[BD]「借りぐらしのアリエッティ」

ジブリ最年少監督が挑む壮大な箱庭作品
音でサイズを表現。台所でけぇー


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■ ジブリ最年少監督



借りぐらしのアリエッティ

(C)2010 GNDHDDTW
価格:7,140円
発売日:2011年6月17日
品番:VWBS-1237
収録時間:約94分(本編)+特典
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:片面2層×1枚
画面サイズ:16:9 1080p
音声:(1)日本語(リニアPCM 2.0ch)
    (2)日本語
      (DTS-HD Master Audio 5.1ch)
    (3~)フランス語、広東語ほか
発売元:
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

 スタジオジブリの新作が発表されるたび、タイトルや内容よりも先に「監督は誰?」という事が気になる。「耳をすませば」を手掛けた近藤喜文氏が若くして亡くなってしまった事や、引退を口にしつつも「ポニョ」のような新作を生み出し続ける宮崎駿氏の動向、そこにご子息の宮崎吾朗氏も加わり、ジブリの看板を背負う監督後継者が誰になるのか、傍から見ている1ファンとしてよくわからない状況である。

 そんな中、2010年7月に公開されたのが「借りぐらしのアリエッティ」。監督に起用されたのは37歳と、ジブリの監督としては最年少の米林宏昌氏。またニューフェイスが登場した印象だが、アニメーターとしてジブリ作品の多くにかかわり、「千と千尋の神隠し」や「ハウルの動く城」、「崖の上のポニョ」では原画も担当してきた人物だ。

 アニメーターと監督では仕事がずいぶん違うが、絵を描いて監督・原作なんでもこなせる宮崎駿氏が引っ張るスタジオなので、それほど違和感は無い。若い才能にチャンスを与える作品であると同時に、今後のジブリを占う作品とも言えるだろう……と、「猫の恩返し」や「ゲド戦記」あたりから同じ事ばかり書いている気がするが、忘れる事にしよう。「今度は頼むぞ!!」という気持で鑑賞を開始した。



■ 台所でけぇー

小人の少女アリエッティ。洗濯バサミを使った髪留めがトレードマーク
(C)2010 GNDHDDTW
 舞台は現代。大きな庭がある、郊外の古い屋敷に、心臓に持病を抱えた12歳の少年・翔が療養にやって来る。屋敷で暮らしているのは、女主人とお手伝いさんの老婦人2人だけ……ではなく、床下に小人の家族が住んでいた。

 もうすぐ14歳になる小人の少女アリエッティは、父・母との3人暮らし。彼女の一家は、床上に住む老婦人に気づかれないよう、少しずつ石鹸やクッキー、お菓子、電気やガスなど、自分たちの暮らしに必要なモノを、必要な分だけ“借り”て暮らしていた、“借りぐらし”の小人なのだ。

 屋敷を訪れた翔は、庭で偶然アリエッティの姿を見かける。「人間に見られてはいけない。見られたからには引っ越さないといけない」、それが小人たちの掟。だが、アリエッティは生来の好奇心と向こう見ずな性格も手伝い、次第に翔に近づいていく。しかし、そんなアリエッティの家族に、大きな事件が迫っていた……。

 日差しが眩しい夏、自然豊かな屋敷を舞台に穏やかなトーンで物語は始まる。古めかしいが豪奢な屋敷や、林がトンネルのようになった入り口の小道など、どこか「となりのトトロ」を想起させる懐かしい風景だ。

 その床下に暮らしているのがアリエッティの家族。注目すべきはその生活ぶり。てっきり薄暗い穴の中で、人間が落としたパンの端っこをかじるような暮らしを想像したが、小人の家は床上の屋敷にも負けない豪華さで、食器や暖炉、水道まで完備。壁には色とりどりの壁紙が貼られている。「どこにこんな雑貨があったんだ」と思うが、よく見ると暖炉が人間の植木鉢を逆さまにしたものだったり、水道は水道管から滴る水滴を拝借したものだったりと、様々なモノが人間から“借りて”作られている事に気づく。細かなオブジェが、何を再利用したものなのか考えるだけでも楽しいシーンだ。

 さらに面白いのが“狩り”ならぬ、“借り”作業。端的に言えば、人間の部屋に侵入して、生活に必要なものをほんの少し拝借して戻るだけの話なのだが、サイズが小人ゆえ、想像を絶する困難と、それを打破する工夫が必要になる。まずは床下の家から、壁の隙間に侵入し、台所までのぼっていくのだが、出っ張った釘を足場にしたり、ネズミを回避しながら移動したりと、行程には危険も伴う。

 たどり着いた台所は、冷蔵庫と食器が並ぶ、人間から見ると普通の台所。だが、アリエッティ達から見ると体育館かそれ以上、東京ビッグサイトの展示場かと思うほどのサイズがある。そこに野菜を切る包丁の音、冷蔵庫のコンプレッサが唸る音が地獄の地鳴りのように響き渡る。誰もが見慣れた風景、聴きなれた音が、まったく異界として描かれ、思わず「おわぁ~っ」と声を出してしまうほどのスケール感。まさか台所を見て声を上げる日が来るとは思わなかった。

