[BD]「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」

ニーソめがねっ娘が旧エヴァを“破”壊!?
文句なしに面白い、新生ヱヴァの本領発揮


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ 何度でも観たくなる作品に



ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
EVANGELION:2.22
YOU CAN (NOT) ADVANCE.
Blu-ray版

(C)カラー
※画像はイメージです

価格:6,090円
発売日:2010年5月26日
品番:KIXA-35
収録時間:約112分(本編) + 39分(特典)
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:片面2層×1枚
画面サイズ:16:9(ビスタ) 1080p
音声:(1)日本語
      (ドルビーTrue HD 6.1ch)
    (2)日本語
      (DTS-HD Master Audio 6.1ch)
    (3)日本語(ドルビーデジタル 2.0ch)
発売・販売元:キングレコード

 いよいよBD/DVDが発売された「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」。「新劇場版」というくらいだから「旧劇場版」が存在するのだが、“旧”には個人的にあまり良い想い出が無い。

 '95年のテレビシリーズはリアルタイムで観ていたが、謎が謎を呼び、そりゃあもう面白かった。放送翌日は学校で友人達と「この先どうなるのかな」、「あれはどういう意味なんだろう」と議論したものだ。

 だが、ご存知のようにテレビシリーズは“ちゃぶ台をひっくり返した”ような展開となり、「主人公が納得したからこれでいいんです」という凄い終わり方。それじゃああんまりだという事で、テレビシリーズで描かれなかったハルマゲドンを映像化したのが'97年、'98年の旧劇場版となる。

 7年ほど前の「買っとけ」にも書いたが、公開当時、路上にダンボールを敷いて徹夜で並び、眠い頭を持ち上げながら劇場の椅子に座ったのを今でも覚えている。そんな最低状態に上映されたのは、主人公の手淫やらヒロインの鳥葬やら火炎放射やら客席実写映像やら、トラウマレベルの映像オンパレード。よく映画館で気絶しなかったものだと我ながら関心している。

 こう書くと悪く聞こえるが、生々しく、ドロドロとしたエヴァという作品の締めくくりとして、あれ以上のものは存在しない、間違いなく大傑作だと思う。世界の終わりを表現するイマジネーションの洪水に、監督の強いメッセージを乗せて客席に叩きつけたような作品だった。

 ただ、素晴らしい作品だと思う一方で、個人的に「何度も観たい」と思える作品ではなかった。言いたいことも、やりたい事も痛いほど伝わってくるのだが、映画を観ていると「なんでこれを観てなきゃいけないのかな」と我に返ってしまう。そんな想いをしながら観ても、鑑賞後に少しもスッキリしない所も凄い。観る事で得る物が、観る事で相殺されるような気がしたものだ。

 今回の「新劇場版:破」は映画館で観ているが、こうしてBD版を再生する前に、さっそく昔のエヴァとの最大の違いに気付いた。もう一度観る事をまったく苦に感じないのだ。むしろ早く再生が始まらないかとリモコンボタンを連打している。何度でも観たくなる作品になった事が、新劇場版の真価と言えるのかもしれない。



■ 懐かしくも新しい作品に

 舞台は“セカンド・インパクト”と呼ばれる大災害で、人類の半数が死滅したものの、復興しつつある日本。14歳の少年・碇シンジは、疎遠だった父に呼び戻され、第3新東京市で「使徒」と呼ばれる正体不明の巨大生物と戦う事になる。彼に与えられたのは対使徒用に開発された人型兵器エヴァンゲリオン。陽気な上司・葛城ミサトや、同じエヴァのパイロットで、無口な少女・綾波レイとの関わり合いの中で、シンジは今までの自分を変えるキッカケを掴んでいく。

 そんな最中、第7の使徒が襲来。それを撃破したのは勝気な少女、式波・アスカ・ラングレーが操縦するエヴァンゲリオン2号機だった。シンジと同様、ミサトの家に同居する事になるアスカ。シンジ、レイ、アスカの3人で使徒撃破のミッションをこなすなど、交流を重ねるうちに、アスカは他人に心を許す事の嬉しさを、レイはシンジに対して今までに味わった事のない感情を芽生えさせていく。

