[BD]「インビクタス/負けざる者たち」

種目違うけどワールドカップ時期に必見!
南アフリカ好きになる号泣ラグビー映画


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ 良い意味でも悪い意味でも注目の国



インビクタス/負けざる者たち
ブルーレイ&DVDセット
価格:3,980円
発売日:2010年7月14日
品番:BWBA-Y27605
収録時間:約133分(本編)+約60分(特典※BD)
映像フォーマット:VC-1
ディスク:片面2層×2枚(BD+DVD)
画面サイズ:シネスコ 1080p
音声:(1)英語
     (DTS-HD Master Audio 5.1ch)
    (2)日本語
     (ドルビーデジタル5.1ch)
発売/販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ

 開催前はネガティブな話題が尽きなかったワールドカップも、蓋を開けてみれば日本代表の白星スタートで、テレビ中継の視聴率が約45%を記録するなど、一気にヒートアップ。かくいう筆者も、開催前は気にしていなかったのに、偶然中継を目にして、そのまま最後までかぶりつき。思わず熱くなってしまったミーハーな1人である。

 ネガティブな話題で大きかったのは、日本代表の実力を不安視するものだったが、もう1つは開催地・南アフリカの治安の問題だ。応援ツアーのチケット販売の不振や、開催前に現地入りしたプレス関係者がさっそく強盗に襲われる事件なども発生。こうした情報が頻繁にテレビで取り上げられることで、「本当にちゃんとワールドカップを開催できるのか?」、「期間中何も起こらなければいいが……」という、不安な空気が日本中に流れる事になった。日本から遠く、馴染みが薄い人が多いため、なんだが南アフリカという国自体に“怖い国”という印象が付いてしまったように感じる。

 そんな印象を払拭しつつ、南アフリカという国に親しみが湧き、なおかつスポーツの素晴らしさを感じさせてくれるのが、クリント・イーストウッド監督の「インビクタス/負けざる者たち」という映画だ。BD/DVDの発売は7月14日と、ワールドカップ最終日(7月11日)の直後。そもそもラグビーの映画なのだが、サッカーのワールドカップに合わせて鑑賞すると非常に楽しめる1枚になっているので、一足先にソフトをお借りしてレビューしてみたい。

 ソフトのラインナップは、ワーナーの洋画新作で定番になっている、BD+DVDのセットで3,980円。他の洋画メジャーも同様のセット販売を採用したので、もうお馴染みだろう。BDとDVDのどちらを買おうか迷わなくて済むのが利点だが、BDユーザーにとっては「いまさらDVDはいらないよ」という気にもなる。もっとも、BDドライブの無いノートPCもまだまだ多いので、PCやポータブルDVDプレーヤー再生用などの、“おまけ”ぐらいに考えておけばいいだろう。



■ オバマ氏より先に“チェンジ”を実現した大統領

 舞台は'90年代の南アフリカ。白人と黒人などの非白人を差別する人種隔離政策「アパルトヘイト」に反対したため、反体制活動家として約27年間も投獄されていたネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)がロベン島から釈放され、帰って来た。国際社会からも厳しい非難を浴びたアパルトヘイトは撤廃。そして'94年、南ア史上初の全人種参加選挙が実施され、マンデラは見事大統領に就任。彼は白人と黒人が手を結ぶ、新しい南アフリカを目指し、新政府を樹立する。

 だが、政策が撤廃されても人種差別や経済格差は根深く残っており、黒人大統領である彼自身の身すら危ういような状況……。そんな中でもマンデラは、自らが手本となって白人と黒人の共存する社会の実現に歩み始める。

 一方、かつては強豪と言われたものの、長らく不振が続く南アフリカ代表のラグビーチーム「スプリングボクス」。ルールが難解で設備も必要なラグビーは白人のスポーツというイメージが強く、黒人選手もわずか1人で、国民の大半占める黒人からは不人気なチームになっていた。試合があれば白人はスプリングボクスを応援し、黒人はその相手国を応援する……という異常な状態。迫るラグビーワールドカップも絶望視され、新政府樹立の流れを受け、黒人たちの間からはチーム名やユニホームの変更を求める声まで上がり始める。だが、それを耳にしたマンデラ大統領は意外な行動に出る……。

 マンデラの自伝をもとにした実話で、監督はクリント・イーストウッド。マンデラ大統領を、名優モーガン・フリーマンが演じている。また、もう1人のキーパーソンとして登場する、スプリングボクスの若き主将フランソワ・ピナールをマット・デイモンが演じている。

