大河原克行のデジタル家電 -最前線-

パナソニックが3年後の実現を目指すネオ・ビエラリンクとは

~牛丸副社長「今のテレビは生活必需品ではない」~





牛丸俊三副社長

 パナソニックでは、「ネオ・ビエラリンク」という言葉を、少しずつ使いはじめている。

 同社は、2006年に、HDMI接続によるリンク機能を業界で初めて搭載し、薄型テレビ「VIERA」を中心に、BD/DVDレコーダー「DIGA」や同社製ラックシアターを接続することで、リンクした機器の電源のオン/オフや、コンテンツ視聴環境にあわせた設定へと自動的に調整するといった機能を提供した。

 さらに、今年2月に発表した新VIERAでは、「使うテレビ」への進化を標榜。IPネットワークの活用によって、アクトビラビデオ・フルへの新製品全シリーズでの対応や、リモコン操作によるYouTubeの視聴、そして、どこでもドアホンやセンサーカメラと、VIERAの接続といったホームセキュリティへの活用も新たに提案した。

2月に発表された新VIERA

 このように、リンク機能の提案で先行してきた同社が、その機能をますます進化させようというのが、「ネオ・ビエラリンク」ということになる。

 「生活者の視点で、テレビはどう進化するべきか。これを追求すればするほど、不可欠となるのがリンク機能。リビングの中心に設置されたテレビは、魔法の箱といわれてきたが、リンク機能の広がりは、この言葉をさらに進化させることができる」と、パナソニック・牛丸俊三副社長は語る。





 ■ 「ネオ・ビエラリンク」を構成する3つの要素

 パナソニックが目指す、ネオ・ビエラリンクとはどういったものなのか。

 パナソニックが、ネオ・ビエラリンクの言葉を対外的に公表したのは、2008年9月に開催されたCEATEC JAPAN 2008のパナソニックブースのコンセプトゾーンであった。

 そこでは、3~5年後の世界として掲げた「空間まるごと一歩先のくらし」、2015年以降の世界を描いた「未来リビングの提案『ライフウォール』」とともに、3~5年後に実現するVIERAを中心とする快適なくらし提案として「ネオ・ビエラリンク」を提案した。

CEATEC 2008での展示。リビングだけでなく、バスルームや車など、人が過ごす様々な空間における連携を紹介していた壁一面がディスプレイの「ライフウォール」

 3~5年後に実現されるであろう「ネオ・ビエラリンク」の世界は、大きく3つの要素で構成される。

 ひとつは、「家から外までどこでもビエラ」である。家のなかから、屋外までどこでもハイビジョン画像を楽しむことを示したこの提案では、リビングのVIERAを中心として、ベッドルームやバスルーム、キッチンに設置された薄型テレビと連動し、録画あるいは撮影したハイビジョン画像を視聴する使い方に加え、携帯電話やカーナビゲーションシステムでも同様にハイビジョン画像を視聴することができるようになる。リビングで見ていた映像の続きを、バスルームのテレビや、カーナビや携帯電話で続けて視聴するといったことも可能になる。

 これまでにも、SDメモリーカードや光ディスクを利用して、こうした環境を実現してきたが、これをIPネットワークによって進化させようというものだ。

 2つめの「くらしまるごと拡がるビエラリンク」では、デジタルAV機器同士の接続に加えて、生活家電、設備機器などへ、リンクの対象機器を拡大。家のなかに留まらず、屋外にいながらも、ビエラリンクによって、機器のモニタリングやコントロールが可能になる。

 機器の作動状況やメンテナンス情報をVIERAに通知し、これを確認できるほか、就寝時の照明や空調といった機器の設定、玄関や窓の電子鍵の施錠、センサーカメラの起動といったセキュリティ設定も一括して可能になる。

 また、ドアホンやセンサーカメラで撮影した画像を、外出先から携帯電話で確認し、その場で応答するといった使い方のほか、カーナビゲーションシステムで導き出した自宅到着予定時刻をもとに、エアコンのスイッチを入れたり、風呂を沸かしたりといったコントロールも可能になる。