 時を同じくして、シンジの学校にマリと名乗る少女が現れる。彼女もまた、北極のネルフ施設で第3使徒を撃破した、エヴァのパイロットだが、その言動には謎が多い。一方、アスカは開発中のエヴァ3号機のテストパイロットに志願する。しかし、それが悲劇の始まりだった……。

 前作「序」は、大筋ではテレビシリーズと同じストーリーだったが、今回のタイトルは「破」。今までのエヴァを“破壊する”という意味だそうで、言葉通り、映画は新キャラクターのマリが、見たことのない形のエヴァに乗り、知らない使徒を倒すという“新要素満載シーン”からスタート。“新しいヱヴァが始まった”事を、観客に強く印象付ける、“破”を象徴する演出だ。

 

新キャラクター・マリが、新しいエヴァに乗り、新しい使徒を倒す、新要素ばかりのオープニング
(C)カラー

 かといって、全てが新しいわけではない。新劇場版はテレビアニメ時代の原画やタイムシートなどを、素材として一度解体。それをベースにしながら、映像や物語を再構成しているため、シーン単位では見覚えがあったり、使徒のデザインにもテレビ時代の面影があったりする。例えば“開発中のエヴァに乗る”という展開は昔のままだが、乗るのがシンジの親友・トウジからアスカに変更される場面もある。そのためTV版をよく覚えている人は「凄く懐かしいのに、話も映像も激変してて、先が読めない」という何とも奇妙な感覚が味わえる。

アスカの登場が作品の雰囲気をガラリと変える
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徐々に人間らしい感情に目覚めていく綾波レイ
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 「破」で最も大きいのはアスカが登場した事だろう。内向的なキャラが多く、悲壮感漂うエヴァという作品の中で、自信に充ち溢れて前向きな彼女は、作品の空気を一変させる存在であり、それは新劇場版でも変わらない。前作よりもド派手なアクションが倍増した事と併せ、重厚で叙情的な「序」と比べ、「破」は爽快感溢れる作品に仕上がっている。

 見所が本当に多い作品だが、輸送機から落下するエヴァ2号機の立体的な動きや、空から特攻をかけてくる第8使徒を受け止めるために疾走するエヴァ初号機の躍動感溢れる動き、加速し過ぎて音速を超え、吹き飛ぶビルや車の細かい描写。エヴァを切り刻む第10使徒バトルでの静と動を使い分けたショッキングな演出など、アクションシーンが凄くて息つく暇がない。

 簡単そうに見えて難しい、2Dアニメでの“速さ”、“重さ”、“(爆発などの)風圧”、三次元的な“空間”、そして“遠近感”の表現が秀逸で、全編にアニメらしい動きの面白さが溢れる。「さすが庵野作品」と終始圧倒された。エヴァやアニメに興味が無い人も、一度は体験するべき映像である。

 物語としては「ネブカドネザルの鍵」や、謎まみれの渚カヲルの言動など、また色々調べたくなる伏線テンコ盛りだ。しかし、伏線の波に物語も押し流されていた昔のエヴァと違い、「難しい言葉は一杯出てきたけど、とりあえず物語を楽しんで」と言わんばかりに、ストーリー展開に力がある事が嬉しい。意味深な言葉はあくまで作品に深みを出す味付けで、大事なのはキャラクター達が“どう感じ”、“どう行動し”、“どうなるかだ”という姿勢が貫かれている。

 ただ、キャラクターの“実在感”で比べると、過去のエヴァの方が優れていたと感じる。シンジを意識して赤くなる「破」のアスカ&綾波も可愛くて良いのだが、「ミサトやシンジの使ったお湯になんか誰が入るか」と言いながら風呂の湯を全部抜いていた昔のアスカの方が、“匂いも感じられるような生身の人間っぽさ”に溢れていた。

 そうした泥臭い描写の積み重ねが、ドロドロ、グログロした、カルト的な“エヴァっぽい雰囲気”を生み出していたわけで、新劇場版はそれらを意図的に薄め、不足分を迫力を倍増させた映像&アクションで補っているようにも見える。「凄いけど、普通のロボットアニメに近づいたな」という印象を受ける人もいるだろう。この場合、どちらが良い悪いではなく、どちらも“やれてしまう”事を賞賛すべきだ。



