本田雅一のAVTrends |
社会インフラの技術をデジタル家電にも
東芝デジタルプロダクツ&サービス社 大角社長インタビュー
東芝デジタルプロダクツ&サービス社 大角社長 |
既報の通り、今年のIFAでは東芝デジタルプロダクツ&サービス社・社長の大角正明氏が基調講演を担当した。東芝の持つ社会インフラを支える技術を生かしつつ、地域社会、あるいはビル単位、家単位といった区切りの中で、いかに効率良くエネルギー活用するアイディアを生み出していくか。
東日本大震災で失われた社会インフラの再建を通じ、新たな発電技術、送電技術、電力管理技術を作り上げよう。そう呼びかけた大角氏に基調講演について、そして、デジタルプロダクツ&サービス社について話を伺った。
--- 基調講演では東日本大震災に触れ、復興する際に以前と同じ街を再建するのではなく、以前よりも優れた、より進んだ街づくりをしなければならないと話しました。
大角氏:(以下敬称略)「震災は大きな価値観の変化をもたらしました。すべての日本人が影響を受けていますが、中でもエネルギーに対する関心の高まりが、もっとも大きな話題です。古い体制や発電事業者に完全に依存し、好きなだけエネルギーを浪費する社会から、よりフレキシブルにエネルギー問題に対応できる体制に移行する必要があります」
「東芝は社会インフラを支える多様な技術を持っていますから、それを様々な大きさのコミュニティで活かすことで、より高いエネルギー効率のスマートシティ、スマートビルディング、スマートホームを実現できるでしょう。BEMS(Building Energy Managemant System)やHEMS(Home Energy Management System)の実現に向け、持続的な発展が期待できる社会インフラの再構築に東芝は技術やノウハウを提供できると考えています」
「たとえば、交通渋滞や人の流れを予測する技術を我々は持っています。電気自動車の需要が高まってくるでしょうが、充電管理などでノウハウを生かせるでしょうし、BEMSではビル単位での人の動きを予想しながらのエアコンの調整などを行ないます」
講演のテーマは「Next Challenge for Japan」 |
--- 大角社長の現在の担当であるDS社の商品やサービスは、そうした部分とどうつながっていくのでしょう? たとえば、従来はまったく異なる技術・事業であった発電・送電といった部門とDS社の協業が進むのでしょうか?
大角:「インフラと家庭向けの電機製品。これらは今日の時点では、まったく違う2つの分野です。しかし、これからは結びつきが生まれてくるでしょう。東北エリアにどのようなインフラを作り込んでいくのか。最新の技術の知見で創り上げるインフラは、未来へとつながっていきます。津波被害に遭った地域を私も訪問しましたが、すべてがなくなっているため、すべてをやりなおさなければならない。その時に、インフラ技術とデジタルプロダクトが結びつき、あらゆる可能性を求めてインフラ技術を担ってきたノウハウが応用できると思います」
「実は社会インフラからビル、住宅などの設備、AV機器から生活家電まで、あらゆる分野に対して技術を持つ企業は少ない。そのユニークな立ち位置を競争力として転換しようということです」
--- デジタル家電とパソコンの分野を統合したデジタルプロダクツ&サービス社となった初めての大きな展示会です。様々な新製品が展示されましたが、どのような意志をもって今回のIFAに向けた開発を行なってきたのでしょう?
大角:「デジタル製品の境目は曖昧になってきています。コンシューマ向け製品に関して言えば、テレビ、レコーダ、PC、タブレット、スマートフォンなどは、使われる場面や大きさなど違う商品である一方、コンテンツやアプリケーションなどの面では重なる領域を共有しています。我々がデジタルプロダクツ&サービス社としてデジタル家電とPCの事業を統合した理由は、開発の垣根を取り払うことで効率化を図り、機器間を境目なくクラウドで結びつけた新しい商品開発を促すためです」
「そうした事業統合方針の上で、さらにヘルスケアやインフラ事業とどのように連携していくかについては、まだ具体化されているわけではありません。しかし、東芝という会社は目標さえ定まれば、そこに向かって異なる事業部門が密な連携をし始める遺伝子を持っています。今回、IFAには裸眼3Dを実現した4K2Kテレビ、超薄型パソコンのUltrabook、あるいは薄型タブレット。世界的に見てもクラウドとデジタル機器の関係強化がテーマになっていますが、単にエンターテイメントにクラウドを活用するのではなく、たとえばエネルギーマネジメントなどにも幅を広げ、クラウドを通じた地域コミュニティの形成などに取り組んでいきたいと思います」
--- 昨今、ハードウェア自らの機能としてもっていた価値が、クラウドの先へと移り変わってきています。携帯電話からスマートフォンへの変化などで、それは顕著ですよね。今回のIFAではソニーがSony Entertainment Networkを発表しました。今後、クラウドを通じたコンテンツ供給をデジタル家電メーカー自身が提供し、各製品を結びつける時代が来るのでしょうか?
