本田雅一のAVTrends

4K+HDR作品/テレビを業界で“品質認定”するUltra HD Premiumロゴの狙い

 米ラスベガスで開催されるCES 2016のプレスデー初日、UHD Allianceが、Ultra HD Premium Logoプログラムを発表した。UHD Alliance(UHDアライアンス)とは、大手電機メーカー、ハリウッド映画会社、Netflix、DirecTVのコンテンツ配信サービス、それにドルビーやテクニカラーといったコア技術を提供する企業が集まる業界団体で、UHD(4K/HDR)映像の技術仕様などに関して、業界内で最低限求められるルールを決めている。

Ultra HD Premium Logo

Ultra HD Premiumロゴが目指すもの

 「UHD」と銘打たれているが、実際には1年以上前からHDR(ハイダイナミックレンジ)映像のルール作りに力を入れており、実態としてはUHDへの移行時に、これまで手つかずになっていた広色域(BT.2020)や高階調(10bit階調以上)、HDRの実現を同時に盛り込むためのルール作りを主に行なっている。

 このうち、広色域と高階調に関しては議論の余地がないが、HDRに関してはこれまで筆者の連載でも多く取り上げてきたように、グレーディング(撮影映像データを調整して、最終的に上映、配信、販売する映像を作ること)の手法や表示機器によって、大きくコンテンツの体験レベルが変わってしまうという問題が残っている。

 HDRに対応する映像には、テレビやプロジェクターでは表現しきれない広ダイナミックレンジ(明暗差が大きい)情報が記録されており、それを各ディスプレイの能力に合わせて表示する仕組みになっているからだ。HDRコンテンツには規格上、1万nits(カンデラと等価)もの高輝度を記録できるが、テレビは液晶テレビで1,000~1,200nits、OLEDテレビで500~600nits程度が現時点での限界だろう。

 映像制作側も、パッケージや配信、放送などに向けたポストプロダクションにおいても、また機器メーカーも、そうした現実を踏まえた上でHDR映像を作っていかねばならない。しかし1年以上、この話題を取材してきたが、一般消費者はもちろん、業界内のプロフェッショナルでも正しく理解できている人は意外に少なく、議論が行き違うことも多い。

 このような中にあって、映画制作者が意図する映像表現を消費者に届けるため、まさに映像制作、ポストプロダクション、機器メーカーなどが一体になって「この組み合わせであれば、HDRや広色域に対応したUHD映像の実力を充分に愉しめますよ」という相互運用の保証を行なうことにしたのが、このロゴプログラムが意図するところだ。

Ultra HD Premium Logo

 メーカーはもとより、映画会社を含めた業界団体がこのような“映像品質を保証する機器の認定を行なうためのロゴプログラム(一種の規格でもある)”を運営するのは史上初のことだ。いわば、業界団体の総意で決めたTHXロゴ(シアター体験を保証するための認定制度)のようなものである。

液晶/OLEDで異なる輝度スペック

 発表されたUltra HD Premium Logoは、コンテンツ自身のスペック、再生・表示機器それぞれについてスペックが決められており、Ultra HD Premium Logoの機器とコンテンツの組み合わせで再生した場合に、映像クリエイターの意図・意思が再現されることが保証される。

 また制作コンテンツの“見え方”を保証するため、コンテンツ制作に使うマスターモニターの環境も規定されている。コンテンツマスタリングのスペックは、ほぼUltra HD Blu-rayの4K/HDRコンテンツとものと同じで、4K解像度、BT.2020(広色域)、SMPTE ST2084(PQカーブ)、10bit色深度を満たすことをクリアしたコンテンツにUltra HD Premium Logoを付与することが許可される。制作現場に使うマスタリングモニターの基準の推奨も行ない、DCI P3(デジタルシネマ用のフィルム色再現を意識した広色域規格。BT.2020よりは狭い)を100%再現でき、ピーク輝度1,000nits以上、黒レベル0.03nits以下という要求値を満たすマスタリングモニターで制作しなければならない。

 一方、コンシューマ側のディスプレイ規格……すなわち、テレビ側に求められるスペックはかなり高い。我々が選べる……つまり自分で購入する機器はこちらなので、要求スペックが高いところで決められている点は歓迎できるが、当初は最上位モデルしか採用できないかもしれない。

 映像入力として4K、BT.2020、10bit、HDRに対応するのは当然だが、表示性能に関してもDCI P3の90%以上の色再現能力が求められる。さらに、ピーク輝度は1,000nits以上、黒レベルは0.05nits以下だ。これらの数字は、上位モデルのテレビであればクリアできるが、現状、ミドルクラスの製品はクリアできない。ただし、中長期的にはこの基準がきっかけになって、ミドルクラスのテレビ画質が底上げさせる可能性もある。

 上記は液晶テレビを想定したもので、OLEDテレビに関しては別枠でスペックが規定されている。異なるのは輝度に関するスペックのみで、ピーク輝度540nits以上、黒レベルが0.0005nits以下だ。ピーク輝度こそ半分程度だが黒レベルが低いためコントラスト比で言うと液晶向けの規約に対して54倍もあるため、暗めの視聴環境では優れた映像が愉しめると予想される。

 このロゴプログラムに沿ったテレビが、各社から今年発売されることになる。前述したように、Ultra HD Premium対応テレビへの要求スペックが厳しいため、単に4Kパネルを搭載するだけでは基準を満たせない。したがって、Ultra HD Premium対応テレビにおけるメーカー間の画質差は、近年になく大きなものになるだろう。

コンテンツサイドの“やる気”は?

 無論、TVが対応してもコンテンツ側が対応しなければ、何もならない。ハリウッド映画会社をはじめ、コンテンツオーナー側の“やる気”心配する方も多いのではないだろうか。しかし、今回の発表会では、ワーナー、ソニーピクチャー、フォックスといったホームエンターテインメント部門3社の社長とユニバーサルのデジタル配信の責任者が集まり、ハリウッドにとってのUltra HD Premiumの重要性と4K/HDRコンテンツをデジタル配信とUltra HD Blu-rayの両フォーマットで出していくという。

 CESの発表会で、ハリウッド映画スタジオのトップが集まって規格サポートを発表するのは、Blu-ray発表後の記者会見以来、実に10年ぶりのことである。それだけにハリウッドの4K/HDRに掛ける期待の大きさがわかる。

 ただし、コンテンツにUltra HD Premium Logoを付与するためには、4K/UHDとHDRの両方の条件を満たすことが必須となる。一方、コンピュータグラフィクスで制作するアニメやCGを多用するアクション映画の場合、解像度が製作費に直結するため、そもそも4Kでの制作が行なわれないことが多い。すなわち、よほどの大作映画でなければ、4K/UHDとHDRを両立するCGアニメは期待できないということになる。

 UHD Allianceにはディズニーも賛同の立場ではあるが、今回の記者会見に顔を出していないのは、CGアニメを主力コンテンツとする彼らがフルHD+HDRでの制作を考えているからと推察される。将来、4KのCG制作コストが大きく下がってくれば変化もあるだろうが、現時点でディズニーの4K/HDR対応は未定と考えていいだろう。

 なお、各電機メーカーが5日に開催する発表会ではUltra HD Premium Logoへの対応に言及され、展示ブースでデモンストレーションされることが予想される。各社がどのようにして、この要求スペックをクリアしてくるのかは、今回のCESにおけるひとつの注目点となるだろう。

本田 雅一