小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1181回

薄! サブウーファデカ! JBLが放つ今年イチオシサウンドバー「BAR 500MK2」
2025年7月9日 08:00
蘇る米国トラッド、JBLの戦略
オーディオの世界では老舗ブランドが数多くあり、トラッドな製品を作るだけでなく、新しい世代の商品を作って上手く立ち回っているところも多い。中でもJBLは、祖業のボックススピーカー事業を守りながら、若者向けの製品もどんどん投入し、かなりうまくやっているメーカーである。
昨年取り上げた「JBL GO 4」は、小型でペアリングも簡単、防水防滴で低音がドコドコ出るいい製品だったが、BCNランキングでは今なお1位に返り咲く人気ぶりを見せている。
サウンドバーもユニークな製品が多く、2019年にはサウンドバーにAndroid TVを搭載するという意欲的な製品をリリースしたが、早すぎて時代が追いつかなかった。今ならこの路線は、十分に採用されうるアプローチだろう。
そんなJBLのサウンドバーが、今年は3モデルも出た。「BAR 300MK2」、「BAR 500MK2」、「BAR 1300MK2」だ。「BAR 1300MK2」はすでに先行してクラウドファンディングが始まっている。
「BAR 300MK2」はサウンドバーのみのモデルで、直販価格は49,500円。「BAR 500MK2」はこれにサブウーファーを付けたモデルで、直販価格は77,000円。
今回は7月3日に発売が開始されたばかりの「BAR 500MK2」をお借りした。独自のビーム反射技術を搭載するJBLのサウンドバーを、改めて聴いてみた。
大胆な薄型バーとドデカいサブウーファー
JBLのサウンドバーは、他社よりもかなり薄型で作ることに注力してきた印象がある。それは今回のBAR 500MK2にも継承されており、バースピーカーは全長940mm、奥行104mmだが、高さは50.5mmと、圧倒的に薄い。これは脚部も入れた高さなので、スピーカーそのものの厚みは5cmを切る。
スピーカー配列はかなり特殊だ。正面中心部から左右に均等な間隔で、42mm×80mmのフルレンジドライバーを均等な間隔で配置している。「レーストラック型」と呼ぶようだ。
さらにその両脇には、ホーン型の20mmシルクドームツイーターをペアで配置。さらに真横にもペアで、同じホーン型ツイーターが付けられている。バー内には合計9スピーカーが内蔵されており、1つあたり50W、合計450Wのパワーを持つ。
また背面にロングポート型のバスレフポートを左右1つずつ配置、バーだけでもかなりの低音を出せる工夫がある。
天板にはタッチ式のボリュームボタンと入力切り替えボタン。両脇にある穴は部屋の音響測定用のマイクだ。
サラウンド技術としては、JBL独自のMultiBeam 3.0を搭載した。音のビームを壁の反射を利用してサラウンド感を実現する技術だが、以前のバージョンよりもビームの重複を減らしてより狭いビームを放射することで、各チャンネルの明瞭感を向上させた。出力されるビームは、センター、左右、左右ワイド、左右トップの計7つ。
音声を明瞭化する「PURE VOICE」機能も2.0に進化。これは特に設定などはなく、常時ONになっている。ただし音量に合わせて効果が自動で増減するようになり、小音量ではより強く、大音量では弱くといった具合に機能する。また測定用マイクを使って現在出力される音をリアルタイムにモニターし、音のエンハンスメント処理を調整する。
さらに新搭載の「SMART DETAILS」は、「PURE VOICE」の考え方を効果音にも適用していこうという技術。聞き取りにくい細かな効果音の明瞭度を高め、臨場感をアップさせる。
背面の端子類は、TV用入力としてeARC HDMIと光デジタル端子、HDCP 2.3に準拠したHDMI入力がある。USB-A端子は、米国モデルはここを経由してmp3が再生できるようだが、日本版では特に機能は提供されずサービス専用となっている。ただし電力は出ているので、Fire Stick TVなどをサウンドバーの背後に直結するなどの際に電源ポートとして利用できるだろう。
付属のサブウーファは、外寸325×400×325mmと、かなり容積を大きく取っている。このサイズ感、昭和生まれの人しかわからないとは思うが、「鏡台の椅子」ぐらいのサイズである。
ドライバーは大型25cm径のものが底部に下向きに付けられている。バスレフポートは背面。本体との接続はワイヤレスだ。重量は8.1kgで、アンプ出力は450Wもある。
トータルでの周波数特性は、40Hz〜20kHz。「BAR 300MK2」の仕様を見ると50Hz〜20kHzとなっているので、バー部分の性能がこれなのだろう。意外にサブウーファーで下まで引っ張ろうとしていないようだ。
余談だがこのでっかいサブウーファのせいで梱包箱がやたらデカく、1人用2ドア冷蔵庫ぐらいものが来てびっくりした。さすがアメリカ製品である。
