本田雅一のAVTrends

Ultra HD Blu-rayの立ち上がりは思いのほか早そう?

4K+HDRタイトルの鍵を握るドルビーや配信との関係

 毎年、ラスベガスで開催されるCESの後に行なっている、ハリウッド映画会社各社への訪問。4K/HDRという新しい映像トレンドへの道筋が明確になってきたタイミングだけに、今年ももちろん訪問した。

 しかし例年とは異なる点もある。たとえはハリウッド映画会社と連絡を取り合いながら、最新の映像トレンドを自社製品に反映させる役割を担ってきたPHL(パナソニックハリウッド研究所)は、もちろん現在もHDR(ハイダイナミックレンジ)関連の技術実装や高画質規格策定などで活躍しているものの、その軸足は母体であるAVC社がB2B事業へとシフトしているのと同様に立ち位置が変化していた。

 たとえば、人の顔や表情を認識し、自動的に特殊メイクを施すアプリケーションは、世界中のテーマパークへの売り込みを前提に開発しているものだという。ディズニーランドやユニバーサルスタジオといった大型テーマパークに対して、映像技術を使ったエンタテインメントアプリケーションを提案、開発するなどしている。もちろん、一方で低照度から高輝度部までS/Nの良い撮影が行なえる独自開発のCMOSセンサーを用いた業務用カメラを売り込むなど、規模は小さくなったものの活動の範囲はむしろ拡がっているという印象を受けた。

 それはともかくAV Watch読者が気になっているのは、4K/HDRのコンテンツがどのような形で、どのぐらいの数、我々の手元に届くかだろう。ハリウッド各社へのインタビューも行なっているが、それは次回記事で届けするとして、まずは概況をお伝えすることにしたい。

Mad Max: Fury RoadのUltra HD Blu-ray

UHD Premiumロゴ取得コンテンツのリリース見込みは?

Mad Max: Fury Road

 以前、本連載でも伝えたように電機メーカー、映画会社、映像コア技術の会社などが共同で「UHD Premiumロゴ」というプログラムを始めている。詳細は該当記事を参照頂きたいが、このロゴを取得したコンテンツは年内に100本以上リリースされるとアナウンスされている。が、実際には100本どころか、120本以上、あるいは150本近くになる可能性もあるようだ。

 UHD Premiumロゴを取得したコンテンツ……つまり、4KでなおかつHDR、BT.2020採用というコンテンツの提供は、現時点でソニーピクチャー、ワーナー、20世紀フォックスがリリースを明らかにしている。各社とも基本的にマイナー作品以外は同時にUHD BDでも発売予定で、旧作のリリースも順次行なっていくとのことだ。

 その数は各社とも一様に30本以上。およそ35本前後で、3社だけで100本を越える。このほか、ライオンズゲートなどいくつかの独立系レーベルがUHD Premiumロゴ取得のUHD BDを発売する。

 たとえば、ソニーピクチャーは「アメイジング・スパイダーマン2」、「チャッピー」、「ハンコック」、「スモーキング・ハイ」、「ソルト」、「スマーフ2 アイドル救出大作戦!」、ワーナーは「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「カリフォルニア・ダウン」「LEGOムービー」「PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜」を、フォックスは「キングスマン」「ライフ・オブ・パイ」「メイズランナー」「X-MEN:フューチャー&パスト」「ファンタスティック・フォー(2015年版)」の発売を予告済みだ。

ワーナーは、Mad Max: Fury Road(邦題:マッドマックス 怒りのデス・ ロード)、San Andreas(同カリフォルニア・ダウン)、The Lego Movie and Pan(LEGOムービー)などをUltra HD Blu-ray化

 ただし、これらは現在発売を明らかにしているもので、毎月の新作リリースで定期的に追加していくことになる。

 いずれもUHD Premiumロゴ取得のため、4K/HDR/BT.2020という仕様は確保されている。なお当初は3層ディスクはなく、いずれも66GB容量のディスクになるとみられる。映像ビットレートはピーク時に100Mbpsに達するHEVCとなるため、Netflixなどの映像配信サービスとは異なる次元の高画質コンテンツとなるだろう。

 では他のレーベルはどうなるのか?

