西田宗千佳のRandomTracking

第624回

Nothingのフラッグシップスマホ「Phone(3)」日本最速レビュー

Nothing Phone(3) 。カラーはホワイト

Nothingが先日発表した新スマートフォン「Phone(3)」の先行レビューをお届けする。

Phone(3)はNothing初のハイエンドスマートフォンとされている。SoCからカメラまで、様々なところでハイスペックな部材を使い、機能的にもこだわった製品となっている。

発表会はレポート済みだが、改めて実機を詳しくチェックしていきたい。日本での発売アナウンスはまだだが、今夏中にはなんらかの発表があるという。

使ってみると、非常に野心的なスマホであるのがよくわかる。

性能を底上げしたハイエンド、技適表示あり

まず、Phone(3)のスペックをおさらいしておこう。

  • プロセッサー:Qualcomm Snapdragon 8s Gen 4
  • メインメモリー:16GB
  • ストレージ:256GBもしくは512GB
  • ディスプレイ:1,260×2,880ドット 6.67インチAMOLED
  • バッテリー:5,150mAh
  • メインカメラ:1/1.3インチ 50MP、光学手ぶれ補正
  • 広角カメラ:50MP
  • 望遠カメラ:光学3倍・光学手ぶれ補正あり、50MP
  • インカメラ:50MP
本体内のスペック表示

内容的には間違いなくハイエンドスマホだ。色はホワイトとブラックの2色があるが、今回は主にホワイトを使っていく。

ホワイト
ブラック
ホワイトとブラックを並べて
ブラックの箱
開けると丁寧な包装の本体が
付属するのはUSB 2.0仕様のUSB Type-Cケーブルとマニュアル類、透明な保護ケース、SIMピン

なお、現状では日本での発売に関する正式なアナウンスはないものの、日本の技術基準適合証明(技適)のソフトウエア表示はあるため、国内での発売予定はある、と考えるのが自然だ。

技適はソフトウエア表示

本体サイズはiPhone 16 Pro Maxとほぼ変わらず、大きめと言っていい。ボタンの数はさておき、正面やサイドだけなら、iPhoneに似た印象もある。

左がiPhone 16 Pro Max、右がPhone(3)。若干iPhoneの方が大きい
正面。ベゼルが細くほぼディスプレイ。フロントカメラはパンチホール
本体左側。音量ボタンがある
本体底面。左側にSIMカードスロット、右側にスピーカー穴。中央にはUSB Type-Cコネクター

だが、背面を見るともちろん印象は大きく変わる。細かなディテールが入ったデザインは、一度見ると忘れられない。表面は透明なガラスでカバーされており、そのことが高級感にもつながっている。これまでのNothingスマホのテイストを継承した流れだ。

特徴的なカメラ部。右上にあるのが情報ディスプレイである「Glyph Matrix」
本体下部。Nothingのロゴなどがある

内蔵アプリやUIのデザインもかなり凝っている。ここも、同社がこれまで積み重ねてきた内容を継承している。

OSやソフトのデザインもこれまで通り凝っている

背面で情報を知らせる「Glyph Matrix」

変化は本体裏面の上半分に集中している。カメラが三眼になり、右上に通知などに使うマトリクスディスプレイである「Glyph Matrix」がある。

右上の黒い部分が「Glyph Matrix」で、その下の丸い部分が操作用のタッチセンサー

Glyph Matrixは、通知やバッテリー残量、時計といった、スマホ上で必要とされる情報表示をまとめたものだ。白黒であり解像度も低いが、むしろそのことが印象的だ。

Glyph Matrixの下にある丸い部分が振動付きのタッチセンサーになっていて、ここを押し込む(といっても実際に凹むわけではない)ことで、Glyph Matrixの内容を切り替えられる。

Glyph Matrixにバッテリー残量を表示

どんな風に動作するかは、以下の動画をみていただきたい。

Glyph Matrix表示を動画で

時計の他には水平器や占い、じゃんけんなど様々なアプリが用意されている。カメラからの映像をGlyph Matrixに表示することもできる。

「Glyphミラー」アプリだと、カメラに映るものがGlyph Matrix表示に

現在は発売前なので最初から設定済みだが、今後は項目を追加していくことができるようにもなっている。

Glyph Matrixに表示する機能は自分で追加登録可能

面白いのは通知機能だ。自分で選んだアプリやメッセージの通知を、自分で指定したGlyph Matrixのアイコンで表示できる。特定の人からのメッセージだけをわかりやすく表示する……といった工夫ができるわけだ。

通知機能をカスタマイズして、特定のものだけ「自分が選んだGlyph」で表示することも

スマホを裏返したままで時間やバッテリー残量、通知がわかるのはかなり便利だ。常に点灯しているわけではなく、必要な時にボタン(タッチセンサー)を押して表示することが多いため、消費電力への影響も大きくはなさそうだ。