付属リモコンは細見で、入力切り替え、ボリューム上下ほか、サブウーファの音量調節が5段階で可能。キャリブレーションもリモコンだけで可能だ。バーの左側にメッセージ(英語)が出るので、それに従ってボタンを押して調整を行なう。
JBLらしいパワフルサウンド
本機は反射音を使うので、設置場所ごとに測定が必要になる。コントロール用アプリは「JBL One」で、アプリ内に「部屋の測定」という機能がある。これをスタートすると、スピーカーからスイープ音が発生され測定される。慣れてきたらリモコンだけで行なえるようになる。
ではさっそく音を聴いてみよう。まずは映像作品として、Netflixで公開中の「アンブレラ・アカデミー」シーズン4を視聴した。公開は昨年だが、てっきりシーズン3で完結したものと思っていたので、続きが出ていたことに長らく気づかなかった。
第2話の30分ぐらいのところに銃撃戦のシーンが出てくるが、機関銃のドコドコ言う低音は、サブウーファの力量もあって申し分ない。また銃弾が跳ね返る金属音などの表現もリアル(もっとも本物は知らない)だ。銃撃戦の中での会話も、かき消されることなく聞き取りやすい。
一方音の広がり感は、それほど大きくないかなという印象だ。これはおそらく、筆者の部屋が和室なのに加え、評価製品の段ボールがあちこちに山積みになっているところが大きい。和室は洋室に比べるとかなりデッドだし、段ボールで反射音が吸収されてしまう。設置するなら洋室をお勧めしたい。
小音量でも視聴してみたが、本機にはいわゆるナイトモードなどはないので、サブウーファのバランスは自分で調整する必要がある。ただ、小音量でもセリフの明瞭感が高く、低音がしっかりあることで、迫力を感じることができる。低音は壁や床などは伝わりやすいが、空気中はそれほど遠くまで伝わらないので、置き方を工夫すれば低音多めでも家族や近隣の迷惑にはならないだろう。
次に音楽を再生してみた。今回は暑い気温を少しでも涼しく過ごそうと、Amazon Musicでブライアン・イーノ「FOREVERANDEVERNOMORE」を聴いていく。4曲目から3曲連続で、Dolby Atmosのミックス曲が並ぶ。
全編がシンセサイザーで作られているが、羽虫の飛ぶ音ようなや奥深い洞窟のようなところから湧き上がってくる低音など、映画のサウンドトラックのような音楽性である。こうした特性は本機にはよく合うようで、おそらく通常のオーディオシステムで聴くよりもずっと良い。音空間の再現性も見事だ。
アプリでは7バンドEQも使用できるが、特にどこを補正しないと足りないという印象はなかった。JBLサウンドそのままを楽しみたいのであれば、EQはフラットでいいだろう。
アプリ内には、「モーメント」という機能がある。リモコンではハートマークに割り当ててある。これは事前にプリセットした環境音やプレイリストを1発で再生できるというものだ。
プリセットには「フォレスト」、「レイン」、「オーシャン」、「シティウォーク」の4タイプと、音楽配信サービスのプレイリスト再生に対応する。
音楽配信サービスは、筆者が加入しているのがAmazon Musicしかなかった。これのプレイリストを割り付けようとしたが、なんと公式が提供するプレイリストが選べるのみで、ユーザーのプレイリストが選択できなかった。これは音楽にこだわりがある人には、少し物足りないだろう。
このモーメントは、タイマーで自動停止させることもできる。寝る時に環境音を再生するという使い方を想定しているのだろう。
総論
JBLは定期的にサウンドバーの新作を投入しているが、今年は3モデルともMK2を冠するアップグレードモデルとして登場した。それだけ製品がこなれてきているということだろう。
BAR500 MK2のポイントはやはりなんといっても付属のサブウーファだ。周波数特性としては20Hzまで出るわけではないが、低音の量感とバー側の特性とのつながりの良さがあり、かなり満足できるサウンドだ。
映像作品再生に重きを置いているとは言え、音楽再生にも十分な性能を持っている。Dolby Atmosではないステレオミックスの楽曲再生においても、独特の広がり感は健在で、特にアピールはされていないが内部で空間オーディオ変換されているのではないかと思われる。この点においては、バー部分の設計の良さが光る。
77,000円はミドルレンジと言われる価格帯だが、ネットの実売では7万円を切るショップも多い。昨今はサテライトスピーカーまで付いて実売10万円を切る製品もあり、サウンドバーは今やオーディオの激戦区となりつつある。
あまりにも価格競争が過ぎると、どれも似たような音になっていく懸念があるが、JBLには独特の個性的な音質があり、サウンドバーにおいてもそれが貫かれていると感じる。また高度なプロセッシング技術を駆使して音を広げる一方、低音はとにかくでっかいスピーカーで物理的に殴りつけるといった手法も、「今のアメリカ」を象徴するアプローチである。
憧れのJBLサウンドを聴いてみたいという人にも、オールインワンシステムとしてちょうどいい製品だろう。