している。

 ご存じのように薄型テレビ市場では、サムスンが圧倒的なシェアを誇っており、3Dテレビに関しても、どこまで対応してくるかが注目されていた。しかし、サムスンが3D技術を広範な製品に持ち込んだ事で、世界的に3Dに対する注目度がさらに上がっていくことは間違いない。

 また既報のように東芝も3D対応をCELL TVの海外版に盛り込んできた。これまで東芝は国内向けテレビの3D化に対して慎重な考えを示していたが、昨年のCEATECでも披露していたように、3Dディスプレイを構築する技術やノウハウはある。CELLを活かした2D-3D変換という武器を引っさげて、どこまで完成度を高めてくるかに期待したい。

 このように昨年まではテレビの3D化を推進するソニーとパナソニックの両社が3Dの話題のほとんどを提供していたが、このタイミングでその幅は大きく広がりを見せようとしている。

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■ 152インチプラズマで存在感を見せるパナソニック

152インチ3Dプラズマを中心に据えたパナソニックブース
 一方、ここまで3Dテレビの話題を孤軍奮闘で盛り上げてきたパナソニックは、152インチの巨大3Dプラズマディスプレイを展示して話題を盛り上げている。一部に先行公開された152インチ3Dプラズマディスプレイを見たが、もっとも早い時期から実用的な3D映像を見せていただけに、高い完成度をすでに実現している。

 パナソニックの3Dディスプレイ技術に関しては、明日にも関係者へのインタビューを予定しているため、そこで詳しく述べることにしたい。


人と比べると、その巨大さがわかる
 むしろ新しい話題として興味深かったのは、3D対応レンズを用いた業務用のハンディカメラだ。これは昨年のNABやInterBEEでも参考展示されたものだが、152インチ3Dプラズマのデモでは会場の様子を実際に映して生映像を表示させるというデモも行なう。

 現在は試作段階のこのカメラだが、すでに製品化に向けての開発を進めている。現状の試作機にはストレージ部分がないそうだが、最初の製品では2つのSDカードスロットに2つの映像を同時記録する方式になる。その後、さらに上位モデルとして、業務用カメラのメモリ記録フォーマットであるP2に対応したモデルへと発展させる。


暗くて見えづらいが、中央にある3Dカメラで会場を撮し3Dディスプレイで見せている参考展示の3Dカメラ。最初の製品は2枚のSDカードに並行記録するタイプになる

 両眼レンズの間隔を60ミリ(人間の眼の間隔はおよそ65ミリ)とコンパクト化に成功しているところがポイントなのだが、これは左右レンズを横方向にシフトして、クロスポイントを可変させる構造とし、鏡筒全体を動かさなくても済むようにしたことで実現できたのだとか。

 左右視差はファインダー上では走査線のズレとして表示する。AF連動で3Dのパラメータを自動で最適化する機能なども備え、通常の2Dカメラと同じような感覚で撮影ができるという。

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■ ソニー製3Dテレビ、改善のポイント

 ソニーの発表会では初公開となる3D有機ELディスプレイが話題だ。応答速度が液晶に比べ圧倒的に速い有機ELだけに、3Dの品質は液晶テレビに比べて圧倒的に高い。2Dレベルでの映像品位がもともと高いこともあるが、有機ELという技術そのものが3Dとの相性が良いのである。

技術展示された、ソニーの24型フルHD 3D有機EL。3D技術と有機ELの相性は良い

 しかし筆者が一番驚いたのは液晶BRAVIAの3D品位が大幅に高まっていた事だ。従来の展示よりも映像が遙かに明るく、クロストークも最小限に抑えられていた。ソニー3D&BDプロジェクトマネジメント部門 部門長の島津彰氏にその理由を尋ねてみた。

 まず従来展示していた試作モデルはCCFL(蛍光管)をバックライトに用いたものだったが、今回展示した製品に近付いたバージョンではLEDエッジライトを用いている。このため輝度が従来よりも稼げている。

液晶BRAVIAの3D表示品質が大幅に高まった

透過率が向上した3Dメガネ
 さらに3Dメガネの透過率が50%にまで向上している(従来は25%程度)。3Dメガネに施されていた偏光加工を行なわなくなったために、透過率が上がったためだ。ただし自然光の透過光は2倍になるが、液晶テレビは縦方向の直線偏光がかかっている(偏光フィルムがパネルに貼られている)ので、ディスプレイからの光は10%程度の増加にとどまるが、それでも偏光膜があるよりは確実に明るさを稼げる。

 もともと、メガネ側の偏光膜は液晶シャッターの偏光方向と90度偏光がズレた光だけを取り出すために付けられているのだが、そもそも液晶パネルが前提ならばディスプレイからの光の偏光が揃っているので、偏光膜なしの3Dメガネを作ったわけだ。ただし顔を斜めに傾けたり、寝っ転がって見ると、クロストークが出て3D映像の質が大幅に落ちる。(偏光膜がある場合は横向きになると暗くなる)

 輝度上昇分と透過率向上分を用いて、映像の切り替えのタイミングをマージンを大きくしてクロストークは以前よりも減らしたという。

 また偏光層付きの液晶シャッターメガネは、インバータではない蛍光灯の下で、フリッカーが出るという問題もあったが、こちらも偏光層を省くことで解決している模様だ。ソニーは自社3Dテレビの長所として、蛍光灯照明の多い日本においてフリッカーレスを前面に押し出していくという(ただし、日本のインバータ付蛍光灯の世帯普及率は95%と言われており、実質的な差はないと考えられる)。



■ 2D-3D変換機能、エッジライトローカルディミングを搭載

 さらにソニーに関しては、ソニー・ホームエンタテインメント事業本部・第一事業部 吉川孝雄事業部長から、興味深い情報を得た。3D対応モデルには、2Dコンテンツを3Dに変換するLSIを搭載しているというのだ。2D-3D変換は東芝CELL TVがソフトウェアで実装することを発表しているが、ソニーは専用LSIを用いることで安価にこの機能を提供する。

 また3Dテレビとして展示している液晶パネルは、すべてLEDのエッジライト方式で、超薄型と3Dの両方を実現できるが、LEDバックライト方式で可能なローカルディミング(LEDを部分的に制御することで同一面のコントラストを上げる手法)が行なえないというのが定説だった。

 ところがソニーはエッジライト方式でありながら、ローカルディミングに対応したモデルも用意している。どのような手法で実現しているかは「製品発表まで待ってください(吉川氏)」との事だが、これにより3D、超薄型、高画質の三つの要素が揃った製品が開発できることになる。

 また3Dとは直接は関係ないが、ソニーの展示する上位モデルは、映像の見え方にも工夫が施されている。前面はガラスで覆われたフラッシュサーフェイスだが、液晶パネルとガラス面の間を特殊な樹脂で充填する製造工程を開発。前面ガラスの表面に映像が浮き上がり、実際の製品に未来的感覚を与えている。

 このほか、3Dコンテンツを充実させるため、スポーツ番組の3D放送をサポートする他、ディスカバリーチャンネル、IMAXと共同出資で3Dドキュメンタリー番組の専門チャンネルを作る。さらに2010年中には3D対応サイバーショットの発売も予告しており、映画制作などと合わせ、グループ全体が3Dに向けて大きく動き始めていることを感じさせた。 

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(2010年 1月 8日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]