 映画は、靴も履いていない黒人の子供達がサッカーに興じる一方で、真新しいユニフォームに身を包んだ白人の青年達がラグビーの練習を行なうシーンからスタートする。2つのグラウンドの間には大きなフェンスがあり、完全に2つの世界は隔離されている。その間を通る道に、釈放されたマンデラが乗る車が通る……。100の言葉で説明するより、“この国の現状”がよくわかる見事な導入部だ。

 アパルトヘイトが無くなり、マンデラが大統領になったとはいえ、それまで長年に渡って虐げられていた黒人達と白人がいきなり仲良くなれるわけがない。黒人達の溜まりに溜まった不満は爆発寸前だし、白人達はそんな黒人たちの“報復”を恐れ、むしろ両者の溝は深まってさえいる。「チェンジ」をキーワードに米国初の黒人大統領になった人がいるが、マンデラはそれより前に、より困難な「チェンジ」に取り掛かったわけだ。

 その取り組みは大規模なものではない。まず、自分を警護するSPを黒人と白人の混合チームに変更。「黒人の大統領が来たから当然俺たちはクビだ」と荷物をまとめていた白人の政府幹部を「みなさんの協力が必要だ」と引き止める。本当に身近なところからの“チェンジ”だ。日本人にとってはたいした事に見えないが、なにせ今までレストランや鉄道、バス、公衆トイレまで人種別だったわけで、「この大統領は何を言い出すんだ」、「明日からこいつらと一緒に働けって!?、大統領の命令でも冗談じゃない!!」と、白人・黒人双方の反応は“困惑”と“不安”に満ちている。“大規模”ではないが、マンデラの考えがいかに“大胆”なものだったのかがよくわかる描写だ。

 映画の最大の魅力は、マンデラの“人間としての魅力”にある。27年投獄されてもなお、揺るがぬ信念と理想を抱く彼は、尋常ではない懐の深さと豊かな知性、他人を惹きつける魅力を備えている。ラグビーチームの人気がないと聞くと、主将のフランソワを官邸に招き、大統領自ら紅茶を振る舞い、気さくに談笑。権力を誇示せず、達観した仙人のように飄々としているが、揺ぎない信念がその中心を貫いている。彼の言動に周囲のスタッフ、そして国民までもが戸惑いながらも、それでも確実に“変化”を起こしていく様が痛快ですらある。

 興味深いのはマンデラの自伝をベースにしながら、生い立ちや若い頃の出来事、投獄中などの描写を抑えている事だ。大統領になった後の彼をメインに取り上げ、彼の大胆不敵な言動の数々に「この人はどんな人生を歩んできたのだろう?」、「頭の中で何を考えているのだろう?」と観客に興味を抱かせた後で、フランソワの視点を通して、徐々に大統領の過去を紐解いていく。そこには深い苦悩の半生が隠されており、理解が深まると同時に、彼の南アフリカの未来に対する“想い強さ”が胸を打つ。それはスプリングボクスの意識をも変え、彼らを国民的人気チームに変えていく。すべての歯車が噛み合い、ワールドカップに挑むスプリングボクスは、勝利へと突き進んでいく。後半のラグビーシーンは得も言われぬ感動で、スクリーンが滲んで仕方がなかった。


■ 南アフリカらしい? 画質。特典は登場人物が豪華

 BD版の映像はVC-1で収録。コントラストが強めで、窓から差し込む日差しや、屋外の砂地の照り返しなど、明るい部分の輝度がとても高い。南アフリカの強い日差しを感じさせる絵作りで魅力の1つだが、プレーヤーやテレビ側でダイナミックモードなどに設定すると白飛びする部分が増えそうだ。個人的には輝度を抑え、暗部の階調を重視するシネマモードなどで“抑えめ”に表示するとよくマッチすると感じた。グレインも強めで、部屋の白い壁やカーテンなどに、ジラジラとしたノイズが目につく。

 コントラストと共にシャープネスも強め。人物が静止してしゃべっているシーンなどでは、クッキリとした画質が楽しめるが、ラグビー場の芝の上でカメラが激しく動いたり、無数の観客が背後に広がるスタジアムのシーンなどでは、輪郭のざわつきが気になる部分もある。また、ラグビーでは1つのボールに大人数が追いすがるため、大勢の足が全力で疾走していくアングルも多く、液晶テレビによっては“動画ブレ”も目につくだろう。全体的にあまり高画質とは言えないので、前述のノイズなどを含め、ノイズリダクション系の機能や、付いていれば倍速駆動係の機能も組み合わせて、観やすい映像に追い込んでいきたい。

