大河原克行のデジタル家電 -最前線-

「テレビ事業本部」を無くしたソニーのテレビ事業の行方

~4月から相次ぐ組織改革の狙いとは~


 ソニーは、2009年4月1日付けで大規模な組織改革を実施したのに続き、6月1日付け、7月1日付けと相次いで組織改革および人事異動を発表した。

ソニー本社

 6月1日の組織改革では、テレビ事業本部などを再編し、ホームエンタテインメント事業本部を新設。ソニーからテレビ事業本部の名前が消えた。また、7月1日付けの組織改革では、ネットワークモバイルセンターを新設。これまでにない新たなモバイルデバイスの創出に向けた体制を具体的にスタートした。

 果たしてソニーは、相次ぐ組織改革でなにを狙っているのか。



■ 「四銃士」を据えた新体制

 まず、最初に4月1日付けの組織体制を振り返ってみたい。

ストリンガー会長と中鉢前社長を挟んで「四銃士」が登壇

 2月27日に発表されたこの新体制は、ハワード・ストリンガー会長が「四銃士」と呼ぶ、吉岡浩執行役副社長、平井一夫執行役EVP(兼ソニー・コンピュータエンタテインメント社長)、石田佳久業務執行役員SVP、鈴木国正業務執行役員SVPによる新経営体制の確立が軸となる、大幅な改革となった。

 吉岡副社長は、液晶テレビを担当するテレビ事業、Blu-ray Disc(BD)レコーダやホームシアターなどを担当するホーム・オーディオ・ビデオ事業、デジカメなどを担当するデジタルイメージング事業を含めた「コンスーマープロダクツ」と、バッテリや光ディスクなどを担当するケミカル&エナジー事業、光デバイスや有機EL、中小型液晶ディスプレイなどを担当する電子デバイス事業、LSIやCMOS、CCDなどを担当する半導体事業を含む「セミコンダクタ&コンポーネント」を統括。「コンスーマープロダクツ&デバイスグループ」と呼称し、石田業務執行役員SVPが、同グループのデピュティプレジデントとして吉岡副社長を補佐し、さらに石田氏は主軸となるテレビ事業本部長を務めるという布陣だ。

 一方、平井執行役兼EVPは、プレイステーションによるゲーム事業、VAIOによるPC事業、ウォークマンを中心に、e-Bookリーダーやnav-uなどの機器を扱うパーソナル・デバイス事業、プレイステーションネットワークなどのサービス事業を担当するネットワーク・サービス事業、新たなデバイスやサービスを創出するための新規事業開拓プロジェクトを統括。これを「ネットワークプロダクツ&サービスグループ」とするとともに、鈴木業務執行役員SVPが、デピュティプレジデントとして同グループを補佐し、同時にVAIO事業本部長を兼務するという体制とした。

 ネットワークプロダクツ&サービスグループは、ソニー・ピクチャーズなどのエンタテインメント事業、ソニー・エリクソンの携帯電話事業とも深く連動していくことになる。

4月1日に発表された組織図

 既存のソニーが得意とする製品群を集約したコンスーマープロダクツ&デバイスグループと、今後のネットワーク時代へのサービス事業を統括するネットワークプロダクツ&サービスグループとに再編したともいえ、コンスーマープロダクツ&デバイスグループではテレビ事業の収益改善をはじめとする構造改革を中心に展開。そして、ネットワークプロダクツ&サービスグループでは、ゲーム事業の黒字化という命題とともに、ネットワーク時代におけるソニーならではの製品を、ハード、ソフト、サービスの観点から創出することが目的となる。

 本来ならば、コンスーマープロダクツ&デバイスグループのオーディオ・ビデオ事業本部に含まれるはずのウォークマンを、ネットワークプロダクツ&サービスグループのパーソナル・デバイス事業に置いたということからも、ウォークマンをネットワーク時代の戦略製品に据えようとしている同社の思惑が浮き彫りになる。

 実際、ネットワーク時代に対応しないCDウォークマンやウォークマン用アクセサリーなどは、コンスーマープロダクツ&デバイスグループのオーディオ・ビデオ事業本部に置かれたままだ。

 つまり、ウォークマンブランドの製品が、性質が異なる2つのグループに分かれて事業が推進されているわけで、その差はまさにネットワークに対応しているか、否かということになる。

 6月1日および7月1日に発表された組織改革および人事異動は、これを基本体制とし、修正を加えたものといえる。


■ テレビ事業本部を無くし、ホームエンタテインメント事業本部を発足

6月1日に発表された組織図

 コンスーマープロダクツ&デバイスグループでは、テレビ事業本部を母体として、ホームエンタテインメント事業本部を発足。ここに、オーディオ・ビデオ事業本部のBDレコーダ、ホームシアターなどを組み込んだ。

 テレビ事業本部の名称がなくなるという、ソニーとしては大きな決断。だが、「テレビ」の名称を無くしても、ホームエンタテインメント事業本部という名称を採用した背景には、テレビを中核にして、接続される各種製品との連携を、より強化していこうとの姿勢を示したものといえる。