 角砂糖1つ拝借するのも命がけだ。砂糖が置いてある棚に行くためには、背丈の何倍もある高さの机から降りたり登ったりしなければならない。父親はフック付きロープを駆使して華麗に移動。拝借した両面テープを手足に貼って、忍者さならがらに垂直の壁もよじのぼる。無口で寡黙な雰囲気と合わせて、小人というよりスペツナズ(ロシアの特殊部隊)みたいなお父さんである。ともかく“小人がどうやってあそこまで辿りつくか”のアイデアが豊富で、面白くてニヤニヤしてしまう。

 見慣れた風景が異質に見える意外性だけでなく、「自分がこのサイズになって、自分の部屋に侵入したら、どうやってあそこまで行くだろう?」と想像したくなる。小人の生活をリアルに描く楽しさが、この映画最大の見所と言って良い。「この次はどうする?」というワクワク感が漂っており、最近のジブリアニメにあまりなかった感覚だ。

アリエッティと出会う少年、翔。2人の対比が物語の軸だ
(C)2010 GNDHDDTW
 物語の軸になるのは翔とアリエッティの対比。アリエッティはか弱く見えるが、人間に寄生し、生きるための糧をくすね続ける、生産よりも消費が多い人生を受け入れた、良い意味で“したたかな”種族だ。翔はアリエッティと比べて巨大だが、体が弱く、激しい運動ができず、自分の生を半ば諦めたような達観した少年として描かれる。意図的な構図で、2人の会話にはメッセージ性が強く含まれているが、物語の流れからすると唐突な感じで、作品と馴染みきっていないように感じる。だが、それが幸いして、“現代を生きる人間へのメッセージ”が説教くさく押し付けられないため、アリエッティの冒険から覚める事が無く、結果的には良かったと感じる。

 物語は破綻はしておらず、後味も良い作品だ。だが、通して鑑賞すると、ぶっちゃけクライマックスの盛り上がりが薄い。終盤は当然アリエッティと翔が協力して冒険するような話になっていくのだが、そこに“サイズの違い”という壁が立ちはだかる。例えば、アリエッティ視点で飛んだり跳ねたりの大冒険が必要な距離でも、翔の視点に切り替わると「庭に出て裏口に行きました」程度の行動になってしまい、冒険とは呼べない。スケールが違いすぎる両者の視点が後半は交互に展開するため、観客は小人の世界に入りきれずに盛り上がれない。この問題を回避するために、翔が心臓に持病を抱えているという設定があるのだと思うが、要素として少し弱い。アリエッティと父親が人間の部屋に忍び込んだ序盤の冒険の方が面白かったと感じるのは、視点が小人に固定されていたからだろう。

 また、アリエッティの動き自体のリアルさも気になる。リアルなのは結構な事だが、リアルさを追求しすぎているきらいがあり、宮崎アニメのように、「んなバカな!」と言う距離を気合でジャンプしたり、凄い高さから落っこちても足が「ジーン」とするだけでなんとかなったりと、漫画的と言うか、アニメ的な誇張が乏しく、爽快感が少ない。鑑賞後の気分は「ほっこり」、「じんわり」がメインで、「スッキリ」、「ハラハラドキドキ大満足!!」とは異なる。ジブリ作品に何を求めるのかで、評価が分かれそうな作品だ。しかし、多くの人が好感を抱くであろうクオリティに到達している事は確かだ。


■ サラウンドを使ったサイズ表現

 映像はMPEG-4 AVCで収録。ビットレートは20Mbps台後半から35Mbps程度までで推移する。ノイズは少なく、発色は鮮やか。アリエッティの部屋は色の洪水のようで見ていて楽しい。デジタルアニメ的なクリアすぎる安っぽい質感ではなく、わずかだがグレインがかかり、派手な中にもしっとりとした質感のある絵作りだ。背景美術のクオリティは流石ジブリ。壁紙や木の板など、グラデーションが豊かで立体感と重厚感がある。細かな描きこみや筆のタッチまで克明に鑑賞できるのはBDの解像度ならではだろう。デジタル製作のアニメだが、セルアニメ時代を彷彿とさせる画面の“揺れ”もあえて挿入されている。

 絵に負けじと、音も良い。特に環境音の描写が秀逸で、冷蔵庫のうなる音や、ドアの開閉、風が揺する木々の葉音がリアルだ。アリエッティが屋敷の2階から庭を見下ろすシーンは、思わず深呼吸したくなる清々しさ。また、前述の台所シーンでは、冷蔵庫の音などに大胆なエコーが付加されており、小人から見た空間の広さをサラウンドで効果的に演出している。寝室に侵入した際は、柱時計が時を刻む音がビクッとするほど大きい。部屋の床が絨毯なので台所よりも音が反響せず、デッドな表現も臨場感がある。アリエッティの動きに合わせて、時計の音像が移動するのも、自分が小人になったような感覚を味わわせてくれる。