■ 追加・修正シーンも多数

 新劇場版のBD/DVDと言えば、ソフト化に合わせた再調整やシーンの追加、カットの修正などがもう1つの見所であり、今回の本編も劇場上映の「2.0」バージョンから「2.22」に進化している。

 映画館での記憶を頼りに比べるので曖昧な部分も多いが、ネタバレを控えると、1回目の視聴ではシンジと加持の出会いのシーンや、ミサトが椅子の上でクルクル回るシーンなどが「観たことないな」と感じた。後者はミサトの性格を良く現していてミサトファンとしてはグッとくるのだが、前者は加持の表情の作画が微妙に他のシーンと違って見えて、オタクっぽい感想だが違和感を感じた。新劇場版で初めて作品に触れるという人には気にならないかもしれないが……。

謎だらけの新キャラクター、マリ。シンジは良い匂いがするらしい
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 アクションシーンも映像や動きに随分手が入れられているようで、第8使徒との戦闘では、エヴァの3DCGっぽさがかなり低減。劇場ではポリゴンエヴァが若干2Dの背景から浮いて、“いかにもCG”という感じだったのだが、「2.22」では融合がより自然になり、ほとんど違和感を感じずに鑑賞できた。これはエヴァに限らずCGを使ったオブジェクト全般に言え、「序」よりもクオリティが向上している事がわかるポイントだ。

 新キャラクター・マリの描写も変わっている。マリというキャラクターは、ミニスカート&ニーソックスでメガネっ娘、そして坂本真綾声という筆者に対して極めて戦略的なキャラクターなのだが、学校の屋上でシンジと出会う時のスカートのチェック柄がより綿密になり、動きが劇場版よりさらに見えそうで見えない感じに強化されており、大変ありがとうございました。



■ 安定した画質。SBMV Extendの効果も

 「序」もアニメBDではトップクラスの画質だったが、「破」も安心の高画質。メリハリがありつつも輪郭がキツすぎない、絶妙な質感。冒頭のエヴァ仮設5号機の戦闘は、暗くて劇場ではよくわからない部分もあったが、BDでは暗部の情報量が豊富かつ何度も見返せるのが嬉しい。その後は終始、昼間のシーンが多く、青い空や赤い海、青い水槽など、クリアな画質に合った映像が続く。オブジェクトの少ないグラデーション部ではバンディング(階調の変化点が等高線のように見えてしまう現象)が心配だが、「序」の時に紹介した対策技術「SBMV」を発展させた「SBMV Extend」が、今回の「破」で使われているため、グラデーションの美しさは顕在だ。

初号機疾走シーンは非常に迫力があり、映像的にも注目ポイントだ
(C)カラー
 ディスクは片面2層で映像はMPEG-4 AVC。ビットレートは30Mbps前半を中心に推移し、瞬間的には40Mbpsオーバーもある。前第7使徒との戦闘における細かい破片の乱舞や、第3新東京市を初号機が疾走する際、高速で流れる街並みのディテール、見上げるアングルで初号機に電線などが重なっても、双方のディテールは曖昧にならず、非常に安定感がある。アクションが高速なので見過ごしがちな建物の壊れ方、吹き飛ばされた車の窓ガラスの割れ方など、細かい部分をコマ送りで確認すると、その細かさに驚かされる。

 巨体のエヴァが飛んだり跳ねたりするシーンが多いので、サブウーファの出番が多い。視点が変わるアクションが多いためか、リアスピーカーもかなり仕事をするソフトだ。効果音はどれも派手目で、エヴァと使徒が殴り合うようなシーンでも、打撃音、爆発音、雄叫びなどに埋もれず、硬質なATフィールドの「パキィーン」という音が突き抜けて心地良い。ただ、音場が広く、個々の音像の主張が強いため、なかなかボリュームの適正値が決めにくい。後半にはBGMの歌が重要になるシーンもあるので、「いくらでもボリュームを上げられる」という環境でない場合は、シーンごとに少しボリュームを調整すると良いだろう。