 パラマウントは他社動向を見てというポジションのようだが、ユニバーサルは決して後ろ向きではない。しかし現時点では他3社ほど、最初からガンガン飛ばしてコンテンツを出す状況ではないようだ。理由は不明だが、グループ会社に大手ケーブルテレビネットワークのコムキャストが存在するため、HDR配信規格がまだ決まっていないCATVへの対応が決まってから本格参入するのでは?という見方がある。

 気になるのはディズニーの動向だろう。

 デイズニーには直接の取材が出来なかった。彼らはUHD Allianceの発表にも顔を出さなかったほどで、UHD Premiumロゴの取得はもともと考えていないと思われる。彼らがUHD/HDRコンテンツへの対応で迷っている理由が、主要作品の多くがコンピュータグラフィックスだからだ。画素数が4倍になれば、その分、4倍のコンピュータ演算量が必要になる。4K制作が主流になると、得意のフルCGアニメの製作費が高騰する。

 フルHDと4Kの差以上に、HDRか否かの方がユーザー体験を高めると考えているディズニーは、4K/HDR/BT.2020がすべてセットでなければロゴを取得できないUHD Premiumロゴにこだわらずにタイトルを出していきたいというのが本音のようだ。

 ただし、ディズニー内部でも4Kで収録するのか(多くはアップコンバートになるだろう)、それともフルHDのままHDR/BT.2020で収録するのかは意見が分かれているという。

HDR対応ソフトが多数投入される背景

 このように思った以上にUHD Blu-rayの立ち上がりは早そうだが、実はその背景にあるのがインターネット映像配信サービスとドルビーだ。ドルビーは映画館向けと家庭向けに、それぞれHDR技術規格の一種であるドルビービジョン(Dolby Vision)を提供している。映画館向けは全ハリウッドメジャースタジオが契約し、ドルビービジョン版の制作を進めていくが、同様の取り組みを家庭向けにも行なっている。

 現在、ドルビービジョンのみでHDR配信が行なわれているVuduというサービス(米国のみ)で、ドルビービジョン対応の4K/HDR映画配信を行なうことを条件に、HDR版グレーディングサービスを無償で提供しているようだ。少なくともソニーピクチャーとワーナーは、ドルビーと家庭向けHDRコンテンツ制作の提携について発表をしている。同様にVuduにコンテンツを出している20世紀フォックスも、同じような契約を持っていると考えるのが自然だろう。

パッケージの背面

 ただし、コンテンツのHDR収録フォーマットとして、ドルビービジョンが必須となっているプラットフォームは現時点ではVuduしか存在しない。UHD BDではオプション(必須ではないということ)扱いで、Netflixはドルビービジョン版とHDR10版(UHD BDと同じもの)の両方を配信。(近日HDR配信を開始すると言われている)AmazonビデオもHDR10になるとみられる。

 このような状況のため、各社はドルビーがグレーディングしたHDRコンテンツを、Vudu以外ではそのままHDR10としてリリースしている。というのも、映像ストリームの作り方が違うだけで、映像のグレーディングという観点ではドルビービジョンとHDR10は互換性がある(ほぼ同じと言っても過言ではない)からだ。

 ドルビーと契約する映画会社にとっては、まだユーザーが少ない新しいフォーマットを手がけるコストをドルビーが一部負担してくれることとなる。そのため、対応が進んでいるのだと思われる。このようなサービスは、いずれHDR制作のソフトが充分に普及してしまえば、提供されなくなるためだ。

 旧作のHDR化も進んでおり、ネガフィルムに収められている広いダイナミックレンジを活かし、HDRスキャンを行なう取り組みも始まっている。筆者が目にした範囲では、フランシス・F・コッポラ監督の一連の作品がHDRレストアされている。実際に観たのは「地獄の黙示録」だが、森の中で蠢く兵士の様子などが、真っ暗な中にあっても見事に見通せる。また、ゴッドファーザーシリーズも、一連のレストア作品に含まれるようだ。

 監督自身の確認も取りながらのHDRレストア、ということだから期待したい。

日本での提供はどうなる?

 さてこれらHDRコンテンツの日本での発売、配信だが、ネット配信に関しては各配信会社次第ということになるだろう。4K配信に積極的なところは、HDRにも取り組むと考えていいと思う。配信会社が対応するならば、コンテンツの頒布を行なうディストリビューターが提供を拒む理由はない。

 しかしながら、やはり映像ファンとしてはUHD BDでの発売を期待したいところだ。というのも現状、Vuduで行なわれているHDR配信の画質が、あまり良好とは言えないからだ。

 HDR映像は輝度差が大きくなるため、従来よりもMPEGノイズが目立ちやすくなっている。加えて映像圧縮コーデックもHDR対応していないため、圧縮効率が現時点ではあまり良くないという事情もあるようだ。米国でVuduが配信しているHDR映画には、ノイズが目立つものが多かった。

 いかに最新のHEVCコーデックと言えども、4KのHDRコンテンツを平均18Mbps以下で高画質に配信することは難しいということだ。将来、この問題は解決するかもしれないが、やはり66GB(近い将来は100GB版も登場するだろう)/ピーク100MbpsのUHD BDが映像ファンにとっての本命だと言える。

 UHD BD動向について、各映画会社へのインタビューを次回の後半にお届けすることにする。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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