大角:「東芝はこれまで一貫してハードウェアのメーカーでした。当初はB2Bのメーカーで、その後、コンシューマ向けのプロダクトに領域を広げてきました。しかし、コンシューマ向けハードウェアの事業は厳しい。デジタル家電が内包していた価値が、クラウドに溶け出ているというのは、たしかにあるでしょう。したがって、クラウドを通じたコンテンツの提供やインターネットサービスと連携した機能の提供は積極的に取り組んでいきます。そこに取り組まなければ、デジタル家電事業の継続はできません」
--- IFAで東芝は欧州向けに「TOSHIBA Place」というクラウド型のネットワークサービスを開始すると発表しました。これは日本でも展開するのでしょうか?
大角:「日本でもサービスを提供する予定です。欧州とはコンテンツが異なりますが、基本的な思想は同じです。エンターテイメント領域だけでなく、ホームコントロール、ホームショッピング、地域密着型の情報サービスなど、社会インフラ事業をやっている東芝ならではのサービスと結びつけていきます。電力、送電、医療、水道、医療、それにエレベータなども結びつけていくことができます」
4Kグラスレス3Dテレビ55ZL2 |
--- 昨年までのCELL REGZAに続き、今回は4K2Kパネルを用いた高付加価値テレビを商品化しましたが、世界的に見てもテレビのコモディティ化は猛烈に進んでいます。こうした高付加価値のテレビの今後についてどう見てらっしゃいますか?
大角:「まず、大型テレビそのものがなくなることはないでしょう。そして、大型テレビに対してエンドユーザーが求めるのは高精細、高画質です。それに全世界の市場で3D表示機能に関してアンケートを取ってみると、3Dへの要求が意外に大きいことがわかります。今回発表したレグザ55ZL2は、それを実現できる共同開発パネルです。我々は大型のテレビの事業をやり続けるかぎり、誰にも負けないし、究極的には100%のシェアを取りたいと思いながら開発をしています」
「他社とは違うユニークさを持った製品の開発には、もちろん開発費がかかりますが、高付加価値製品の開発はその後の大型テレビの商品力を向上させる効果もあります。単年の製品だけでなく、もっと長いスパンでの投資だと考えているのです。今回の4K2Kパネルを用いた裸眼3Dテレビも、これをコストダウンし、サイズのバリエーションを増やし、翌年の中核モデルへと引き継いでいく。そうした努力は今後も続けていきます」
--- 今回は特徴的なフォルムの超薄型タブレット端末を発売する一方、薄型ノートPCも発表しています。PC事業とタブレット端末の関係、今後の市場性をどのように見てらっしゃいますか?
大角:「今回のIFAでは、タブレットに多様性が生まれています。様々なスクリーンサイズの提案があり、用途面でもメーカーごとに新しい領域に挑戦しようとしていることがよくわかる。アップルが10インチというサイズで始めたタブレット端末ですが、今後は小さい方向にも大きな方向にも、用途ごとに様々なタブレット端末が提案されるでしょう。将来は用途ごとに異なるサイズのタブレットを使い分けるようになるかもしれません」
「またタブレットの応用範囲が拡大しているのと同時に、PCに関しても可搬性が高まることで用途が広がっています。Ultrabookをインテルが力強くプロモートしてますし、その領域にたいして我々は早い段階から、今回のように質の高い製品を提供できました。タブレットと同様、モバイルPCもその応用領域を広げており、タブレット端末と市場を食い合うのではなく独自に発展するでしょう
10.1型の新「レグザタブレット」 | 薄型ノートPCも発表 |
--- ひとつのひとつのカンパニーになったことで、デジタル家電、PC、タブレットはどのように結びついていくのでしょう?
大角:「デジタル製品という意味では、Androidがひとつのコアになって製品の基礎ができていくでしょう。これまで、デジタル製品は青梅、テレビは深谷と、ふたつの組織が別の場所にありました。この2つの事業所は現在もそれぞれにありますが、同じ領域を担当するエンジニアはひとつの開発部隊として、あるレベルで統合されています」
「顧客の立場で言えば、機器同士の連携でうまくいくよう調整するのは当たり前のことです。機器単体のことを考えれば良かった時代は終わりました。コンテンツ、アプリケーション、操作性。様々な切り口があり、単にクラウドでコンテンツを配信・共有するだけでなく、タブレットやスマートフォンのアプリケーション、あるいはSNSなどのサービスを活用していきます。すでに社内には、そうしたネットワークを通じた連携を行なうための組織を独立した部署として立ち上げました」
「日本の家庭では1台のパソコンを家族で共有してらっしゃる方が、実はまだとても多い。そうした意味ではUltrabookやタブレット端末などにより、本当の意味で“パーソナルな”コンピュータが普及する余地は、日本にはまだ多く残されていると考えています。コンシューマ向けパソコンの市場は、映像コンテンツやテレビ、レコーダの世界と結びつきながら、今後も伸ばしていくことができるでしょう。