本田雅一のAVTrends

IFA 2015に見るハイレゾソニー新展開。必聴の「CAS-1」

カジュアル層に向けh.earを提案。新ウォークマンも

 今回のIFA。日本メーカーで展示の中心となるのはソニーとパナソニックだが、それらの中でもっとも意外性があり、もっとも納得感のある製品を愉しめたのはソニーのオーディオ製品だった。ソニー製オーディオ製品には、いまも高品位なハイファイ思想息づくSS-AR1やTA-A1ESといった素晴らしい製品もある。また、この数年であればウォークマンに高品位なZXシリーズを設定、ヘッドフォンも久々にエンスージャストも納得できるMDR-Z7といった製品が登場していた。

平井一夫CEO

 しかし、それでも主力製品はカジュアルさを重視したポップなモデルが多いという印象は拭えず、それが多くのノウハウとオーディオエンジニアを抱えつつも突き抜けられないもどかしさの象徴でもあった。

 しかし今回、IFAで登場したオーディオ製品は、カジュアル層の狙いつつも、しっかりと”音の良さが音楽をより愉しくさせる体験をもたらす”という、オーディオ製品が本質的に求めるべき目的を達成する製品に仕上がっていた。

必聴のコンパクトオーディオ「CAS-1」

 CAS-1は“Compact Audio System”という、まさにそのものズバリの名称が与えられたスピーカーとヘッドフォンアンプ/スピーカーアンプ内蔵USB DACを組み合わせた製品だ。SBCとAACに加え、ハイレゾの音声伝送も可能なLDACもサポートするBluetooth Audioにも対応している。

CAS-1

 スペックについては後述するが、この製品の良さは、なんと言っても音の良さだ。オーディオ製品なのだから、良い音を目指すのは当たり前だが、欧州価格から推測すると日本では8万円ぐらいで売られるであろう小型ステレオシステムというプロフィールからは想像もできない、奥行きと上下方向に展開する豊かな音場再現力を備える素晴らしい音を出す。

 高品位なオーディオシステムは、2チャンネルステレオであっても、半球の音場をキレイに再現する。左右だけでなく斜め後方にも音が展開し、前後の奥行き方向にも音が展開し、さらには高さ方向にも音場が展開する。

 しかし、そのような音場を獲得するには、部屋の音響特性やスピーカーなどの設置状況を見すえながら、かなり細かく調整しなければならない。手軽に体験したいと思っても、なかなか原体験を得ることはできない。

 ところが、CAS-1はそんな音楽体験を根本から変えてしまうような、すぐれた音場を手軽にニアフィールド環境で体験できるシステムに仕上がっていた。こればかりは体験して感じてもらうほかないが、展示会場の決して恵まれていないデモ環境でも、きちんとその良さを体感できるのには驚かされた。さらにオフセンターでも楽しめる良い意味での“ゆるさ”と、小音量でも充分に満足できる音質を実現している点も伝えておきたい

 ニアフィールドでのリスニングに適した音場再現性に優れたオーディオシステムには、リスニングポジションがピーキーで、頭を少し動かしただけで心地よさが損なわれる製品もあるが、CAS-1にはそうした神経質さがなく、オフセンターでも音楽を充分に楽しめる懐の広さがある。

 小音量時に聴覚特性に合わせて周波数特性を調整するLow Volume Modeがあり、小音量でも音楽性を失わずに、かといって一般的なラウドネスのように恣意的な聴こえ方がしないモードも備える。これならば小さな部屋の机でパソコンを使いながら聴いても、家族にさほど気を使わずに音楽を楽しめるだろう。

 しかし、CAS-1最大の良さは、スピーカーとアンプ一体型USB DAC、システムトータルのS/Nの良さだと思う。前述の音場再現性の高さは静的な(音声信号がゼロの時の)ノイズフロアの低さだけでなく、実際に音が出ているときのS/N……スピーカーの動作や各種デジタル回路が動作する際の輻射波による影響がもたらす付帯音が抑えられ、細かな情報を失わない。

 ライブハウスにおけるジャズの演奏ならば、ひとつひとつ音の芯にフワッとまとわりつきながら拡がる音の感触、オーケストラのような大きな編成の演奏ならば、音場全体の立体感と拡がり、そして消え際の美しいグラデーション。そんな高品位のオーディオ体験をカジュアルにできる。

 スピーカーはウーファー径が小さく低域再生能力という点では限界があるものの、特徴的に引き回されたバスレフポートはサイズを上手に補っており、厚手のバーチ材を使ったエンクロージャーが不要振動を抑え込む。机の上で使うことを想定し、台座用プレートとツイータの軸をリスナーの耳へと向ける”脚”を備えているのも特徴だ(平置き用の脚も付属している)。

スピーカー部。アンプの縦置きも可能

 注目したいのはS-Master HXだ。S-Masterはソニー独自開発のデジタルアンプ技術で、HXはハイレゾ対応のアンプモジュールを表している。名前だけをみれば、ウォークマンシリーズにも採用しているデジタルアンプを想起するだろう。しかし、実際にはTA-DR1やTA-DA9100ESといったハイエンド製品に採用された“S-Master Pro”と同じフルデジタル処理構成で、ウォークマンに採用されているものとはまったく異なる。

 CAS-1で使われているモジュールは、当時のハイエンド向けS-Master Proの信号処理部分を最新の半導体技術に最適化することで改善した“S-Master Pro2”とも呼べるアンプだ。このモジュールを活かすため、低価格のコンパクトシステムにもかかわらず、スピーカー出力用ローパスフィルター向けにトロイダルコアのコイルを新たに起こしたとのこと。