 音量のバランスにもこだわりを感じる。アリエッティ達が歩く足音、背負ってるリュックの音などは、人間の物より遥かに小さい。逆に、人間である翔が出す音は、例えベッドで寝返りをうった時の衣擦れ程度の音でも、アリエッティには大きな音に聞こえるはずだ。BDのサラウンドもそのバランスが表現されているため、アリエッティ達の世界に合わせてAVアンプのボリュームを上げていると、時計の針の音や、翔の声などが想像以上に大きく、驚く事になる。だからボリュームを下げろと言うのではなく、音量を活かした「スケールの違いの表現」を楽しむ方が良いだろう。

 最近のジブリアニメでは、声が映像とマッチしているかどうかも心配なところだが、この作品に関しては違和感は少ない。志田未来の素朴な声は、好奇心と心細さが同居したアリエッティを良く表現している。翔を演じる神木隆之介は、ナイーブな少年役はお手の物だ。母親役の大竹しのぶと、ハル役の樹木希林は声のキャラクターが強すぎて、アニメの絵から本人の顔が透けて見えるが、善人が多い作品の中でアクセントとしては良いだろう。ケルトミュージック風のBGMも作品によくマッチしていて、和風でも洋風でもない、独特の雰囲気を醸し出している。


■ ぶっちゃけ過ぎな特典インタビュー

 特典は宮崎駿&米林監督へのインタビュー、テレビの公開記念特別番組と、アフレコ台本など。おなじみの絵コンテ映像も収録している。宮崎氏のインタビューは、いつも通りのぶっちゃけ具合で面白い。米林監督起用の理由を「人がいなかったから。もうひとつは勘です」と言い切ってしまうところが凄い。「次々と、野心を持った、新しいものを作りたいという人間をこのスタジオから輩出していくはずだったんだけど、輩出してこない。他の世界を見回してもいない。でも、店(ジブリ)をたたむわけにはいかないとなると、誰か見つけてこなきゃならない。そこに麻呂(米林氏)がいたので、お前やれという事になった」と笑う。

 監督を志していたわけではない米林氏に監督を任せた事もあり「これ以上立ち入ると、彼の主体性を奪うことになるという限界までは手助けしましたが、そこからは引きました」とのこと。「彼は与えられたシーンを自分流に消化する事には才能を発揮しますが、(監督として)人にシーンを与えて、(上がってきた絵を)自分で直さないとなると、全部腕をもぎとられる可能性がある。じゃあ自分で全部絵を直せるのかと言うと、そんなに(描くのが)早い人間じゃない。だから直せない。それが彼と、このスタジオの試練です」と、ズバズバ語る小気味良いインタビューだが、後継者問題は笑い事ではないようだ。

 急に監督を任された米林氏も「世間に対して、言いたいことがある人がやったほうが良いと思うので、自分は主義主張が別にないので無理です」と一度は断ったそうだ。だが、宮崎氏らに「原作に主張が入っているので大丈夫」と言われ、原作を読み、イメージが膨らみ、「やってみるか」という気になったとのこと。非常にわかりやすい顛末なのだが、「監督ってそういう風になるものなんだろうか?」と、不思議な感じのするやりとりである。インタビューでは米林氏独特の雰囲気というか、人徳が感じられ、宮崎氏が語る「麻呂の魅力」を垣間見る事ができる。

先着特典として用意されている、アリエッティの洗濯バサミ。実際に使うこともできる
(C)2010 GNDHDDTW


■ 米林監督の次の作品も観てみたい

 小人にとっては壮大だが、人間にとっては箱庭的という、不思議な感覚の作品。独特の雰囲気が魅力で、そつなくまとまった物語と合わせ、多くの人にオススメできる作品に仕上がっている。子供は子供なりに、大人は大人なりに気に入ったポイントを探せるという意味で、ジブリらしい、幅広い年齢層に受け入れられる物語だろう。

髪をおろしている方が可愛いと個人的には思うのだが
(C)2010 GNDHDDTW
 「南くんの恋人」とか「美鳥の日々」的な展開を期待するとちょっと違うが、ジブリらしい強いヒロインでもあるアリエッティは魅力的なキャラクターだ。洗濯バサミの髪留めがトレードマークだが、個人的には髪をおろしている方が可愛いと思う。小人で床下に住んでいるので、かなりの頻度で虫が出て来るので、苦手な人には注意が必要。ただ、虫もどこか可愛らしく描かれているので、それほど気持ち悪くはない。

 ナウシカやラピュタ、トトロのような、鑑賞後にしばらく立つ気力が無くなるようなパワーがあるかと言われると、残念ながら“普通の映画”だ。だが、主義主張とエンターテイメント性のバランス感覚は良い。米林監督には、枯れた、こじんまりとした雰囲気ではなく、次はパワー溢れる作品をお願いしたい。“次の作品も観てみたい”と思わせてくれた事が、この作品で最も嬉しかったポイントだ。



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(2011年6月21日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]