ただ、切り替えが面倒なところもあるので、Glyph Matrixとして使うアプリは厳選し、3つか4つまでに抑えておいた方がいい。

AIでアイデアをまとめる「Essential Space」、ボイスレコーダーも

現在同社が力を入れているのがAI機能。「Essential Space」と呼ばれるAIアプリだ。

今年4月に日本でも発売した「Phone(3a)」から搭載されているもの。本体右側にある「Essential Key」を押すと、その時のスクリーンショットや写真、音声などを記録し、Essential Spaceの中に保存する。さらにその内容をAIで解析、タイトルや概要を作ってくれるものだ。

本体右側。上が電源ボタンで下がEssential Key。感触が異なるので、慣れれば指先だけで判別可能

以下はEssential Spaceの画面だ。

Essential Spaceの画面。記録したスクリーンショットをAIが解析して情報をまとめる

見出しやテキストは筆者がタイプしたものではなく、すべてAIが生成したものである。

記録のためにやったことは、画面上に気になるものが表示された際にEssential Keyを押すだけ。カメラで写真を撮る場合にも、カメラ機能を立ち上げ、シャッターの代わりにEssential Keyを押すと、通常の写真としてではなく、Essential Spaceの方に画像メモ的な形で保存される。

Essential Keyでウェブのスクリーンショットを記録すると、その内容AIが解析し、記録する

その結果、Essential Spaceは、備忘録もしくはアイデアメモとして機能することになる。

また、メールの文面などを記録した場合には、そこから内容を把握してToDoリストを作ってくれたりもする。これがカレンダーなどと連携しないのがもったいないところだが、かなり便利な仕組みであるのは間違いない。

写真からごみ収集の日の予定を解析して、ToDoに変換
メールのスクショから予定情報を引き出すこともできるが、登録される内容はメモとToDo

Essential Keyを押しっぱなしにすると音声メモも残せる。もちろんそれらも文字化され、検索などに使える上、自動的にToDoも作成される。

さらにPhone(3)では、「Essential Recorder」というボイスメモ機能が、議事録作成にも使えるようになった。

卓上に本体を裏返しておき、Essential Keyを長押しすると録音がスタートする。録音中であることはGlyph Matrixに波形として表示されるので非常にわかりやすい。

Essential Recorderで録音中。Glyph Matrixに波形が。棒状の部分はEssential Keyを押して「マーキング」したところ

また、録音中に「ここは大事だ」と思ったら、Essential Keyを一回押す。するとその情報は「重要である」というマーキングになる。

自動ではないが、Essential Recorderの録音も「AI分析」が可能になっている。そこでは、要約に加え、Essential Keyでマーキングした場所を配慮した概要が作られる仕組みになっている。全文文字起こし機能はないものの、全体を把握するには十分な機能と言える。

録音した内容はAI分析されて概要などがテキストに
AI分析はクラウドで行われ、月に300分まで可能

さらに、情報を検索する「Essential Search」という機能もある。これは、いわゆる「スマホ内のグローバルサーチ」だ。カレンダーや写真、アプリなどをキーワード検索できる。そこからGoogle検索への連動もあるし、「AIに尋ねる」こともできる。AIへの質問機能は現状英語で返答が返ってくるが、当然この先では日本語化されるだろう。

「Essential Search」。スマホ内の情報を検索できる。AIに尋ねる機能はまだ英語

「スマホのAI機能」というと必ず出てくる翻訳や文書要約機能は、直接的には搭載されていない。しかし、Android 15搭載のGeminiもあるので、そちらを併用することもできる。

NothingのAI機能である「Essential」は、まだまだ開発初期段階に見える。しかし、機能実装がわかりやすいのが美点だ。例えば、スクリーンショットを蓄積して個人の記録として使う手法は、Pixelが「Pixelスクリーンショット」としてすでに実現している。発想として珍しいものではなくなっている。しかし、UIのわかりやすさ・見せ方の洗練度という点で、Essential Spaceは非常によくできており、現状ではPixelスクリーンショットより有用に思えた。

これらの機能の開発方針については、Nothing・CEOのカール・ペイ氏にインタビューも行なっている。将来像や今後の方針について興味深い見解が得られたので、こちらも併読願いたい。

マクロとディテールに強いカメラ機能

カメラ機能はどうだろうか?