 さらにヘッドフォン出力には、スピーカー向けのS-Master HXとは別に、ディスクリートで組まれたPHA-2と主要パーツを共通とし、回路設計も近似している専用ヘッドフォンアンプを搭載。それぞれの動作モードをリレーで切り替えて干渉を抑える凝った作りになっている。

 日本で発表されれば詳細なレビューが掲載されるようになるだろうが、IFA会場という制約の多い場所でも、その実力を感じられた逸品だった。スペックだけを見れば、DSDネイティブ再生に対応していない(DSD 2.8MHzの入力は可能だが内部でPCM変換される)点などに不満を持つ人もいるかもしれないが、実際に出てくる音を聴けばスペックの数字など頭から消えてしまうだろう。

 なお、背面のUSB-B端子に接続してUSB DACとして再生する場合に比べ、USB-A端子にUSBメモリを接続して再生した場合、LDACで接続した場合の音質は一段落ちると感じたが、利用上の大きな問題ではないだろう。もちろん、LDACによるBluetooth接続の音質は、AACやaptXなど一般的なBluetoothの音よりもずっと良い。

背面

 スピーカーからの音の話ばかりを書いたが、ヘッドフォン用アンプを独立させているだけあって、ヘッドフォン出力端子の音質もこなれている。その上で、きちんとスピーカーからの良質な音を出すところに、この製品の価値がある。

WM-ZX1後継が登場、新型ヘッドフォンはオーバーヘッド型に注目

 ハイレゾウォークマンは、普及価格帯のAシリーズと高級機のZXシリーズそれぞれに新モデルが投入される。中でも注目はNW-ZX1の後継となるNW-ZX100HNだろう。欧州での価格は付加価値税込みで700ユーロ前後とのことだ。レート通りに換算すると高価だが、欧州と日本の価格差から推測すると、日本では7万円ぐらいになると見られる。

NW-ZX100HZ

 ZX1は最上位モデルのいZX2で投入されたアルミ削り出しの低インピーダンスシャシーに加え、ZX1から引き継いだOSコンの採用などを特徴としているが、前モデルからのもっとも大きな違いはOSだ。

平井CEOはXperia Z5でもハイレゾをアピール

 従来のZX1シリーズと比べると、OSがAndroidから独自OSへと変更されている。機能面での違いは大きくないものの、たとえばDLNA再生などの機能は利用できず、基本的に最初から組み込まれているウォークマンとしての機能以上は利用できない。

 もっとも、ポータブル音楽プレーヤーとしての機能については共通で、音楽プレーヤーとして使う上では、従来との大きな差は感じないだろう。むしろGoogle Playアプリを使わないのであれば、専用機として設計されたZX100の方が好ましいとも言える。

 出てくる音の質感はZX2とZX1の中庸という印象だ。ZX1のある意味、割り切った音像のシャープな音の立ち上がり速度を意識させる音質に対して、ZX2は音場を埋め尽くす空気感を演出する濃密な情報量が魅力。徹底してS/Nを向上させたZX2ならではの音だが、ZX100はその持ち味をより低い価格帯で聴かせてくれる。

 音の質感はZX2とZX1の中庸と書いたが、品位の面ではZX2に近い。本体の薄さも考慮すれば、ZX2よりもZX100の方が魅力アリと感じる人も多いと思う。絶対的な音の品位で言えばZX2だが、聴く曲のジャンルによってはZX100の方がメリハリがあるように聞こえるからだ。

 128GB内蔵メモリに加え、microSDカードスロットを備える点はZX2と共通だ。

 一方、「h.ear」と名付けられた一連の新型ヘッドフォン・イヤフォンは、どれもカラフルな彩りが特徴。エラストマ素材、成形樹脂、本体塗装にロゴ、それにヘッドバンドの金属部分まで、異素材を含みつつも一貫した色調に揃えてる点も興味深い。ここまでカラーコーディネートされた製品は、ヘッドフォン以外でも見たことがない。

h.ear on

 もっとも、見た目こそ派手だが、オーバーヘッド型ヘッドフォンの「h.ear on」の音質はなかなかの本格派だ。ソニーはデザインの色気こそないものの、優れたヘッドフォンとして定評を得ているMDR-Z7という製品があるが、これはポータブル機器ではうまく鳴らない。ポータブル機器でも駆動しやすい機種としては、MDR-1Aシリーズがある。

h.ear on。ウォークマンとカラーを共通化

 いずれもオーディオ好きを意識したかなりマジメな作りだが、一方でbeatsが持つファッション性や個性からは遠い位置にある。ではbeatsのヘッドフォンが素晴らしい音を出しているかと言えば、そういうわけでもない。ソニー、ゼンハイザー、ボーズといったブランドが、軒並み20代〜30代前半を中心とする若年層にリーチできていないところに、デザインと音質の両面で切り込もうとしているのが、このシリーズということだ。

 かつてソニーが“若年層向け”として作っていたイヤホン、ヘッドフォンの中には低域がブーミーに感じる、やや安易では? と思わせる味付けのものなどもあったが、h.ear onはバランスの良い音調。ミッドバスの力感がやや演出されているものの、全体のバランスは上手に取られており、なにより密閉型にも関わらず音場が広く、開放的な明るい音作りがされていた。

 室内だけでなく、本格ヘッドフォンを音に持ちだしたい人には、個性的な5色展開とともに良い選択肢になるだろう。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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