店舗ごとに様々な特典が用意されているようだが、ヨドバシカメラで購入したところボールペンがもらえた

 メニュー構成は「序」とほぼ同じで、BD-Jで作られたもの。動画編集ソフトのタイムラインのように各チャプタのサムネイルが下部に並んでおり、目的のシーンに素早くアクセスできる。

初回生産分には特典として、劇場上映生フィルムコマが付属。今回購入したのにはミサトが入っていた。ミサト好きなのでわりと嬉しい
(C)カラー
 メイキング的コンテンツは、CGやエフェクトの試行錯誤過程がわかる「Rebuild of EVANGELION:2.02」。映像が切り替わるたびに3DCGが完成形に近づき、光源や空気感を付与するエフェクトが重なって立体感が出て……と、興味深い映像なのだが、何の解説も無く映像が続くだけなのでよくわからない部分もある。付属ブックレットに簡単な説明があるので、それを片手に観ると良いだろう。ただ、どうせなら音声や文字で詳細や苦労話を語って欲しいというのがファン心理だ。

 さらに、使われなかったシーンも収録。プレビズ(?)の荒い3DCGや原画のみのシーンなどで構成されているのだが、アフレコ時に声優が声を出すタイミングに使うボールド表示(四角で囲まれたキャラ名表示)が入るので、見ていると勝手にアフレコをしたくなる。

 「"I Would Give You Anything"Scene NOGUCHI Ver.」はクライマックスシーンの音声的別バージョンで、本編では歌とセリフのみで、効果音の無い演出になっているが、同じシーンに効果音をプラスしているもので「音響の可能性を提示した」という。箱根の廃校で行なわれた上映会の際は「NOGUCHI Ver.」が何なのかベールに包まれていたのだが、効果の野口透氏によるバージョンという意味だったようだ。なお、歌も特典用にステレオから6.1chでリミックスされている。




■ ヱヴァ自身がエヴァを破壊するということ

 エヴァという作品は、内向的な少年が自分の外の世界に踏み出すの物語だ。それは新劇場版でも恐らく同じだろう。個人的には、過去のエヴァも一応はハッピーエンドの物語だったと理解しているが、「手放しで大団円だったか?」と言うとスッキリしない。そのモヤモヤがファンによる数多くの創作ネット小説や漫画を産み、同人ブームの盛り上げに寄与したのは確かだ(実際に書いていた人間が言うのだから間違いない)。公式でも学園ラブコメやギャグもの、果ては探偵物語まで、様々な派生作品がリリースされているが、それも“旧劇場版以外の可能性”を考えたくなる、作品の特色に起因しているだろう。

 個人的に前の劇場版以降、様々な派生作品に触れていたので、新劇場版を観ながら「なんか似たような展開、どっかで読んだな&観たな」という既視感で、苦笑した。ファンの二次制作と庵野総監督本人による新作を同列に語るのはムチャな話だが、エヴァという作品自体、アニメ界のある種“古典”や“テンプレート”と化した感がある。他でもない、そのベースを作り出した庵野総監督ら本人達が、同じ素材を使って何をやろうとしているのか?、「破」はその片鱗が垣間見える作品と言えるだろう。

 また、何よりそうしたメッセージを極力抑えつつ、サービステンコ盛りのエンターテイメント作品になっている事を評価したい。アニメの大監督にありがちな展開として、昔の作品はメッセージとエンターテイメントのバランスが最高だったのに、最近はメッセージばかりで、観ても意味がわからなかったり、説教されてる気分になって、「僕らは普通に楽しめる映画が観たいだけなんですが」と言いたくなる事が多々ある。ヱヴァにはそうなって欲しくない。

 新劇場版は頑張るヒーロー・シンジ、可愛いヒロインの綾波、徐々に解き明かされる謎と、王道を進みつつある。「エヴァがこのまま終わるはずがない」、「引きこもりで30代になったシンジ君が布団で目覚めるようなテレビシリーズを越える“超ちゃぶ台返し”が起きるんじゃないか」という不安も5%ほど無くはない。だがメッセージてんこもりのエヴァはもう前に観た。次も“文句なしに面白いヱヴァ”が観たいものだ。


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(2010年5月26日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]