Phone(3)はカメラの強化も特徴なので、ロンドン・グリニッジと東京都内で撮影した写真でチェックしていこう。

比較対象としては「iPhone 16Pro Max」と「Xiaomi 15 Ultra」を用意した。現状のスマホではトップクラスの製品との比較、といっていい。

まず感じたのは、「マクロが撮りやすい」ことだ。背景のボケ具合もそうだが、「大きく寄って撮る」行為がしやすい。今回の比較撮影の中でも、Phone(3)の特徴が最も出やすいシーンだったと感じる。

Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra
Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra

次に発色。Phone(3)はどちらかというと「派手目」に表現される傾向にある。これは中国系スマホに見られるものに近い。iPhoneが比較的現実よりなのに対し、Xiaomi 15 UltraとPhone(3)は少し明るめ。とはいえ、Phone(3)の方が少し抑えめの印象だ。

Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra
Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra
Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra
Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra

特に工夫せず、サッと撮ったものの印象でいえばiPhoneは優秀であるように思える。Xiaomiは時折暗くなりがちで、Phone(3)は、メイン・広角・望遠で取り分けた際、色味が変わるシーンが多いように見受けられた。一方、望遠で「寄る」写真の強さでは、Xiaomiが頭一つ抜けている。

Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra
Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra
Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra
Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra

他方で、「同じような色味の中でのコントラストとディテール表現」でいえば、Phone(3)はかなり好ましい。トーンをその場で調整するなどすればどの機種も良い写真が撮れそうだが、曇天の中にある銅像のようなシーンで工夫なく撮影した場合、Phone(3)の優秀さが際立っている印象だ。

Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Xiaomi 15 Ultra

次の写真からはPhone(3)とiPhoneだけだ。画角が違うので(これは当方のミスだ)、参考程度に見ていただきたいが、どちらも良い写真である一方で、Phone(3)とiPhoneの味わいの違いが見て取れる。

Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max

次の看板の写真では、薄暗いシーンでiPhoneが「見た目に近い」写真を得意としているのがわかるし、料理の写真も、iPhoneの方が美味しそうに見える。

Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max
Nothing Phone(3)
iPhone 16Pro Max

全体傾向として、Phone(3)はディテールを写すのが得意だ、という印象だ。若干エッジが立ち気味、という見方もできるし、苦手なシーンも見受けられるが、十分に美しい。

現在のスマホではトップクラスのカメラを備えている、と考えて差し支えないだろう。

課題は「アプリ使い分け」と「クラウド連携」

全体的に見て、Phone(3)は非常によくできたスマホである。サイズの点で敬遠する人もいそうだし、デザインも好みが分かれる。

一方で、AI機能やユーザーインターフェースに関する丹念な仕事は、いかにもNothingという印象を抱かせる良い要素だ。

個人的には、Essential Keyと電源ボタンの位置が近すぎて、押し間違えてしまうシーンが多々あったのが気になった。

また、Essential Spaceへの登録と、通常の写真撮影・スクリーンショット記録・録音が分かれている点も、好ましいとは思っていない。Essential Space自体はわかりやすいものの、「日常的な記録」と「AIのための記録」を分けるのは混乱の元だ。

AI関連の機能について、すべてのデータがPhone(3)内部、それもEssential Space内で完結していることも気になる。

スマホだけで全てのことを済ませるなら便利だが、仕事などに使うなら、クラウドを介してPCからも使えた方がいい。現状は一つ一つコピーしていくくらいしか、他のアプリなどで使う方法がない。Essential Spaceのウェブ版があり、PCからも気軽にアクセスできるとすれば、実用性はより高くなるだろう。

これはNothingに限ったことではないが、スマホでの録音やAI関連機能は「スマホで完結」しているメーカーが少なくない。PixelやiPhoneはクラウド連携がよくできており、PC/Mac側からの活用がしやすい。

スマホは重要だが、AI関連機能を積極的に使う人ほどPCやMacも使う。筆者もそうだ。

NothingのAI機能はユーザー本意でわかりやすいものだが、スマホの中に閉じているが故に「確認」の先で活用しにくい印象が拭えない。

これらの細かなジレンマをどうしていくのかが、Phone(3)、ひいてはNothingが抱える課題だとは思う。

他方で好ましくも思うのは、同社が、そうした意思決定について、ユーザーコミュティからの声を聞く姿勢を明確にしている点だ。そうした印象をユーザーに抱かせることもまた、Nothingの戦略であり、美点だ。

Phone(3)を選ぶなら、そうした点を加味して考えたい。

あと気になるのは「日本での価格」。海外では799ポンド/799ドル/799ユーロから、となっているが、これが日本でも為替レート換算相応の価格になるなら、十分にお買い得な製品と言えるのではないだろうか。

気になるのは、現状のデバイスにはFelica搭載を示す認証ラベルがない。そのまま非搭載になるのか、それとも日本版には搭載されるのか。

その辺を含め、日本での発売に関する情報を注視しておきたいところだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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