 液晶テレビとBDレコーダ、そしてシアターラックなどのホームシアター製品を、ホームエンタテインメント事業本部という、ひとつの事業本部で担当することで、製品同士の相互接続性を高めたり、デザイン面での統一感をもたせるということが可能になる。

ストリンガー会長

 テレビ、レコーダ、ホームシアターを一体で考える体制が初めて確立されたわけで、「サイロを崩す」とするストリンガー会長の狙いが、ようやくテレビ事業領域において現実のものになったといえる。6月1日付けの組織再編では、ここが肝の部分だといっていいだろう。

 もうひとつは、デジカメやビデオカメラを担当していたデジタルイメージング事業本部を母体として、オーディオ・ビデオ事業本部にあった海外向けカーオーディオ、ラジカセやCDウォークマン、ヘッドフォン、オーディオアクセサリーなどを統合し、パーソナルイメージング&サウンド事業本部を新設したことがあげられる。

 ソニーが得意とする垂直統合型の既存ビジネスを集約したともいえ、いわば利益率の高い事業の集合体ともいえる。ここにおいては、コストダウンへの取り組みを図りながら、付加価値を追求する事業体制を確立することになろう。

 ソニーでは、これらを「ホーム」と「パーソナル」と呼び、「製品ごとの分類から、それぞれの顧客の視点に立った製品を開発する体制へ変更したもの」(吉岡副社長)と位置づける。

 そして、同グループでは、さらに、デバイス領域でも再編を行なっている。ケミカル&エナジー事業本部と電子デバイス事業本部を統合し、新たにデバイスソリューション事業本部を設立。さらに、半導体事業本部のなかに、電子デバイス事業本部のモバイルディスプレイ事業部およびAD事業開発室を集約した。

 デバイスソリューション事業本部では、今後はバッテリ関連事業を主軸に据えることになり、その一方で半導体事業本部には、CCD、CMOSといったソニーが得意とするデバイスのほか、有機ELなどの有望な技術も集約する。6月30日に正式発表したエプソンイメージングデバイスから譲り受ける中小型TFT液晶ディスプレイ事業も、半導体事業本部が管轄することになる。


■ ネットワークモバイルセンターを設置

 そして、第3弾となる7月1日の組織改革では、コンスーマープロダクツ&デバイスグループにおいては、ビデオカメラを担当するパーソナルビデオ事業部、デジカメを担当するパーソナルイメージング事業部、デジタル一眼レフカメラのαシリーズを担当するAMC事業部を改組し、それぞれイメージング第1事業部、第2事業部、第3事業部とし、さらにイメージング第4ビジネス部門を設置し、新たなイメージングデバイスの創出に取り組む体制を整えた。

 一方、ネットワークプロダクツ&サービスグループでは、これまで全体的な呼称としていたパーソナルデバイス事業を事業部門として正式に発足。ここにこれまでのニューモバイル部門、モバイルシステム部門を統合した。

 この7月1日の組織改革では、新たにネットワークモバイルセンターを設置したのが大きな動きとなる。

 同センターの役割は、ウォークマンやサイバーショットなどの既存カテゴリーに囚われない新たなモバイルデバイスの創出がミッションとなる。一部噂されているアンドロイド端末も、同センターが担当する可能性が高そうだ。

 そして、ネットワークセンター長には、四銃士のひとりである、鈴木業務執行役員SVPを据えた点は極めて興味深い。

 鈴木業務執行役員SVPは、先にも触れたように、ネットワークプロダクツ&サービスグループのデピュティプレジデントを務めるとともに、VAIO事業本部長を務めている。

 そして、7月1日付けでソニー・コンピュータエンタテインメントの副社長に就任し、プレイステーションビジネス全般のマネジメントを担当する。とくにプレイステーションの戦略企画と商品企画については鈴木氏の直轄部門とし、直接実務の指揮をとることになるという。

 つまり、鈴木氏のもとに、VAIO、プレイステーション、そして次世代デバイスといった製品が、横串をさす形で集約されることになる。

 VAIO事業に関しては、7月1日付けの人事でPC事業部長の赤羽良介氏を、VAIO事業本部副本部長に昇格させたことで、責任を一部委譲する体制を作り、鈴木氏がより幅広い製品をカバーする体制を作ったことも興味深い。

 このようにソニーは、4月1日付けの組織体制の発足から、6月、7月と微調整を進めてきた。関係者の間では、今後もこの勢いで組織変更が行なわれることはないだろうという声もあり、ほぼ形ができあがったともいえる。

 全体を俯瞰すると、収益改善が求められる領域と、今後の成長を担う領域、そして、新たな製品を創出する領域とが明確に分割されたといえよう。

 そして、サイロを破壊するための組織づくりも、ようやく整ってきたといえる。もちろん、成果はすぐには出ない。だが、この新組織が、どんな製品を創出してくれるのかは、実に楽しみではある。

(2009年 7月 2日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など