 音声面は、アクション映画と比べると地味だが、スタジアムに降り注ぐ大歓声シーンが聴き所と言えるだろう。終盤にはド迫力の低音が鳴り響くサプライズシーンもあるので楽しみにして欲しい。

 作品を支えているのは役者陣の名演だが、特に、抑えたトーンにも関わらず、一挙手一投足、細かい仕草で観客を惹きつけるモーガン・フリーマンの演技が素晴らしい。ラグビー選手らしい筋肉質な体を作り込んで、不器用だが実直な主将を演じたマット・デイモンの演技も“さすが”の一言。“静かな名演技の応酬”といった印象だ。

 そのため、特典映像では役作りに関する話題が抱負。モーガン・フリーマンはマンデラの喋り方だけでなく、歩き方や仕草なども研究。マンデラの秘書が「生き写し過ぎて、不気味だからもうやめて」と頼んだほど似ているそうだ。モーガン・フリーマンはマンデラと実際に会っており、本人から「君に、私を演じて欲しい」と言われたという。笑顔で会談する2人の映像も収録されており、なるほど雰囲気がよく似ていると関心した。

 マット・デイモンも、本物のフランソワ主将に会い、彼の考え方やラグビーの事などを学び、トレーニングまで一緒にやったというから徹底している。こちらも両者が並んで会話したり、一緒に自転車レースに挑戦する映像なども収録されているのだが、実直そうな雰囲気や顔立ちもかなり似ている。名演技ももちろんだが、“配役”の段階で成功が約束された映画だったのかもしれない。

 興味深いのは、本編再生に重ねる形で、クリント・イーストウッド監督やスタッフなどのコメントが挿入される「インムービー・エクスペリエンス機能。コメントだけでなく、そのシーンの撮影風景も挿入されるので、メイキングとしての楽しめる。何より面白いのが、前述のフランソワ主将や、大統領のSPなど、“映画で描かれた本人達”が大勢登場する事だ。普通、伝記的な映画では、当時の人々が亡くなっていて、孫が出てきたり、専門家などが出てくる事が多いのだが、当事者が登場して“実際に映画の通りだった”などと証言してくれるので情報量や言葉の重みが違う。

 黒人SPが語る、「白人と組めといわれて猛抗議したよ。でも、マディバ(マンデラ)が我々全員の意識を変えてくれた。今ではみんな親友さ」という言葉が素直に胸を打つ。また、当時の対立の深さを説明する段で、「自分の弟を殺した男を、妹の夫にできるかい? 黒人にとって白人は、沢山の同胞を殺した敵だったんだ。でも、その敵と組むしかなかった。我々の大統領を守るために」という言葉も重みがあった。名前の声で語られる、“もう1つの本編”と呼んでもいい特典だ。


■ 南アフリカが好きになる1本

 大統領が主人公の物語ではあるが、政治的な難しい話は皆無なので、誰にでも楽しめる映画になっている。ただ、アパルトヘイトの概要やマンデラの略歴などを、Wikipediaなどで流し読みしてから再生すると理解が深まり、より楽しめるだろう。ただ、同年のラグビー・ワールドカップの結果を知らない場合は、その結果が書かれている部分は読み飛ばそう。

 ラグビーがメインの話ではあるが、スポーツ映画というわけでもないので、ぶっちゃけラグビーのルールを知らなくても楽しめる。ラグビー好きには常識とも言える、世界最強チーム“オールブラックス”(ニュージーランド代表)の強さなども、映画の中でさりげなく説明されるので安心だ。ついでに、“強さの例”として145対17という記録的大差で日本代表が負けたとか説明されていて、観ながら吹き出してしまった。

 抱えている複雑な問題と、それを乗り越えようとする国民の姿が真摯に描かれており、南アフリカという国に対するイメージが大きく変る作品だ。世界中から注目されるという意味では、今回のサッカー・ワールドカップと同じだ。今回の開会式にマンデラが登場する予定もあったそうだが、なんと前日にひ孫が交通事故で亡くなったそうで、急遽取りやめになってしまったそうだ。会場では欠席した代わりにビデオメッセージが流されたが、それでも国民は大熱狂。この映画を見ていれば、その理由がよくわかるだろう。

 国や人種を超え、人々を熱狂させ、惹きつけるスポーツの魅力を改めて感じさせてくれる作品であり、その力を知っていた偉大な大統領の功績にも感服する。サッカー・ワールドカップがこのまま成功裏に終わる事を期待したい。同時に、「チェンジ」を掲げて華々しく登場したものの、受難が続く自分達の大統領に対しての、クリント・イーストウッド監督からの激励なのかも……などと深読みもしてしまった。



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(2010年6月21日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]