本田雅一のAVTrends |
IFA 2011で見た3Dプロジェクタの画質進化
-DLP化した三菱。エプソンなども新製品を投入
昨年(2010年)、家庭用3Dプロジェクターが各社から市場投入された。従来のプロジェクタに比べ、はるかに暗くなると見られていたため、製品化は困難と言われたが、改良によって明るさ、画質ともに期待値を超える質が実現された。そして今年。今度は、3Dの質が問われるようになってきている。
ご存知の通り、3Dコンテンツの大半は映画だ。音楽ソフトや紀行モノもあるにはあるが、3D映画館向けに製作された映画が、家庭向けコンテンツの主流になっている。さらに3D映画の多くは大画面ほど本来のエンターテイメント性を発揮できる。
3D表示機能はミドルクラスのテレビにまで浸透してきているが、実は趣味性が高く映画を見るための道具でもあるプロジェクターでこそ生きる機能と言える。実際、昨年末から今年にかけては、3Dプロジェクターへの買い替えが一部で進み、売上はここ数年でもっとも良かったという。
来週になると米国でCEDIAというホームシアターをテーマにした展示会が行なわれるため、一部メーカーはそちらで新機種を発表すると予想されるが、根強いホームシアターニーズ(特にドイツはAV機器への関心が高い)のある欧州市場向けに、IFAで新製品を披露しているメーカーも少なくない。
■ 専用メガネで超低クロストークと明るさを確保した三菱
三菱「LVP-HC7800D」 |
これは凄い。一目で凄さがわかったのは、三菱電機のLVP-HC7800Dだ。フルHD対応のコンパクトな単板DLPで、黒と白、2つのカラーが用意されていた(日本での発売色は未定)。サイズはやや厚みを増しているが、これは冷却系を大きくしたためで、23dBAの騒音レベルに抑えている。価格は3,000ユーロ前後を予定しているとのことで、日本でも同等モデルの発売が見込まれているが価格やスケジュールなどの詳細はわからない。
この製品には2つの注目点がある。
ひとつは三菱製DLPプロジェクタとしては、久々にレンズシフトを採用したこと。シフト幅は大きくないとのことだが、シフトするかしないかで設置性は大きく変わる。DLPはコントラストを確保するためにレンズシフト機構を盛り込むことが難しい(コストをかければ不可能ではない)が、三菱は画質と設置性のバランスを上手く取ることに成功したようだ。
もうひとつは超低クロストークの明るい3D映像を実現したことだ。しかも、三菱製DLPの特徴である豊かな階調表現を損なわず、一般にクロストークとはトレードオフの関係にある明るさをもキープしている。
全画素を同時に書き換えるDLPは、高速のミラー動作で画素を表現しているため、メガネのシャッターと同期させるフレームシーケンシャル方式の3D表示と相性がいい。すでにシャープが日本でも3D DLPを発表しているが、やはり3Dの表示品質は目が覚めるほどの良さだった。しかし三菱は、標準的な3D DLPの2倍近い明るさを実現できる。
DLPでの3D表示はカラーホイールの動きに同期してメガネの液晶を駆動し、左右像を順番に表示している。この際、メガネの液晶シャッターが動作する時間を待ってから表示を開始する。ところがメガネの液晶シャッターが動作する時間を差し引くと、開口時間は半分になってしまう。結論から言うと、左右の目に振り分けることで半分、さらに開口時間が半分になることで半分。ざっくり1/4の開口時間だ。メガネの透過率による減光もあるため、トータルの光はもっと少なくなる。
この問題を、三菱は専用メガネの開発により解決した。専用メガネは強誘電型液晶(通常はTN型液晶)を使う。強誘電型液晶は中間調を表現できないものの、コントラストを高めやすく応答速度が極めて速い。衝撃に弱いという弱点はあるが、メガネのフレームを大きくして壊れにくい設計にしてでも、応答性を高めたほうがトータルの性能を上げられると踏んで、三菱は独自に強誘電型液晶を使った3Dメガネを起こした。
強誘電型液晶のメガネは、カラーホイールの繋ぎ目にあるブランクエリアの間に左右のシャッターを完全に切り替える高速性を持つため、光の量を減じる必要はなったく無い。
その効果は抜群で、クロストークがほとんど見えないのに、映像は2D時に近いぐらい明るい。製品版の登場が楽しみな1台だ。
■ D9パネル採用の二機種、日本市場への投入は?