VIERAを中心とした機器のリンクを提案

 そして、3つめの「直感操作のだれでも簡単ビエラ」では、17インチのエントリーモデルから、103インチの超大画面プラズマテレビ、モバイルで利用する携帯電話やカーナビゲーションに至るまでのすべてのリンク製品において、統一された画面デザインと、同じ操作手順を実現することで、誰でも簡単に、直感的にリンク機能を使いこなせるように工夫するといったものだ。

 このようにネオ・ビエラリンクは、薄型テレビ「VIERA」を切り口に、家庭内のあらゆるAV機器や生活家電、セキュリティ製品のほか、モバイル環境における携帯電話やカーナビゲーションなどと連携した形で、生活ソリューションを実現することになる。

 さらに、家まるごとという観点での進化では、視聴コンテンツにあわせた照明制御や空質制御などが可能になるほか、パナソニックの健康機器とVIERAを接続した家族の健康管理、食事メニューの提案、エクササイズのアドバイスといったことも可能となる。加えて、家庭用燃料電池や太陽電池の稼働状況や発電状況をVIERAに表示したり、家庭内の電力消費状況を見える化するといった省エネ、創エネとの連動も視野に入っている。

 やはりここでも薄型テレビがリンクの中心となる。

 テレビを中心にした生活シーンを考え続けてきたパナソニックが、今後は、パナソニック電工に加え、三洋電機をグループ内に抱えることになるからこそ、実現できる提案だといえる。


  ■ テレビが真の“生活必需品”となるとき

 パナソニックの牛丸副社長は、「テレビは、家族のリユニオンを実現する商品。テレビが家族のコミュケーションセンターとしての役割を担い、家族がリビングに集まるきっかけづくりにもなる。リンク機能は、そのためには不可欠なもの」とする。

 SDハイビジョンムービーや、デジタルカメラのLUMIXで撮影したハイビジョン映像をSDに収録。これを、VIERAに標準搭載されているSDカードスロットに差し込み、リビングの大画面テレビでハイビジョン画像を再生し、みんなで楽しむという機器間リンクの使い方は、まさに、家族のリユニオンを実現する典型的な活用方法だといえよう。

 さらに、昨今の様々な事件の影響もあり、高齢者や一人暮らしの女性が「閉じこもり族」になってしまうとの問題も指摘されるが、これも、リンク機能を活用することで、セキュリティを強化でき、豊かに生活ができる環境の提案が可能になるとする。

「家族がリビングに集まるきっかけに、リンク機能は不可欠」と語る

 ところが、その一方で、パナソニックの牛丸副社長は、「いまのテレビは生活必需品にはなっていない」とあえて語る。

 もちろん、現実的には、テレビは生活必需品であり、情報入手手段として、あるいは娯楽のツールとして、我々の生活には欠かすことができないものとなっている。

 日本人は一日平均約4時間もテレビを視聴しており、テレビのない生活は考えられないという人も少なくないだろう。

 だが、牛丸副社長がいうのは、そうした意味での「生活必需品」という意味ではない。

 「例えば、冷蔵庫は食料を保管する役割を担い、これが無くては生死に関わるという環境にある人もいる。エアコンも同様に快適なくらしを実現するだけでなく、寒冷地ではこれがなければ生活ができない場面にいる人もいる。だが、いまのテレビは、生活になくても生死には関わらない。しかし、これからリンク機能が発展し、我々の生活に必要なもの、もっといえば、人の生死にも関わるようなものへと発展する可能性があるだろう。その時こそが、テレビが本当の意味での生活必需品となる」

 例えば、遠隔医療のためのツールとしてテレビが活用されたり、少子高齢化のなかでの双方向コミュニケーションツールとして、介護のために活用されるツールとしてテレビが活用されれば、テレビの役割はますます重要になるだろう。これも、テレビを中心としたリンク機能によって実現するテレビの価値であり、進化だ。ネオ・ビエラリンクのさらにその先の進化によって実現されるものといえよう。

 ネオ・ビエラリンクは、これから徐々にそのベールを脱ぐことになるだろう。それは、魔法の箱といわれるテレビが、ますます魔法の箱としての役割を強化することにほかならない。

(2009年 3月 5日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など