エプソン「EH-T9000W」 |
一方、エプソンとパナソニックは、それぞれエプソン製D9プロセスを採用した透過型液晶パネルを採用したプロジェクターを展示した。
D9プロセスでは液晶パネルを480Hzで書き換えることができる。通常のラインアドレッシング(走査線ごとに書き換えを行なう方式)で3D表示を行なう場合、従来の240Hz書き換えでは1/4しか光を利用できない。しかし480Hzにするとその3倍の光を使えるようになる。明るさに余裕がある分、液晶の応答を待つ時間を取れば、クロストークを減じることも可能だ。
最初にチェックしたのはEH-T9000Wで、Wireless HDによる無線HDMI伝送にも対応し、配線なしでの設置が可能になる。でも会場では120インチのスクリーンを使って投影していたが、2D東映と変わらないぐらいの明るさな上、クロストークは気にならないレベルまで抑えこまれていた。
残念ながらエプソンのデモシアターは、たまたま担当者が不在だったのか細かな画質を確認できる状況にはなかったが、明るさ、クロストークともに3Dプロジェクタとしての未来を感じさせる出来だったとは伝えておきたい。
正直言って期待値以上。反射型液晶パネルを使った昨年までの3Dプロジェクタよりも、むしろクロストーク、明るさともに透過型の本機のほうが上回っている。
パナソニック「PT-AT5000E」 |
同じパネルを用いたパナソニックのPT-AT5000Eも、明るさやクロストークは同等以上。細かな比較は展示会場では無理だが、絵作りは昨年のAE4000で評価の高かった映画モニタ的画質をさらに発展させ、抜けの良い映像を見せていた。
この二機種は今後もライバルになっていくだろう。価格、最終的な画質ともに大変に注目できる製品だと思う。
ところでパナソニック製プロジェクタの日本での展開だが、どうやら日本でも販売しそうな雰囲気を感じている。パナソニックは画質が格段に良くなったAE4000から日本での活動を休止しており、本来のパナソニックが目指していた画質を日本のファンは楽しむことができていない。
噂だけでなく、本当に日本での発売を実現してほしいものだ。
■ ソニー、ビクターの動向は?
ソニー「VPL-VW95ES」 |
最後にソニー、ビクターの動向をお伝えしておきたい。
ソニーは現行機種であるVPL-VW90ESの後継機種であるVPL-VW95ESを披露していた。従来機に比べての向上は、3D表示時にランプをパルス駆動することで、3D時の明るさと画質を大幅に上げる、HW30で導入された技術を、従来機に組み込んだものだ。3Dの質は確実に上がり、HW30同等以上の3D品位を実現しており、もともとの2D画質の良さも合わせて着実な進歩をさせたモデルだ。
実はソニーにはもうひとつ、新しいモデルの噂がある。春ぐらいから、最上位モデルとしてVPL-VW400(仮称)と呼ばれる製品が登場するのでは? というものだ。これは4K2Kパネルを用いたリアル4Kパネル採用の3Dプロジェクタとのことなのだが、今回の会場には持ち込まれていないようだ。年末から来年にかけての発売が目標になっているものと思われるが、実際に発売されるか、それとも経済動向などを見て発売されないかは流動的のようである。
同様に4Kプロジェクターの噂があるビクターも、今回はデモシアターを設置していない。毎年、ビクターは米国で開催されるCEDIAにおいて新型機を発表するので、来週には新モデルが明らかになっていることだろう。
今年の3Dプロジェクターは、「3D映画を投影できる」から「3D映画を明るく高画質で投影できる」へと、成熟した商品としてのフェイズがひとつ前へと進んだ印象だ。プロジェクタの買い替えで悩んでいる方は、今年モデルを詳細にチェックしてみるいい。思いの外、進歩の度合いが大きいことに気づくだろう。